マギアレコード インキュベーター殲滅ルート 因果継承チャート   作:七不思議/ナナフシ

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③-2

 

 大東区のどこかの屋上。周りを見ても人っ子一人いないその場所に八雲みたまは居た。

 泣きはらし充血した目元を始めとして疲れ切った表情しており、普段の彼女を知る者が見れば驚愕していただろう。そのくらいこの数日間の間に起きた出来事は彼女を苦しめていた。

 彼女が通っていた水名女学園で起きた、特待生が階段から突き落とされる事件。その犯人であるという冤罪をなすりつけられた彼女は学校や学友からも見放され、戻った母校ではその身に余る非難を受けることとなった。

 犯人は彼女の元友人。大東区から来て学園内で少しずつ馴染んでいき、学園内での地位を確立させていった八雲みたまへの嫉妬が原因だった。

 

 事件後数日間で心身ともに大きく消耗させてからは、失意にまみれながらやり場のない怒りをぐつぐつと膨れさせていた。

 自分や妹のみかげの身に起きた事が妹分(まこと)の耳に入り彼女が水名女学園に何かしたということも、親友が怒りながらも大東の人間たちを戒めようとしたことも知っている。

 窓を割った。消火器を破裂させた。校内の設備に細工をし停電させた。自分を守らず、それどころか生徒と結託した教師に手をあげる……ことまでは出来なかった。心が壊れかけてしまっても、してはいけないことの境界線がグラウンドに引く石灰のように朧げに浮かんで躊躇している。

 

 だから、願うことにした。背中を押してもらってこの白線を超えるために。この怒りを、喉元から出かけているあらゆるものへの怨嗟を力に変えて、この街を火の海にするために。

 仮に親しい誰かに殺されて願いを成就させることが出来なかったとしても。

 今この瞬間だけは、彼女の中から家族も友人も妹分でさえも等しく消えていた。

 

「────水名様( ・・・)

 

 空気が淀む。電線にカラスが集まり、カァカァと喉を鳴らす。

 

 「水名様」

 「私の願いを叶えてください」

 

 それは、契約の言葉。自身の魂をソウルジェムに閉じ込めて排出し、この神浜を支配する存在を打ち倒す事を了承する事によって結実する。

 宇宙からの来訪者たちを介さずに魔法少女を生み出す、天国の人々が幾重にも願いを重ねて創った彼らのものとは少しだけ違うシステム。

 

 「私は」

 

 八雲みたまをどこからか吹いてきた風が包み込む。温かくもなく、冷たくもない。けれどそれは意志をもってみたまの周りに滞留していた。

 瞬間、首元にある魔女の口づけが淡く輝き、そこを起点に身体中が何かで満たされる感覚を味わう。

 それは魔力であった。神浜の人間が生まれた瞬間に植え付けられる魔女の口付けは、外付けのメモリのように魔力を溜め込む役目()担っていた。

 急に入り込んできた魔力に適応しきれなかった為か、身体から魔力が煙のように漏れ出る。

 色を持たないそれは、願いに呼応して少女の属性(いろ)を反映させようとする。

 それは少しずつ淡い紫色に塗りつぶされていきながら、八雲みたまが魔法少女に生まれ変わる準備を進めていた。

 

 身体の成長と共に魔力の容量を増やしていき二つの段階を経て(・・・・・・・)より強力な魔法少女を作り出す。これはその第一段階目。

 息苦しさで倒れてしまいそうになりながらも、彼女は願いを口にし魔法少女に成ることを了承する。

 

 「私っ、はっ」

 「神浜を滅ぼす存在になりたい!」

 

 人それぞれの持つ希望を、願いを持つまでの道筋を、思想を反映させて魔法少女は完成する。さらにはこの神浜(くに)で生まれる魔法少女には天国を倒す使命が課されるのだ。

 倒された先にある結果を掴むことが、天国の願いは成就させる鍵となるのだから。

 

 だからこそ、希望ではなく呪いを願う低度ならまだしも、役割さえもを放棄する者にそれが牙をむくのは至極当然の事だった。

 

 「───えっ」

 

 紫色に染まりつつあった魔力は色を失い霧散する。

 しかしてソウルジェムは排出され、自身の魔力が体を満たす感覚を得た。

 無属性。属性を捨てた、もしくは失った魔法少女が属するある種の終着点。

 人並み以上の才覚を持って生まれた少女は今を以て神浜最弱ともいえる魔法少女へと堕ちた。

 無色になった魔力は八雲みたまの力を十全に引き出すことが出来なくなり、簡単に穢れに染まってしまう欠陥品が生まれたのだ。

 

 拠り所を失った願いは新しく産まれる魔女の道標となる。

 

 

