【劇場版】綱手の兄貴は転生者   作:ポルポル

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お年玉

LAST編のモチベが上がらないのと、別作は原作の情報更新が激しすぎてついていけないので休憩。やっぱり完結した原作でやらないとダメだね

構想がそこそこまとまったのでこっちから


異伝 イナルート
イナルート①


「身を固めろ」

 

「え゛っ?」

 

 中忍選抜試験から二年。

 近く、雲隠れの里の和平条約の締結が行われる予定の木ノ葉隠れの里。

 木ノ葉隠れの里上忍うちはカガミを班長とする四人一組(フォーマンセル)、あるいは、はたけサクモを班長とする三人一組(スリーマンセル)、『第六班』所属、ポジション後衛、中・遠距離担当。

 初代火影の孫にして、二代目火影の弟子。

 千手畳間、中忍、19歳。 

 

 扉間より唐突に放たれたその一言によって、畳間は雷にでも打たれたかのように一瞬痙攣し、硬直した。

 

 つい先ほどのことだ。

 二代目火影である扉間へ、第六班での任務完了の報告を終え解散の運びとなった。その際畳間は扉間より「お前は残れ」と名指しで引き留められた。

 露骨に表情を顰めた畳間に鋭い視線を突き刺してくる扉間に、畳間は僅かに身を竦ませて警戒心を露わに立ちすくんだ。

 畳間も成長し、中忍にして既に上忍級の実力は有しているが、相手はかつての戦国時代において頂点に君臨した一族の二番手であり、現代においては五大国最強の木ノ葉隠れの里の頂点に君臨する(しのび)である。戦えば赤子の手を捻る様な容易さで畳間は叩き潰されるだろうし、実際修業中はそうされている。

 また、木ノ葉隠れの里の№2と目される、畳間が兄貴分と慕う『猿の兄貴』こと猿飛ヒルゼンと、扉間の実力差も未だ大きい。これで扉間は既に還暦を迎えており、全盛期の力が失われて久しい、年相応に(・・・・)衰えた状態というのだから、畳間からすれば化け物としか言いようがない。

 

 厳しい修業の鬱憤もあり、いつか目に物を見せてやろうと日頃から考えている畳間は、こりもせず修業時には組手を扉間に申し出るのだが、最終的には「勝てる気がしねぇ……」と悔し涙と共に地面に横たわるばかりであった。

 

 尊敬していないことはないが、厳しすぎるしおっかない。はっきり言えば、苦手も苦手な相手。というのが、千手扉間に対する畳間の心象であった。

 

 ―――最近はべつになんもしてねぇだろ。なんだ……? こえぇ……。

 

 そんな扉間に呼び止められた畳間は心当たりなんてなくとも、悪戯が親にバレた子供のそれだった。

 

 畳間は、最近の自分の行いを思い返したが、やはり心当たりは無かった。 

 忍者養成施設の時代は、確かに公共施設を破壊したり、授業をサボって今は亡き祖父に会いに行ったりとしていた。自分が『里の問題児』と揶揄されていたことも、今更知らないわけでもない。

 確かにそう揶揄されるだけのことはして来ただろう。

 だが、『仲間を守る千の手に』という忍道を中忍試験で見据えてからのこの数年、畳間は千手の名、祖父の名に恥ずかしくないような忍にならんと努力して来た。

 

 ……確かに、修業に際しては細かな言いつけを守らなかったり、精神肉体共に死ぬほど追い込まれる修業に嫌気が差してサボろうとしたことはある。それも最近のことだ。

 

 ―――でもさァ……。その罰は受けただろ……。

 

 畳間が中忍になってから仕込まれている修業はもっぱら、肉体の基礎強化と、時空間忍術『飛雷神の術』の習得である。

 畳間は『飛雷神の術』の習得のために、この一年死に物狂いで、影分身による平行鍛錬すら利用して修業を続けていた。

 しかし畳間は時空間忍術にあまり適性が無かったのか、中々『修める』という域まで達することが出来ていないのが現状である。

 稀に成功することもあるが、実戦では到底使用できない練度。

 飛べない、発動しない、程度なら可愛いもので、誤作動によって見知らぬ場所へ飛ばされるということもあった。都度、扉間が畳間に付けてあるマーキングに飛んで回収してくれているが、それが無ければ千手直系の男児が行方不明になるという大事故が何度も起きているところだった。

