【劇場版】綱手の兄貴は転生者   作:ポルポル

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捻じれた春

「サクラ!」

 

 紫電を迸らせ、背中にうちはの家紋が刺繍された、火影装束にも似た紺色の羽織を風に靡かせながら駆けつけたサスケが、サクラの隣に降り立った。

 

「サスケ、速いわね」

 

「今日はオレが夜勤の担当だったってだけだ。なにがあった?」

 

 隣の家屋の屋上から、サスケが破壊されたトイレを見下ろした。

 飲み屋の周辺には、夜だと言うのに、突然の喧騒に人が集まって来ている。

 

「ネジさんが攫われた、と思うんだけど……」

 

 尻すぼみに、サクラが言う。

 サスケは訝し気に口を開いた。

 

「ネジ? ネジって、あのネジか? 日向一族の?」

 

「そう。そのネジさん。食事中、トイレに行くって席を立って……その直後に、大きな音がして駆けつけたら、この有様で」

 

「姿が消えていた、ってことか……。お前のことを疑っているわけじゃないが、にわかには信じ難いな。ネジは里でも上から数えた方が早い実力者だぞ」

 

 当然サスケの方が圧倒的に強いのだが、しかし今はそんな情報は重要ではない。

 サスケやナルト、畳間と言った最高戦力を除いた上忍衆の中でも、日向ネジという忍者は、サスケの言うように、確かに突出した実力者である。

 特に、体術使いとしての評価は、『剛拳』のリー、『柔拳』のネジとして、前線を退いたマイト・ガイの後継者として期待されるほどである。

 

 ―――それほどの男が、誘拐された?

 

 サスケでなくとも、にわかには信じ難い。

 とはいえ、ネジが敗北すること自体は在りえる。

 実際、千手止水には連敗中であるし、サスケやナルトといった里の最高戦力と一対一で戦えば、やはりネジは敗北を喫するだろう。

 

 だが、『誘拐』となると話が変わって来る。

 それは、人を攫うという作業の工程上で、必ず接近戦が発生するからだ。

 

 体術の達人と言って差し支えないネジを無力化し、あまつさえ攫う。

 現実的とは言い難い。

 

「サクラ。物音がしてから、お前がこの状況を発見するまでに、どれくらいの時間があった? オレも里の異変を情報部から伝えられ、すぐここに来たつもりだが……。すでに周辺にネジのチャクラは感じない……」

 

「私も、ちょっと席を立つのに手間取ったけど……。それでも数十秒もかかって無いと思う」

 

「……数十秒。つまり、ネジ程の体術使いをそれだけの時間で黙らせ、連れ去るほどの実力者ってことか。あるいは先代や当代のような時空間忍術の使い手という可能性もあるが……」

 

「いやぁ……どうかなぁ……。ネジさん、とんでもなく出来上がってたし……。攫うだけなら私でも出来そうな感じだったし……。あるとすれば時空間忍術の方かな……?」

 

「……分かった。情報部にそのまま伝えるから、少し待て」

 

 サスケが沈黙する。

 信じ難いが、サクラの言うことが嘘だとは思っていない。

 チャクラを練り、感知を行う傍ら、木ノ葉の情報室にいる山中一族の者へ、チャクラのパスを辿って情報を送った。

 そして返答がサスケへと届く。

 

「……裏が取れた。ネジのチャクラが里から消えたとのことだ。だが、痕跡は残っている。つまり、時空間忍術での空間移動ではないことがこれで分かった。オレは跡を―――なんだ?」

 

 サスケが屈み足場を蹴り駆けようとして、ぴくりと止まる。

 やけに視界が明るい。

 サスケは夜空を仰ぎ見た。

 

 夜空に輝く何か(・・・・)が、月の影より近づいて来る。

 隣に立つサクラもまた同じように空を仰ぎ、瞠目した。

 

「うそでしょ!? あれ、隕石!? 前にマダラが使ったって言うやつ(天蓋流星)!?」

 

「いや、違う!! あれは術じゃない!! 炎を帯びてる……本物だ!! ちィ!! ―――須佐能乎!!」

 

