アイリス米が炊き上がる時   作:つヴぁるnet

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第3話

 

素晴らしい…

素晴らしすぎる。

 

Nv(ナビ).ゼロから始める炊飯器生活…… なんてタイトルが出来上がりそうな炊飯器のナビであるアイリスの成長は流石といったところだ。

 

なにより最新の技術にて作られた炊飯器に付属するナビ相応の成長っぷりにご飯が進む。これはもうパクパクですわ。

 

 

さて、あれから2週間が経過した。本当に最初の彼女は分からない事だらけだった。しかし今では立派なご飯マイスターの道へと歩み、毎日美味しいご飯が炊きあがる。炊かれる米たちも大喜びだ

 

さて、最近そんな彼女には炊き込みご飯のジャンルも挑戦してもらっている。

 

どの炊き方が一番良いのか?

 

おこわともち米の分量を変えてみたり、具材のチョイスも変えてみたりと、色々と試しながらも楽しんでいる。

 

因みにお米は基本的に『田んぼ』で作るものだが大山家は『陸稲』で作っている。なのでお米に対して畑と言ってるのはそう言う事。

 

しかし普通の畑よりも管理が大変であり、油断するとすぐに腐り果てる。

 

ただし栄養の調整が可能である程度は味を変えることができるところが利点。甘味のある米も作れたり、歯応えのあるお米を作れたり、試行錯誤楽しいため俺は嫌いではない。

 

そもそもこのご時世ではネット環境が捗っているためシステムの力も借りれば陸稲で育てるお米達もうまく管理できる。大学を卒業してからここ数年そうしてきた。研究の成果として順調に上手くいっているところである。

 

 

『タケルさん、あと完成まで15分です』

 

「では前回の反省を活かして今回は炊き上がりの7分前に釜の熱を増やそう。熱量の段階はとりあえず5で良い。その代わり焼く部分は底の部分だけで頼むよ?」

 

『わかりました』

 

「頼むぞ………ふ、ふふ!ふへへへひひ!」

 

『タケルさん、お顔が崩れてます』

 

「ふへ…お!?これは失礼……ふへ、じゅるる」

 

 

随分とはしたないテンションだ。落ち着け。

 

いや、でも仕方ないじゃないか。

 

炊き込みご飯の醍醐味の一つとして"お焦げ"が食いたい、そんな気持ちで沢山。

 

さて、うまくいくかな?

 

 

 

『………あ、炊けました、完成です』

 

「よし!実食と行こう!」

 

 

いつもなら20分は保温で放置するが今回はすぐに蓋を開けて中身を確認する。しゃもじを掴み炊飯器の中身を掘り起こす。良い香りだ。

 

モニターからもアイリスが覗き込む。デフォルトとしてやや無表情なんだけど、でも真剣な眼差しで取り組んでいることは知っている。

 

彼女も炊飯器の成長型ナビ密かに楽しさを得ているんだろう。

 

うんうん、それは良い事だ。

 

お米にゴールは無いからな!

 

 

「むむ、少し焼き過ぎた…か?」

 

『え?ぁぁ、す、すみません…』

 

 

真面目だなこの子は。でもそれだけ熱心にやってくれたと思えば俺は嬉しい限りだ。

 

 

「いやいや、謝ることはない。側面は少しばかしやっちゃったけど、そのかわり中の方はとてもいい感じだ。全体的なモチモチ感は減ったがこの硬さも乙なもんだよ。お吸い物の中に放り込んだりと食べ方はさまざまだからな!問題はない!」

 

「あ、はい」

 

「とりあえずお疲れ様だ、アイリス」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

 

ただのお焦げと、美味しいお焦げは違う。

 

俺は後者の方を目指している。

 

何せまもなく秋の季節に入る。

 

だから炊き込みご飯も全面的に美味しいものを完成させて秋の風物詩を家族に振る舞いたい。

 

親たちが育てた野菜。

 

俺の育てたお米。

 

これらを合わせて今年もまた一段と美味しい炊き込みご飯を味わいたい。

 

絶対にアイリスと完成させてやる。

 

 

 

「とりあえずデータを見せて。再確認したい」

 

『はい、こちらが今回のデータです』

 

「ふむふむ…… やはり終盤の微調整に難ありだな。序盤と中盤はクリアしたけど、中の美味しさを保持しながら側面に美味しいお焦げを作るのは難しいな。でも今回の試みで不可能じゃないのは分かった!必ず的確なやり方があるはずだ。ッ〜!やばい!もう完成した時が楽しみになってきたぞ!オヒョぉぉおお!!」

 

『お、落ち着いてください、タケルさん』

 

「おっと、すまない」

 

『大丈夫です。でも楽しみです、私も』

 

「!!、ああ、そうだな」

 

 

悔しい。

 

悔しいなぁ。

 

彼女はナビだから食を必要としない。

 

だから味わってほしいこの想いは届かない。

 

それだけが悔しくてたまらない。

 

 

「よし、それじゃ俺は夜ご飯にする。アイリスはクールダウンしてて」

 

『わかりました。 暫し失礼します』

 

 

 

そう言って彼女のモニターはお辞儀すると真っ黒な画面に戻る。

 

 

「母さま〜、父さま〜、爺さん、婆さん、ご飯出来だぞー」

 

 

 

俺は家族を集めて夜ご飯にする。

 

新しく買った炊飯器の出来は好評だ。

 

雇い人からもグッドと声をもらっている。

 

なので順調と言えるだろう。

 

しかし明日の午後から大雨で仕事ができない。

 

なので早めに大雨の対策を行って、仕事に手をつけれない午後は畑のことを忘れて久しぶりにゴロゴロするとしよう。

 

 

しかし……ナビ、か。

 

万が一を考えて用意しておくべきか?

