アイリス米が炊き上がる時   作:つヴぁるnet

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第5話

 

〜 畑まみれ 〜

 

 

 

炊飯器ナビのアイリスが白米家に来て2ヶ月が経過した。変わらず炊飯器のナビとしてお米を炊いては試行錯誤する毎日。

 

彼女のおかげで美味しいお米が炊ける楽しみがあるので日々の農業に力が湧き上がる。

 

ちなみに炊き込みご飯を作るときはアイリスも気合が入っているのかスラッシュクロスの割烹着の姿になって『むむむ!ふぬぬ!』と炊飯器のナビにしか分からない頑張りをしてくれてめちゃくちゃ健気だ。とても可愛い。

 

あと家族は既にアイリスが炊いてくれる米に胃袋を掴まれた。俺も掴まれている。

 

さて、そんな成長記録も大事だが、いまは秋の季節であり農家として大事な季節だ。

 

ここまでアクシデントなく今年も豊作を望みたいところだが…… しかし、事件は起きる。

 

この世界がインターネット社会になった故か白米家に突如ハプニングが発生した。

 

 

端末が騒がしい。

 

俺はボタンを押して応答した。

 

 

 

『タケル! 早くビニールハウスに来てくれ!』

 

「母さん!? どうしたんだ突然?」

 

『ビニールハウスが凄い熱に満たされているのよ!制御が効かないの!!』

 

「なっ!?も、もしかしてウィルスか!?ウィルスバスターは!?あれ結構強かったろ!?」

 

『それよりも強いウィルスが入ったの!迎撃に向かわせたナビたちも倒されたわ!お陰でビニールハウスの温度制御装置を狂わしてえらいことになってるの!ああ!ビニールハウスで育てた野菜達が!!助けてタケル!!』

 

「ッ、わかった!あとビニールを裂いて熱を逃がして!それで排熱して保たせるんだ!」

 

『いまやってるわ! 急いで!!』

 

 

母の声からしてかなりやばい状況なのを理解した。

 

俺は学生時代によく使っていたバトルチップを棚から取り出す。

 

しかし……手が止まる。

 

 

「…」

 

 

そこそこ豊富な種類のバトルチップを持っているが、そのバトルチップを発動させてくれる戦闘タイプの依り代(ナビ)が居ない。

 

父さんと母さんのナビも戦闘向きでは無いため発生したウィルスに容易く撃退されて戦えないらしい。

 

そして俺にも戦えるナビは元からいない。

 

ほとんどウイルスバスターに任せていたから。

 

しかしそれ以上が現れたようだ。こうなると自分の分身としてネット世界で戦ってくれるナビを使わなければウイルスの撃退は不可能に近い状態だ。

 

それでもなんとかウイルスバスティングを行って少しでも被害を留める必要がある。

 

それを再度考えるとバンブーランスやデスマッチなど、依り代(ナビ)に頼らずとも発動できるバトルチップでなんとかするしかない。

 

それらに手を伸ばそうとした時だ。

 

 

 

『タケルさん、どうかしましたか?』

 

 

お役目が無い時はだいたい炊飯器の電脳かノートパソコンの中で休んでいるアイリス。

 

しかし俺の焦り具合を見てアイリスは心配な眼差しを送りながら端末に飛んで来たようだ。

 

 

「アイリスか!いまからビニールハウスまでウィルスバスティングを行う!危ないから君はここにいてくれ!」

 

『ウイルス…!?』

 

 

バトルチップを選んでる場合じゃない。

 

会話をそこそこに俺は全てのバトルチップを手に取ってビニールハウスまで向かった。

 

自転車に跨り、坂道を勢いよく下る。

 

母たちがいるビニールハウスはそこまで遠く無いため数分で到着したが…

 

 

 

「なっ…!!?」

 

 

 

ビニールハウスは熱気により中が見えない。

 

くっ、中の野菜は終わったな……くそっ。

 

特にイチゴの打撃がデカすぎる……!

