大日本帝国出身の堅物指揮官は今日も誘惑される。   作:気まぐれな富士山

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第2話

 

ここは、重桜の保有するリゾート島。

 

通常なら、多くの人々が楽しむためのリゾート地だが、その島は異様にも、数多くの戦艦が周回している。

 

軍関係者でも上層部の者しか立ち入ることの許されない

VIPのための施設だ。

 

そんな施設でも、やはり十数名の従業員はいる。

 

「128……129……130……131…………」

 

従業員宿舎から500mほど走った所にある穴場のような海岸。

そこで、一人の男が木刀を振っていた。

 

「254……255……256……257…………」

 

上裸になり、引き締まった体で刀を振る彼の胴体には、幾つもの銃痕と切り傷、そして大きく広がり、焼け爛れた痣があった。

顔には十字の傷、そして首にも銃痕があった。

 

「762……763……764……765…………」

 

まだ早朝5時ほど。

水平線から太陽が顔を出し始めた。

日光を浴びた彼の元に、一人のKAN-SENがやってきた。

 

「おや、先客が居たか。」

「む………すまん。すぐに片付けよう。」

「いや、構わぬ。私も、1人ではつまらないと思っていたところだ。しばらく付き合おう。」

「そうか………では。852……853…………」

 

彼女の名は高雄。

重桜内では名を知らぬ者はいないほどの剣の名手。

艦船にしては珍しく刀を主に使い、日々武道に励んでいる。

 

「………その体格と腕前から察するに、かなり長く武道をやっているのではないか?」

「お察しの通りだ。ガキの頃から剣道と柔道をやっていてな。21の頃に軍人になった。それからは剣道くらいでしか木刀は握っていない。戦争では使わなかったしな。」

「戦争?馬鹿な。民間人から徴兵するような戦争は、我が国では行われていないはず………まさか、あなたが天城殿が言っていた人物か!道理で見ない顔だと………」

「あの人に俺は命を救われたらしい。今は、こうしてこの島で従業員を務めている。1000………さて、俺はもう用事は済んだ。まだ、何か用か?」

「フ、そこまでの肉体。そして先の慣れた手つき。武士なら高揚せぬ者はいない。どうだ、一本試合と行かないか?」

「…………構わんが、やるなら本気で行くぞ。」

「当然だ。では、始めようか。」

 

そう言うと、高雄は持ち歩いていたケースから木刀を取りだし、構えた。

 

「…………………」

「…………………」

 

それは、まるでレーダーを用いた潜水艦のように。

お互いの間合いに入った瞬間始まる。

ジリジリと近寄る両者。

そして今、両者の間合いが触れる。

 

「フッ!」カンッ!

「ムンッ!」

 

先に攻めたのは高雄だった。

右からの胴撃ちを防がれるも、素早く体勢を立て直し、果敢に攻める。

 

「ハァッ!」

「くっ!この………っ!」

 

彼も負けず劣らずの勢いで打ち返す。

その技量は拮抗しており、遂には力勝負に持ち込まれる。

 

(技量においてはこちらが劣勢!であれば、鍔迫りに持ち込み、力で押しつぶす!)

(強大な力で押し潰さんとしてくる………化け物のような女だな。鍔迫り合いになればこちらが負ける。なら、仕掛けて一本に持っていく!)

 

「そこっ!」

「甘い!」

 

ズザッ………!

 

お互いに距離を取り、再度構える。

正しく虎と龍。木刀でありながら、そこには真剣を握ったかのような凄みがあった。

 

「次で………行かせてもらう。」

「ほう、真正面から向かってくるか。ならば、我が一撃受けてみよ!」

 

すると、両者独特の構えをとる。

高雄は、鞘に収めるように木刀を構え、居合切りを狙っている。

対する彼は、持ち手と刀身を握り、まるで銃剣のような構えをとる。

 

「ハッ!」

「来いっ!」

 

単身での銃剣突撃。

高雄の間合いに入れば、即、頭を砕かれる程に体を縮め、突撃する。

 

「愚かな…………それでは当たらんぞ!」

「………………」

 

彼の止まる様子は無い。

 

(何か策が……?いや、こちらの全力で振り切る!)

 

木刀を抜刀し、思い切り振り抜いたその時。

 

「……………今っ!」

「なっ!?」

 

なんと彼は、突進の姿勢から、足を上げて宙返りし、居合切りを避けるという荒業を披露した。

 

(私の抜刀を完全に避ける自信があっての特攻策か!なるほど、これは…………!)

