アイリス米が炊き上がる時   作:つヴぁるnet

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第2話

 

〜 畑まみれなところ 〜

 

 

どうやら俺は大当たりを引いたらしい。

 

何千個と売られている商品の中で美少女の形をしたナビが入っていた。

 

普通なら量産されたプログラム君が入っているが、目の前で眼をパチクリとさせているようなナビは基本存在しない。

 

もし電子機器に高性能なナビを埋め込むなら、外部からナビが入っているメモリーカードを投入して付属させるなどの手段を取って新たなナビを搭載するしかない。

 

しかしこの炊飯器には最初からそれ以上のナビが搭載されていたようだ。しかも可愛らしいナビ。しかも便利に受け答えできるほど高性能である。

 

ああ!これもお米を愛する故に引き寄せた強運なんだろうか!!

やったぜ!!

 

だが、しかし。

 

 

 

「炊飯器が何かもわからないだって?」

 

『え…あ、あの…お米のための機械だとわかりますが…それ以上は…………はい』

 

 

 

ふむ、なるほど。

 

お米のイロハも知らないと…

 

ふーん………だとすると、つまり??

 

 

 

ああ!!

そういうことか!!

 

 

 

「なるほど!恐らく君はオペレーターと共に美味しいご飯の炊き方をゼロから学ぶことで最高のお米を炊きあげようとする()()()()()()なんだな!!」

 

『は、はい…?』

 

「おお!そうなんだな!それは良いことだ!うんうん!そうでないと面白くない!」

 

『え?』

 

「それもそうか。何せ最初からお米の全てを知っている状態でお米を完成させてしまっては炊く楽しみが無くなってしまう。そう言う意味でゼロからスタートすることによって、オペレーターと共にこの炊飯器でお米を炊こうとすると言うことか!!なるほど!たしかによく考えてあるなこれは…」

 

『あ、あの…?』

 

 

 

美味しいご飯を提供する炊飯器。

 

たしかに俺はこの炊飯器のレビューの評価が高いから購入した。 美味しいご飯を食べたくて。

 

でも炊飯器には炊き方がある。

 

例えばお米のとぎ加減や水の量。

またダシの素の選び方。

あと温度なども関わってくる。

追求すれば案外細かいのだ。

 

それをこの美少女ナビがオペレーターと一緒に美味しいお米の炊き方を学び、共にお米の高みを目指していくと言うことなんだろう。

 

ッー!!

 

なんて面白いんだ。それを証拠にこの炊飯器に付属されていた美少女ナビはお米の存在もわからないと来た。

 

ある程度の知識はプログラミングされてると思ったがこのナビは何もかもゼロからスタートしている。恐らくこの炊飯器のナビだけはそうなのかもしれない。

 

だとしたらやることはひとつだ!

こんなモニターに居座っても仕方ない!!

 

早速俺は携帯端末を倉庫から引っ張り出して、美少女ナビをその携帯端末に入れた。

 

 

「早速で悪いけど俺と外に出るぞ!」

 

『はぇ?』

 

「君にはまず我が家の庭を見てもらいたい!」

 

『ええと…』

 

「もちろんお米だけじゃないぞ?それ以外にもでかい畑と農園がある。まず農園には俺の親二人と爺さん婆さんが担当している。そして残った俺は雇い人を使って米畑と茶畑を担当している。そして収穫したそのお米や野菜などはお客さんに売って稼ぎにする。評判は良いんだぜ」

 

『え?』

 

「何せ才葉(さいば)学園で非常勤講師として日本料理研究も兼ねてるパクチー先輩が授業で野菜を使ってくれてな、本人からも太鼓判を押してくれた」

 

『パ、パクチー先輩??あ、あの…なにが、なんだか…』

 

「とりあえず外に行くぞ!」

 

『ふぇ!?!』

 

 

 

それにしては大人しめのナビだな。

 

まあそんな設定なのか?

 

けれど我が家の庭を見たら驚くだろうな。

 

楽しみである。

 

屋根の上に登った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は彼に色々と誤解を受けているようだ。

 

まずこの炊飯器のモニターに流れ込んだのはたまたまであり、当然ながら私は炊飯器のナビではない。 けれど彼はそうだと思い込んでるようだ。

 

しかしだからと言って私が彼にアメロッパにて軍事用として作られたナビだと言ってしまうのも気が引けてしまう。なんせ私は戦うために生まれた軍のナビだ。

 

一般家庭に生まれた平和な日常で生きる彼にこの事実を伝えるのは危険極まりない。

 

しかもアメロッパから逃げている私をココで匿っていると認知されてしまったら、彼が軍に捕まる可能性があるからだ。

 

真実にリスクはある。

 

だから私はここを出なければならない。

 

ここにいてはいけない存在だ。

 

 

でも…

 

ここを出てしまって私は何をするのだろう?

 

またネット世界を彷徨い、当てもなくふらふらと野良ナビとして生きる?

