マギアレコード インキュベーター殲滅ルート 因果継承チャート 作:七不思議/ナナフシ
刃と刃がぶつかり合う。片や日本刀、片や手甲鉤に似た暗器。拳法を交えた拳や蹴りを刀の持ち主は側面や刃を当てて凪ぎ、時には空いている手でいなしていた。この1時間程度やり取りが続いているが、拳法家の少女が諦めることはない。
「ふっ」
姿が消える。
「偽装か」
対象の認識を狂わせることにより、木の葉を紙幣に、生者を死者として認識させるなど幅広い用途が存在する稀有な魔法だ。
本来の世界において対象に触れなければ発動しないように弱体化されているが、この世界においてはそのような制限は受けておらず、美雨は現時点でも神浜の裏社会で通用する力を持っていた。
しかし、
「目くらまし程度の効果しか発動しないのかい」
「ずいぶんと魔法の扱いが上手くなったものダ。しかし前にも言った筈サ。私にそれを見せるな。まことに対策されるだろう?」
「今は貴女と戦えるようになる事の方が大事ネ。まこととの決戦に備えるにはまだワタシは弱すぎるヨ」
「当然サ。あの子はうちの最高傑作ダ。そう簡単に超えられちゃあ、
壁時計を一瞥した天国当主の眼が据わる。時間だ。そう告げた瞬間に美雨の表情が鬼気迫ったものに変わった。
天国当主との稽古。その内容は美雨が一方的に攻撃する中で彼女の防御を崩すことが出来たら美雨の勝利というもの。しかし数時間に一回、天国当主は美雨を攻撃する。ソウルジェムは狙わない。
しかし、体を両断されるなどして戦闘が不可能になった瞬間に稽古は終了するという決まりがある。
当たれば確実に死ぬ。防御はほぼ不可能な初見殺し級の技が美雨を襲うことが確定している。
納刀し抜刀術の構えを取る天国当主を見て、美雨はめいいっぱい空気を取り込み深呼吸をした。
「────時女一心流」
キタ。心の中でそう考えた。
時女一心流。時女一族なるものを離反した天国家が振るう技の一種。
その中で知られている5つの奥義は知っている。再び「偽装」を発動して位置がわからないようにして逃れようとした瞬間。
天国当主と目が合った。
「(あ、これ不味いネ)」
「旋風────鎌鼬ッ!」
黒い気のようなものを取り込んだ刀を振りぬいた瞬間、豪ッッッッ!!!!という音が道場内に響き渡る。
天国当主を中心とした風の刃が円形となって美雨に襲い掛かった。
「(防御は不可、空中への逃避は確実に両断されるネ。なら)」
体をそらして後転しすんでの所で刃を避けて見せる。ここまではいいのだ、この技の問題はその後。
斬撃に付随した鎌鼬が見えない刃となって周囲を切り裂く。
死を目の当たりにするが故の超集中が、美雨を生存へと突き動かした。
「───はぁっ、はぁっ、はぁっ」
結果としては、数度切り裂かれた程度。しかし魔法少女衣装のチャイナ服はボロボロになりあちこちから出血していた。大粒程の汗をかきつつも呼吸をすぐに整え、治癒を開始する。
魔法少女になって二年目になるが、一年目とは違い胴体と別れるようなことも無くなっていた。
「────強くなっタ。天国の生存術をしっかりと身に着けたらしい。黒帯くらいは渡してもよさそうダ」
「当然ヨ。何度も死にかけて覚えてきたネ。いまさら無様をさらすようなことはしないヨ」
「それはよかっタ。じゃあ、少し攻めようカ」
「上等ネッ!」
それからまた数時間後。攻守を入れ替えながら天国当主と美雨は稽古に励んでいた。いくつもの生傷を作りながらも美雨は、生死にかかわる傷を負うことは無かったことから、彼女自身は自分の成長を実感する。
稽古の終了後に、他の住人と入れ替わりで道場を出てから汗を流した後、二人は居間でテレビを見ていた。
ふと美雨の口から出た言葉はまことについてのものだった。
「この前」
「うん?」
「初めてまことと共闘したヨ」
「それで?」
「魔法少女になって同じ土俵に立ったと思ったら、相手が斉天大聖だなんて普通思わないネ」
「アハハハハハ、大げさなことをいう物じゃないよ。あの子に神を蹴落とそうとする度胸はないサ」
懐からキセルを取り出して一服した彼女は、煙を吐きながら述べる。
「あくまで己たちの使命は、インキュベーターを殲滅する事。死体をどれだけ積み上げようともね」
「……?死体になった者たち全員にコレはついているのか?」
指を指した先にあるのは、黒い文様。
魔女が常人へのマーキングに使用する、魔女の口づけと呼ばれるものが首についていた。
