【劇場版】綱手の兄貴は転生者   作:ポルポル

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ほぼ一発ネタ


THE LAST
うずまき+日向=ボルト


「ん……」

 

 微睡の中に沈んでいた意識が浮上してくる感覚と共に、暗闇の中に微かな光を感じ取ったアカリが、小さく身を悶えさせ、声を零した。

 ゆっくりと瞼を開いていく。視覚が受け取る光の量が増幅し、開いた眼は再び細められた。

 

「……?」

 

 アカリは疑問符を浮かべて小首を傾げる。

 そして、感じた疑問が、もはや失われた感覚を覚えたがゆえに発生したものであることに気づいたとき、アカリは大きく目を見開いて、飛び起きた。

 

「目が!?」

 

 何が起きているのか、にわかには理解しがたい状況だった。

 きょろきょろと、アカリは周囲を見渡した。

 アカリが眠っていたのは、簡素な部屋だった。素朴な木で作られた、ベッド以外には何もない部屋。ただ異様なのは、床を突き破り、天井を貫いて、巨大な木の根が一本、聳え立っていることだった。

 

「……」 

 

 アカリの思考、その回転速度が、急速に上昇する。

 

「畳間……?」

 

 人気のない部屋だ。

 物音もしない。静かな世界。

 アカリの世界は、いかなる理由か―――きっと、あのバカが残したのだと、アカリは思った―――確かに光を取り戻した。しかし今度は音を失ったかのように、静まり返っていた。

 

「うっ……」

 

 アカリが唇を戦慄かせる。

 胸に大きな穴が空いてしまったかのような切なさ。深い哀しみが込み上げる。

 アカリの心に木霊するのは、畳間の最後の言葉―――その声音だった。もう二度と、あの声を聞くことは出来ない。もう二度と、あの温もりに触れることは出来ない。

 それが哀しくて、辛くて、アカリがようやく取り戻した光の世界は、にわかに滲んでいった。

 

「うっ……」

 

 アカリは静かに膝を抱え、顔を埋めた。

 アカリはただ静かに泣いた。何故ならば、構い慰めてくれる畳間がいないのならば、泣き喚く意味が無いからだ。

 

 アカリは静かに嗚咽する。

 

 ―――今だけは、許して欲しい。

 

 泣くだけ泣いて、涙を流し終えた後は―――『木ノ葉の家』の母として、五代目火影の妻として、しっかり責務を果たすから。だから今だけは、亡き夫のために―――長い年月を傍に居た、大切な人のために、俯くことを許して欲しい。

 

 アカリは、小さく小さく身を丸くして、ただ静かに嗚咽する。

 

「……あ!? もう起きて―――まずい……ッ」

 

「―――何がマズい? 言ってみろ」

 

 今生の別れを湿っぽく終えて、マダラによって命を奪われた人達をこの世に呼び戻し、その人生を終えたはずの畳間は、しかしその直後、うちはマダラの力によって生き返った。

 正直気まずい、と思いつつも、しかし恋しさには勝てず、畳間はアカリのもとへと飛び戻ったのだ。まだ眠っているだろう、という希望的観測から、少しばかりアカリの寝顔を―――すべての戦いを終えて、ようやく掴んだ平穏の、最初の寝顔を―――眺めていようかと、考えた。

 最愛の妻の穏やかな寝顔は、畳間の疲れ果てた心身に沁み込み、その疲れを癒してくれる。

 

 ―――オレも頑張ったし……。それくらいの癒しがあってもいいよね……。

 

 そう思って戻った畳間は、しかし既に目覚めていたアカリを見て、表情を引き攣らせる。

 そんな畳間の呑気な様子に、『すべてが終わった』ことを察したアカリは、じろりと畳間を横目に睨みつけた。

 

「えっと……。アカリさん。オレ、なんか生き返ったみたいで……」

 

「バカやろォおおおおおおおお!!!」

 

 ―――光を取り戻したアカリが視た、一番大切な人の一番最初の顔。それはアカリの記憶にある通りの、なんとも間の抜けた、困ったような笑みだった。

 

 そしてアカリが次に見たのは、腫れあがった(・・・・・・)頬を摩りながら、やはり困ったように浮かべている、夫の苦笑。

 アカリは畳間の胸に飛び込んで、畳間は頬を摩るのを止めて、強くアカリを抱きしめた。

 

 畳間の胸に顔を埋め、子供の様に泣きじゃくるアカリに、畳間は愛おし気に瞳を細め、静かに言った。

 