 サスケが地上を蹴りつけて天へと飛び立ち、須佐能乎を展開した。

 翼を持った須佐能乎は天空へと駆け昇り、迫る隕石へ向けて、その手に持つ弓の弦を限界まで引き絞り、携えた矢を解き放つ。

 

 ―――インドラの矢。

 

 放たれた矢は一直線に突き進む。夜空を貫く一筋の光と化した矢が、隕石に直撃した。夜空に閃光が迸る。

 砕け散った石粉が、ぱらぱらと夜の木ノ葉に降り注ぐ。

 サスケは上空から木ノ葉を見下ろし、何か被害が発生していないかを確認した後、再び空を見上げた。

 

「タイミングが良すぎる。これは攻撃だ(・・・)

 

 サスケの表情が険しいものになる。

 

 怒りがサスケの中に沸き上がる。

 

 もしもサスケが瞬時に対応していなければ、あの隕石は里に直撃していただろう。

 そうなれば、木ノ葉は『木ノ葉崩し』など比では無いほどの損傷を受けるか、あるいは文字通り消滅していた可能性が高い。

 里を守る最後の砦としての自負を持つサスケが、このような里への露骨な攻撃を許せるはずが無い。

 

「ふざけやがって!!」

 

 サスケは憤怒の表情を浮かべ、ネジのチャクラが向かったという方向へ須佐能乎を急発進させようとして、肩の力を抜いた。

 サスケが小さく舌打ちする。

 そしてゆっくりと地上へと直下し、地上付近で須佐能乎を消すと、再びサクラの傍に降り立った。

 

 険しい表情のサスケを、サクラは伺うように見た。

 サスケが「分かった」と、ぽつりと呟いた。

 

「どうしたの?」

 

 サスケの呟きを聞いて、サクラが訊ねる。

 サスケは重いため息を吐いて、サクラへと視線を向けた。

 

「……上層部から追跡のストップが入った。一度、作戦会議を開くとのことだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネジが攫われ、ヒアシとの連絡が取れんうえに、ハナビまで(・・・・・)行方不明と来た。これは由々しき事態だのォ」

 

 火影邸。

 その会議室にて、大きな円卓を囲むように座っている者達のうち、大柄の男―――相談役たる自来也が口を開いた。

 自来也の隣に座す綱手は黙したまま、横目で六代目火影―――カカシを見つめている。

 綱手や自来也だけではない。

 イタチ、サスケ、サクラ、そして日向ヒナタ―――円卓に座る者達が、カカシの言葉を待っている。

 カカシは顔の前で手を組んで表情を隠しながら、口を開いた。

 

「……情報を整理したいと思う。この件は、謎が多すぎる」

 

「そうですね」

 

 カカシの言葉に、イタチが肯定の意を示す。

 そして、カカシが続けた。

 

「まず、ネジ君誘拐についてだ。第一発見者のサクラを含め、食事を共にしていた者達は、下手人の姿を見ていない。その時間、ネジ君以外にトイレに立った者は店内にはいなかったと、店員からの情報もある。つまり下手人は、恐らくは外部―――破壊されていた天井から侵入し、ネジ君を攫ったと考えるべきだろう。そして天井をわざわざ破壊しなければならなかったということは、神威や輪墓のような、空間を移動、すり抜けるような時空間忍術を使用することは出来ない」

 

 カカシの言葉に、綱手が口を開く。

 

「そうだな。仮に下手人が、お兄様の瞬身(飛雷神の術)のような術を使うのだとすれば、マーキングを付けるために接触が必要だった―――という線は残る。しかし、里の大結界を通り抜けたネジ達のチャクラが確認されている以上、時空間忍術の線は切って良いだろう」

 

「ええ。私もそう思います」

 

 カカシが続ける。

 

「ゆえに気になるのは、里の大結界を通り抜けたチャクラが、ネジとハナビの二つ分だけだった、ということです。二人が自らの意志で里を抜けた、という可能性は考慮する必要も無い。二人の傍には、必ず下手人がいたはずです。しかし、里の結界が感知したチャクラは、二人分。つまり―――」

 

「下手人は、里の大結界すら欺くような、凄まじく高度な隠遁を使用できるということになるな」

 

 カカシの言葉に、サスケが続ける。

 カカシは頷いて、視線をヒナタの方へと向けた。

 

「それに関しては、ヒナタから報告があるそうだ。……皆、既に把握していることと思うが、ネジが姿を消した時間とほぼ同時のタイミングで、日向一族の本家が襲撃を受け……日向ハナビが攫われた」

 

 そうだな?