 

しかし彼女はただの炊飯器のナビ。

 

争いごとには向かないだろう。

 

けれど、いざと言う時のために彼女の存在が必要かもしれない。準備だけしておくか。

 

何も無いことが一番だけど……ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしは大山タケルさんの炊飯器ナビとなって早くも2週間が経過した。

 

それまでいろんなことを知った。

 

まず彼の作るお米は陸稲(りくとう)であり、よく見られる水稲(すいとう)ではありませんでした。

 

そのため『田んぼ』では無く、彼は『畑』と分類してました。

 

昔は陸稲で作るお米の種類は"もち米"を中心としてましたが、彼が手がけるお米はもち米ではなく水稲で作るような"白米"でした。

 

ネット社会が大いに捗り、機械技術が常に進歩してる世界。その技術を活かして陸稲の畑でも水稲のようなお米を耕せるようになった、そう楽しそうに喋っていました。

 

けれど彼は機械頼りでお米を育てるのではなく自分で畑を見回り、余計な雑草を刈りとり、稲の病気を確認する。たとえ機械技術が発展しても人の手でしか出来ないことは自身でやらなければならないと語っていました。だかそれはやり甲斐な繋がり、彼はその情熱を耕し続けている。その姿をわたしは何度も腕に巻かれている彼の端末の中で見せてもらいました。

 

その熱意と興奮は尽きることない。

 

そんな彼のためにわたしは炊飯器のナビとお手伝いを続けてます。

 

わたしの大役。それは炊飯器。

 

ただ米を炊くのでは無い。

 

彼が誰よりも自分自身が納得するお米を炊きたいために購入した炊飯器。その炊飯器でお米を炊くのが私の一番の役目です。

 

とっても大事なお仕事。

 

毎日毎日お米を炊くたびにデータを集めてお米の炊き具合を確認する。

 

調整次第では望んだ炊き方を選べるんだと心躍らせて彼は笑って喜ぶ。

 

笑うことを知らないわたし。

彼に釣られて笑うことができない。

 

それが締め付けられる。

どうしたらもっと彼のように喜べる?

 

彼の気持ちは伝わる。それが心地いいと思っている。わたしは嬉しい。嬉しいです。

 

でもこの体にないメモリー。

 

彼の感情を欲する。

 

そして穏やかになれる。

 

悲しさは、今はない。

 

だからそんな彼の元に転がり込めれてわたしはホッとしている。

 

いままでの私は危険な生き物。理不尽な指示の元で世界を脅かすマシーン。そんなことしか出来なかったこの体はプラグインした炊飯器に吸い込まれたことで存在意義が変わった。だから今は違う。世界のためじゃない。

 

畑に情熱を燃やすただ一人の青年のためにわたしは知らないことに挑戦する。

 

それも"お米"のために。

 

育まれる恵のために。

 

なんとも不思議なことだ。軍事規模のナビが今となってはどこにでもあるごく一般家庭の中で生きている。ネットを壊して恐怖に陥れるためのナビがお米を通して人々に喜びを与えるナビになろうとする。

 

わたしにとってそれはとても輝かしい。

 

だってこんなにも生きている。

 

私は生きている。

 

 

 

『あの、タケルさん』

 

「んー?どうした?」

 

 

 

今日は大雨。

 

外でお仕事はできない。

 

そのかわり倉庫で道具整理を行っていた。

 

そんな私は携帯端末の中。

 

作業台の角で彼を見ている。

 

黙々と手を動かす彼。そして今日は何もできない私は少しだけ心細さを覚える。

 

覚えてしまった心細さだ。

 

だから自然と彼に声をかけてしまった。

 

 

『いえ、その…呼んでみただけです。ごめんなさい』

 

「?……そうか」

 

 

彼の手を余計に止めてしまった。

 

何もない……けれど、呼んでみたくなった。

 

こんな風に誰かのナビとして存在できる自分を再確認するように、わたしは彼に縋る。

 

そして失礼なことをしてしまったのかもしれない。

 

 

『ごめんなさい、何にも無くて… その、ご勝手に、呼んでしまって…』

 

「…………」

 

 

 

怒らせたかな。

 

怒られたかも。

 

ごめんなさい。

 

ごめんなさい。

 

タケルさん。

 

わたしは…

 

 

 

「アイリス」

 

『っ……は、はい?』

 

 

 

彼の声におずおずと返して…

 

 

 

「なんでもない。ただ少し呼んでみただけだ」

 

『!』

 

 

 

道具を手入れしながら、ニヤニヤ、ケラケラと微笑ましそうに笑う。

 

彼は怒るどころか些細な仕返しとしてわたしの名を呼んだだけ。

 

 

『……ッ〜』

 

 

でもその些細な仕返しはわたしにとって暖かいもので、それはもっと知りたいと思った。

 

心の奥に収めたいとも思える。

 

たとえ大容量にメモリーを消費する必要があったとしても別に構わない。この温かみをいつまでもメモリーに刻んでいたい。そう思えた。

 

雨だからかな?

 

少し悲観的なのは。

 

 

 

『あ、あの、タケルさん…』

 

「どうした、アイリス」

 

 

 

ナビとして今は何もない時間。

 

でもまだ彼とこうしてお側で声を聞いて、声をかけれるなら。

 

そう淡き願いが端末の中で渦巻く。

 

ほんの少しだけでもいい。

 

この時間は一秒でも長く続いてほしい。

 

今だけは…

 

 

『いえ、なんでもありません』

 

「そうか」

 

 

 

彼の鼓動と作業の音。

 

そして雨の音はとても気持ちが良かった。

 

 

 

 

 

つづく

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