大日本帝国出身の堅物指揮官は今日も誘惑される。   作:気まぐれな富士山

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プロローグ

 

俺は、日本国の兵士だ。

 

『おめでとう。諸君らは晴れて、斉斉哈爾第219部隊、第59連隊第1大隊第1中隊に配属された。米英の各国を墓場へ送り、我が大日本帝国を勝利へ導くのだ!』

 

最後の最後まで戦った。

 

『アンガウル島、ですか…………』

『そうだ。1200人ほどの兵と共にアンガウル島に向かってもらう。ここは戦争の重要な拠点だ。』

『………………わかりました。』

 

死令を課せられ、こんな地獄に送られても生きた。

腹に蛆がわいても、手榴弾で自決しようとしても死ねなかった。

 

『俺は………まだ死ねない…………!祖国の為、この命使い切るまで!』

 

愛する祖国を、神国日本を守れるなら。

俺の命など安い。

 

そう、誓ったはずなのに。

覚悟を決めて、突撃したのに。

 

『お前は生きなければならない。生きる英霊となったお前が、何故死ぬ事が許される?』

 

思ってしまった。

生きたいと。生きねばと。

 

(俺は…………恥さらしなのだろうか。家族に合わせる顔は…………あるのだろうか。)

 

 

 

 

「おい喜べ!お前をジャパンに返す見通しがついたぞ!これでお前を祖国に……………」

 

1人の米兵が捕虜の部屋に駆け込んだ。

しかし、そこに日本兵の姿は無かった。

ベッドの隣の小棚には、日本兵と米兵のツーショット写真があった。

 

日本人は、左頬に縦の傷、顔を断つような横の傷が鼻を通り、その顔は正しく軍人というような顔立ちだった。

アメリカ人は、金髪の髪に青い目、白い肌の美しい青年だった。

 

昨日まで、生きることについて語っていた友の姿はそこに無く、空いた窓から風が吹き下ろしていた。

 

「…………バカ野郎。」

 

死体も発見されなかった日本兵は、『日本のアンデットウォリアー』『最凶の兵士』として、日本国内、アメリカでも英雄として称えられた。

ある日突然失踪した彼は、一体どこへ行ったのか。

 

 

 

「…………………!ここは…………」

 

見知らぬ天井。アメリカ軍の病院にしては和風が過ぎる。だとすればここは日本か。いや、あそこまでやっておいて、日本に帰れるはずもない。

 

「おや、お目覚めになられましたか。」

「む………………」

 

振り向くとそこには、栗色の髪に紫の瞳。

そして、美しい毛並みの尻尾と耳をもった、天女がいた。

 

「海岸にて倒れているところを救護致しました。あれのほどの重症で蘇られるとは、恐れ入ります。」

「…………救護?俺は死んだのではなかったのか。」

「はい。」

「…………ここは黄泉の国でもなければ、地獄の釜の底でもないということ、か?」

「ええ、そうなりますね。」

「なら、お前は、いや、あなたは何者だ。九尾の狐が、俺を蓬莱の国にでも運んだのか。」

「九尾…………ああ、確かにこの姿ではわかりませんね。」

 

九尾の麗人は立ち上がり、指を鳴らす。

すると、粒子の中からサイズの小さな遊撃砲、対空砲などの艦船装備、艤装が現れた。

 

「申し遅れました。私はKAN-SEN、天城型巡洋戦艦のネームシップ、戦艦、天城と申します。以後、お見知り置きを。ゴホッゴホッ………失礼、体が弱いものでして…………」

「いや、気にしなくていい。なんとなぁ…………艦船の付喪神ということか。やはりここはあの世か………」

「すぐに自分を殺さないでください。ほら、これが現実ですよ。」

 

そう言うと、天城は後ろに振り向き、九つの尻尾を彼の顔に向ける。

その尻尾は、艶があり靱やかで、ほんのりと温かみを帯びた物だった。

 

モフ…………モフモフ…………

 

「むぅ………」

「これでわかっていただけましたか?」

 

スっと尻尾をしまい、天城は元の椅子に戻る。

 

「そこまで死に固執するとは、一体今までどんな戦場をくぐり抜けたのですか?」

「戦場…………モンゴルの国境と、アンガウル島には行ったことがある。というか、俺はつい先日までアメリカ軍病院にいたはずだが。」

「アメリカ…………?聞いたことの無いですね。」

 

天城のその発言に、違和感を覚えた。

 