元来、魔女の口づけを受けたものは魔女の餌になる為に集められるか、自殺を図ることで人々の負の感情を増やすことに利用される。しかしこの
純美雨は、光の無い眼天国当主に向けていた。
「あぁ、それかい。マーキングの役割はあれど、通常の魔女の口づけと違って人を死に追いやったりしないよ。本来の用途は全く別サ」
「それを今教えるつもりは?」
「ないナ。断言してもいい。それはお前たち神浜の人間全員についているが、直接危害を加える為のものじゃあない」
「ふぅん…。まぁいいネ。あなたが死ぬまでに一泡吹かせて聞き出してやるヨ」
おやつに出された柿を一口かじる。天国と関わるようになってから何度も食べているが、飽きることも無く手が進んでいく。
そういえば、初めて天国家に来た時も柿を食べた事を思い出した。
純美雨が天国まことと出会ったのは、日本に来日してすぐのこと。中国人が中心になって設立されたの一員として過ごし始めたある日、組織での後見人の男から天国家に挨拶に行くことを告げられた。
その後見人の男と共に訪れたのは中央区のはずれにある大きな武家屋敷。増築に増築を重ねて面積を広げたことにより、屋敷の隣に道場や作業場が併設されているこの場所からは、掛け声や木と木がぶつかり合う音が絶えず鳴り響いていた。
後見人が呼び鈴を鳴らすと、外からでもどたどたという音を鳴らしながら人が近づいてくるのが伝わる。門を開けたのは複数人の子供。いずれも美雨よりも年下の子供達…なのはいいが、みなが木刀やセスタスなどを携帯していた。やけに物騒だと思ったが、この家ではこれが普通であるらしい。
後見人には見慣れた景色なようで子供達に挨拶を交わしている。人見知りしないらしく、彼のみならず美雨に対しても大きな声で挨拶していた。屋敷の中に入って通されたのは音源の道場。少し気を張り過ぎていた過ぎていたかもしれないと感じた矢先、目に入ってきた光景に肝を抜かれる。
齢が10を過ぎてもいない子供が、道着を着た女性に対して真剣を振り翳しているのだ。一撃一撃が死を覚悟するに値する精度。立ち会ったとして数度の攻防の果てに絶命する自分の姿が美雨の脳裏によぎった。
「なっ…、何をしてるネあれは!」
その場は異様だった。殺意に満たされた刃を振る童の姿もだが、相対する女性はその全てを一歩も動かずに捌いていた。何よりも道場の両脇に正座する、光を宿さない瞳でその場面を見つめる人々に気味の悪さを覚える。同行する後見人もまた、光を宿さない瞳を美雨に向けてなんてことのない風に言うのだ。
「何って、ただの稽古さ。天国家の当主と次期当主のお嬢さんのね」
「…次期当主。あの娘がカ?」
「そう、この
「ワタシの世代が挑む天国……」
言葉を失いつつも再度その光景に目を向ける。自身が倒すべき宿敵は太刀取りを受けて転がされていた。
何をしているのだ。首にかゆみを覚えながら、宿敵とされる人物が自分以外の者に負けていることに対して無意識に憤りを感じていた。
そんな美雨に、後見人の男は若い頃の自分を見ているような、懐かしいものを見るかのような眼差で見つめる。
「…どうしたネ」
「いやね。私達も初めて彼女に会った時同じような表情をしていたんだと思い出してね」
「それって、つまり…」
美雨が問いかけようとする直前に終了の合図が出る。聞きそびれたと思いつつ、再び目を向けると先ほどまで稽古していた二人が歩いてきていた。
「おや、お前カ。なんダ、もう来る時間になってたのかい。……へぇ、この子ガ」
「数日前に中国から来日した、純美雨ネ。今日からお世話になるヨ」
「美しい蒼色だろう?私たちの代表としてピッタリだ。きっと、この子は強い魔法少女になるよ」
───魔法少女?聞きなれない単語であったが、すぐに思い出す。
あぁ、
中国にいたときに言われたなら鼻で笑っていた内容だったが、なんの違和感も無く受け入れていた。
「そうかい、己が当代の天国当主だ。よろしく頼むよ。ほら、まこと。挨拶しな」
天国当主の首根っこを摘ままれて、後ろに控えていた少女が前に出る。
───鮮やかな深紅色の眼を向けてくる少女。自分よりも小柄なその身からは先ほどまで感じていた威圧感は欠片ほども感じず、自身の持っていた憤りまで無くして目の前の少女の眼に見惚れていた。
「えっと…、天国まことです。これからよろしくお願いします」
「あっ、ああ。よろしく頼むヨ」
