私、特級ですけど?   作:十夢

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プロローグ[火那月梅鴉]

ーー2018年6月 東京都呪術高等専門学校ーー

 

琥珀色の瞳がゆっくりと開いた。

 

浅い眠りから覚めた彼女の瞳は見慣れた、しかし美しい世界を写した。

 

 先ず目に入ったのは柔らかい青と紫色の紫陽花だった。小雨に当てられながらもしゃんと花を咲かせている姿は子供のような愛らしさがあった。

紫陽花を囲む様に立つ木々からは淡い光が差し込み、水溜まりや葉に乗った水玉をキラキラと光らせた。

呪術とは無縁の、母親が元気な娘を守る様な優しさを彼女は感じた。

この世界は本当にーーー

 

 

「ーー綺麗ね」

「あ、すみません梅鴉(めあ)さん。私のせいで起こしてしまいました…」

 

 

運転席に座る補助監督が振り返り、申し訳なさそうな表情を浮かべながら頭を下げる。

 

外の景色に気を取られて気が付かなかったが梅鴉には薄いタオルケットが掛けられており、良い曲見つけたんですよ!と移動中に掛けられていた洋楽もいつの間にか止められていた。

自分の事を思って気遣ってくれた彼女の優しさに胸が暖かくなる。

 

「大丈夫よ、勝手に起きただけだから。滝沢(たきざわ)君私どのくらい寝てた?」

眠い目を擦りながら小さく欠伸を零す。

 

「30分程度ですよ、会議まで1時間程あります。」

窓の外を見ながら滝沢は答えた。

 

 

 

梅鴉は普通の呪術師とは違う。

呪術師が呪いを払うのが仕事なら梅鴉の仕事は呪詛師を祓う事。梅鴉は呪術界で唯一の対呪詛師の呪術師である。いくら呪詛師といえど相手は人間、家族も入れば恋人もいる。呪いを祓うのとは訳が違い、仕事をするたび心が荒んでいくのは当たり前の事だった。

 

そんなどうしようも無い世界で生きている梅鴉を支えてくれたのが滝沢だった。

補助監督としての仕事だけでなく、疲れきった梅鴉の代わりに身の回りの世話も嫌な顔ひとつぜすした。

お礼を言う度「梅鴉さんの役に立ちたいので!」と笑顔で答える滝沢に心を許すのは当たり前の事だった。

今では一緒に旅行に行くなど親友といっても過言ではないほど関係を深めている。

 

 

 

「それにしても本当に綺麗ですね。」

パシャリとスマホで写真を撮りながら滝沢が呟く。

滝沢は良く写真を撮りたがる。思い出を目に見えるように残したいのだとか。

 

「まぁ、でもこれの景色を作ったのが上の連中だと思うと腹立たしいけどね」

 

梅鴉はそう吐き出すとタオルケットを軽く畳み横に置いた後ドアを開けた。

梅鴉は少し面白くなかった。あいつらが作ったものが思い出として残るが。綺麗と思ってしまった自分自身が。

 

「もう行くんですか!?傘準備するので少し待ってください!」

滝沢が慌てながら呼び止めるが梅鴉は車をおり静かにドアを閉じた。

 

「雨はもう止むから大丈夫。それに早く行ったほうがおじいさん達も少しは機嫌が良くなるでしょう」

 

梅鴉はそう返すと歩き始めた。

地面に落ちた紫陽花の花弁を踏みしめ水溜まりを跨ぎながら歩く様はまるで優しい世界は終わりだと告げるようだった。

 

口では機嫌が良くなるだろうと言ったがそんな訳が無い事を梅鴉は理解していた、これから始まる会議を思うと頭が痛くなる。やはりギリギリまで滝沢と過ごそうかと思ったがやめた。どうせ辛いのなら早い事終わらせよう。

振り返り心配そうな視線を向ける滝沢に優しく手を振る。梅鴉は深呼吸をし高専内へと足を進めた。

 

 

 

 

 

