慟哭   作:ネオン(ハーメルン垢)

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勘違いトレーナー君 アグネスタキオン編

ゴールドシップさんの何やら含みのある言い方。

 

「ルドルフがオメーの事をどう思ってるかをよく考えろ」

「アイツの気持ちに気付いてやれ」

 

通話越しでもにやけ顔が浮かんできそうなその声色に、俺の中の疑問符は加速度的に増加するばかり。

宿原さんにも同じような反応をされた事もあり、何だか置いてけぼりにされているような気がしてなりません。

皆さんどうしたらそんなに人の気持ちに敏感になれるのでしょうか。

俺の場合超能力の類でも身につけない限り出来そうにありません。

 

世の中というのは良くも悪くも上手く造られていて。

人間誰しも生まれ持った才能やセンスに基づいて物の得意不得意が分かれるのです。

才能の無さを嘆く前に努力をしろというような格言を何処ぞのアスリートが残していましたが、努力をした結果がこれなのだから目も当てられません。

 

 

 

天「……どうしたものでしょうか」

 

 

 

止まらない溜息と一緒に吐き出された嘆き。

満天の快晴の下では、皮肉にもちっぽけに思えてしまう。

 

最近のなんかおかしい距離感の原因が分からない事には、対策の張りようがありません。

対策無しにシンボリルドルフさんの待つトレーナー室に向かうというのは、丸腰で猛獣の棲む檻に飛び込むのと変わりません。

それは宛ら獅子に睨まれた鼠。

あっさり喰われてはいおしまい。

食物連鎖の完成です。

わあ、自然って凄い。

 

俺に人並みのコミュニケーション能力があれば、シンボリルドルフさんの気持ちにも気付けるのでしょうか。

彼女の気持ちにさえ気付く事が出来れば、後はどうにでもなるような気がするのです。

但し裏を返せば、それが分からない事には為す術がまるで無い訳でして。

 

 

 

天「………そうだ、アグネスタキオンさんに訊ねましょう。

彼女ならば何か分かるかもしれません」

 

 

 

そこで頭に浮かんだのは、ゴールドシップさんと同じく新人時代からお世話になっている(絡まれている)アグネスタキオンさん。

 

彼女は学園内でも恐れられるマッドサイエンティスト。

その人柄は『狂気』の一言に尽きます。

学園の使われなくなった旧理科室で一日中研究と称して何やらアブナイ研究をしている正真正銘のアブナイ人です。

それが趣味の範疇で収まるならまだしも、見ず知らずの他人に形振り構わず実験を吹っかけるのだから尚更アブナイ。

俺も過去に1680万色に発光するゲーミング樹にさせられたり指を一本増やされたり17人のゴールドシップさんに追われる夢を見る薬を飲まされたり……。

受けた被害は枚挙に遑がありません。

 

ですが、受けた被害以上に手を貸して下さったのもまた事実。

狂人だの変人だの揶揄される彼女も根はやっぱり勝ちに拘る純粋なウマ娘。

決して悪く言われるような方ではないのです。

ウマ娘なら誰しもが備えているであろう『走りたい』という衝動と勝利への執念。

彼女の異常なまでのそれは、俺もよく参考にさせて頂いています。

 

俺は人との会話が苦手ですし、どうもコミュニケーション能力に欠けている様なので、人付き合いの面で彼女に助けて頂いた事も何度かあります。

彼女は日頃から見ず知らずの他人に実験を吹っかけているのでコミュニケーション能力に長けているのでしょうか。

……だとしたら相手が嫌がってる事くらい分かるでしょうに、というのは突っ込まないお約束です。

 

何はともあれ、彼女ならシンボリルドルフさんの距離感の原因も分かるんじゃないでしょうか。

いや、分かっていて欲しい。

 

藁にも縋る思いで手に取ったスマートフォンの通話アプリを再度立ち上げ、彼女のアカウント名の下に佇む通話ボタンをタップしました。

 

 

 

(以後 アグネスタキオン・・・タ)

 

 

 

『PRRR ピッ

 

 

 

タ『どうしたモル……天風君。

私は研究で忙しいのだが』

 

 

 

忙しい割には出るの早いんですよね。

まあ彼女が俺の事を何と呼びかけたかは置いておくとして。

 

 

 

天「お忙しい中すみません。

少々相談事がありまして」

 

 

タ『ふゥン……?