 

 ゆえに畳間は扉間の見ているところ以外では飛雷神の術の使用が許されておらず、自主練が出来ないのだ。

 そして扉間が畳間へ直々に課す修業は、中忍昇格後に行われた一番最初の『飛雷神の術』である、崖に叩き落されたアレを遥かに超える鬼畜具合であった。

 封印術の解除や肉体強化も兼ねられると、鉄塊に縛り付けられたうえにチャクラを術で封じられて水の中に叩き落とされたこともある。

 時空間忍術の感覚を身に着けるためにと、チャクラが枯れるまでひたすら口寄せの術を強いられたこともある。なまじチャクラ量が多いがゆえに、日が昇って沈むまで、指先から血を滲ませながらひたすら口寄せの印を結んでは地面に手を叩きつけるという作業を、延々と繰り返すことを強要された。

 

 そして畳間は、それらの修業から逃げ出すことが出来ない。

 

 何故ならば、どこへ行こうがどこに隠れようが、扉間は畳間に刻んだ飛雷神の術のマーキングを目指して飛んでくるからだ。

 

 それでも―――畳間は扉間のことが嫌いではなかった。

 今の畳間がそれ(・・)を認めることは無いし、そしてそれに気づくのがもっと後のことであっても、畳間の中には確かに、師への敬愛が根付いていた。

 

 扉間は修業終わりには、草臥れて倒れている畳間を担ぎ、静かな小川に連れて行った。心身を安らがせるためだ。

 扉間は木ノ葉隠れの里の清流で捕れる川魚を焼き、畳間へと振る舞った。修業によって疲弊した畳間の体には、少し多めに塩を効かせた取れたての焼き魚がひどく美味しく感じるのだ。

 苛烈な修業中とは打って変わり、静かで穏やかな自然の中で質素な食事をとる時、畳間の心は癒された。ぶっちゃけ飴と鞭である。

 そして畳間が扉間を嫌いになれない最も大きな理由は―――肉体的・精神的にとんでもない追い込みをかけて来ても、決して畳間の心を傷つけることが無かったところにある。

 本人は自覚していないが、畳間は繊細で、脆い。扉間は冷厳だが、冷たいだけではない。畳間に必要なものが身を護る『力』であると同時に、その心を支える『愛』であることも当然理解している。

 

 里を担う時代の『火』。

 それを育てるには、ただ厳しければ良いわけではない。

 それを守るには、ただ優しければ良いわけでもない。

 褒めるは褒め、指摘するは指摘する。しかし、言葉で伝えて根付くものでもない。

 体を鍛え、心を育てる―――厳しくも愛されているのだと言う自覚。それを、扉間は畳間に与えんと態度を以て示している。

 

 ―――が。

 

 当然、畳間がそんなことに気づけるはずもない。在りえた未来において、畳間がそれに気づけたのは10年以上先のこと。

 

 今の畳間にとって扉間は、めちゃんこおっかない叔父さんだった。

 

 班員であるうちはアカリが、硬直している畳間がこれから辿るであろう末路を妄想し、にやりと笑みを浮かべ、小さく肩を震わせながら去り、親友のはたけサクモと先生であるうちはカガミは畳間の肩にぽんと手を置いて去った。

 

 部屋から出るとき、アカリはサクモに軽く頭を叩かれて、「あいた!」と小さく声を漏らしていたが、焦燥に苛まれる畳間がそれに気づくことは無かった。

 

 うちはアカリは中忍試験中に修羅場を越えて畳間との仲を深め、畳間のことを名前で呼ぶようになった。かと思えば、直後に畳間が中忍に昇進したことに不貞腐れ、呼び方が『千手』に戻り、今に至るまでその関係に進展はない。『千手の不幸は蜜の味』とする、未だ己が心に気づくこともできていない、このあまりに幼い少女は、未来のことなど知る由もなく、『その道』から転がり落ちた。

 

 そして固唾を呑んで扉間からの言葉を待っていた畳間に、しばらくの沈黙の後投げかけられた言葉が、それ(・・)だった。

 

「身を固めろ」

 

「えっ? ……えっ?」

 

 畳間はぎぎぎ、と錆びついた機械のような動きで扉間へと視線を向ける。

 

 じっとこちらを見ている扉間の表情はいつもと全く変わらぬ不愛想な顰め面で、その内心をうかがい知ることは出来ない。ただ分かるのは、先の発言がマジだということだけである。

 

「お?」

 

「何だその顔は……」

 

 畳間は、自分が今どんな表情をしているか自分では分からないが、妙ちくりんな顔をしているのだろう。

 扉間は口端を歪め、くっくっく、と小さく笑っている。

 ツボに入ったらしい。

 

「え? ……え?」

 

「なにを惚けてる。言葉通りだ」

 

「……」

 

 ―――身を固めろってのは、つまり結婚しろって事……だよな?