琥珀色の瞳がゆっくりと開いた。

 

彼女の瞳は先程とは違い、重苦しい世界を写した。

呪術高専の一角にある尋問室に梅烏は静かに佇んでいた。

部屋の中は意外と広く梅鴉を囲うように扉が四つ立てられており、その後ろには上層部と呼ばれる老人達が梅鴉を冷たく見下ろしていた。

何も非難されるような事はしていないがどうしようもない居心地の悪さを感じた。

 

「これより両面宿儺の器、虎杖悠仁の処遇について火那月家当主、火那月梅鴉(ひなづきめあ)の意見を聞きたいと思う。」

 

老人たちの1人が重々しく口を開いた。

 

「五条悟は宿儺の指を食わせてから殺せばいいと巫山戯た事を抜かしたが…そんな危険な事を容認する訳にはいかないだろう?」

 

「我らとしてはあの様な危険分子即刻処刑すべきだと考えているわけだ。……して梅鴉よ。誰よりも呪術界を守る為に働いてきたお主は我々と同じ意見であろう?」

 

まるで同じ意見ですと強制的に言えというよな聞き方だ。自ら執筆したシナリオ通りに進まないと許せないのだろう。本当に魔窟とはよく言ったものだ。

 

梅鴉は伏していた目を上げ正面の老人を見る、そして小さく息を吸い答えた。

 

「否です。」

 

場の空気が凍った。

誰も梅鴉がそう答えると思わなかったのだろう、老人達は驚きの表情を浮かべている。

 

「……今なんと言った?」

 

正面の老人が辛うじて冷静さを保ちながらもう一度質問する。何度聞いても同じだと言うのに

梅鴉は溜息を小さく零すともう一度否定した

 

「ですから私は虎杖悠仁の死刑には反対と申したのです。」

 

2度目の否定にとうとう冷静さを失ったのか老人が声を荒らげ射殺さんばかりの目で睨みつける。

 

「たかだか18歳の小娘を当主として認めてやり、その上落ちぶれた火那月家の再建を手伝ってやったと言うのに…その恩を仇で返すというのかっ!!」

 

何をぬけぬけと…

苛立ちから梅鴉も負けじと語気を荒らげる

 

「えぇ、その説は深く感謝はしています。ですが火那月家再建のお力添えをして頂いたのは五条家当主の五条悟様にです。貴方がたではありません。」

 

 

火那月家の再建は五条先生のお陰で出来たのだ、間違ってもこいつらでは無い。なんなら自分達の権力維持の為に潰そうとすらしたじゃないか。

 

 

「……貴様っ!なら虎杖悠仁はどうするというのだ、まさか両面宿儺を放置するというのか?そんな事を言ってみろ!貴様が生きていけると思うなよ!!」

 

老人が脅すが意味は無い。梅鴉は冷静にしかしハッキリと答える。

 

「即時処刑に反対なだけです。後は五条様と同じ意見です、宿儺の指を食わせてから処刑すれば良いでしょう。…まだ要件はありますか?」

 

「貴様も五条悟の手下と言い訳か…五条悟に惚れたか?この売女が!!」

 

「……どうやら何も無いようですので失礼します。」

 

 

ここに居ても意味は無いと判断した梅鴉は踵を返し出口に向かって歩き始めた。

 

「待て梅鴉よ…貴様が今まで我々の犬であったから可愛がってやったというのに。五条の犬になると言うのであればどうなっても知らぬぞ?貴様が可愛がっているあの女、長く生きれると良い………」

 

老人の言葉が止まる。否、止まったのではなく止められたのだ。動きを止めた梅鴉から溢れ出す呪力によって。

ゆっくりと振り返る梅鴉の顔を誰も見ることが出来なかった。それ程までに梅鴉の無言の威圧は凄まじい

 

「私がお前らに今まで従順であったのは私の生きる指針に邪魔になかったからだ。私は別にお前らの犬になってた訳じゃない。それに五条先生の犬になった訳でもない。」

 