「あたし達、これからサッと汗を流してくるんですけど待ってる間お暇でしょうし…」
んー、と言いながら少女は顎に指をあて、何かを思いつくと自分事のように楽し気に提案をした。
「──よかったら、ウチの柿食べていかれませんか?甘くておいしいですよ」
この
「起きな、美雨」
「んがっ」
鼻を摘ままれて目を覚ます。過去の事を思い出しているうちに微睡みに飲まれたらしい。
「そろそろ帰る時間だろう。門まで送るから、早く支度しナ」
荷物を纏めて門前まで歩いていく。土産にと柿が入った紙袋を渡され意気揚々と歩いていこうとした時、柱によりかかった天国当主に声を掛けられる。
「そうだ美雨。魔法少女が強くなる方法を教えておこう」
「意外ネ。鍛錬や戦いの中で成長するしかないと言い出すかと思ってたヨ」
「それも間違いないサ。一つはお前も言っていたように戦いの中での成長。二つ目は心の成長」
「そして一番簡単なのは三つ目の、調整を受けることサ」
美雨は眉を顰める。調整なんて単語は、魔法少女とは無縁だと考える彼女の心境を読み取って、天国当主は楽しそうに哂う。
「まぁ、この日の本始め世界には調整屋って奴らが居てね。近々この神浜に来るらしい。強くなりたいなら、必ず会っておきナ」
「そいつの名はリヴィア・メディロス。己やまことのソウルジェムに触れて生き残った女狐サ」
◇
八雲みたまは先に着いていた和泉十七夜と共に天国まことを待っていた。
「まことちゃん遅いわねぇ…」
数日前に取り付けた和泉十七夜と天国まこと、そして八雲みたまの3人での外出。約半年ぶりに共にいられる時間が作れた事から久々に出かけようという話を和泉十七夜とした記憶は新しい。
天国まことは中学生になってから次期当主となるための仕事の引き継ぎや、工匠区にある鍛冶場での修行等。
八雲みたまは、大東区の評判を上げる為行事には積極的に参加して水名女学院の生徒達と交流を深めていた。
和泉十七夜は、進学後の学費を得るためのアルバイトと魔法少女の生活の両立。
それぞれが自身の将来や現状を良くするために活動していた。
久しぶりに幼馴染二人と出かけることになってから今日まで二人にふるまう料理について考えていただけに、浮足立って到着が待ち遠しくなっていた。
「今連絡が来たぞ。途中で知り合いに会って引き留められていたらしい。当主としての修業が実ってきている証拠だろう。以前よりも大人たちと関わるおかげで嫌でも社交性が身についたと言っていたぞ」
「なぁにそれ?私そんな話聞いてないわよぉ?一人だけハブるなんて水臭いわぁ」
「そうではない、八雲が忙しいのは天国も承知していたからな。気を使っていたんだろう」
「気にしなくていいのにぃ…」
八雲みたまは中学生になって西区の水名女学園に通うようになってから、隣にいる和泉十七夜と天国まこととの距離は確かに開いていた。
しかしそれは単に忙しかったから時間を作れなかっただけで、二人との時間の為なら多少無理をしてでも予定を開けることくらいは訳もなかったのだ。
「まことちゃんが小学校を卒業して修業が始まってから、満足に集まることも出来なかったものねぇ。……だからその分楽しみましょう?腕によりをかけてお弁当三人分作ってきたんだからぁ」
「……そうだな、天国は八雲の弁当を楽しみにしている事だろう」
みたまは十七夜の笑顔が一瞬引き攣っている様な気がしていた。しかし元妹分も美味しいですって言いながら毎回完食するし、味見をしても美味しいのだから問題ないだろうと思考に蓋をする事にした。
八雲みたまは確かに東西の交友関係の改善や周囲の人間達の期待に応えたいが為に尽力している。
500年前の天国初代当主達による蹂躙がきっかけでかつて一時的に手を取り合った二つの勢力は、再び手を分かつことになり、天国を頂点に据え西と東の足の引っ張り合いがずっと続いていた。
正史よりも表面的な友好関係は築けているだろうが、西の人間が東の人々を嘲る考えは一部の人間の間で強くなっていた。同様に十七夜やみたまの属する東の人々は自分たちを侮る西への反発心を少なからず持っているのだ。天国による支配によって神浜の治安や経済は良いものとなっていたが、東西の人々が思いのたけをぶつけ合う機会を減らしてしまっているのも事実であった。
そんな人々を見て育ったからこそ八雲みたまは、自身の能力の高さを幸いに水名女学園に行くことを決めたのだった。