 

そんなことしてワイリーに見つかったらどうしよう?

 

仮に捕まってしまい、また自我の無い無慈悲な制御システムの一部として改良されて、それが異常だと気づかずに使われてしまう未来…

 

っ…!

 

いやだ…

 

もうあんな心の無い生き物で在りたくない。

 

私はあの処遇が嫌だから逃げ出したんだ。

 

だから見つかりたくない。

 

それなら…

 

 

 

「早速で悪いけど俺と外に出るぞ!」

 

『はぇ?』

 

 

 

いまなんと?

 

 

「君にはまず我が家の庭を見てもらいたい!」

 

 

先ほどから聞けば、お米、お米、お米。

 

どれだけお米が好きなんだろう?

 

その上、テンションが上がってる彼のマシンガントークについていけず、私はまともな返事が出来ないでいた。

 

軍のナビだけあって私は情報処理が得意なはずなのに彼の情報量に対応できないでいた。

 

そして純粋な彼の申し出に対して断ることも出来ない私はその勢いに流されてしまい、気付いた時には彼の端末に潜り込んでされるがままにお庭の案内を受ける。

 

そして屋根の上に登った彼は端末を掲げ。

 

 

「見ろよ、すごいだろ?」

 

 

丘の上に作られた家。

 

そしてその屋根から見渡す。

 

 

 

『ぁ……』

 

 

 

綺麗な空と大きな麦畑を見下ろす。

 

一面は緑の絨毯(じゅうたん)かと思うような綺麗な緑が階段状に広がっている。

 

 

 

「いま君が眺めている茶畑は気に入ったかい?しかし本命はこっちの米畑だ!」

 

『っ、すごい…』

 

 

大きな大きな茶色の畑が広がっている。

 

ネット世界で見る事なんでできないだろう。

 

これが、現実世界の自然達…

 

 

「一応ここで自己紹介しておこう!俺の名前は大山(おおやま)タケル!大山家6代目当主となる農家の男だ!三日前に二十歳となって引き継いだこの座だが、まあ俺の身分がどうだろうと関係ない。この畑を耕し続けることで沢山の人にこの美味しさを伝える。そんな仕事をしている。恐らくこの命が尽きるまでな」

 

 

彼が被る麦わら帽子の下には濁りなき満面の笑みを持って夢を告げる。本当にそうしたいと言う気持ちであふれていた。

 

その姿を見たわたしは、何かが心に芽生える。

 

これは………憧れ?

 

私は、彼に憧れを感じたの??

 

ただの電子機器にいる、ナビの私が??

 

 

「そして見よ!反対側は麦畑!今は8月下旬で出穂の時期だ。もうすぐ一斉に籾が開いて辺り一面が黄緑色になるぞ。それらが夕日に照らされるこの畑はとても綺麗に輝く。いつまで見ていても飽きないんだ。俺はその瞬間がいつまでも好きだ」

 

『え? …あ、はい』

 

「そして9月になれば茶色に染まり、秋の風物詩を連想させる色を魅せてくれる。もちろんその瞬間も好きだな!」

 

 

楽しそうに、嬉しそうに、語る彼に私は静かに頷き、聞き入っていた。

 

荒んでいた心が、少しずつ和らぐような気がして、ここは心地よかった。

 

 

 

「ふぅ、落ち着いた。悪いな、作物のこと考えるといつもこうなってしまう。あ、そういえば君の名前は?」

 

『え? あ、名前……ですか』

 

「そう、名前。これからお米を炊くことがこれまで以上に楽しくなる時期だ。それを共有する事になる君の名前を知りたい」

 

『……』

 

 

 

言って良いのだろうか?

 

教えて良いのだろうか?

 

でもここを離れる気持ちは何故か無くなっている。いまはそれで良いと甘んじてしまう。

 

だからそうなると彼に名前を知ってもらわないと不便だとおもった。

 

そこまで考えて、私は畑を見ながら言った。

 

 

 

『わたしは、アイリスと、言います』

 

「アイリスか。うん!とても良い名前だな!」

 

『っ…!』

 

「君らしい感じだ」

 

 

 

なんだろう。

 

わたしは嬉しいと思えた。

 

この名前はただのプログラムネームであると思っていた。

 

恐れられる名前だと受け止めていた。

 

なのに嬉しい気持ちで満たされる。

 

 

そうか…

 

 

わたしは軍事用ナビの"アイリス"(電子機器制御システム)では無く…

 

ただの普通のナビと見てくれている…

 

それが、嬉しいんだ。

 

 

 

『あの、タケルさん』

 

「?」

 

『その、ええと、い、一緒に…』

 

「一緒に?」

 

『お、美味しいお米を炊きましょう…ね?』

 

「ああ、もちろんだ!」

 

 

 

畑からお米が芽生えるようにわたしにも何かが芽生える。

 

それは心から嬉しいと満たされ始める、ひとつの芽なんだろう。

 

 

 

つづく

 





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