 

刀を振り切った高雄に為す術は無く、そのまま地面に蹴落とされ、切っ先を喉元に突きつけられる。

 

「………………参った。降参だ。」

 

流石にここから返す手段は無く、高雄は両手を挙げる。

すると彼は、すぐに足を退けて、手を差し出した。

 

「…………大丈夫か。女子相手に手荒な真似をしてしまった。」

「世辞は止してくれ。戦っている時のそなたは、完全に武士の顔をしておったぞ。」

「……………そうだな。戦いとなるとつい、我を失ってしまうのだ。」

「名乗りが遅れたな。拙者の名は高雄型重巡洋艦のネームシップ、高雄だ。よろしく頼む。」

「なんと、かの重巡洋艦高雄だったか。ということは、二番艦の愛宕も…………?」

「ああ。今日は宿にて休息をとっている。私も同様だ。軍の指令部から、休暇を貰ってな。」

「そうか…………。高雄殿の太刀筋、見事だった。特攻が外れていれば、俺も為す術なく殺られていた。」

「まさか居合を避けられるとは思わなんだ。私もまだまだ精進せねばな。」

 

朝日の中、二人で楽しく語った。

刀のこと、武道の精神のこと、その他諸々⋯⋯⋯⋯

するとそこに、もう1人KAN-SENがやってくる。

 

「あら、お邪魔だったかしら。」

「愛宕。いや、たまたまここで話していただけだ。」

「そう?それならいいけど。初めまして。私は愛宕よ。よろしくね。用務員くん。」

「知っていたのか?」

「天城さんが、顔に凄い生傷のある人って話していたから、すぐに分かったわ。あなたの事情も伝わってるわよ。何かあったら、お姉さんに相談して頂戴ね。」

「⋯⋯⋯⋯感謝する。」

「あらあら、随分と無愛想なのね。それに堅物。それじゃ、女の子が逃げちゃうぞ?」

「すまない。昔から、表情を意識したことが無かったもので。なるべく、笑顔を意識しているのだが⋯⋯⋯⋯」

「フフ♪あなたが頑張っている姿、想像するとカワイイわね♪」

 

ちなみに、彼はまだ20代後半だ。

愛宕からすれば、まだまだ子供対象なのだろう。

 

「それで、要件はなんだ。今日は休暇のはずだが。」

「⋯⋯⋯⋯指揮官から緊急の呼び出しよ。」

「チッ⋯⋯⋯また巫山戯たことを抜かすか⋯⋯⋯⋯」

 

指揮官、と言えば、艦隊の最高責任者だ。

通常であれば、信頼と実績に合った者が配属される。

しかし、彼女達の雰囲気から察するに、現在の指揮官はあまり良くないらしい。

 

「この前、また下の子たちがまたセクハラされたのよ。泣きながら私の元に寄ってきたわ。可哀想に⋯⋯⋯⋯」

「彼奴め⋯⋯指揮官といえど生かしておけぬ!」

「ダメよ高雄。彼がキューブの管理権を握っているのは事実でしょう。それに、もう若い芽は刈り取られているらしいわ。徹底的に自分が頂点でなくては気が済まない主義なのよ。」

「クソ⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「誰か、アイツの手の届かない優秀な人物がいればいいのだけど⋯⋯⋯⋯」

 

すると、愛宕と高雄の目が合う。

 

「⋯⋯⋯⋯考えていることは同じみたいだな。」

「そうね⋯⋯⋯⋯あまり気が進まないけど⋯⋯⋯⋯」

 

そう言うと2人は、彼の方へ向き、頭を下げた。

そう。都合のいい相手が、目の前にいるのだ。

重桜関係者で、権力の息がかかっていなくて、武力においても経験においても優秀、そんな人物が。

 

 

 

「俺が、指揮官の代理になれと?」

「どうにか、頼めないだろうか!」

「今の重桜には、あなたしかいないの!」

 

その顔は必死だった。

藁にもすがる思いで頼んできたのだろう。

 

「どうか、この通り⋯⋯⋯⋯!」

「高雄⋯⋯⋯⋯っ、この通りよ!新しい指揮官を見つけるまでの間だけだから!」

 