 

 

「母さん!父さん!」

 

 

自転車から飛び降りる。

 

どうやら父母の2人に怪我は無い。

 

あと先に駆けつけた爺さんと婆さんも怪我は無い。それはよかった。

 

しかしビニールハウスはどんどん熱が溜まってえらいことになっている。

 

母曰くビニールの壁を裂いて熱気を逃がそうとしたが溜まった熱気に吹き付けられた業者が火傷を負った。

 

父の指示で近寄る事が禁じられた。

 

 

 

「っ!大山家6代目当主として守らないと!」

 

 

 

父と母に従業員の避難指示を優先的に行うように告げる。

 

そして俺はビニールハウスの温度制御装置まで駆け寄る。プラグインできる距離まで近づこうとするが、熱が吹き上げる。

 

ッ、熱い!?

 

親たちは危ないから近寄るなと叫ぶ。

 

だがこの中でウィルスの撃退技術を持つのは大山家で俺くらいだ。

 

ここで俺がやらなければビニールハウスはダメになる。

 

いや、もうこの中の野菜達はダメだろう。

 

だがまだ無事なビニールハウスにも二次災害が訪れることを考えて止めなければならない。

 

それは野菜だけでは無く人も危ない。

なんなら火事だってあり得るから。

 

 

 

「プラグイン!」

 

 

ビニールハウスから伝わる熱に耐えて俺は端末の電波をビニールハウスの電脳に投げ入れた。

 

そして端末の中を通してビニールハウスの電脳を画面に移す。

 

見たことあるウィルスが数体。

しかし…… こんな()だったか??

 

何より見た目にインパクトがあるとんでもないウィルスがいた。

 

 

 

「ガルーはまだわかる。だがツボの中に燃えたドラゴン?なんだよそれ…」

 

 

ウィルスはよく新種が現れる。

 

そのため新種に対応仕切れないウィルスバスターは良くある話だ。

 

そしてこのビニールハウスに搭載してるウィルスバスターは今年の一月で新たにアップデートしたものだ。比較的最新のはず。

 

しかし新種のウィルスに突破されてウィルスバスターが対応できずに機能が低下して、昔から存在しているガルー系すらも通してしまったらしい。お陰で中身は大混戦。プログラム君達も隅の方に逃げ惑っている。

 

しかしこのガルー、変だな。

体が薄いオレンジ色をしている。

 

見た事が色だ。

普通は青色のはずだが…

 

いや、まさか、もしかして…

 

 

「SP判定のウィルスかコイツ!?」

 

 

稀に存在するSPレベルのウィルス。

 

純粋に力が増した凶悪なウィルス。

 

それは俺たち人間からすると脅威でしかない。

 

 

 

「持ってきたバトルチップだけで撃退できるのか…?大丈夫なのか…?」

 

 

 

依り代(ナビ)を必要としなくても使う事ができるバトルチップは『バンブーランス』や『とっぷう』と言ったもの。

 

他にも『デスマッチ』や『ステルスマイン』など設置系はこちらで操作できる。

 

弱いウイルスはだいたいこれでなんとか凌ぐことはできる。

 

設置した『とっぷう』でウイルスを奥に推し退いてからまとめて『バンブーランス』で狩る戦法は結構使える手段だ。俺もメットール程度ならそれで撃退した経験はある。

 

だがそれ以上に強いウイルスは話が違う。

 

ウイルスはタフなタイプが多い。

 

もし依り代(ナビ)がいるのならソード系やバスター系などを装備させて高火力でウイルスを葬ることごできる。動きの早い敵も高耐久な敵もそれでなら確実だ。

 

しかし俺の手元には戦えるナビがいない…

 

その上今回現れたウイルスは『バンブーランス』なんかでは撃退できそうにない。

 

ガルーのSP。あと壺に入った燃えるドラゴン。

 

俺からしたら未知のウィルス。

 

『デスマッチ』を使って動きを制限しても意味がないかもしれない。焼け石に水。

 

ネットポリスが来てくれるまでは時間稼ぎにはなるかもしれないが被害の元凶をデリートしなくては問題は解決しない。

 

さて、どうする?

 

どうするべきだ??