キミの事だ、また人付き合いがうまくいかなかったようだね?』

 

 

天「うぐっ……まぁ、そういう事です」

 

 

 

『俺=友達居ない』みたいに思ってません?

……図星なので言い返せませんけどね。

 

 

 

タ「アッハッハッ!

キミもなかなか成長しないねえ!?」

 

 

天「……言わないで下さい」

 

 

タ『それで、一体何があったんだい。

話くらいは聞いてやろうじゃないか』

 

 

 

ゴールドシップさんと違い相談料(ラフレシア)を請求される事は無い為、そういった意味ではまだ安心かもしれない──。

 

そう思ったが最期、飲み物にしれっと薬品を盛られて天○飯もびっくりの太陽拳をぶちかますまでがオチです。

アグネスタキオンさんがタダで済ませる訳が無いでしょう。

 

ええい、それも含めての相談料。

ドンと来い、ってやつです。

……手加減必須で。

 

 

 

天「……あー、えっと」

 

 

 

そんな彼女との駄弁もここまでにしましょう。

こちらの話を楽しそうに聞いて下さるアグネスタキオンさんは俺の数少ない話し相手ですが、生憎悠長に世間話を繰り広げていられる程余裕が無いのです。

 

 

 

天「サクッと言います。

今朝シンボリルドルフさんに抱かれました」

 

 

タ『あー……うん。

 

……うん?』

 

 

天「シンボリルドルフさんに抱かれました」

 

 

タ『に、二回言わなくていいよ。

……えっと……その。

こんな事を聞くのは野暮と思われるかもしれないが……ど、何処でだい』

 

 

天「何処って……練習場です」

 

 

タ『練習場で!?』

 

 

天「なんかこう……すごく激しく……」

 

 

タ『激しく!!?』

 

 

天「骨が折れるかと思いました」

 

 

タ『骨が折れる程!!!?』

 

 

 

スピーカーの向こうで反響する半ば絶叫に近い声。

試験官の一本二本が割れてそうで怖い。

確かに意外でしょうけど……そんなに驚く事でしょうか。

 

 

 

タ『わわ、私の知らない所でそこまで進んでいたなんて……!?

ルドルフ君、何という奴だ……!!』

 

 

天「……とまあ、そんな感じで。

貴女だから言いますけど、今理性がピンチなんです」

 

 

タ『だろうな。

それで理性を保つ事が出来るのなら君は仏だ』

 

 

天「それに何だか最近距離が近……いや、ゼロ距離のように感じるんです。

この原因を知りたくて」

 

 

タ『そんなのいちいち口にしなくても分かるじゃないか。

第一君への距離が近いのは今に始まった事じゃないだろう?

身体を重ねておいて彼女の気持ちに気づかないとは言わせないぞ』

 

 

天「身体をって……そんな大袈裟な。

ただ抱きしめられただけじゃないですか」

 

 

タ『ん?』

 

 

天「ん?」

 

 

 

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 

タ『紛らわしい言い方をするんじゃない』

 

 

天「えぇ……?」

 

 

 

今朝の出来事を事細かに説明したら怒られました。

何故。

 

 

 

タ『何というか、こう……君の言葉の足りなさには毎度の事ながら驚かされるねぇ。

友達が居ないのも納得だ』

 

 

天「うぐっ」

 

 

 

もう俺は何も突っ込みません。

ええそうですよ俺は友達の一人も居ないぼっちですよーだ。

 

 

 

タ『……それで。

ルドルフ君に甘えられ過ぎて理性が危ないと』

 

 

天「話が早くて助かります。

……俺、遂に嫌われてしまったのかなぁと思いまして」

 

 