 とカカシがヒナタへと視線を向ける。

 ヒナタは緊張した様子で、背筋を正し、頷いた。

 

「はい。私を含め、一族の者が、交戦した侵入者を白眼で確認しています。日向一族の―――私の家に侵入し、妹を攫った者達は、傀儡(・・)です」

 

「傀儡だと!?」

 

 サスケが声を荒げる。

 傀儡の術と言えば、砂隠れの代名詞とも言える術である。

 ここに先代時代の上層部の者らがいたとすれば、「砂めまたか!! 戦争じゃ!!」となるだろうが、生憎そんなことを考える者は既に隠居したかさせられている。

 サスケが驚いたのは、傀儡の術の仕組みを知っていたからである。傀儡の術は、術者と傀儡の間に、必ずチャクラの繋がりが発生する。しかし里を覆う結界に感知された未確認のチャクラは無い。だとすれば、その傀儡は、超遠距離から、チャクラの糸を用いずに操作されていたということになる。

 傀儡の術の歴史がひっくり返るほどのものだ。

 

 カカシが頷く。

 

「一応、そういった高度な傀儡の術を使う者に心当たりが無いか、砂に情報提供と捜査の協力を要請しておく。既に使者は飛ばした」

 

 とはいえ、心当たりなんて無いと思うけど―――とカカシは内心で呟く。

 日向一族の本拠に攻め込んで、その姫を攫い、逃げ切るほどの傀儡を操る者―――在りえない。恐らくは、砂隠れの里の『傀儡の術』とは、原理が根本的に異なると考えた方が良い。

 

 何故ならば、かつてカカシが戦った『赤砂』のサソリを超える傀儡師が、未だ現れていないからだ。サソリ自身は霧隠れ解放戦争において死亡したが、生前の彼を超える『演者』は、未だ現れていない。現在、砂隠れ最高の『演者』と謳われるカンクロウでさえ、今はまだサソリには及ばない。時を経て、錬磨の果てにカンクロウがサソリを超えることがあったとしても、それは今ではない。

 砂隠れが開発した新たな傀儡術、という線もあるにはあるが、今になって、砂が木ノ葉に牙を向く理由が無い。

 

「これで分かったことは、下手人は―――少なくとも木ノ葉の大結界の外から傀儡を操り、かつ時空間忍術の類を使わずに、徒歩でネジとハナビを攫い、逃走したということになる。つまり―――」

 

「つまり?」

 

 間を置いたカカシに、ヒナタが訊ねた。

 

痕跡が残る(・・・・・)ってことだ。匂い、足跡、草木の歪み……あるいはその姿そのものを、人に見られている可能性もある。だとすれば、追跡も可能だ」

 

 次に、とカカシが続ける。

 

「何故、ネジくんとハナビちゃんが攫われたのか……一つ言えることは、恐らくは今回の件、白眼を狙ってのものじゃないってことだな」

 

「というと……?」

 

 カカシの言葉に、ヒナタが恐る恐る尋ねた。

 攫われたネジとハナビは、日向の本家の血を濃く継いでいる。白眼を狙う者がいるとすれば、それは垂涎の得物だろう。

 

「確かに、ネジくんもハナビちゃんも『白眼』という点で言えば、これ以上無いほどの得物だろう。だが、ネジくんは言うまでもないが、ハナビちゃんだって弱くはない。あえてその二人を狙わずとも……白眼を持つ獲物は、他にたくさんいる」

 

「カカシ、言い方」

 

 カカシが凄むようにヒナタに言って、綱手がそれを諫めるように小さく言った。

 ごめんね、とカカシがヒナタに笑い掛けたのち、続ける。

 

「つまり、今回の件は、ネジくんとハナビちゃんを狙ったものと考えるのが自然だ。何故ネジくんなのか。何故ハナビちゃんなのか。何故ヒナタでは無かったのか……」

 

「あの」

 

 ヒナタが言う。

 