 

 

「………」

 

 

 

手出しができない。

 

ビニールハウスに熱だけが増していく。

 

俺一人では撃退は絶望的だろう。

 

それならグリーンタウンにいるパクチーとスラッシュマンならどうだ?

今日は講習会でいるはずだ。

 

俺はスラッシュマンのオペレートは学生時代にパクチー姉貴から認可されているし、学園を卒業した今でもその認可は続いている。

 

しかし今からグリーンタウンに向かってここまでスラッシュマンを飛ばすのは…

 

時間がかかる。

 

無理だ。そんな事する暇があるなら俺は人を逃すことに専念するべきだ。

 

いつか現れるネットポリスにこの場を任せる事が賢明な判断だろう。

 

 

__つまりデリートはできないっ!

 

 

ならせめて時間稼ぎとして『とっぷう』と『デスマッチ』や『ブラインド』で少しでもこの被害を抑えるしか…!

 

 

 

 

 

『____タケル、さん』

 

 

 

 

この無力さに歯を食いしばっていると俺は聞き慣れた声を拾った。

 

腕の端末を見る。

 

そこには……彼女がいた。

 

 

 

「アイリス!? なぜ来たんだ!!」

 

『ごめんなさい。でもタケルさんが心配で…』

 

「この端末はいまプラグインしてそこにも危険が伴う!ここは危ないから去るんだ!」

 

『いえ、タケルさん。私があのウィルスを倒します』

 

「な、何を言う!?お前は炊飯器のナビで戦闘用のナビじゃないだろ!?たしかに君は凡ゆるモノの吸収力が高いことは知っている。高性能なのもわかっている。HPメモリーの解放と同時にクロスシステムもその体に備わった。だが対ウィルスは話が違う!退くんだ!」

 

私は炊飯器のナビではありません

 

 

 

淡々と告げられた。

 

その言葉はあまりにも残酷だ。

 

 

 

『ごめんなさい。私は炊飯器に搭載されたプログラム用のナビではありません。私はたまたまそこにいただけで、アイリスはそうではありません…』

 

 

 

無慈悲な事実。

 

しかし予感していた現実。

 

彼女は淡々と告げる。

 

 

 

『戦えます。アイリスは戦えるナビです』

 

 

 

俺の考えは間違いでは無かった。

 

もしかしたら、があった。

 

そしてパクチー姉貴の言った通りだ。

 

炊飯器のナビ程度には収まらない存在。

 

 

 

『タケルさん。これは私の勝手な考えです。身勝手な縋りから現れた愚かな気持ち。けれど今だけでも貴方に言いたい。今回だけで構いません。あなたに言わせてください』

 

 

 

物憂げな表情から引き出される何か覚悟を決めたような彼女の顔。

 

俺だけがわかる震えているような声。

 

でも彼女は力強い姿勢でウイルスを見据える。

 

その後ろ姿は___戦うナビ。

 

そんな彼女は言い放った。

 

 

 

『私は!()()()()()()()()です…!!』

 

「!!」

 

『だから私をオペレートしてあのウィルスを倒してください!私はあなたのナビ、貴方のためならこの力は怖くない!私はウィルスと戦えます!』

 

 

 

彼女は一体何を抱えているのだろうか。

 

何が恐れを持っているのか?

戦える力が怖いのか?

 

戦えてしまえる自分が嫌なのか?

 

わからないところはある。

 

でも彼女は言った。

 

俺のためになら__戦えると。

 

 

 

「ああ、わかった!君が戦えると言うなら俺はお前を信じる!信じて頼らせてもらう!だから頼む、俺はこの農場を守りたい!大山家を守りたい!だから俺のナビになってくれ!アイリス!!!」

 

『っ……はい!!』

 

 

 

本当は嫌なんだろう。

こんな事あまりしたくないのだろう。

なんとなくだがそれはわかる。

もともと荒事は好きそうではない。

そんな感じを持つ彼女だ。

 

本当はちゃんとした理由があってウィルスとの対立を嫌がるのだろう。

 

でもこの場所までやってきてくれた。

それを、俺のナビになってくれるために!