タ「嫌われた、ねぇ。

如何にも君らしい、ネガティブな思考回路だな。

一周回って寧ろ安心したよ」

 

 

 

安心されるネガティブとは一体。

言葉の節々に含まれた毒が、痛い所をちくちくと小突く。

 

 

 

 

天「いえ、そうじゃないならそうじゃないでいいんですけどね。

ただ同じ相談をゴールドシップさんにも受けて頂いたのですが、あまりハッキリとした回答が得られなくて」

 

 

 

先刻の通話ではバツが悪そうにのらりくらりと要点を躱されてしまいました。

そろそろ本当の事が知りたくなってくる頃です。

 

 

 

タ『不粋な真似を好まないゴルシ君の事だ、彼女らしいと言えば彼女らしいな』

 

 

天「先程彼女に言われたんです。

シンボリルドルフさんが俺の事をどう思ってるかをよく考えろと、そしてシンボリルドルフさんの気持ちに気付け、と」

 

 

天「そう言われて考えて、シンボリルドルフさんは俺の事が嫌いなのではないか、という結論に至りました」

 

 

 

何故そうなる、と溜息がスマートフォンの向こうで聞こえた気がしますが、続けましょう。

哀しきかな、もうその反応には慣れてしまったのです。

 

 

 

天「もし俺が嫌われていたと仮定すると、嫌われた原因理由がさっぱり分からないのです。

……俺も社会人の端くれです。

俺に非があるのであれば然るべき形で責任を取らせて頂きたいと思いますし、その為にも先ずはこの仮定の真偽を確かめなければならないと思いまして」

 

 

タ『うん、君がそこまで筋金入りの唐変木だとは思っていなかったよ』

 

 

天「何か俺に原因があるのでしたら、教えて頂けませんか」

 

 

 

そう問うと、溜息と唸り声の混じった様な声がスピーカーの向こうで吐き出された。

ちょっとした沈黙の後、ぽつりと水を垂らす様にその沈黙は霧散する。

 

 

 

タ『何と言うか……これはルドルフ君が可哀想に思えてくるねえ。

同情モノも良い所だよ、全く』

 

 

天「……そう、ですか。

俺なんかと一緒に居させられて彼女は可哀想ですよね」

 

 

タ『あー違う違う。

そういう意味で言ったんじゃない』

 

 

天「……?」

 

 

タ『えーと、まずキミはニブすぎだ。

ルドルフ君はキミの事嫌いになんてなっていないと思うのだよ』

 

 

天「は、はぁ」

 

 

タ『……ルドルフ君は絶対にキミの事を嫌いになんてならない。

科学的根拠などあったものじゃないが、私が保証するさ。

それとついでにこれも保証しよう。

キミはネガティブ過ぎだ。

ちょっとくらい調子乗ったり自分に自信持ったっていいじゃないか』

 

 

天「……だ、だって俺ですよ。

俺なんかが……」

 

 

タ『その「俺なんか」がネガティブだって言ってるんだ。

とーにーかーくー。

キミはルドルフ君に嫌われてなんかない。

もっと自己肯定感を身に付けたまえよ』

 

 

天「うぐっ。

ま、まぁ、本当に俺は嫌われていないんですね」

 

 

タ『そうだとも。

君の事だ、例を挙げて論理的に説明した方が良いかな。

例えばルドルフ君が君を見つめていた時。

あれは君に対する……そうだな……うーん……あ、信頼から来る物だと思うのだよ』

 

 

天「……今の変な間は何ですか」

 

 

タ『はいはい細かい事は気にするなよ、男だろう?』

 

 

天「アッハイ」

 

 

 

論理的とは一体。

 

 

 

タ『他にもスキンシップ。

あれも単純に君の事が好k ゲフンゲフン

……君への信頼が形として現れた物だ』

 

 

天「俺への信頼が……何故スキンシップという形で現れるんですか」

 

 

タ『テイオー君やマヤノ君が各々のトレーナーに所構わずくっついている所は君もよく見るだろう?