 

 すう、と息を吸い込んだ畳間は、何を言うべきか考えて、思ったことを口にした。

 

「あの、だれと?」

 

「山中の娘で良いだろう。お前も、憎からず思っていると見ていたが?」

 

「いや、そりゃ……。そうだけど。いきなり過ぎじゃ……。てか、おっちゃん……?」

 

「畳間。ワシらしかおらんとはいえ、公的な場だ。いいかげん、二代目様と呼べ。……そういうところだ」

 

 扉間が小さくため息を零す。

 

「あのー。オレ、まだ19なんだけど……」

 

「それがなんだ? 早いということはない」

 

 さすがは、さっさと結婚してせっせと子供を作っていた過酷な戦国時代を生き抜いてきた豪傑だ。価値観が違った。

 扉間は僅かに姿勢を崩すと、背もたれに背を預ける。

 

「そもそも、ワシは火影だ。千手の当主を兼任している現状は、好ましくない」

 

「それって、オレに結婚して当主を継げって言ってんの……? ……いや、父さんと母さんがいるだろ」

 

「アレは兄者の甘い部分を強く受け継いでいる」

 

「……つまり?」

 

「うちはに舐められる。千手とうちはのパワーバランスを崩すことは出来ん」

 

 やっぱそこか、と畳間は困ったように眉根を寄せた。

 

 しかし、そこだけでもない。 

 畳間は木遁を受け継いでおり、柱間の子はそうではない。千手として重要な点はそこだ。千手柱間というあまりに大きすぎる輝きは、扉間をしてようやく後を担えるほどのもの。誰が継いでも舐められる中、唯一千手の当代として貫目の劣らない忍が扉間で―――だからこそ、扉間は緩急材とは成りえなかった。これは木ノ葉隠れの里における『火影』にも当てはまることだが、千手柱間、千手扉間とあまりに強大な光が続いてしまった『地位』の跡目を継ぐとなれば、相応の箔がいる。

 火影に関しては、猿飛ヒルゼンを始め、扉間子飼いの者達が順調に育ってきているが……。

 

 ふさわしいか、ふさわしくないか。

 向いているか、向いていないか。

 

 どちらにせよ、畳間は千手一族の直系男児にして、長男。

 逃れることは出来ない。

 

 扉間としても不安しかないが、畳間が夭逝でもしない限り、千手の当主はいずれ畳間が継ぐことになる。それを変えられないのなら―――相応しいように育てるしかない。

 

 しかしこれまでのアプローチで畳間が相応に変化する様子はない。いや、忍者としては確かに成長したが、まだまだ甘い。19歳という年齢の割には成長している、という話ですらない。むしろ年齢の割にも甘い。

 

 扉間は、ワシらの若い頃は……という小言すら一切口にせず、ただ静かに先を見据え続ける。

 

 何が起こっても、里は守る。

 何があっても、若き火の意思を育て、守る。

 例えこの身が滅んでも。

 

 そんな壮絶な覚悟を、扉間は躊躇なく当たり前のこととして実行できる。しかしそんな素振りは日ごろ一切見せず。

 そして今も、甘ったれた畳間をいかにして育てるかと思案している扉間は、困ったように頭を掻いている畳間を、静かに見据えている。

 

「オレだって別に威厳とか、そういうのがあるわけじゃねぇと思うんだけど」

 

同期のうちは(アカリ)を下に置いている。今はそれで充分だ。そもそも、今すぐ当主になれと言う話ではない。身を固め、その未熟な精神性を研磨しろと言っている」

 

「……それって、子を持てば~みたいなやつ?」

 

「ああ」

 

「……あの、オレ19」

 

「今儲ければ、子が生まれる頃には20だ」

 

