私、特級ですけど?   作:十夢

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第1話 いつも通りに。

薄暗い森の中、男女が声をはりあげて楽しそう喋っていた。

 

「2人で組めば俺らは誰にも負けねぇ!そうだろ?」

賢太(けんた)は笑いながらそう言った。

「そうだよ!私と健太くん2人なら!」

優子(ゆうこ)は熱い視線を健太に向けながら応えた。

 

まるで付き合いたてのカップルのようにはしゃぐ2人の足元には悪臭を放つ赤黒い水溜まりが広がっていた。

 

2人は呪詛師だった、知り合ったのは6年前。賢太が人を殺して金を盗むそんな生活を始めてすぐの頃だった。

 

その日、賢太はラブホテルに入ろうとする男女に目を付けた。理由は簡単、男はどう見ても40代それなのに女は20代そこら。売春をするだけの財力があると判断したからだ。そして賢太はいつも通り男を殺し金を奪った。そしてその時ただ意思の無い目で男が死ぬのを見ていた女がが優子だった。

 

健太は優子を殺さなかった。なぜなら優子も自分と同じように呪術を使える呪術師だったからだ。

優子は賢太に付いて行った。なぜなら優子は賢太について行けば楽に金が手に入ると思ったからだ。

 

健太は従順な女が好きだった。自分の頭の良さに自信があったからだ、自分の言う通りに動く駒が欲しかった。

優子は賢い男が好きだった。優子は自分が馬鹿だと知っていたからだ。お金を楽に稼ぐ方法は体を売るぐらいしか考えつかないほどだった。

利害が一致した2人は恋人になった。

 

 

 

賢太は狗巻家の落ちこぼれだった。呪言は使えるが呪力総量が少な過ぎて呪いをかけられないのだ。馬鹿にされ続けた賢太は家を出て呪詛師になった。

自分を馬鹿にする一族を見返す為に。行きにくい場所を捨て、行きやすい場所を探すために。

そして賢太は自ら縛る事により能力を昇華させた。

 

 

1つ。相手を指差し、呪うと宣言しなければならない。

2つ。相手がその宣言に反応しなければ呪えない。

3つ。必ず10秒のカウントダウンをしなければならない。途中でカウントダウンを辞めてしまったら呪いはかけれない。

4つ。対象は1人まで。

 

 

4つの縛りにより賢太は相手に呪いをかける事が出来るようになった。

賢太は相手を絶対に殺せる矛になった。

 

 

 

優子は非術式の家系の出だが呪力総量も多くさらに結界の使い手だった。しかし戦闘センスはなく、結界をどう戦いに活かせば良いのかも分からなかった。

呪術師として使い物にならないと判断された優子は孕袋として上層部に献上される事になった。それがどうしても嫌だった優子は呪詛師になった。

そして優子も賢太の助言で自ら縛る事でその能力を昇華させたのだった。

 

 

1つ。呪力・術式でで相手を傷付ける事は出来ない。

2つ。結界は半径1メートル程にしか広げることが出来ない。

3つ。結界は10秒程しか保つ事が出来ない。

 

 

3つの縛りにより優子は結界に圧倒的な強度を持たせることが出来るようになった。

優子は絶対に壊れない盾になった。

 

2人が恋人になって以来、一般人だけでなく呪術師もターゲットに仕事を初めた。時には依頼を受け殺し、時には命を狙いにきた呪詛師や呪術師を殺して回った。何時しかその名は呪術界に広く知られるようになった。

 

 

 

 

そして今日もいつも通りにするだけだ。

相手は自分達を殺す為に追ってきた2級呪術師、確実に自分たちより格上だった。だがやる事は一緒だ。

 

賢太が呪術師を『指差す』と、声を大きく吸い込んだ。

 

『俺はお前を呪う、お前は10秒後潰れて死ぬ。』

 

詩の朗読か何かのように、ゆっくりと丁寧に抑揚を付けて言った。その間ずっと呪術師を差したままだ。

 

