マギアレコード インキュベーター殲滅ルート 因果継承チャート   作:七不思議/ナナフシ

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①-2 和泉十七夜視点

 天国(あまくに)の当主は短命だ。

 なんて言ったのは誰だっただろうか。

 

 天国家。

 戦国時代より続く鍛治師の家系で中央区、いや神浜市随一の名家。

その影響力は東西の名家のみならず市長相手にも通じ、揉め事が起きた際には天国の少女が間に入って、迅速に事を進めると言われている。

 

 ……そしてかつて戦国時代にて、神浜と呼ばれる前のこの土地を滅ぼした一族。

初代当主とニ代目当主であった姉妹は、人ならざる力を用いて東西に分かれて争っていた者たちを蹂躙したという。

 

 共通の敵を目の前にした東西の人々が手を取りあって立ち向かうも敗戦して以降、現代まで神浜の人間が天国の当主を討ち取る事はなかったのだとか。

 

 その一族は多少の誤差はあるが20年程度で当主が入れ替わり、三代目以降1人の例外もなく15歳の少女が当主を継ぐことになっている。

 

 ……魔法少女であるなら、長命という他ないのだがな。

 和泉十七夜は、心の中で一人ごちる。

 

 去年、魔法少女になって師と仰いだ人物の事を思い出す。

魔法少女になってすぐの、戦いに慣れていなかった自分が出会った魔法使いを名乗るその女性は当代の天国の当主であった。つまり、自分の隣にいる少女の母である。

 

 数年振りに会ったその人に生き残り方を教えてやると言われ着いて行った先には、東西の分別なく魔法少女となった者たちが天国の人間に戦いの手解きを受けていたのだ。

 今の当主になってから始まったこの手解きの結果、東西の10代の少女の行方不明事件の件数がこの数年間は減少しつつあった。

 

「十七夜さん。聞いてくれてます?」

 

 久々に会って、楽しそうに話をしていた元妹分の言葉を聞いて、意識を戻す。

 

 「すまないな、天国。もう一度聞かせてくれ」

 

 えー?と言いながらも、目の前の少女は朗らかに笑いながら最近あった話を聞かせてくれた。

 やれ天音くんの料理が上達していただの、やれ西の名店ウォールナッツの若いシェフに包丁を打つことにしただの、

もしかしたら、初めて同い年の友達が出来るかもしれないなど。

 

 最後の話は少し興味が湧き詳しく聞いたところ、宝崎市から西区にある病院に通っている少女なのだとか。

街で迷っている場面に遭遇して案内をしたのがきっかけらしい。

 

 ……彼女が自身の友人関係の少なさに気を揉んでいたのは知っていたがなるほど、市外の人間ならば比較的接しやすいか。

 その少女と仲良くなといい、話題を一度切ることにした。

 

 歩みを止める。

 数歩先を歩いていた元妹分は不思議そうな顔をしてこちらをみていた。楽しそうに話している目の前の少女は、齢が15になるその日に天国の当主を継承する。

 

 それはつまり

 

 「天国、自分が口を出すべきでは無いことは承知しているが…いいのか?」

 

 あるときに知った情報。それは天国家当主になる少女は前の当主と戦い、自身が打った刀を用いて斬り捨てることによって新しい当主として認められるというもの。

 和泉十七夜は願いによって読心の力を持っている。魔法少女に変身している時のみの力だが、他者の心を盗み見て情報を得られるこの力は強力だ。本来であればこの問いに対してまことが嘘を述べた場合、出来る範囲でお節介を焼くつもりであったが、

 

 「はい。あたしは15になったら、母様を斬って天国当主を継承します」

 

 ……これだ。

 この娘は友人の話題を笑顔で述べていたと思ったら、表情を変えず微笑んだまますぐにこの答えを返してきた。

 彼女の心を覗けないのを知ってか知らずか、一切の迷いなく答えを返してくるのだ。

 

 「……そうか、師にはよろしく伝えておいてくれ。また手合わせに伺おう」

 「是非!母様(ははさま)も喜びます」

 

 元妹分が喜ぶ。天国の当主になる為の修業が始まってからあまり見ることが出来なかった表情だ。昔から家族のように共に過ごしてきた身としては、彼女が居なくなった日常に少しだけ寂しさを覚えていた。

 以前から友人である八雲みたまと話していた予定について切り出そうと考えた瞬間、ソウルジェムが魔女の反応をとらえる。

 

 「天国」

 「はい、近いみたいです。行きましょう」

 

 駆け足で向かった先の魔女結界に入って変身する。着慣れた軍服に馬上鞭。隣には上半身に紫の鎧を纏い大弓を携えた天国。

 

「自分が先行する。援護を頼んだぞ」

「了解!」

 

結界内を駆けながら使い魔を倒していく。

 

「相性反転。闇はより深い闇に呑まれる」

 

 時折視界の外から襲い掛かる使い魔もいるが、天国の矢や付随するレーザーに貫かれていくため、減速せずに一気に魔女へ向かうことが出来た。

 近づいて数発鞭を叩きつけ体力を削る。抵抗するようだが、天国の矢とレーザーが悉く邪魔をしているおかげで意識を魔女に集中させられる。……ここまでお膳立てをされたんだ。失敗は許されん。

 

「これでトドメだ」

 

 全力の一撃を与えて討伐完了。入手したグリーフシードで互いに魔力を回復し、天国に渡す。

 

「…んっ。ご馳走様でした」

 

 魔女結界が崩れたの確認し変身を解除。

 グリーフシードの経口摂取。何度か見ている光景だがあまり良い気分では無いな。身体への負担は無いようだが心配になるのは仕方がない事だろう。

 