「私も攫われそうになった、というか……襲われたんです。そのとき、ハナビが……妹が私を庇って……」

 

 ヒナタが表情を歪め俯いたのを見て、イタチがすぐにその話を引き継いで、口を開いた。

 

「それは、オレも警務隊の者から聞いています。警務隊の者が合流し、下手人たちは彼女を諦め、ハナビちゃんだけを攫い、逃走を選択したと」

 

「……分からんのォ」

 

 自来也が言う。

 

「ネジ、ヒナタ、ハナビ……。何故、日向本家に近い者だけが狙われる? こうなってくると、ただ白眼を欲している、というわけではなさそうだが……。行方不明のヒアシも、そやつらに攫われたと考えるべきか……。ヒナタ。ヒザシの安否はどうなっておる? 奴は分家本家と別れたとはいえ、『血』としては、ヒアシと全く同じだ」

 

「その……叔父様も、連絡が……」

 

 しょんぼりと顔を伏せるヒナタに、自来也は額を押さえる。

 

「……これは、思った以上に厄介そうだのォ」

 

「怨恨の線は?」

 

 綱手が問いかけると、ヒナタは俯いたまま静かに首を振った。ヒナタに心当たりは無いようだ。

 ふむ、とカカシが呟いた。

 その視線は、綱手と自来也へ向けられる。

 

「相談役。さすがに、こればかりは情報が少な過ぎます。答えを急ぐべきではないかと。この議題は一度置き、急を要する『追手』について考えましょう」

 

 カカシはそう言って、考え込むように目を細めた。

 少し間。

 カカシはサスケへと視線を向ける。

 

「敵の目的は不明。実力も定かではない。追手を出すにしても、生半可な戦力では返り討ちになる可能性が高い。こちらが向かわせるべきは、最低でも影クラスであることが望ましい……。少なくとも、サスケはそう見ているんだな?」

 

「ああ。里に降って来た隕石……アレは、タイミングから見て、オレの追跡を止めるためのものだ」

 

 サスケの言葉を聞いて、自来也が疑わし気にサスケを見つめる。

 

「サスケよ。お主を疑うわけではないが……、最近、隕石の数、それ自体が急増しとる。木ノ葉に限らず、あらゆる国で、隕石が確認されておるんだ。先の五影会談でも、五大国共同で隕石の対策を講じる、という取り決めも結ばれたところだ。お前が撃ち落とした隕石―――アレは、たまたま木ノ葉に降って来たもの、ということは無いのかのォ? 確かに、マダラの様な前例もある。隕石を降らせるような規格外の術を持つ者が敵におる可能性は否定できんが……」

 

 自来也が言いたいのは、それが本当だとすれば、追手として送れる戦力が非常に限定されることになる、ということだ。

 隕石を降らせるような術を使う敵を倒し、人質を救出するだけの力を持つ者―――。そんな実力者など、五大国最強の木ノ葉でも、片手の指で数えるだけしか存在しない。

 

 そしてそれが事実ならば―――この地球滅亡の危機が、人間の手で引き起こされているということになる。だとすれば、まだ人的被害が出ていないというだけで、規模だけで言えば、うちはマダラを超える敵が現れたということに他ならないのだ。

 

 マダラと直接戦ったことのある自来也が、『さすがにそれは違ってくれ』と無意識に願ってしまうのは、無理もないことだろう。マダラはまだ人の手で打倒できたが、『月』を相手に戦うなどできるはずもない。

 

 ゆえに自来也は、サスケは思い込みが激しい(・・・・・・・・)きらいがあるということもあり、サスケがそう思い込んでいるだけで、隕石が木ノ葉に落ちて来たこと自体は偶然だったのではないか、という可能性を示唆する。

 

 サスケが眼を細めて自来也を見つめた。

 

 自来也とサスケの、消極的な対立―――イタチが、口を挟んだ。

 