「ただいま」

 

 

 

 

 

 

 

 碧い満月の夜。うっそうとした森の中、夜空を見上げられるような突出した木々の上に、瞳を閉じた白髪の女性が立ち、ヒアシを見下ろしている。

 ヒアシは幾人かの日向一族の者を従えて、女性を見上げていた。

 

 女性は瞳を閉じたまま、静かにヒアシへと語り掛ける。

 

「これは天命です。日向一族に課せられた天命なのです。尋ねるのは、これが最後です。日向ヒアシ。答えを聞きましょう。あなたたち一族の未来を決める答えを」

 

「―――これが日向の答えだ!!」

 

 言いながら、ヒアシがその場から駆けだして、女性へと飛び掛かった。日向の柔拳の型を構え、その掌底を女性へと突き出した。

 

「愚かな……」

 

 ヒアシの掌底が女性の体をすり抜けて、女性の姿が消える。

 同時に、体中を包帯で覆った正体不明の人型の群れが出現し、ヒアシとその傍付きの者達へと襲い掛かった。

 ヒアシを含め、日向の者達は人型へ柔拳を繰り出し、その関節を次々に人間であれば本来曲がらない方向へと押し曲げ破壊していくが、しかし破壊されたはずの関節はぐるりと回り、元に戻る。

 傀儡の類―――そうヒアシが判断したとき、日向の側近たちは物言わぬ肉塊へと変貌した。

 

 ヒアシもまた、無数の人型に飛び掛かられ生き埋めとなる。押しつぶされる前に、ヒアシは回天を以てその拘束から脱出したが、負傷は免れなかった。

 情報を伝えなければならない。

 このまま戦えば殺されると判断したヒアシは、殺された者達から視線を切り、木ノ葉へと逃走を開始する。

 

 人型達は、何やら光るチャクラの球体―――螺旋丸ではない―――を作り出し、次々にヒアシ目掛けて解き放った。

 辛うじて直撃を避け続けるヒアシだが、しかし逃げ込んだ洞窟を、人型達が球体の爆発によって破壊し―――ヒアシは崩れ落ちてくる天井の下に、その姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 そわそわ。

 

「……」

 

 そわそわ。

 

「……」

 

 そわそわ。

 

「……」

 

 そわそ―――。

 

「落ち着けアカリ」

 

 千手邸の方の一室で、紫の着物を身に着け、その両腕の袖に両手を突っ込みながら、同じ場所をぐるぐるぐるぐると回り続けるアカリを、畳間が窘める。畳間もまた紫の色の着物を着ている。いい歳こいてペアルックであった。

 畳間は黒い瞳を、呆れた様に細めてアカリを見つめた。

 

「オレたちはあの子の親なんだ。緊張しているのは、あの子たちの方なんだぞ? オレ達は落ち着いて、泰然自若に、どっしりと構えていればいいんだ」

 

 かちゃかちゃかちゃかちゃかちゃ。

 

「畳間」

 

「なんだ」

 

「カップ、滅茶苦茶震えてるけど」

 

 椅子に座り、飲み物の入ったカップに添えられている畳間の手は、これ以上無いほどに震えていた。

 

「……」

 

 畳間は静かにカップを置いて、両手を両袖の中に隠した。

 

 ―――止水が婚約者を連れて来る。

 

 ゆえに、二人は身だしなみを整えて、時を待っていた。

 遂にこの時が来たか、といったところである。

 止水に良い人がいることは随分前から知っていたし、当人同士で婚約をしたこと自体は、数か月前から知っていた。

 五代目火影の引退、六代目火影就任から、上層部の新体制への移行・引継ぎなど、火影を引退したとはいえ、まだまだ忙しい盛りにいる畳間に配慮して、両親への挨拶はされていなかった。

 そして、当人同士での婚約から数か月経った今日、畳間が落ちついた時期を見計らって、遂に止水が動いた。アカリと畳間のもとへ、止水と、止水に嫁入りしてくれる女性が、挨拶に来ることとなったのだ。

 

 畳間とアカリは、両親が既に他界していたこともあって、勝手にくっついた。当時、未だ軋轢の深かったうちは一族とのアレコレはあったものの、畳間もアカリも、両親への挨拶、というイベントは未経験である。

 ゆえに二人は、子供が婚約者を連れて来た時の親の反応、というものを知らない。どういう対応をすればいいのか、分からないのである。しかも、止水の妻となる女は、アカリと畳間に深い縁のある故人―――山中一族の血縁だ。