結果として水名女学園で大分過ごしやすくなったが疎外感を感じることはある。
だからこそ気の置けない友人である二人と過ごす時間をもっと増やしたいというのが本音だった。
そんな事を考えていると、
「十七夜さーん、みたまさーん、お待たせしました!」
少しだけ懐かしさを感じる声が聞こえた。声の下方向を見ると大きな手提げ鞄を持った元妹分が走って来ていた。
勢いを殺しつつも飛び掛かってきた少女を両手を広げて歓迎する。身長も伸びてもう一人の友人の身長を超えるかもしれないという所まで来ていたようだ。
昔は頭痛等で体調を崩す場面を見ることが多かった為、元気な姿を見られて少しだけ安心していた。
「久しぶりねぇまことちゃん。おねぇさん、会えてうれしいわぁ」
「あたしもです!」
うりうりうり〜と頬をこねるみたまを、十七夜は微笑ましそうに見ているが時計の時間を確認すると、電車の乗車時刻が近づいていた。
「先日ぶりだな、天国。遅れるなら八雲にも連絡してやってくれ。心配していたぞ?」
「はい、気を付けます。すいません、みたまさん」
「えぇ、次から気を付けてくれれば大丈夫よぉ」
「うむ。では、電車の時間も近い。少し急いで行こう」
三人で電車に乗り、南凪の海浜公園に向かう。電車の中では近況報告を済ませて雑談を楽しんでいた。
海浜公園には行く先々の木が紅葉をはやす季節となってきており、夏の暑さを感じにくくなったことで海を満喫する客層も変化し、公園前の広場には多くの人々が集まっていた。
「このへんでいいだろう」
三人が座るのは人ごみの少ない隅の方。東西の確執が少ない南凪市は諍いを好まない人々が良く訪れる場所で、観光客は中央区、地元民は南凪市に集まるのが通例の一つとなっていた。
「あそこにいるの、天国の子じゃないか?」
「あらあらほんと。こんにちは、次代様」
「こんにちは」
「よかったらこれ持っていきな。修業がんばるんだよ」
「あっ、ありがとうございます!」
しかしこの神浜の民にとって天国の人間はどうしても目に入るものであり、注目を集めやすい存在であるため気兼ねなくくつろぎたい時は隅に行くのは自然であった。
会話をした通行人と別れた後、少しだけげんなりした表情でまことはもらったお菓子を食べていた。
「…やっぱり慣れないですね。衆目を集めるのって」
「まぁそう言うな。今日は自分たちがいるんだ。仮にちょっかいでも掛けられようものなら追い払ってやろう」
「そうよぉ、みんなでリラックスする為に来てるんだもの。それくらいはしても罰なんて当たらないわよ」
「そうですよね。うん」
涼しい風に当たりながら、ほっと息をつく。おかしを食べた筈なのにタイミング良く、ぐぅという音がまことから聞こえてきた。
三人で笑いあった後、みたまが重箱を取り出し始める。
「じゃあ、まことちゃんもおなかすいたみたいだし、ランチにしましょぉ?みたまおねぇさん、まことちゃんに食べてほしくってたくさん作ってきちゃったわぁ」
瞬間、まことの瞳からハイライトが失われた。十七夜はグリーフシードは吐しゃ物の味がするとまことから何度も聞いている。その吐しゃ物を食べなれたまことをして、不味いと言わしめるやくもみたまの料理が重箱サイズの量で並べられようとしている。
幼い頃から食べているからと言って、慣れることのない脅威が今、次代の天国当主を襲っていた。
幼少期からグリーフシードを食してきた故に壊れかけている味覚をもってしても、軽傷では済ませられない。まことも十七夜もそう確信していた。
だからこそ、魔女の反応をキャッチしたのは二人にとって僥倖であったと言えるのだろう。
「「─────────ッ!」」
眼をカッと開いた二人は、魔女を倒さなければならない魔法少女としての使命と、幼馴染の料理に立ち向かわなければならない使命を拮抗させ即座に行動に移した。
「「じゃんけん──────ポンッ!!」」
取った行動はじゃんけん。最初はグーという前置きを消し飛ばして、二人は何度も行ってきた勝負へと移行した。
「みたまさん。あたしトイレ行ってきます!!」
「はぁ~い。気を付けていってらっしゃぁい」
勝者はまこと。決着がついた瞬間に回れ右をして彼女は駆けだしてゆく。勝負事はいつも負けるとしても挑まずにはいられなかった。少しだけショックを受けていた十七夜だったが、持参した弁当をつまみながら、みたまの重箱から話題をそらし始める。