 

 

「さあ!ナビを使った久しぶりのネットバトルだ!こうなったらSPだろうと怖くはねぇぞ!」

 

 

 

学生時代は俺にはナビがいなかった。

 

なぜならナビを必要とせずとも俺は自分の力で色々とこなしてきたから。

 

それに俺の住んでいた教育場所はナビを必需とするところでも無かったから。

才葉学園でも学校から配布された適当なナビを借りるだけ。

 

他に使ってきてもスラッシュマンや親たちのナビ以外は使ってこなかった。

 

だから実質『俺のナビ』として使うのは今回アイリスが初めてだ。

 

だからこれが本当の意味での初陣。

 

オペレーターとナビの関係を築いた初めてのネットバトルだ。

 

 

 

「まだこの端末のバージョンが古いから『ブラインド』のバトルチップを使えるのが嬉しい誤算だな」

 

『どのように攻め入りますか?』

 

『まずは『インビシブル』を除去しながら初手は『とっぷう』で敵を押し込み、その間にプログラム君の避難経路を作る。もしマグマのように熱こもったパネルがあるならこちらから『ゼリースチール』を投げ込む。その間にアイリスには『メットガード』を構えさせながら前進するんだ!スロットイン!!」

 

『受け取りました!進みます…!』

 

「合間見てエリアスチールで詰める!パネルを制圧したら『エアホッケー』で一気に蹂躙するからアイリスは信じて前に行け!バックアップは俺に任せろ!」

 

『ええ!』

 

 

 

そういえば。今までナビを持った事ない故に使った事ないバトルチップが一枚あったな。

 

たしか敵を狙い撃ったりする事が苦手なナビや戦闘が苦手なナビでも、投げて召喚した物体に攻撃をぶつければ、その攻撃が拡散されるお手軽なバトルチップがあったな。

 

そうすれば敵を狙わずとも攻撃できるはず。

 

ただ使い方が難しく、あと利便性が感じられないとか色々理由があって誰もこのバトルチップと交換してくれなかったな。

 

そもそもアイリスがどれだけ戦えるのかわからない。なら使う必要があるだろう。

 

…よし!

 

 

 

「バトルチップ『プリズム』スロットイン!』

 

『こ、これは?』

 

「俺も詳しく知らないがとりあえず敵に向けて投げると良いらしい。何かしらで使える」

 

『わかりました』

 

 

アイリスの手元に乗っかった『プリズム』を敵の方に投げる。

 

しかし反応したウィルスは『とっぷう』の風力を活かして後方に回避する。SPだけあってAIも高いな。厄介すぎる。

 

そして地面に落下したプリズムは級に大きくなり障害物のように召喚される。

 

とりあえずアレに攻撃すればいいのか。

 

 

『タケルさん、次は』

 

「アレに攻撃すると良いらしい!スロットイン!」

 

『…この手にあるモノは?』

 

「種だな。ここら辺でよく現れるウイルスからインストールしたバトルチップだ」

 

 

突然だが、ここは農家だけあって植物系のウィルスが集いやすい。

 

なのでウイルスバスターも対木属性専用として搭載した。

 

だからガルーのような炎属性ウイルスの侵入を許したんだろう。

 

とりあえずこの農場で手に入れたバトルチップでプリズムにぶつけてもらおう。

 

 

「アイリス!とりあえずあのプリズムにぶち込んでいい!ウィルスを狙わなくてもあのプリズムが攻撃してくれるらしいから!」

 

『わ、わかった!』

 

 

 

やはり戦闘慣れしてないのか投擲物の攻撃は苦手としている。

 

しかし俺の説明により動かないモノに当てるなら簡単だと考えてくれたようでアイリスはバトルチップから引き出された種をプリズムに投げ入れた。

 

 

 

 

ちなみにアイリスが投げた投擲物はフォレストボムと言うバトルチップなのだが……

 

俺はあまりよく知らない。

 

故に…

 

 

 

 

 

 

ビrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrボッ!

ティウンティウン!!!