「自来也様のおっしゃることはご尤もです。サスケの言が事実であるならば……恥ずかしながら、『忍頭』の役を賜ったオレでさえ『追手』としては力不足でしょう。本当に、にわかには信じ難い……。ですが、木ノ葉隠れは仲間を見捨てない。同胞たる日向一族が危機にあり、助けを求めているのならば、『追手』は早急に用意しなければなりません。そして、『追手』が敵と戦闘になり、万が一にも敗れ、命を落とすようなことも、あってはならない……。隕石による人類への攻撃―――人類すべてを敵に回してもなお勝てるという算段が敵にあるのだとすれば、私達が『過剰戦力である』と感じてもなお足りない、ということも考えられます。敵の力が、『うちはマダラ』に匹敵、あるいは凌駕しているという可能性も、否定できない……。自来也様。サスケの言葉が真実である可能性が僅かでもあるのなら、万全の―――」

 

「……」

 

 イタチの言葉を聞いていた自来也の表情が、苦虫を噛み潰したような表情に変わって行く。

 そして、イタチが言葉を言い終わらぬうちに、重苦しいため息を吐いた自来也は、イタチの言葉を遮るように、口を開いた。

 

「分かっとる分かっとる。だから、人の顔色を窺って、回りくどく、上手いこと転がそうとするのはやめい。儂はまだ、聞き分けの無い爺になったつもりは無いのォ」

 

 自来也はひらひらと手を軽く振った。

 自来也は、イタチが自身の機嫌を損ねないように言葉を選んでいることに気づいて、辟易とした様子で言った。

 それを以て、イタチが粛々と頭を下げる。忍頭として、あくまで自来也を立てる態度を崩すつもりはないようだ。

 

「だから、それをやめろと言うとるんだがのォ……」

 

「ふふ」

 

 イタチが粛々と頭を下げ、それを見た自来也が嫌そうに表情を顰めるのを見て、綱手がおかしそうに笑う。これまでの上層部―――特に三代目火影の政権以後は、よくも悪くも仲良し政権の色が強かったこともあり、イタチの様に引き締めるべきをしっかりと行える者は珍しかった。綱手も医療部門のトップとして上層部の会議には何度も顔を出していたこともあり、イタチの在り方は新鮮で、面白かった。

 話が脱線し始めている―――カカシが口を開いた。

 

「イタチの言うことにも一理ある。『追手』は精鋭を送った方が良いだろう。となれば、ナルトか、サスケか……」

 

「まあ、そうなるのォ。『木ノ葉崩し』のような前例もある。最高戦力の片割れは残しておいた方が良い。ただでさえ……、今、兄さんが里におらんしのォ」

 

 カカシの皆に聞こえるように言った呟きを拾い、自来也が神妙に頷く。

 隕石を降らせる術を扱う敵―――万全を期すならば、マダラクラスと考えておいた方が良い。そしてそのレベルの敵を相手取れる忍者―――真っ先に浮かぶのは、うちはサスケと、うずまきナルトの二名。二人には一歩譲るが、止水という選択肢もある。そして最悪、隠居した先代火影を呼び戻すという選択肢もあるが、それはなるべくならば使いたくはなかった。

 

 ちなみに、先代火影こと千手畳間は、止水の婚前旅行に先駆けて、かねてよりの『夢』であった、『湯隠れの里』への、引退記念夫婦旅行中である。

 止水が旅行に行くなら私たちも!―――という要望を口にした者が誰なのかは割愛する。

 実際、第三次忍界大戦中に畳間達が結婚してから、今まで、本格的な泊りがけの旅行は、これが初である。頑張って来た先代がやっと掴んだ夢を破壊するようなことを、この場にいる者達はしたくなかったのである。

 

「オレが行く」

 

 サスケが当然のように口にする。

 

「まあまあ、待ちなさい」 

 

 カカシが焦るなと、サスケを諫める。

 

「サスケの言葉が事実なら、木ノ葉は常に、隕石の直撃―――その危険に晒されているということになる。隕石を破壊し、里を守る力を持つ方は、里に残さなきゃならないからね?」

 

「隕石なら、ナルトでも破壊できるはずだ」

 

「ま、それはそうだろうけど」

 

 とカカシが前置きする。

 これはオレが残される側だなと、サスケは続く言葉を察する。

 

「里にどちらも残れる(・・・)とするなら、見るべきは、『追手』としての能力だ。ナルトのチャクラ感知能力は……言うまでもないよね?」

 

「……」

 