 その緊張は否が応でも高まった。

 しかも、方や千手一族の後継者。方や山中一族の後継者である。

 跡継ぎ問題もあって、色々と取り決めもしなければならない。

 山中一族側には、長女しかいない。

 一方で千手一族側には、次男と長女がいる。止水が婿入りすれば、跡継ぎ問題は解決であるが、しかし止水の力は、いかんせん特殊過ぎるがゆえに、千手一族から出すことは難しい。

 畳間としては子の幸せをこそ願いたいものであり、止水の婿入り―――千手からの除名も考えないことは無いのだが、しかし代々続いてきた千手一族の当主として、長男を婿に出すことには、正直なところ葛藤もある。その辺は戦国時代を知るが故の価値観か―――固い頭を解せてはいなかった。アカリもまた、長男を婿に出すなど在りえないというのが、実際である。

 

 結婚を許す赦さないという話をするつもりは毛頭なく、どうすれば二人―――さらに言えば両一族が円満に結ばれるか、という話し合いをするつもりである。二人の頭の中では、寄せては返す思考が堂々巡りになっており、全くと言って良いほど落ち着きが無かった。

 

 が、今回はただの、簡単な挨拶程度のつもりであり、そういった話をするつもりは、若い者たちには一切ない。

 

 ―――呼び鈴が鳴る。

 

 畳間とアカリは同時に駆けだした。目指すは玄関である。

 

 どたどたと慌ただしく現れた両親に、止水が苦笑を浮かべる。

 その隣に立つのは、優しい月光色の髪をお団子に纏めた、着物姿の美女―――山中いの。

 

「……っ」

 

 その姿を見た畳間が、切なげに瞳を細める。

 アカリもまた、表情に哀愁を滲ませた。

 二人は堪らず、いのから視線を逸らす。

 

「え……? ……え? あの、えっと……なにか、私、失礼を……?」

 

 これに困惑するのはいのである。

 これから義両親となる予定の者達―――しかも片方は先代の火影―――の突然の変化。しかも見るからに良い方向のそれではない。「私何かやっちゃった!?」と内心で気が気ではないし、少しばかり血の気も引いた。

 

「大丈夫だよ。ね? 父さん、母さん」

 

 止水は戸惑う恋人の肩に手を置いて、安心させるようにぽんぽんと手を動かした。そして両親へ笑顔を向けた。朗らかな笑みだ。しかしそのうちには、妻となる女性を守らんとする意志が見える。

 それは、畳間たちに対する「事情は分からないけど不安にさせないでね……?」という釘差しであり、お願いだった。止水は、畳間たちの反応にも、何か事情があることは汲んでいる。だが、止水の中の優先順位の頂点は、既に両親ではない。

 

 畳間とアカリは、止水の親離れを痛烈に感じた。

 そして同時に、もはや20年も前になる過去を引きずっていることを省みた。

 

「……」 

 

 アカリと畳間は静かに見つめ合い、小さく息を吐いた。

 止水が一人の男として、新たな人生を歩もうとしている。

 自分たちもまた、向き合う時が来ているのだと、二人は思った。

 

「「どうぞ」」

 

 畳間とアカリ―――二人の、無駄に畏まった言葉が重なる。

 二人は同時に、手を屋敷の奥へと伸ばし、家に上がるように示した。

 

 あまりにキレイな重なりだったがゆえに、いのが小さく失笑する。そして、慌てて口元を隠した。

 笑ってしまった羞恥と、失礼をしてしまった焦燥。頬を赤く染めて、そして青ざめさせる。

 

 畳間とアカリは再び見つめ合い、困ったように笑った。

 気の利いた言葉は、やっぱり言えない二人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――月が落ちて来る。

 

 とある国の、とある里、とある屋敷の中―――『六代目火影』を襲名したカカシの、初の五影会談は、そんな議題から始まった。

 

 うちはマダラとの戦いを経て結束が強まった五大国は、五代目火影の代で結ばれた和平条約を基に、さらに関係性を密に詰めんとしている。

 

 岩隠れの里。

 うちはマダラに殺害された『三代目土影』は畳間の術によって生き返り、現在も土影として政務に励んでいる。木ノ葉や砂と異なり、後継者が育ち切っていないというのが、目下の理由である。

 

