非常に唐突だが、私は魔法少女である。
自称ではなく、本当のやつだ。私は魔法を使うことができる。
変なマスコットっぽい鳥と契約をした時から私は魔法少女に成ったのだ。
魔法少女の目的は、人を助けることである。
怪人やら世界の危機やらと闘う必要は一切無い。ただ、人を助けるだけ。
とても簡単なことの筈だ。
私には、どうしても助けたい人がいる。
「ねえ、しーちゃん」
「ん、どうかした?」
私の唯一の親友で、私がどうしても助けたい人。私が好きな人でもある。しっかり、恋愛対象としての意味での。
「最近、困ってることない?」
「......ないよ?」
「そっか」
「どうしたの急に」
「いや、なんとなく」
「何もないのに。ルカは心配性だね」
「......そうかな」
「絶対そうだよ」
そういって、はにかんで笑うしーちゃんが、むしろ痛々しい。
嘘だ。しーちゃんは嘘を吐いている。私には分かる。しーちゃんは、あからさまに悩みを抱えている。
毎日、彼女と話すから。横顔を、知らずの内に眺めているから。
だから、良く分かる。しーちゃんは、明らかに元気がない。というよりーー、
「ーーどうかした?」
生気がない。目に光が宿っていない。笑っているのに、それでも目は笑っていない。
私以外の子は騙せるかもしれないけど、私は騙せるわけがない。だって、好きだから。ずっと見ているから、演技くらいすぐに見破れる。
嘘の表情。全部が、全部。
私に見せる笑顔も、私と喋るときですら。
「しーちゃん」
「うん?」
「私たち、親友だよね」
「そうだよ?」
これは嘘じゃない。しーちゃんは、私のことを本気で親友だと思ってくれている。
だからこそ、痛いのだ。親友なのだから、その言葉に嘘はないのだから。
「だったら、話してくれてもいいじゃん」
「......え?」
「分かるんだよ。嘘くらい。親友だもん」
「......ルカ」
「悩んでることくらい、分かるよ。話してよ。聞くから、だってーー」
親友だもん。そんなお決まりの免罪符を、また使おうとして。
彼女の表情を見てしまった。
困ったように、笑っていて。
だけど、笑っていない。怒っている。目の奥の、その表情を覗いてしまった。
「嘘ばっか」
そう、彼女は呆れたように吐き捨てるけど。
「......え?」
私は、返す言葉も持っていなかった。
「じゃあ、ルカに話したら、何か変わるの?」
「変えるよ......変えて見せる」
「それも嘘でしょ。たかが中学三年生に、何が出来るの」
確かに、私たちは中学三年生。来月には卒業を控えているとしても、それでも中学三年生。世間から見たら、ただの子供だろう。でも、私は魔法少女だ。ただの中学三年生ではない。魔法で、困ってる人を助ける魔法少女な筈なのだ。
だから、しーちゃんを助けるのは当然で。
そもそもそれを抜きにしても、しーちゃんは親友で、私の好きな人だ。
現実で、目が曇ってしまった彼女に伝えたいことがある。
言葉を、紡ぐ。
「それでも! 頼ってくれったっていいじゃん!」
柄にもなく、大きな声が出た。
それに彼女は驚いて、目を丸くしてーー、
「私は父親に性的暴行を受けてる」
「......ぇ」
「毎日毎日、父親の欲望の捌け口。酷い日には暴力まで振るわれる。ゴムは付けないから、ピルは欠かせない。でも、飲んでるところを見られても殴られる。あの人の顔を見るたびに吐き気が止まらない。とても気持ち悪いのに、私はあの人に縋ることでしか生きることができない」
「......しーちゃん?」
「母親は見て見ぬふり。私のことなんて見えてないみたいに、関わろうとしない。母親らしいことをあの人がしたところを見たことがない。自分で自分の傷に絆創膏を張るのは、ずっと自分の役目だった」
「しー、ちゃん?」
怒っていた。全てを憎むように、彼女は吐き捨てた。
彼女も、柄にもなく大声だった。私は、ひたすらに衝撃の事実に身を震わせることしかできなくて。
「分かった?」
しーちゃんが聞いてくる。
「これが、私の悩み。伝えたところで、どうしようもないだろうけど」
「しー、ちゃん」
もっと、何かかける言葉があったのではないか、と自分でも思う。
それでも、それしか言葉がでなかった。彼女の名前を呼ぶくらいしか、できることがなかった。
「聞くだけ無駄だったね。ルカ」
嘲るように笑う彼女は、もはや私のことは視界に入っていないだろう。
「じゃあね」
丁度、別れ道。
そういえば、今は下校の最中だったか。
歩いていた筈なのに、その実感はいつのまにか消えていて。
『じゃあね』と去り際、彼女が言った言葉ばかりが頭の中で反芻している。
私は彼女の小さくなる背中を、呆然としたまま見つめることができないままで。
「しーちゃん」
親友だから、好きな人だから、私が魔法少女だから、なんだ。
彼女に寄り添う言葉を、私は一切持っていない。
「魔法を、使えばーー」
なんでもできる。なんでも。
だって、魔法だから。彼女の両親を消すことなんて、造作もないことだ。
とても簡単にできる。
だけど、それで彼女は救えるのか。
「......どうすれば」
どうすれば、いいんだろう。
とにかく、しーちゃんに謝って、それからだ。
自分が魔法少女であることを教えて、彼女の望むことなんでも叶えてやろう。
それくらい、彼女に許されても良い筈で。
「しーちゃん」
誰も居なくなった別れ道、小さく呟いた。
彼女に謝るために追いかけるか、躊躇って、止めた。
明日でもいいか、そう妥協してしまったのが間違いだ。
これは、明日になって、彼女が来ない席を疑問に思いながら眺めていたころに担任から伝えられたことだが。
椎名カエデは、どうやら自殺してしまったらしい。
◆
「しーちゃん」
誰も居ない。そんなことは分かっている。
それなのに、呟かずには居られない。
信じられないのだ。
私の隣にいる筈の彼女が、もうどこにもいないことが。
親友だった。好きな人だった。一緒に笑う時間が、なによりも尊かった。
失いたくなかった。私が、一番大切にしていたものだった。
それが、今ではこの世の全てに存在しない。
椎名カエデは、もう居なくなってしまった人間なのだ。
「しーちゃん」
どこにも居ない。だって、死んでしまったのだから。
取り返しが付かないことだ。私は、あのとき追いかけなかった。怖かったから。
それが、全てで。
「しーちゃん」
その決断が、全てだ。
追いかければ、良かった。
もっと、彼女に嫌われても良かったから、それでも彼女が生きてくれるような言葉を、投げかければ良かった。
もっと、なにかあっただろう。
彼女を、助けられる、なにかが。
「しーちゃん」
どうすればいいんだろう。
どうすれば、このもやもやは収まってくれるのだろう。
彼女の両親を殺す?