 

 

 

 

 

 

 

ウィルスが跡形もなく消し飛んだ。

 

 

 

 

 

 

「…………は?」

『…………え?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後はウイルスをデリートして熱ビニールハウスの暴走は止まった。

 

しかし熱によって燃えたビニールハウスで育てた作物はほぼ全滅。それだけでも被害は大きかった。他のビニールハウスは無事だがイチゴは全焼失だな。悲しい。

 

しかし死人は出なかった。

 

人員が奪われる事が無くてそちらに安心した。

 

野菜はまた育てればいい。

 

そう言って業務員を落ち着かせた。

 

 

さてビニールハウスの事件から数時間が経過する。事故処理を終えた頃には夜ご飯を過ぎていた。俺はヘトヘトだったが目を覚ましていた。

 

ベッドの上に座り、夜空が見える。

 

枕元にある端末の画面にはアイリスがいた。

 

静かな時間が流れる。

 

 

 

『タケルさん』

 

「ああ、君を聞かせてくれ」

 

 

 

そして彼女は少しずつ自分の話をした。

 

軍事用ナビであること。

 

その力は世界すら飲み込めること。

 

自我を持ったことで自分は恐ろしい存在であることに怯えていること。

 

だんだんと規模が大きくなっていた。

 

俺は相槌を打ちながら聞いてい。

 

そして彼女は自分の全てを話し終えた。

 

 

 

「アイリス。君が炊飯器のナビではない理由はわかった。居所に疑問を感じて、それでたまたまココに流れ着いた。そんな君は俺に勘違いされて今もいる。でも自身を隠していたのこの場所が心地よいから。それが恐れる自分とは程遠い場所だから、だよね?」

 

『……はい』

 

「そっか。よく頑張ったな」

 

『え?』

 

「望みもしないマシーンだった。だから君はその場所から脱した。そしてこの場所に行き着いて新たに探す。よく頑張ってるよ」

 

『でも、でも、私は貴方に隠し事をして、それで今日この日まで偽りの、嘘をついて…』

 

「事実上そうかもしれないな。君は強大な力を兼ね備えた軍事用ナビであること俺に隠していた。それを炊飯器のナビとして偽った。その規模に収まらないだろうに」

 

『…』

 

「でも、それが一体なんだと言うんだ」

 

『え…?』

 

「俺は気にしないよ。君が苦しんでこの場に来たことを。それで便利だったから炊飯器のナビとして収まろうとしたことも。たしかに俺はアイリスに嘘をつかれた。でも騙されたとは思っていない。だって君は立派に炊飯器のナビをしているから」

 

『!』

 

「この数ヶ月、君は真剣な眼差しで炊飯器と立ち会っていた。騙したいから炊飯器のナビを演じていた訳でもなく君は本心でそうなろうとしていたよ。俺は知らずながらも彷徨っていた君に居場所を与えた立場だ。でもそれを蹴って何処かに彷徨うことも君は出来たはずなのにそうしなかったんだ。何故なら炊飯器のナビとして役割を果たそうと、真剣だったから」

 

 

 

この子は何も無かった。

 

炊飯器も、農業も、ましてやお米も。

 

そんなモノは一つも知らない。

 

この時点で俺は違和感を持てば良かった、当時は最新の炊飯器と思い込んで興奮していた自分だったからそこまで意識を向けてない。

 

でも、結果的に考えて、彼女は理想と化した。

 

それはまさにPET(ペット)として持ち主を助けようとする形だ。

 

 

『あの、怒らない…の…です、か?』

 

「全然?むしろ君は俺を通してウイルスの被害を留め、そして君は自身の恐れを飲み込んで俺と戦ってくれた。力を貸してくれたアイリスにどうしたら怒るんだ?」

 

『でも……でも……わ、わたしは…!』

 

アイリス

 

『!!』

 

「ありがとうな、俺のところに来てくれて」

 

『ぁ…………』

 

 

 

俺は彼女に嘘をつかれていた立場だ。

炊飯器に付属したナビではない。

ただ一つの事故としてそうなっただけ。

 