「何を言ってる!?」

呪術師は焦って声を荒らげる、たがそれは賢太の考えた通りの反応だった。

それはそうだろう誰だって死ぬと言われれば無反応でいられるわけが無い。

これから呪術師は死ぬ。自分が反応したせいで死ぬとは気付くことが出来ないまま。

 

 

『9、8』

 

賢太は優子に目配せする、優子はいつも通り結界を貼る。2人でいつものように入る、少し狭いが抱き合う様にすれば気にならない。

 

『7、6、5、4』

 

「おい、開けろ!!!どういう事だ?聞いてるのか!!!」

外で呪術師が何かしているが関係ない、この結界は壊れない。6年間ただの1度だって壊された事は無かった。

 

「止めろぉぉおおおおお!!!!!」

呪術師が叫ぶ。事の重大さにようやく気付いた様だ。結界を破壊しようと何か固いもので殴っているようだ。

 

 

『3』

2人の声が重なる

 

『2』

 

『1』

 

『0』

 

外でいつも通り、何かが潰れる音がした。

 

 

狭い結界の中で2人は見つめ合っていた。健太はどうだと言わんばかりの笑顔を浮かべ優子は褒めるように微笑んだ。2人を邪魔するものは何も無かった。

 

優子が結界を解くと2人の足元には皮膚らしきものと少しばかりの赤黒い肉片、そして男の髪の毛が水溜まりの様に広がっていた。

かつて呪術師だったものは、もう既に人の姿をしていなかった。

悪臭を放つ水溜まりに、黒く染った服が浸かっていた。

 

普通の人なら顔を逸らし嘔吐するだろう悲惨な惨状に居るのに2人は少したりともきにしている様子はなかった。

 

 

そして賢太は告げたのだ。

2人なら誰にも負けないと。

 

 

呪詛師に堕ちた瞬間から法で守られる事は無くなる。彼等は法によって裁かれるなんて微塵も思っていない、法の存在など意識すらしていない。何故なら彼等を律するものは彼等自身だからだ。

 

 

 

賢太と優子の顔に影が差した。

元々薄暗かった森がだんだんと暗くなっていく。まるで急に日が落ちたようだった。

 

「闇よりいでて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え」

 

その声はただただ冷たくこの場に響き、そして夜を運んで来た。

 

暗い闇の中、背筋を伸ばしはっきりとした意志を感じさせる足取りで2人に近付いてくる者がいた。

 

女だ。170cmを優に超す背丈。喪服と見間違うようなダークスーツを着こなし、手にはビジネスバッグでは無く青白く光る短槍が握られている。顔は暗くて良く見えないが琥珀色の瞳だけが猫の様に光り輝いていた。

 

 

女は10mほど離れた場所で立ち止まると口を開いた。

 

「呪術総監部より狗巻賢太と太田優子の死刑が宣告されています。私は貴方たちの死刑執行人の特級呪術師火那月梅鴉です。……で、本人で間違いないですよね?」

 

女は槍を構えながら淡々と告げる、まるで感情の無い人形のように。その立ち姿に1つの隙もない。

 

 

賢太は必死に頭を動かしていた。相手は最悪の予想を超える特級呪術師火那月梅鴉。呪詛師殺しとして恐れられる最凶の呪術師…。

そんな相手にいくら縛りで強化してるとはいえ自分の呪いはあの女に効くのか?

効いたとして特級相手に呪うと宣言できるのか?

 

いや、相手は俺が狗巻家と知っているなら当然呪言師という事もバレているだろう。それなのに即刻殺しに来ないのは恐らく呪力で耳と脳を覆って対策しているからだ。

俺より後ろの優子を警戒しているのは俺は驚異にならないと思っているからだ。

そして俺の呪う為の条件を知らない。

俺の呪言は呪力で守るだけでは効果がないと…知らない。

 

後ろから優子の視線を感じるきっと合図を待ってるのだろう……いつ女が動くか分からない。時間が無い、そろそろ決めないと。

 

最終的に賢太が下した判断は相手に悟られないように条件を満たし呪い殺す事だった。

 