 砂隠れの里。

 うちはマダラに殺害された『四代目風影』は、畳間の術によって蘇生された後、死の直前に皆に伝えた通りに、息子である我愛羅を『五代目風影』として指名し、己は引退を表明した。

 が、風の国の大名たちから、我愛羅はまだ若すぎる、という指摘があり、未だ政権は四代目のままである。

 

 霧隠れの里。

 うちはマダラに殺害された『四代目水影』は、戦争の責任を取って辞任。尾獣が抜けたことで人柱力ですらなくなり、ただの『やぐら』となった。

 やぐらは霧隠れを守れず滅亡の憂き目に立たせてしまった責を取り、現在は『五代目水影』となった照美メイの監視下という名目で、労役に就いており、水影の席に座っているのは、照美メイである。

 

 雲隠れの里。

 うちはマダラに殺害された『四代目雷影』は、仇敵である千手畳間の術によって蘇生された。その後、ビーが殺されたことや、ビーも四代目雷影と同じように畳間の術によって蘇ったことを知り―――己の限界を自覚した。

 戦争にて堆積した憎しみと、義弟を救ってくれたことへの感謝。

 戦争を忌避する里の民と、死んでいった仲間たちの無念。

 木ノ葉隠れの里―――『五代目火影』は、世界を救った英雄となった。もともと、うちはマダラが木ノ葉隠れの里の者だったとしても、その後に現れたという『未知の敵』の存在もある。

 四代目雷影は、ここに至っては、もはや里同士で小競り合いをしている状態ではないことを受け入れ、引退を表明した。木ノ葉に対してはタカ派である自身が雷影のままでは、木ノ葉と雲の友好関係はこれ以上進展しないという判断をしたがゆえの、英断であった。

 

 五代目火影と、四代目雷影。

 

 一方は、『平和』、という夢へ進むうえで、軍拡を続ける雲を、どうしても目障りと感じていた。

 

 一方は、『自国の利益』、『亡き者達の怨恨』を考えるうえで、木ノ葉と手を組むことだけは容認することが出来なかった。

 

 二つの影。

 それらはそれぞれの里において、まさに里を照らす陽光であったが、同時に、雲と木ノ葉の軋轢の象徴でもあった。

 時代は、変わろうとしている。もはや、第三次忍界大戦―――古き因縁は、残すべきではない。

 木ノ葉隠れの里より、五代目火影の引退が里内外に通達されたと同時に、四代目雷影もまた、引退を表明したのである。

 

 ゆえに、この五影会談において、雲隠れより出席している影は、『五代目雷影』。四代目雷影の腹心として知られていた、『ダルイ』、という忍者であった。

 

 よって、今回の五影会談は、新たな影を擁した木ノ葉と雲のお披露目会、といった側面が強いはず(・・)だった。

 メイは戦後すぐに『影』を襲名しているため、既に五影会談に『影』として出席したことがあり、顔見せは終わっている。また『霧隠れ解放戦争』から続いた『第四次忍界大戦』の戦後処理は、五代目火影が自身の代で終わらせた。

 ゆえに、本当に、今回の会談はカカシにとって、自身の顔見せと各里への挨拶程度のものになるはずだったのである。

 

 砂と木ノ葉。

 岩と木ノ葉。

 霧と木ノ葉。

 それぞれ五代目火影の代で、同盟の基盤はおおよそ固まっている。

 ゆえに、残る雲と木ノ葉―――『頭』が変わったので、心機一転、過去の遺恨は忘れて互いに仲良くしていこうね、という会合となるはずだったのだ。

 

(それがどうして……)

 

 カカシは威厳を保ちつつも、内心では辟易としていた。

 

 ―――月が落ちて来る。

 

 カカシが火影となり一か月ほど経った頃から、隕石の観測数が桁違いに跳ね上がったのである。

 その原因を木ノ葉の科学班が調査したところ、どうやら『月』が地球に近づいているらしい、ということが分かった。

 最近殊更増加した隕石は、地球に近づいて来る最中に崩壊を始めている月の断片であるというのだ。そしてこのまま月の接近を放置すれば―――。

 

 ≫≫人類は滅亡する≪≪

 

(火影になって最初の仕事が人類滅亡の阻止って……。そりゃいくらなんでも規模が大き過ぎるでしょ……。せめて里規模に……)

 

 ポーカーフェイスを保ちつつ、カカシは肩に重さを感じていた。

 五代目火影―――先代火影の『最後の仕事』が、人類滅亡の阻止であった。一方で、六代目火影の『最初の仕事』が、それ(・・)である。「いくらなんでも」、と思ってしまうのを責めることは出来ないだろう。