それとなく重箱の中身を勧められるが、自分の分を食べても空腹だったらという建前を付けていったん断っていた。
「自分は」
「うん?」
「自分は勝負ごとに弱いわけではないのだがな。魔法少女になってから動体視力も上がったが、まだまだ足りないらしい」
「まことちゃんとの勝負事は基本そういうものでしょお?……待って十七夜。貴女、魔法少女になったの?」
「うむ。……そういえば言っていなかったな。願いは教えられんが、自分は天国と戦う道を選んだ」
「そう、なの」
みたまは数秒程度うなだれていたが、すぐに調子を取り戻す。そのまま十七夜の手を取った。
「わかったわ。貴女の願いだもの、きっと考え抜いて選んだのよね。その件について私は何も言わないわ」
「でも、死なないで」
「私と貴女は、あの子のお姉さんなんだから。いつかこの神浜の誰かに倒されたあの子に、お疲れ様って言ってあげる人が減ってたらあの子が悲しんじゃうわ」
みたまも十七夜も、まこととは違う本当に血の繋がった姉弟/姉妹がいる。しかし10年近くの付き合いが、血縁関係を超えた絆を生み出していた。
「当然だ。殺す気で戦いこそすれど、死ぬつもりは毛頭ない。…それこそまことの願いを踏み躙りかねんからな」
それを聞いて安心したみたまは、今度こそと十七夜に自作の料理を食べさせる。数品食べて気絶した瞬間、魔女退治からまことが帰ってくる。
状況を察したまことはは弁当があるから少しでいいと遠慮していたが、(元)姉貴分の言葉からは逃れられず、みたまの重箱のほとんどを完食した。
数分後に目が覚めた十七夜は、瞳孔を開いて固まっていたまことに、みたまが席を離している間介抱していた。
「ッスゥーー、ハァ―――、ッスゥーー、ハァ―――」
「よく頑張ったな天国。ほら、新しい酸素だ。受け取れ」
「ありがとうございます。ッスゥーー、ハァ―――……」
「当主殿の弁当は食べられそうか?」
「────いけます」
「うむ。それならば何よりだ。フルーツも買ってきたから、食後に食べるといい」
「いただきます」
水を一気飲みして口直しをしたまことは自身の弁当を食べ始める。先ほどの重箱だけでも相当な量だが、そんなものはなかったかのように箸をすすめていく。十七夜は以前家族が見ていたフードファイターの動画もこのようなものだったかと想起し、喉を詰まらせないように水筒の水を差し渡す。
子供の頃から何でも食べるし渡された食事も残さなかったが、半年近く前に共に食事した時はここまで食べていただろうか。
「天国。随分と食べるようになったようだが、体調に変わりはないのか」
「あたしが食べたい分は変わってないんですけど、中に入るみんなもご飯が食べたいってうるさいんです」
「…人格が残っているのか?魔女になった魔法少女の自我は失われるはずだろう?」
「……その筈です。でも、確かに人間としての意識を取り戻している子もいるんです。その子のグリーフシードはもうあたしの一部になってるから吐き出しようがありませんけど」
「そうか」
歴代の天国当主から見ても初めての事例。十七夜はあらかじめ多くの情報を与えられているが、その中にも存在しないものだった。
「近々調整屋が来るという噂だ。師と行っておくように」
「了解です」
この後みたまが戻ってきてデザートをつまんでから、中央区で遊びその日は解散した。
次に遊べるのはまことを倒した後かもしれない。その時には役割を終えた彼女を精一杯労ってやろう。姉貴分二人はそう考えて、これからの日々を頑張っていこうと張り切っていた。
特に八雲みたまは、大東区の評判を回復させ三人で堂々と西の土地で遊びたい。そんな小さな希望を胸に歩いていた。
だからこそ、
数日後に大東出身の少女が水名女学院の少女を落としたというニュースが広がった時、彼女の小さな希望は色を失い、この
・天国当主
一人称は己(おのれ)
語尾が母音のときのみカタカナになる。
旋風鎌鼬はもっと攻撃範囲を広げられる。
・神浜市
日本の新興都市。
戦国時代からの因縁をずっと引きずっている為、東西に分かれた人々の中が悪い。
事故や事件の発生率が高いし、震災も起きる。
・純美雨
中国から来た少女。ハイライトは無い。
まこととは魔法少女として同期。
南凪区を拠点としている蒼海幇に所属している。
・偽装
強いのでほんへで弱体化しました。
当小説では、本来の性能で運用予定。
・天国流生存術
パッシブスキル。このスキルを取得しているものに回避[Ⅲ]を付与する。