 仙術による超範囲かつ精密なチャクラ感知は、輪廻写輪眼を持つサスケであっても真似できるものでは無い。

 それが分かるがゆえに、黙ってしまったサスケを見て、イタチが口を開く。

 

「サスケ。オレ達『うちは』は『里を守る最後の砦』。里を守ることこそが誉れだ」

 

「分かってるよ、兄さん」

 

 頷いたサスケに、イタチもまた頷き、そして兄弟のやり取りを見て、カカシも頷いた。

 

「他の隊員はこちらで決める。サスケ……いや、『うちは警務隊』は、引き続き里の警戒を頼みたい。他の日向の者や、別の一族の者が狙われないという保証もないからね」 

 

 

 

 

 

 

 

「お前らの任務は、攫われた日向ネジ、ハナビの救出。並びに、行方不明となっている日向ヒアシ、ヒザシの捜索だ。ただし、救出任務を最優先に行うように。シカマルを指揮官に、四人一組(フォーマンセル)

 

 翌朝の火影邸。火影の執務室に呼び出されたのは、奈良シカマル、うずまきナルト、春野サクラ、犬塚キバの四名。

 

「そして本人の希望として、ヒナタを同行させる」

 

 ナルトのチャクラ感知、ヒナタの白眼と、キバの嗅覚による索敵、そして医療忍者としてサクラ。

 

「敵の戦力は未知数。マダラ級という危惧もある。交戦は可能な限り避け、必要な場合は、ナルトを主軸に、撤退戦を前提に行うように」 

 

私達(・・)は『戦力』ではなく、主に捜索係としての人選、というわけですね」

 

 ヒナタが言った。好戦的な傾向のあるキバへ、釘を刺すためであった。

 これは昨夜の会議にて、示し合わせていた会話内容である。

 

「そういうことだ」

 

 カカシは頷き、シカマルへと視線を向けた。

 

「シカマル。撤退は、常に選択肢に入れておけ。ナルトは火影であるオレより強いが……」

 

 カカシがナルトへと視線を向ける。

 ナルトは誇らしげに胸を張った。

 

「抜けたところがかなり多い」

 

 がくり、とナルトが体を傾ける。

 

「しっかり手綱を握っておけ」

 

「もちろんです」

 

「ちょっとォ!!」

 

 ナルトが異議あり、と声を荒げ、ヒナタは小さく噴き出した。

 

 叔父、父、従兄妹、妹―――親族が次々に消息不明となっているのだ。

 その心に掛かる不安、焦り、恐怖は如何ほどか。

 ナルトの変わらぬ気楽さに―――ヒナタの張り詰めていた心が、少しだけ、緩んだ。

 

 

 

 

 

「うっ……」

 

「目が覚めましたか? 『白眼の(きみ)』」

 

 頭を押さえ、酷い頭痛を堪えながら上体を起こしたネジは、霞む視界で周囲を見渡した。

 知らない部屋である。赤いレンガの壁に、薄暗い部屋。木材で作られた、木ノ葉風の実家とは違う様式だ。

 

 昨夜の記憶が無い。リーと梯子をして、香憐が混ざり―――そこから先の記憶が無かった。

 

「……? 服が……」

 

 ネジは自分が昨日来ていた衣服とは、異なる衣服を身に着けていることに気づいた。つなぎの様な、着脱が簡単なものだ。

 

「その服は……。その……。気にしないでください。必要な用の際にお邪魔してしまった私が悪いのです……」

 

「……?」

 

 ネジはようやく、自分に声を掛けて来ていたらしい女性へと視線を向けた。

 女性は瞳を閉じたまま、気まずげに顔を逸らしている。

 ネジはこの初対面の女性に、よそよそしくされる理由に心当たりが無く、小首を傾げた。そもそもこの女性が誰なのかも分からない。

 

 女性は瞳を閉じたまま、ネジに向き直った。

 整った輪郭に、煌びやかな銀髪。美しい女性だった。

 

「白眼の君」

 

「……?」

 

 恐らくは自身のことを指しているのだろう女の呼称に心当たりが無く、ネジはやはり小首を傾げた。

 頭はずっと、鈍い痛みを発している。

 

「結婚しましょう」

 

 ネジは頭がもっと痛くなった。

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