「……いやまあ、そう言われれば確かにそうだけどさァ」

 

「……畳間。貴様が煮え切らんことを責めることはせん」

 

「……? それってどういう……」

 

 畳間が煮え切らない理由。

 それは―――その心の内にある、もう一つの魂がゆえ。苛立ち、不安、怒り、恐怖、負い目。それらが複雑に混ざり合い、『幸福』への一歩を踏み出すことが出来ない。それが、畳間の枷だった。

 

 だが、扉間には関係ない。

 むしろ、身内の人生を虐げる要因がよりによって『アレ』であることにこそ苛立ちを覚える。

 畳間は悪くない。甘ったれで馬鹿なのは生来のものだとしても、情緒が豊かなのは悪いことではない。扉間が危惧している、『悪い意味で感情的になりやすい悪癖』は、畳間ではなく、『アレ』が起因するものだ。

 叩き潰すことに戸惑いはない。

 

 愛を失った時、失った愛の大きさに比例して悪に堕ちる、『呪い』。

 その対応はなかなか難しい。そもそも孤立しておくか、あるいは守り抜くか、失ってもなおそれ以上の愛を手に残せるか。

 

 『アレ』は不器用だ。失ったものにばかり目を向け、残ったものを視ようとしない。だからこそ賭けの部分もある、が。

 心に寄り添う術を持つ山中イナは、死にさえしなければ(・・・・・・・・・)、畳間に寄り添い、強く支え続けるだろう。

 というのが、扉間の考えである。

 

「ともかく、考えておけ。今は下がって良い」

 

「……え、でもさ」

 

「下がっていい」

 

 有無を言わせぬ扉間の圧に屈し、畳間は「なんなんだよ……」とぶー垂れながら、部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あとは若い者達だけで話せ」

 

「ええ、そうですね。火影様」

 

 木ノ葉隠れの里の料亭で、定型口を残して、扉間とイナの姉が部屋から去って行く。

 

 残されたのは、おめかしをしたイナと、畳間。

 淡い金髪を結い上げて、藤の花の飾りを付けたイナは、藤色の華やかな着物を纏っている。少し濃い目の紅を指し、瞬きをするたびに揺れる長いまつげ、少し切れ長の瞳をアイシャドウで彩ったイナの(かんばせ)は、畳間がこれまで見たどんな女性よりも、美しかった。戸惑いか、恥じらいか、伏し目がちに畳間を見るイナの頬は血色よく、白い肌に健康的な魅力を引き出している。

 

 同じく、紫色(・・)の着物を着た畳間は、中忍試験の際に負った頬の向こう傷を隠すこともなく、じっと食い入るようにイナを見つめていた。はっきり言って、畳間はイナに見惚れていた。

 

「……畳間。そんなに見ないでよ。恥ずかしいでしょ……」

 

「お、おう……。す、すみません……」

 

 いつもの気の強い雰囲気はなく、しおらしく、不躾な視線を向けて来る畳間の視線を咎めるイナに、畳間はたじたじだった。ギャップ萌え。畳間は打ちのめされた。

 

 ―――こ、こんなにきれいだったか……。イナは……。

 

 咎められても、視線を逸らすことが出来ない。吸い寄せられるように、畳間はイナの顔を見つめてしまう。

 ふるふると、イナのまつげが震えている。それが堪らなく愛らしかった。

 イナが伏し目がちに、少し視線を逸らす。前髪が揺れる。それも、愛おしく感じる。

 意識していた。扉間が結婚だ、子供だ、などと言うからだと、畳間は思う。早まる鼓動を抑えようと瞬きをする。

 

「あー、イナ……。その、急に悪かったな。おっちゃんがさ、オレに身を固めろって……。見合いまでセッティングするとは思ってなかったけど……。その、迷惑……だったよな?」

 

 畳間が恐る恐る、困ったように、イナに声を掛ける。

 そこに在るのは臆病な自尊心。嫌がられていたら傷つくからと、関係性が壊れることを恐れて踏み出せないヘタレの予防線。

 

 そんな畳間の心に気が付いたイナは―――次の瞬間、目が据わった。

 

「は?」

 

 小さく、威圧感の在るイナの一言。

 ごごご、と擬音が聞こえてきそうなほどに、顔を伏せたイナの体から圧が放たれる。

 