 大東区にある和泉家。そのリビングにてカチカチとボタンを押す音が居間の中に響く。

 コントローラーを握っているのは天国まこと、和泉十七夜の弟である和泉壮月の二人。彼らはリビングにてRPGをしていた。

 ゲームの内容は、ある日飛行船に密航した青年が空賊に襲われる中で知性を持った剣を手にしてから、様々な戦いに巻き込まれていくという物である。

 といっても、彼らはすでにメインシナリオをクリアしており現在は二人で隠しダンジョンの攻略中であった。しかも今はダンジョン攻略も既に佳境に入ってしまい、残るはボスエネミーを倒すだけ。

 プレイヤー二人、NPC2体のパーティで挑みコンボを決めながら着々とHPを削っている。

 

 「お前さぁ」

 「何?」

 「姉貴の妹分卒業したのにウチ来ていいのかよ?」

 「いいでしょ。本家と東の工房以外にあたしが気兼ねなく行けるとこなんて、今はこの家くらいなんだし」

 「天音さんちでもいいじゃねぇか。仲いいだろ」

 「月咲ちゃんならともかく、従業員の人は嫌。気を遣わせるし」

 

 『今死ね!すぐ死ね!骨まで砕けろ!ジェノサイドブr』

 

 「あ、まずい。必殺技(ブラストキャリバー)使って」

 「おう」

 

 『いい気になるな!!』

 

 派手なSEと共に必殺技が発動し、敵の技を中断させる。体力が全快の状態でも瀕死に追い込まれるそれを止めたことによって、彼らが負ける確率はほぼ無くなった。もう一つの即死技も回避しながらコンボ数を増やしていき、もう一度必殺技を発動させてボスエネミーを撃破する。

 リザルト画面に移るのを確認した二人は、コントローラーを投げ出して寝っ転がっていた。

 

 「……みたまさんとなにかあったんだろ」

 「う゛っ」

 「この間学校で起きた揉め事の時か?姉貴も表面上ははいつも通りだけど、最近はしかめっ面で腕組んでることが多いんだよ」

 「…みたま姉さんを陥れた主犯はもうこの神浜にはいないし、大東・水名の責任者にはきつく言っておいたよ?」

 「それで済まなかったからこうなったんだろ?やり方が悪かったんだよ。主犯や学校に圧力かけて終わりじゃなくて、みたまさんのフォローをメインにするべきだったんだ」

 「この神浜(くに)はお前たちのものだけどさ、住む人間の事も考えてきたから今まで成り立ってきた部分もあるんだ。……みたまさんに関してはそっとしといてやれ。姉貴がなんとかしてくれるさ」

 「……わかった」

 

 壮月がまことの頭をわしわしと撫でる。彼女は複雑そうながらもまんざらでもない表情を浮かべて、壮月の手を受け入れていた。

 

「そうだ。主犯の奴に手を出したりしてないだろうな?」

「大丈夫だよ。生きてるし、元気にしてるみたい」

 

 まことが自分の首の真ん中あたりを指で指す。

 壮月自身も自身の首を触って納得をした。首に付けられた魔女の口づけ。まことの首に無くて自分にはあるもの。神浜に生まれた者全員に付けられたそれがGPSのような働きをしている証明だった。

 ハイライトの無い眼で呆れたような表情をしながらも、少しだけ安堵する事が出来た。少なくともこれ以上、八雲みたまが学校そのものから不利益を被ることはなさそうだと思えたから。

 

 その時、まことが何かを感じ取り瞳孔を大きく開かせた。

 

 「────っ!?」

 「どうした?」

 「魔法少女が生まれたみたい…。この声、みたま姉さん……?でも、願いの内容がこれじゃ!?」

 「あっ、おい!?」

 

 まことはそばに置いていた水を一気飲みして、玄関へ向かっていく。

 唐突な出来事に戸惑いながら壮月はまことを追いかけるが、

 

 「行ってくる!みたま姉さんの近くには十七夜姉ちゃんがいるけど、何かがおかしい!」

 

 八雲みたまの願いが瀬奈みことに降りかかろうとしているのを察知し、事態の収束の為まことは大東区を走り抜ける。

 向かうのは瀬奈みことのもと。魔女になったみことが願いに影響された場合、どのような存在に成るか幾多の魂を取り込んで結末を観てきたまことでも知りえなかった。

 何より、やっと得られたかもしれない友を見捨てる選択肢なんて、彼女の中には無いのだから。

 

 「間に合えッ……間に合えッ!!!」

 

 天国が神浜を統治して500年程度、ゆるやかに物語は始まろうとしていた。

 

 





・和泉壮月
当時13歳。ハイライトは無い。
まことちゃんの唯一の男友達。
まことちゃんは幼少期から、和泉家や八雲家に出入りをしていた。
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