「……今度、八雲と3人で出かけるか。最近は周りの目も柔らかくなって楽にはなったようだが疲れているだろう。ストレスや疲れを溜め込む性分だからな」

 

 ほんとですか!?と喜ぶ半面、弁当は各自になるように説得してほしいと言われる。

 もちろん自分も命が惜しい。八雲みたまの料理は味音痴や料理下手という言葉で片付けられるものではないのだ。一口食べれば意識を保つことすら難しい品を大量生産しながら、おいしそうに食べる友人の姿を思い出してなんとも言えない気分になっていた。

 

 天国の当主を倒す手段として真っ先に挙がるのが一人の少女の料理だとは、歴戦の兵たちも思うまい。

 

 「今日は実家に帰るので、母様に相談してみます。時間があればお弁当を作ってくれるかもしれません」

 「うむ。後で都合の良い日を連絡してくれ」

 

 さよーならー!と言いながら駆け足で帰っていく元妹分を見送って自分も帰路に着く。

 

 

 和泉十七夜(じぶん)は天国まことの心を覗けない。

 まことの優しさに救われた事もあり天国家自体に恩がある以上そんな事をしようとは思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 というのは建前だ。

 

 初めて魔法少女としてのまことに触れた時に感じた違和感。それは魔力そのものが禍々しさを持っていて、まるで魔女のような威圧感を醸し出していた。疑惑を裏付けるようにグリーフシードを取り込む事によって強化、魔力の保有量が増すその性質。

 

 ……魔女の中には他の魔女を喰らう事でより強くなる個体も存在する。

 天国家に通っていた時に聞いた話そのものであった。

 

 

 以前使用済みのグリーフシードを食べる姿に動揺して、何を考えているんだと叱りつけた時に魔法を発動させた後悔を思い出す。

多くの怒り、憎しみ、怨嗟を叫ぶ声が一瞬にして脳に叩き込まれた。それは西区への恨み辛み、東の人間へと向けられる侮蔑、果てには世界やキュウベえへの怒りなど様々なもので。

 

 

 ───これ以上覗けば死ぬ

 とっさに魔法を解除した先にあったのは、慌てた様子でこちらを見る元妹分の姿。変身を解いて確認したソウルジェムは黒く染まりかけていて、自分が触れた悪意の大きさを表していた。強引にグリーフシードをソウルジェムに押し当てられ浄化した後、天国まことは困ったような表情で告げた。

 

 

 

 「……表面だけですんで良かったです。内側に入り込もうものならとっくにソウルジェムが濁り切ってました。…もう私の中を覗こうなんて思わないでくださいね。次はきっと助からないと思います」

 

 

 明確な拒絶と警告。

 あの時初めて、妹のように可愛がってきた存在が人間や魔法少女とすらかけ離れた場所にいる生き物なのだと強く認識することになった。

 

 

 天国家は500年前、神浜と呼ばれる前の地を滅ぼした日に人々に告げた。

 

 「この国は(おのれ)のものとする。我らの願いが果たされた時、この国をおまえたちに還そう」

 

 言葉と共に、人々へと呪いをかけた。魂にすら食い込むそれは例外なく、生まれゆく人や神浜に訪れる人にさえも絡みついた。

 魔女の口づけ。魔法少女の成り果て達が餌と認識したものへのマーキングとして使用するそれを用いて、彼女たちは500年間経った今でも、人々を管理し続けているのだ。

 和泉十七夜の首筋にもあるそれは生まれついた時から刻印されており、自身の生命力のほんの一部を徴収されている。そんな感覚を抱かせていた。

 

 天国家。

 神浜市を支配し、インキュベーター達の殲滅を至上の目的とする一族。

 ソウルジェム、グリーフシードを取り込むことによって成長し、前当主のソウルジェムを取り込むことで魔法少女として完成する。そんなものは外の魔法少女にも存在しない。

 

 天国の当主の寿命は長くても20年。老いて死んだ者は一人もおらず、全員が次代の当主によって倒されて死ぬのだ。その中で天国まことは最高傑作とされ、この500年間で取り込まれてきた魂たちをその器に収める事となっている。

 何十、何百、又は数千以上か。絶望に染まった魔女たちは存在するだけで周囲に災厄をばらまく。そのような怪物たちをその身に宿している彼女に、何も害がないとは到底思えなかった。

 

 

 

 『あたし、小学校を卒業したら妹分も卒業しようと思うんです。あたしは天国の次期当主ですからね、十七夜姉ちゃんやみたま姉さんみたいに大人になるんです』

  

 小さな胸を張ってどや顔で宣言していた妹分を見た微笑ましさは、もうずっと昔のもののように感じられた。

 

 「――天国、自分は諦めんぞ。お前がその中にいる者たちに喰われようものなら、再びこの魔法を使ってでもお前を救い出してやる」

 

 

 少しずつ遠くなっていく小さな背中。

 その背中が背負っている宿命がどれほど大きくても、何度でも拒絶されようが手を伸ばし続けるという決意はより一層強くなっていった。

 





・天国家
長い歴史を持つ鍛治師の家系。
神浜を愛しているけど、東西関係なく平等に敗北を味あわせて自分たちには勝てないという認識を刷り込んできた。

日の本を守る巫の一族から離反して生まれた歴史を持つ。

・八雲みたま
みたまさん。当時15歳。ハイライトは無い。
大東から水名女学園に特待生で入学したすごい人。みんなのきたいをせおっているぞ。
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