 

 カカシはちらと、自身と同じ新顔であるダルイへと視線を向ける。ダルイは露骨にだるそうな表情を浮かべている。仲間意識を感じるカカシであった。

 

 一方で、オオノキと羅砂は、その内心が露骨に表情に出ていた。端的に言えば、死んだ眼をしている。

 本当ならば引退したい二人なのだ。

 うちはマダラという人類滅亡の脅威を乗り越えて、またすぐに人類滅亡の脅威―――しかも隕石とかいう自然現象に対処しなければならない二人は、「もう勘弁してくれ」という気持であった。

 

 とはいえ、有事は有事。

 影たるもの、果たすべき役割がある。

 影達は各々一つ息を吐くと、真剣に対策を議論し始めた。

 

 

 

 

 

 

完敗(乾杯)!!」

 

 二十歳となったリーとネジが、酒が並々注がれたグラスを持ち上げて、軽くぶつけ合う。

 軽い心地の良い音がして、二人はそれを仰ぎ呑む。

 

「婚前旅行ですよ、婚前旅行!! 青春してますね!! シスイは!!」

 

 リーが普段はおとなし気な丸い瞳を吊り上げて、捲し立てるように言って、さらに酒を仰ぎ呑んだ。

 

「ほおおおおおおおおおら!!」

 

 ネジが肯定を示す。

 舌が回っていない。実はこの二人、もう何件目かの梯子である。そしてその話も何十回目か分からない。

 

 昼間。

 ネジとリーはいつものようにシスイに戦いを挑んで敗北した。それは二人にとっては変わらず悔しいことではあるが、しかしいつものことである。

 違ったのは、この三人が二十歳を越えた、という点に尽きる。

 そう―――酒を飲めるようになったのだ。

 ネジとリーは止水の結婚祝いも兼ねて、そして昼の組手の感想戦―――主にこちらが理由―――をしたいから、今夜は呑みに行かないか、と止水を誘った。

 しかし止水はそれを断った。理由は―――『婚前旅行の準備』。

 

 ゆえに、二人は呑んだ。

 『女』がいることへの嫉妬ではない。

 ただ、友人が遠くへ行ってしまうことが寂しかったのだ。

 

 ―――青春(・・)。それはきっと、熱い友情だけを指すのではない。

 

 友達が大人になったとき、残される側の胸を過る切なさもそこには含まれているのだろう。そして二人は残される側だった。そうやって彼らもまた大人になるのだ。

 

 べろんべろんに酔っぱらっているネジとリー。

 ネジはともかく、リーには酒乱で暴れるという弱点がある。

 以前、男三人で飲みに行った際に、リーが居酒屋で大暴れしたことがあったが、その際は止水の輪廻写輪眼によって沈黙させられている。

 今回はその反省を踏まえて、事前にネジに点穴を突いて貰うことで筋力を大幅に低下させた状態にしてあるため、店に迷惑を掛けることは無い。

 

「そーだそーだ!!」

 

 ネジとリーと同じ席で、女が一人、ジョッキを片手に声を荒げた。

 居酒屋を梯子している最中、何件か前でたまたま出会ったのが、この女―――うずまきカリンである。香憐はヒナタとサクラと一緒に呑んでいた(なおサクラもヒナタも酒は口にしておらず、食事のみである)ところ、梯子をしている最中の野郎二人に出会ってしまったのである。そういうことである。

 

「はあ……」

 

 その話何度目よ、と口に出すと面倒くさいことになるため、その言葉は呑み込んで、小さくため息を吐くに留めたのが、香憐の隣に座っている春野サクラである。

 ちなみに、良いところのお嬢様であるヒナタは、既に撤収している。ネジも良いところのお坊ちゃんのはずなのだが。

 本当は、サクラも帰りたいと思っているが、さすがに泥酔した野郎二人の所に、友人を置いていくことは出来なかった。そういう面倒見の良いところが、後輩たちから慕われる所以なのだろう。

 

 それから数時間が経ち、リーが酔い潰れ、机に突っ伏したまま動かなくなった。

 サクラは頬杖をつきながら、もう片方の手を伸ばし、やる気なさげな様子で、リーに掌仙術の光を当てる。

 香憐とネジは呂律の回っていない言葉で会話をしている。サクラには何を言っているのかまるで理解できないが、二人は奇跡的にかみ合っているのか、会話が成立しているようである。