馬鹿正直に呪うと宣言すればあの女は動き出すだろう、それだけは絶対に避けなければ。怪しいと思わせないようにバレないように。

 

俺はお前を呪う、勝負だ火那月梅鴉。

 

 

「なぁ、最後に聞いてくれよ火那月さんよ…俺は狗巻家の落ちこぼれでね、呪言師なのにろくに相手を呪えない。だからアンタみたいなエリートは大っ嫌いなんだよ!!」

 

賢太はまるで悲劇の主人公のように大きく体を動かし、声を荒らげ、『指を差す』

汚物が賢太の動きに合わせて飛び散った。

 

女は動かない。先程とまったく同じ姿勢のままだ、もしかすると死んでいるんじゃないかとさえ思える。だが俺の事はまだ怪しまれてないようだ。

 

「アンタも心の底では俺を笑ってるんだろ?俺を呪言師と知りながら直ぐに殺しに来ないのはなめているからだろ…は、虫唾が走るね。だから俺はお前のような奴らを毎日欠かさず『呪う』んだよ。憎いよ、出来るならなるべく惨たらしく『死んでくれ』

 

 

条件は満たした。

 

 

女にバレないように自然に目配せをし優子に合図を出す。大丈夫あとは優子が結界を貼ればそれで勝てる。突風がまるで賢太と優子を祝福するように駆け抜けた。

女はまだ動いてない、姿()()()()()コチラを見る様子は人形そのものだ。

 

勝った!あの特級呪術師に!!俺の勝ちだ。ざまぁねぇ結局はあの女も彼奴らと同じだ!落ちこぼれだと馬鹿にして、まるで家畜のように俺を見下す、俺を舐めてかかるからこうなるのだ。

 

 

優子の結界はまだ貼られない、遅い。

賢太は少し苛立ちを覚えたあの女が動く前に早く結界を………

 

 

 

 

 

 

 

 

あの女なんで姿勢を正してコチラを見ているんだ?

 

 

 

 

なんで先程まで握っていた槍が無くなっている?

 

 

 

 

なんで帳が降りているのに突風が吹くんだ?

 

 

 

 

なんで足下の水溜まりが広がっている?

 

 

 

 

どうして…………結界が貼られない?

 

 

 

 

 

 

 

賢太は少しだけ後を見た、優子の顔は無かった。頭を失った優子の体は痙攣しているようにビクッビクッと小さく震え、その度に粘性のある液体を噴き出していた。

 

賢太は慌てて正面に視線を戻す、これ程恐ろしいと思った事は無かった。ついさっきまで持っていなかったはずの槍を持ちこちらに向かって疾走する茶髪の女。火那月梅鴉。それは人形などと可愛らしい物ではなく死神のようだ。

 

優子が殺されたというのに頭は冷静で最適解を導き出した、賢太はカウントダウンを始めた。

優子という絶対的盾は失ったがそれ程痛手ではない。賢太が毎日必ずしていた事、それは回避の訓練だった。相手が特級だとしても10秒間だけなら生き抜く自信が賢太にはあった。

 

『10、9、8』

 

「8」を唱えた時梅鴉は賢太の正面にいた。

槍は正確に人体の急所、心臓貫くために突き出された。

が、賢太は僅かに身体を捻り躱す。

槍は横腹を軽く傷付けるだけに終わった。軽い傷とはいえ凄まじい痛みが賢太を襲うがそれで、欠片も怖じけること無くカウントダウンを続ける。

 

『7』

 

突き出した槍を捻り今度は上へと振り上げた。腕を下から切り飛ばすはずだったがこれもまた避けられた。

 

『6、5 』

 

今度は間髪入れずに喉を切り裂く為に柄を短く持ち横に薙いだ。

躱すため身体を落とした賢太の額を切っ先が掠めた。プシュッという音と共に横に真っ赤な亀裂が入る、あっという間に賢太の顔は血まみれになった。

 

『4、3』

 

梅鴉は槍を持ち直し構える、再び必殺の突きを頭目掛けて繰り出した。

 