ゆっくりと言い聞かせるように喋る梅鴉はさながら罪人を裁く地獄の鬼のような風格があった。

 

「私は私を精一杯生きていく。それを邪魔するならお前らから祓うぞ?」

 

そう言い放つと梅鴉はまた歩き始める

最早誰も梅鴉を呼び止める者は居なかった。

 

 

 

 

 

琥珀色の瞳がゆっくりと開いた。

 

彼女の瞳は満面の笑みを浮かべる五条悟を写した。

 

「いやぁ〜まさか梅鴉ちゃんがあそこまで啖呵切るとはね僕柄にも無く興奮しちゃったよ。」

 

五条が嬉しそうに梅鴉の肩をポンポンと叩く。

梅鴉は一瞥しただけでまた瞳を閉じた。テンションの高い五条は無視するのに限ると知っていたからだ。

 

「コラ、先生を無視しないの!それより本当にさっきはカッコよかったよ〜それに物凄くスッキリしたしね。……あれ?顔赤いけど照れてる?」

 

「あーもううるさいですよ!?先生!!人が休憩してたって言うのに。」

 

そう梅鴉は尋問室から出て近場のベンチに座りそして激しく後悔していた。

自分のそばに居る限り絶対に滝沢君を守り切る自信はあるのだが常に一緒に居る訳では無い。自分が離れている時に何かされるかと思うと気が気ではなかった。

 

「滝沢さんの事心配してる?まぁ大丈夫だよ。僕も圧をかけておくし、それに梅鴉も気にかけて置けば流石に手は出せないでしょ。」

 

まるで子供に言い聞かせるように優しく言う五条に取り敢えず梅鴉は無言の頷きで返事を返す。

 

「そう言えばなんで死刑に反対したの?憂太の時は反対しなかったのに。悠仁が宿儺の器だから?それとも何かあるの?」

 

梅鴉は迷った、【何か】はあるのだがそれを言うか言わないか…少し考えた後答えた

 

「いえ、特に理由はありません。ただすぐ死ぬ事は無いと思っただけです」

 

「ふーん……そっか。」

 

きっと五条先生は理解っているのだろう。それでも聞いてこないのは優しさだ。

その優しさに応えれないのは心苦しいが仕方ない。時が来たら、その時はちゃんと伝えよう。

 

 

梅鴉は腰を上げると五条の背を押した。

久々に先生に会ったのだたまには甘えても文句は言われないだろう。

 

 

「そろそろ行きましょう、先生。私疲れたので甘い物食べたいです。滝沢君も甘いもの好きですし。」

 

「お、かわいい教え子のお願いなら応えないとね。ちょうど最近ガリゲットっていう美味しいお菓子屋さん見つけたんだ〜。」

 

五条は楽しそうにスマホの画面を見せる。成人男性が1人で行くとは思えない可愛らしい外見のお店とイチゴを使ったお菓子が写っていた。

 

「あ、最後に一つだけ」

「なんですか?先生」

 

五条は真剣な顔で、また子供に言い聞かせるように。生徒に教えを説くように話す。

 

「これからおそらく…いや、絶対に嫌がらせのように任務を入れられる事になる。気を付けるんだよ」

「先生心配しすぎてすよ。」

 

まったくこの先生は何時までたっても心配性何だから…その優しさは嬉しいが私だって何時までも生徒じゃない。弱かった私はもう捨てた。私は自分を精一杯生きていけるぐらい強くなった。だって私………

 

 

 

「私、特級呪術師ですよ?」

 

梅鴉は琥珀色の瞳を片方だけ閉じた。




東京都立呪術高等専門学校OB
火那月梅鴉(ひなづき めあ)
年齢:21歳
誕生日:6月9日
等級:特級呪術師
高専入学方法:家系
術式:???
趣味:お昼寝
好きな食べ物:思いがこもった料理
苦手な食べ物:特になし
ストレス:上層部絡み
一言:私、特級ですよ?
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