 

「といれ。でかいほうだ。さがさないでくれ」

 

 ネジが要らない情報まで口にして、席を立った。

 サクラは嫌そうに顔を顰める。

 香憐はツボに入ったのか、げらげらと声をあげて笑っている。箸が転がっただけでも笑いそうなくらいに出来上がっていた。

 

 ネジがふらふらとおぼつかない足取りで、店の奥へと消えていく。

 

 ネジは歪む視界、ふらつく足元―――酔いに心身を任せながら、トイレの扉を開けて、中へと入る。ネジは宣言通り、トイレの奥の個室へとゆっくりと向かっていく。

 

 そして、扉を開けたネジを―――瞼を閉じた白髪の女が出迎えた。女は蓋が閉じられている便座の上に立っていた。

 ネジは不思議そうに小首を傾げた。

 

 ―――幻覚か?

 

 ネジは瞼を瞬かせる。

 ここは男用だったはずだが、間違えたかなと、纏まらない思考が単語(・・)を浮かべる。

 素面であれば、謝罪をしながら直ちにトイレから飛び出すか、あるいは変態の出現に悲鳴をあげただろうが、残念ながら酔いが回り切っているネジは、何を想ったのか、そのまま個室へと入っていった。

 

 家屋が破壊される音―――木材や瓦礫が転がる音―――が、店中に響いた。同時に、店が揺れる。

 

「なに!?」

 

 サクラが椅子から飛び跳ねるように立ち上がり、音のした方向―――ネジが向かったトイレの方へと視線を向ける。

 

「ころんだんだろー?」

 

 香憐がほわほわとした様子で口にする。

 サクラが険しい表情でトイレへと視線を向ける。

 

「違う。今の音は……ッ」

 

 ネジが転んで何かを破壊したにしては、音が大規模すぎる。

 まるで天井を突き破って何かが侵入した、あるいは何かが飛び出したかのような、大きな音だった。なにか、未知の異変が起きている。そう確信したサクラはトイレの方へと駆け出そうとして、腕を掴まれ、引き戻された。

 

「香憐!?」

 

「かえんなよー!!」

 

 サクラが自身を置いて帰ろうとしている、と勘違いした香憐がサクラの腕を掴んだのだ。

 

「ちが―――ッ! ちょ、香憐!! 放しなさい!!」

 

 サクラは香憐の手を無理やりに跳ねのけ、トイレへと向かった。

 

「なんだよもれそうなのかー?」

 

 間延びした声がサクラの背中に掛けられた。

 サクラは苛立たしさを抑え、男用のトイレの扉の前に立つ。

 

「水の音……ッ!?」

 

 扉の向こう側から聞こえる音。

 サクラは扉を勢いよく開いた。

 

 ―――破壊された個室の仕切り。便座だっただろう白い破片と、木片が散らばっている床は、噴き出す水によって浸水している。

 

「……うそでしょ」

 

 呆然と、サクラが無残に破壊されたトイレを見つめる。トイレの中には、誰もいない。

 酔っ払いとはいえ、ネジがここまで突然暴れるとは考えにくい。

 他の者が暴れたとしても、誰かの姿はあって然るべきだ。

 サクラは天井を見上げた。

 天井は破壊され、夜空を仰ぐことが出来た。

 

 破壊された天井とトイレ。入って行ったはずのネジの姿はない。

 サクラは天井に空いた穴から飛び出て、空中から周囲を見渡した。ネジの姿はない。近くの建物の屋上に降り立ち、更に周囲を見渡した。

 やはり、ネジの姿はない。

 

「ネジさんが……攫われた……?」

 

 サクラはゆっくりと目を見開いた。

 信じ難いことであるが、しかしそう判断せざるを得ない。

 

 ―――遠くに迸った紫電が、サクラの視界に入り込む。

 

 恐らくは、異変を察知したうちは警務隊―――その隊長であるサスケがこちらへ向かって来ているのだろう。

  

 ―――日向の者が失踪。

 

 第四次忍界大戦以後、木ノ葉隠れの里内にて発生した事件としては、最も大きなものだろう。

 日向一族は、千手やうちはと並ぶ名家である。その一族の者の姿が、里内で突如として消えた―――大事件と言って差し支えは無い。

 

「……」

 

 サクラは強く拳を握った。

 そして、戸惑うように力を抜いた。

 

「……なんでネジさん?」

 




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