『2』

 

突きが来ると予想していた賢太はまた身体を捻り避ける。だが突きはブラフだ。梅鴉は右手で突きを繰り出しながら左手は喉に向かっていた。

 

『1』

 

指が喉にめり込んだ。痛みよりも驚きが勝ったのだろう。あっという表情で賢太の顔が固まる。その顔を今度こそ確実に青白く光る槍が貫いた。

 

梅鴉は遠くから心配そうに見つめる滝沢に手を振ると血溜まりからクシャクシャになった服を拾い肩にかけるそして賢太と優子をそれぞれ両手でもち、ズルズルと引きずって行った。

 

 

 

 

 

梅鴉は青白く光る槍の手入れをしながら先程の賢太と優子の事について考えていた。2人は人の死体の上で抱き合っていた、幸せそうに楽しそうに。きっと人を殺したのに何も思わなかったのだろう。殺された人に家族が居ると知っていたとしても何も思わないのだろうか?

 

いや、本当に酷いのは私だ。

私は3人の事を知っている。

 

狗巻賢太、生きる意味が無いと烙印を押され家を出た可哀想な男の子。

太田優子、孕袋となるぐらいならと呪術界を出た悲劇の女の子。

 

私は2人の素性を知った上で殺しているのに何とも思わなかった……いや、優子は簡単に殺せて良かったと。賢太は想像していたより動けて面倒だなと思った。

 

殺された呪術師千田和人、彼は最近甥っ子が出来たとよく周りに自慢していた。

彼が潰れて死んでいるのを見つけた時、彼の家族が可哀想だなと思っただけ。

 

あぁ…本当に自分が嫌いになる。

 

 

 

頬にぴとっと冷たい物を押し付けられ、思わず体が跳ねる。

 

「私の気配に気が付かないくらい考え込んで居るんですか?」

 

滝沢が子供のような笑顔を浮かべながらコーラを差し出す。梅鴉は槍を横に置き受け取る、缶はとても冷えており火照った体を冷やすのにはもってこいだった。

 

「2人は一般人を40人以上、呪術師を10人以上殺しています。彼等の生い立ちを知った上で私は死ぬべき人だったと思います。」

 

滝沢は真っ直ぐ琥珀色の瞳を見つめる。

 

「千田呪術師の死は残念に思いますが仕方の無い事だと思います。彼は手柄欲しさに独断で先行したのが判断の過ちだったと思います。」

 

滝沢は地面に膝をつき背筋を伸ばすその姿はまさに仕事が出来るキャリアウーマンそのものだ。

 

「呪詛師狗巻賢太及び太田優子の処刑は完了。戦闘の際、2級呪術師千田和人殉職。それだけです、故人を偲ぶのは当人と縁のある人達の特権です。酷い事を言うようですが梅鴉さんは気にしなくていいのです。」

 

滝沢はそう告げると表情を緩め、そして困ったように笑う。その目は慈愛に満ちており、その視線だけで梅鴉は少し楽になった。

 

「まぁ、私がいくらこう言っても梅鴉さんはずっと抱え込むんでしょうね。でも少しは楽になって欲しいです」

 

 

 

ーーもう楽になってるよーー

 

 

 

「行こう滝沢君、報告はお願いします。そして新しいスーツと黒いハンカチを用意しておいて」

「分かりました。あ、そういえば…」

 

カシュッと気持ちの良い空気の抜ける音を立てたあと、梅鴉の顔に甘い水が吹かかる。

 

「滝沢君、今すぐ着替えを用意して。」

「……はい。」

 

 

2018年7月、まだ梅鴉の任務は終わらない。




じゅじゅさんぽ 任務

梅鴉「あとどのくらい任務ってあるの?」
滝沢「あと少しで終わりますよ。」
梅鴉「それこの前も言ってなかった?」
滝沢「あと少しですよ〜」
梅鴉「私もう1ヶ月近く家に帰ってないんだけど」
滝沢「それは私も一緒です。」
梅鴉「あ、はい。」
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