額を地面に擦り付ける。

大和の国民がする最大級の懇願、土下座をされたのだ。

一体どうすればよいのか、頭の中が混乱した。

そんな彼が、選んだ選択は_______________

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯引き受けよう。」

「ッ!本当か!?」ガバッ

「ああ。元々捨てるはずだった命だ。何かの役に立てるなら、是非とも。」

「本当に!?あぁ、ありがとう!お姉さん嬉しいわ!」

「ムブッ!?」

 

本当に嬉しかったのだろう。

愛宕は嬉しさのあまり、なんと抱き寄せてきたのだ。

愛宕の豊満な乳房が彼の顔面を包む。

 

「お、おい愛宕!その辺に⋯⋯⋯⋯」

「あ、あらごめんなさい!さっき合ったばかりの人なのに、破廉恥だったわ⋯⋯⋯⋯」

「か、構わない。⋯⋯だが、何故俺なんだ。」

「一応、天城さんに言われた段階から頼もうかなって思っていたの。あの人が、『信頼出来る優秀な人』って言ったら、まず間違いないから。」

「天城殿は、重桜内部でも信頼が厚いのだな。」

「当然よ!天才的な軍師だわ。赤城や加賀を超えるほどの権力を持つ重桜の重鎮よ。」

「しかし、そんなことだけで決めるとは思えない。何か深い理由があるのでは?」

「そうねぇ⋯⋯⋯⋯」

 

高雄は手を合わせたので分かるが、愛宕が乗る気持ちが全く分からない。

何か策でもあったのだろうか。

 

「オンナの勘、といったところかしら?ウフフ♡」

「むう⋯⋯⋯⋯そう言われると立つ手が無いな。」

 

勘、というものはよく当たる。

特に女の勘は、男の勘の遥か上を行く。

故に、愛宕のセリフは彼を黙らせるには十分だった。

 

「準備はこちらでするわ。あなたは、期待して待っていなさい。赤城にも相談してみるわ。」

「ああ。私の方からも上層部に打診しておこう。」

「助かる。何か出来ることがあれば、いつでも言ってくれ。出来る範囲で行動する。」

「わかったわ。フフ、何だかワクワクしてきちゃった!お姉さん頑張っちゃうわ!」

 

ウキウキと跳ねる愛宕の姿は、妖艶で色気がありながら、元気で可愛らしかった。

 

「そうだ、愛宕。早く行かなければならないのではなかったのか。」

「あぁ、そうだったわね⋯⋯⋯⋯いい?何かあったら理由をつけて逃げてくるのよ。」

「わかっている。いくら指揮官といえど、そこまで手を出すとは⋯⋯⋯⋯思いたくない。」

「⋯⋯⋯⋯その指揮官とやらは、一体どんな男なのだ。随分と熱烈に歓迎されているようだが。」

「冗談でもそんなことを言われたくないな。クズの一言に尽きる。」

「ええほんと。指揮官としての仕事は指令部に丸投げ。ろくに仕事もせず権力を振りかざして、KAN-SENへのセクハラ、部下へのパワハラetc⋯⋯⋯⋯顔も体型もタイプじゃないし、もう最悪よ。」

「せく⋯⋯⋯?どういう意味だ。」

「要は、上司からの性的な嫌がらせよ。KAN-SENは全て女性だから、そういう目で見てくる輩は多いのよ。ま、力でKAN-SENに勝てる訳ないんだけどね。」

「なるほど⋯⋯⋯⋯む、そうなると高雄殿は先程、手加減をしていたのか。」

「いや!そういう訳では⋯⋯⋯⋯艤装の有無で調節が効くんだ。本気で打てば、その⋯⋯⋯⋯恐らく木刀諸共腕を砕いていたかも⋯⋯⋯⋯⋯⋯騙すつもりは無かったのだ。申し訳ない⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯ちょっと待って。あなた、高雄と試合を?もちろん、高雄が勝ったのよね?」

「残念だが、私の負けだ。あの剣術⋯⋯⋯⋯いや、あれはむしろ銃剣術だな。木刀ではなく模擬銃剣であれば、決着はもっと早かっただろう。まさか、拙者の居合を避けられるとはな⋯⋯⋯⋯」

「い、居合を!?避けられるの、そんなもの⋯⋯⋯⋯」

「まぁ、な。」

「⋯⋯⋯⋯もう何もツッコまないわ。兎も角、用意が出来れば私の方から連絡するわ。あなたは今まで通り、用務員としての仕事を全うしてちょうだい。」

「了解した。では、また。」

 

その場で2人と別れ、彼は職場へ向かう。

時刻は、もう間もなく8:00。

 

 

 

 

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