彼女が憎んだ全てを、私が壊してしまえば良いのか。
隣に彼女が居ないのが、どうしようもなく辛い。
「しーちゃん」
隣に、居て欲しい。
親友だった。それで、好きな人だった。
叶わぬ恋だとは、思っていた。
だって女同士なんて、おかしいじゃないか。
昨今のラブコメでも取り上げられるのは男女間の恋愛だ。
叶わぬ恋だけど、想っていた。
いつか、私の知らない内にこんな不毛な気持ちは枯れ果てて、こんなこともあったんだと、彼女と笑えたらよかった。
白馬の王子さまを、夢想しないわけではなかった。
それでも。
「しーちゃん」
彼女が生きているなら、納得ができた。
幸せを祈ることだって、可能だった。
「しーちゃん」
もう、無理だ。
しーちゃんが居ない世界とか、無理。
だから、私は。
彼女の後を追いかける訳ではなく。
「ーー蘇れ」
◆
それは、魔法だった。
それは、奇跡の代名詞。
それは、人の夢を具現する魔の法則。
「『リザレクション』」
人の死を冒涜するのは、その魔法だ。
あり得ない方向に理屈をねじ曲げる。
自分の願望のために、手段を選ばない。
人は欲にまみれたその少女達を、『魔法少女』と、そう呼ぶ。
◆
「......え?」
唖然とした様子で、その少女は立っていた。
二本の足で、自分で立って、しっかり少女はそこに存在している。
あのときの服装を再現したから、学生服のしーちゃんだ。
誰にも見られないように、一応魔法で自分だけの空間を作ってから。
そこに、彼女を蘇らせた。
「しーちゃん」
「......ルカ?」
感極まって、抱きつこうとして、それでも私は我慢する。
まず、この状況を彼女に説明しなきゃいけない気がしたから。
「......私、なんで生きて」
「蘇らせたの。私が」
「......え?」
「私、魔法少女だから」
「魔法、少女?」
突然の急展開で彼女は着いていけないのか、彼女はうわごとのようにそれを呟くのみだ。
「そう、魔法少女。魔法を使って、人を助ける。都市伝説とかで聞いたことない?」
「いや、そんなの、噂で。いや、それよりもーー」
思考が巡り、ついに彼女は致命的なその一言を言う。
「何で私を生き返らせたの!?」
彼女は、自殺した。
つまり、死にたかったと言うことだ。
「私は死にたかったの! 辛かったから。最後に、ルカに話して、少し楽になって、それで終わり。死んだのに、死ねたのに、何で今更」
「それはーー」
「あのとき助けてくれなかったくせに!」
「しーちゃん」
「頼ったのに、なにも返してくれなかったくせに!」
「しーちゃん」
「何で、今更」
伝えたいことがあった。
なので、私は言うのだ。
「ずっと、好きだった」
「なにをーー」
「好きなの。しーちゃんのことが。ずっと」
「......は?」
「好きだから、何でもしてあげたい。好きだから、死んで欲しくない」
「......」
「私は、魔法少女だから。魔法で、なんでもできるよ?」
そうだ。なんでも、してあげたい。
「じゃあ」
思い付いたように、彼女は呟く。
「父親を、殺してくれる?」
「うん」
「母親も、私はーー」
「もちろん。しーちゃんが望むなら」
そのなんでもに嘘はない。
救えなかった彼女を、今度こそ救うのだ。
唐突に、手からポンッとかわいいエフェクトが弾けて、シュークリームが現れた。
「ルカ?」
「とりあえず、腹ごしらえしよ? 好きでしょ?」
「......うん」
私は、こういうことに魔法を使いたい。
人を助けるだとか、変なことに拘っていた。
あまり使いすぎてはいけないだとか、自分の中に制約を作っていた。
馬鹿だ。
彼女を助けるために、それを使う。
助ける。
そう、そこに偽りはない。
今度こそ、彼女が笑えるような世界を。
「ねえ、ルカ」
「ん?」
「......ありがとう」
その感謝に、嘘はない。
私はこの日、彼女を助けることを決めた。
百合って好きだよな? 好きって言え(豹変)
次のプロットは考えては居ますがよっぽど好評の限り続きません。
では、エタります。