だから彼女は俺の勘違いを利用してその居場所に収まろうとした。言葉にすればアイリスは騙した罪を働いた形だろう。俺も現状騙された立場である。軍事用として作られた物凄いナビを相手に。

 

でも彼女を捌く権利は無い。

そして俺はそうするつもりは無い。

 

むしろ…

 

 

 

「さっきも言った。君は炊飯器で炊くお米に真剣だった。俺が求める理想を目指してくれた。それが嬉しいよ。だから怒ることは何一つない。それともその力を使って次は俺たちを陥れてしまうのかい?」

 

『ッッ、そんなこと絶対にしません!!』

 

「ああ、君はそうだろうな。優しすぎる女の子だからそんなことしない。少なくとも俺は君のことをそう考えてるさ、アイリス」

 

『っ』

 

 

 

家電用品に取り付けられた正式なナビではない。でも嬉しかったんだ。

 

お米を炊くと言う農家の俺からしたら素晴らしい役割を請け負ってくれた。

 

だから、これまではただの事故。

 

それでも経緯はどうであれ、アイリスがいたことで多くの収穫ができたんだ。

 

それはたしかに嬉しいことなんだ。

 

 

 

「あまり自分を責めないでアイリス。もう良いんだ。そもそも俺の思い上がった勘違いから始まった話なんだ。素っ頓狂な勢いと流れから始まった出会いだが、君は炊飯器のナビであることを受け入れた。そして今も変わらずそうである。だからそこに責め入る権利は誰に持っていない。これは互いにそれで正解だったから、俺たちは罰せられる必要なんか無い。自罰することも、裁かれることも、畑以外この場に存在しない」

 

『ぅ、ぅぅ…』

 

「もう良いんだ。大変だったな。よく頑張ったな、アイリス」

 

『ぅぁぁぁ…ぁぁ!』

 

 

 

 

画面の中で涙を流す彼女。

 

俺は人間だから電脳世界の彼女を撫でてあげることもできない。

 

ただ言葉でしか交わすことができない。

 

俺は見守ることしかできない。

 

でも彼女を理解して側にいることは出来る。

 

 

え?危機感がない?

ああ、たしかに、彼女は軍事用ナビとしてとんでもなく恐ろしい力を持ち合わせている。

 

でもそれがどうしたと言うんだ。

 

彼女は、この子は。

 

俺の ナビ(アイリス)なんだぞ??

 

炊飯器とお米に真剣な女の子だ。

 

 

 

『ぐすっ…』

 

「落ち着いた?」

 

『ぅぅ…はい……はい…』

 

「そっか。じゃあ、どうしようか?これから」

 

『これ、から?』

 

「俺は君の正体は知ったよ。だからと言って俺がアイリスに対して変わることない。それは間違い無い。そして()()()()と言うのは、君だ」

 

 

俺は寝転がりながら端末を手に取って彼女を見る。

 

 

 

「君は俺のナビで居るかい?それともまた何処かに彷徨うかい?」

 

 

 

そう、これからが大事。

 

俺は過去の彼女を受け入れる。

 

そして接する気持ちも変わらない。

 

俺が知っているアイリスのままに。

 

 

『わたしは…わたしは……ゆるされるなら…っ』

 

 

 

震えるように吐き出す言葉。

 

また泣きそうになる表情。

 

怯えながらも、でも感情に熱を込める。

 

普段物憂げな彼女だけど今は違う。

 

震えて、震えて、奮えて、慄えるてから。

 

白薄なアイリスの色はまるで艶やかな炊き立てのお米のように…

 

 

 

『タケルさんのお側に居たいです』

 

「わかった。なら、これからも変わらずだな』

 

 

 

 

『はい__わたしは』

 

『ああ__君は』

 

 

 

 

 

 

(貴方)ナビ(アイリス) (です)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

涙溜めながらも月明かりの下でやっと笑う。

 

それは採れたての美しいお米のようだった。

 

 

 

 

 

つづく

 







プリズムボム「涙でますよ」

フォレストボム「せやな…」

ウイルス達「泣きたいのはこっちだよ」



ではまた

どれ好き?

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