アレと同じさ』

 

 

 

ここに来て初めて信憑性のある具体例が。

中等部の彼女達とシンボリルドルフさんとでは色々と訳が違うと思うのですが……そういう事としておきましょう。

 

 

 

天「そうでしたか。

……なら良かったです。

シンボリルドルフさんに嫌われている訳じゃなくて」

 

 

タ『……はぁ。

君はもっとルドルフ君の気持ちに気付いてやってくれ。

彼女が可哀想だ』

 

 

天「……善処シマス」

 

 

タ『とまぁ、そういう事だ。

私は君達を応援している事を忘れてくれるなよ。

主にルドルフ君をね』

 

 

 

妙に既視感のある釘の刺され様に首を傾げる。

 

 

 

天「……ゴールドシップさんと同じ事言わないで下さいよ」

 

 

タ『はは……ゴルシ君も同じ事を考えていたか。

いよいよ君の外堀は危うくなってきたな?』

 

 

 

何処か含みのある物言いにますます疑問符はその数を増すばかり。

叶う事ならばこの場で洗いざらい訊ねてしまいたい所でしたが、これ以上彼女の手を煩わせるのも偲びないのでそれはまたの機会にするとしましょう。

 

 

 

天「まぁ、シンボリルドルフさんが俺を信頼して下さっているなら良かったです。

ありがとうございました。

ほんと、人付き合いに関しては貴女に頼りっぱなしですね、俺……」

 

 

タ『いやいや、私も丁度感情の起伏による身体能力の変化について研究していた所だったからねぇ。

そうだ、また私の被検体(モルモット)になってみないかい?

試したい薬品が山ほどあるんだが……』

 

 

天「今日は遠慮させて頂きます……」

 

 

タ『ふゥン、釣れないねぇ……?』

 

 

 

冗談じゃありません。

俺はこれからシンボリルドルフさんと会うんですよ。

指を6本生やしてご対面なんて御免です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タ『…………』

 

 

天「……?」

 

 

 

しかし、やんわりと断った後に返ってきたのは何とも言えない沈黙。

通話の向こう側で突然黙り込んでしまった彼女に、そんなに実験がしたかったのでしょうかと思慮を巡らせていると。

 

 

 

タ『……天風君。

今から私が口にする事は直ぐに忘れて欲しい。

でも君の記憶に深く残ってしまったのなら、それはそれで構わない』

 

 

 

意味深な口上が胸の何処かに引っ掛かる。

あやふやで煮えきらないその口調に見え隠れする感情を見透かそうにも、鈍感との名高い俺に叶う筈なんてなく。

 

 

 

天「えっと……それはどういう」

 

 

タ『鈍感な君だから言うよ。

 

 

 

どうか、ルドルフ君を幸せにしてやってくれ。

 

 

 

 

 

 

 

……私の分まで、ね』

 

 

天「………?」

 

 

タ『……お喋りが過ぎたかな。

あまり深く気にしてくれるなよ』

 

 

天「えっ、待って下さ──」

 

 

 

ピッ

 

 

 

天「………えぇ……?」

 

 

 

単調な電子音が皮肉にも通話が終了したことを報せる。

 

逃げる様な形で一方的に切られてしまいました。

おまけに捨て台詞の様に謎の発言を残される始末。

気にするな、と言われましても。

気になるのが人間の性です。

 

……まあ、あれだけ忘れろと念を押されましたから。

この事は素直に忘れてしまいましょうか。

 

それにしても、どうやらシンボリルドルフさんに嫌われたというのは俺の勘違いだったみたいですね。

 

まさか彼女に信頼して頂いているなんて。

まさに願ったり叶ったりです。

ちょっとアグネスタキオンさんの持論が強引だった気がしますが……気にしないでおきましょう。

 

 

 

 

 

 

 




どうも。

チャンミのマッチング画面でちびウマ娘達に永遠にマッチングしていてほしいネオンです。

リアルが忙し過ぎて投稿が遅れました。

次回からシリアス要素強くしていきます。
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