「……え? あの……? イナ、さん……?」 

 

「ようやく決心してくれたのかと思えば……ッ!!」

 

「あの……?」

 

「アンタねぇ!!」

 

 ばっと顔を上げたイナの眼は吊り上がっている。

 

「アタシがどんな思いでここに来たと思ってんの!! 火影様やお姉ちゃんの頼みでも!! こんなとこ!! 嫌なら来ないわよ!! それくらい分かりなさいよ!! どんだけの付き合いなのよアタシたち!! このヘタレ!!」

 

「ひゅっ」

 

 イナの唾が顔に飛んでくるほどの怒声と勢いでの叱責。

 畳間が面食らって息を呑んだ。

 

 はあはあと息を荒げ、肩を揺らすイナが畳間を睨みつける。

 

「アンタのデリカシーの無さに呆れてこのまま帰ってもいいし!! 『酷い』なんて言ってこの場で悲しんで泣いてもいいけど!! それじゃ、結局何も変わらないし……。もう、良いわ」

 

「……あ、イナ……。その、ごめん……オレ……」

 

「分かってるわよ。アタシ、アンタの心、一回見てるし。だから待とうと思ってたけど……もう良いわ」

 

「イナ、オレは……ッ!」

 

 イナは男前に垂れる前髪を指先で浚った。

 畳間は、言い知れぬ焦燥感と、このままでは何かを失ってしまうのではないかという迫りくる喪失感に苛まれ、何かを伝えなければと口を動かし、しかし言い淀む、

 

「言ったでしょ。分かってるから(・・・・・・・)

 

 畳間の心を、イナは山中一族に伝わる秘術で垣間見たことがある。だからこそ『待とう』と決意して、今に至る。優しくて子供っぽくて仲間思いで、そして臆病なこの人が、いつか一歩踏み出せるときを、イナは待つ―――つもりだった。

 

 だが、ここまでお膳立てされてお流れにしてしまえば、女が廃る。山中の家訓。藤の花の花言葉に反する行いだろう。

 

 だから、イナは言った。もう良いと。

 

「畳間。アタシ、アンタが好きよ。だから、ここに来たの」

 

「……っ」

 

 衝撃の展開に、畳間が息を呑む。てっきりへそを曲げられてお流れになって、少しばかり気まずい関係になって、日々を過ごすのだと思っていた体。

 イナは畳間の様子を見て、悪戯が成功した子供の様に朗らかな笑みを浮かべて、畳み掛ける。

 

「結婚しましょ、アタシ達。アタシがアンタの心を守るから、アンタはアタシを守ってね。これからずっと、一緒に生きていきましょう」

 

 自信。

 圧倒的自信。

 

 己の美に―――肉体的・精神的共に―――自負。

 今の時点では畳間を誰よりも愛しているのはこの私だという圧倒的な自信。そして畳間からも相応の心を向けられているのだという確信。

 かつて泣き虫だった女傑は、初恋を手に入れるために蕾を開き大輪を咲かせた。

 

 その圧倒的な強い自信の輝きは、今の畳間には無いもので―――畳間は、その輝きから目を逸らせない。畳間の心は魅せられて、凄まじい強さで引き寄せられた。

 

 ―――まるで、太陽だ。

 

 欲しい、と思った。

 この輝きを。

 この輝きを放つ『花』を―――手に入れたいと思った。

 傍に置きたいと、そう強く思った。

 これから先の人生において、隣にあるこの輝きに照らされ続ける日々を想起し、そして―――畳間の眼は焼かれた。

 

「……」

 

 呆然、唖然。まぬけにも口を開いて停止する畳間に、イナは言う。

 

「それで? 返事は?」

 

「……あ、はい。よろしくお願いします……」

 

「っ!! っしゃあああああああああ!! 取ったどぉおおおおおおおおお!!」

 

 イナが勢いよく立ち上がり、ガッツポーズを取って雄たけびを上げた。

 

 畳間が呆気に取られてイナを見上げる。

 イナは少し恥ずかし気にこほんと咳払いをして、恭しくその場に正座をすると、美しい所作で三つ指をついて、言った。

 

「不束者ですが、よろしくお願いします」

 

「あ、はい。よろしくお願いします……」

 

 さらりと流れるイナの髪。覗くうなじに、畳間は小さく会釈した。

 

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