「聞いたことがない?そんなはずはないだろう。大国アメリカだぞ?世界の半分を英国と支配していた国だ。天城殿の格好や言語は、確かに日本のものだ。なら、アメリカを知らぬ筈はないだろう。」

「ニホン…………その様な名も聞いたことがありませんね。」

「馬鹿な!?あれほどの被害をこうむって知らぬ存ぜぬはないだろう!…………もしやここは、日本ではないのか?」

「はい。この国の名は重桜。和と精神の国、重桜でございます。」

 

目の前がクラっとした。

重桜?日本ではない?何がなんだか…………

頭がパンクしそうだった。

しかし、そんな彼がとった行動は……………

 

「そういう、ものか。」

 

情報量に圧倒されず、柔軟に対応する。

つまり、開き直ることだった。

 

「私も、あなたの境遇には興味があります。しばしの間、お話という形で、知識交換と参りましょう。」

 

天城は語った。

重桜という国の生い立ちを。

神子の存在を。

ミズホの神秘を。

この国の者なら全てが知っていることだが、彼には衝撃的だった。

 

「…………以上が、重桜という国、そして現在の立場でございます。」

「ふむ………俺の中の常識が崩れていくな。まぁいい。して、次は俺の番だな。」

「日本、という国。見たことも聞いたこともありません。是非にも、お話をお聞きしたく願います。」

「うむ。歴史や文化は対して変わらんが…………」

 

彼は語った。

日本という国の成り立ちを。

大日本帝国軍についてを。

軍縮による様々な戦艦の始まりと終わりを。

天城と同じ名前の戦艦についても伝えた。

 

「なるほど………そちらでも、天災に倒れていたのですね、私は……………」

「その後、第二次世界大戦が開戦し、赤城が空母に改装された。しかし…………」

「なにか、あったのですか。」

「…………ミッドウェー沖にて、アメリカ軍と戦闘状態に入り、我々の軍は多大な損傷を受け、赤城、加賀、蒼龍、飛龍を潰された…………」

「っ、それは…………」

「その後、主要艦船の数々を破壊され、我が国は敗北に向かって行ったんだ。」

 

終戦までのことをアメリカ兵から聞かされた彼は、思わず納得したという。

 

「日本は、広島と長崎に新型爆弾を投下され、敗北したんだ。………俺が知るのはここまでだ。」

「………申し訳ありません。辛いことを話させてしまって…………」

「いや、構わない。」

「しかし、これで大体わかりましたわ。あなたの身柄は重桜が責任をもって保護します。構いませんか?」

「ああ。世話になる。俺に出来ることがあれば、何でも言ってくれ。」

「では、重桜KAN-SENの寮舎の掃除をしてもらいましょう。他の子たちには私から説明しますわ。」

「何から何まで、ありがたい。」

「まぁ、先ずは傷を癒してくださいませ。その傷、かなりの重症ですわ。」

「大丈夫だ。明日には走れるようにまでなる。いや、そうする。」

「ですから無理は………はぁ。あなたに言っても無駄なようですね。」

 

天城は立ち上がり、部屋から離れようとする。

 

「そうだ。まだあなたの名前を聞いておりませんでしたね。」

「あぁそうだったな。俺の、名前は…………?」

 

すると、彼に異変が起こる。

 

「俺の………名前…………すまない、思い出せない。」

「なんと…………記憶障害でしょうか…………」

「ううむ…………すまない。」

「良いのですよ。元の場所に戻る方法も、我々の方で何とか致します。」

「何から何まで…………すまない。」

「謝らないでください。あなたの先程の会話や、語呂の形から、恐らく数十年前の重桜と似ています。その頃の重桜と言えば、まだ武士の文化を重んじていたはずですよ。武士であれば、軍人であれば、謝罪ではなく感謝を述べるべきですわ。」

「そうか…………では、ありがとう。あなたの計らいに感謝する。」

「フフ♪それこそ強き大和男子ですわ。あなたには、しばらく重桜施設の掃除などをお任せします。一応は、用務員さんとでも呼びましょう。」

 

用務員。

擲弾筒部隊の分隊長、陸軍軍曹からかなりの降格だったが、本人はあまり気にしていないらしい。

元々、戦うことしか脳がなかったからそこまで気にしていなかったが、用務員となると中々意外だった。

 

「まあ、やれることをやってみせよう。」

 

重桜に、新たな風が入った瞬間であった。

 

この人物が、後に生きる英雄となることは、まだ先の話……………

 

 

 

 

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