大日本帝国出身の堅物指揮官は今日も誘惑される。   作:気まぐれな富士山

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第3話

 

元々居た陸軍とは無縁である海軍の指揮官代理になって欲しいと頼まれて2日後。

 

「⋯⋯⋯⋯まだ、起きないのか。」

「Zzzz⋯⋯⋯⋯」

 

彼は、白髪獣耳に9本の尻尾をもった美女をおぶっていた。

その豊満な乳房を彼の肩甲骨に惜しみなく押し付ける。

 

「どうしたものか⋯⋯⋯⋯」

 

事の発端は30分ほど前。

 

 

 

「今日は草刈りか⋯⋯⋯⋯本当に人手が足らんのだな。」

 

そう思いつつも、芝刈り機の電源を引き、エンジンが軽快な音を立て、丸い刃が回転し始める。

綺麗に草を整えていくと、少し先の木の下で眠っている何かがいた。

 

「音を立てては迷惑か⋯⋯⋯⋯他の場所に行くとしよう。」

 

 

 

「残るはここだけか。しかし⋯⋯⋯⋯これは、起こしてよいものなのか⋯⋯⋯⋯」

 

目の前の美女は、肩まで着物を下ろしており、豊満な胸元をさらけ出している。

言ってしまえばいつ襲われてもおかしくない無防備な格好なのだ。

 

「致し方なし、か。」

 

肩を軽く叩き、謎の白髪獣耳美女を起こす。

 

「んにゅ⋯⋯⋯⋯む⋯⋯⋯⋯」

「急に起こしてすまんが、そこを退いてくれんか。草を刈らなければならん。」

「あ⋯⋯あぁ、すまぬ。陽気が気持ちいいもので⋯⋯⋯⋯ふあぁ⋯⋯⋯⋯すぐに退くとしよう。」

「気持ちの良い所をすまないな。」

 

美女は木の裏へ行き、彼は再び草刈りを始める。

 

ジッ「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

ウィィィィィン「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 

何だか凄く見つめられる。

あまり気にしないように草刈りを済ませる。

 

「ふぅ⋯⋯⋯⋯こんなところか。」

ジッ「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯そんなに見つめられても困るんだが。」

「⋯⋯⋯⋯(そなた)は、別の世界から来たのか。」

「ん?知っていたか。天城殿から何か聞いているのか。」

「いや、天城からは何も⋯⋯⋯⋯あ、申し遅れた。(わたし)は、信濃。特殊な眼を持っている者だ。世界を見渡せる⋯⋯⋯⋯もう少し、見せて貰えるか。」

「見る?構わないが⋯⋯⋯⋯」

 

すると信濃は、彼の顔に手を添え、目と目を合わせる。

 

「何を⋯⋯⋯⋯」

「少しだけ待ってくれぬか⋯⋯⋯。⋯⋯ッ!これは⋯⋯⋯」

 

どんどんと信濃の顔色が曇っていく。

次第には青ざめて行き、片膝をついて口を抑えた。

 

「おい、どうした。立てるか。」

「う、うぅ⋯⋯⋯⋯気分が⋯⋯⋯悪い⋯⋯⋯⋯」

「少し木陰に移動するぞ。」

 

信濃を軽く持ち上げ、背中におぶさる。

 

「どこか木陰は⋯⋯⋯⋯あそこか。」

 

小走りで移動し、信濃を下ろそうとする。

しかし、

 

ガシッ「うぅ⋯⋯⋯⋯」

「くっ⋯⋯⋯⋯これが、KAN-SENの力⋯⋯!」

 

上の空なのか、青ざめたまま腕を解こうとしない。

 

「だめだ⋯⋯⋯⋯それは⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯うなされているのか。では、起こすのは酷だな。」

 

しばらくの間、おぶっていることになった。

 

 

 

「⋯⋯⋯⋯ん、んん⋯⋯⋯⋯」

「起きたか。やれやれ、下ろすのは大変だったぞ。」

 

信濃が目を開けると、そこは近くのベンチ小屋だった。

 

「汝⋯⋯⋯⋯」

「暫くうなされていた。あそこで倒れたからここまで運んだが、どうだ。」

「体調は、問題ない⋯⋯⋯⋯」

「そうか。それじゃあ⋯⋯⋯⋯」

 

彼は、信濃の胸元を指さす。

 

「そろそろ離してくれ。」

「?⋯⋯⋯⋯ハッ、すまぬ⋯⋯!」

 

無意識に彼の手を谷間に埋めていた。

 

「む、無意識であった⋯⋯!申し訳ない⋯⋯⋯⋯」

「いや、構わん。」

 

彼は目を逸らし、ベンチに座る。

そんな彼を見て、信濃は何を思ったのか。

 

「可哀想に⋯⋯⋯⋯」

 

彼の頭に手を置き、優しく撫でたのだ。

 

「何を⋯⋯⋯⋯」

「汝の世界を見た⋯⋯あそこまで美しい国は、この世界には存在しない⋯⋯そして、汝はよく頑張っていたからな⋯⋯⋯せめてもの労いを⋯⋯⋯⋯」

 

彼はハッとする。

軍人として闘った。それが国のためと思っていた。

それは日本男子として当然のことであり、死ぬことを何よりの名誉としていた。

その事に、誰一人違和感を感じなかった。

 

「よしよし⋯⋯⋯⋯よく頑張った⋯⋯⋯⋯」

 

褒めず讃えず、誇りを保って生きてきた。

なら、自分は死のうとしなかったのか。

命を、手放そうとしなかったのか。

 

「⋯⋯⋯⋯助かる。」

「良ければ、膝も空いているぞ⋯⋯⋯⋯?」

「⋯⋯⋯⋯すまん。」

 

答えは見つからない。

きっとそこには、色々な思いと考えがあったのだろう。

しかし、今の自分には()()()()()だ。

 

「よしよし⋯⋯⋯⋯よしよし⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 

正解の無い問いを、今だけでも忘れたい。

その思いのまま、彼は意識を手放した。

 

 

 

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯ハッ。ここは⋯⋯⋯⋯」

「Zzzz⋯⋯⋯⋯起きたか、汝⋯⋯⋯⋯」

「信濃殿か⋯⋯すまん、このような事を。」

「構わない。元々は、妾が勝手にしたこと⋯⋯⋯⋯」

「そうだったな⋯⋯⋯⋯そういえば、何故あの時気絶したのだ?俺の国を見たと言ったが⋯⋯⋯⋯」

「あの戦争は、妾には耐えきれなかった⋯⋯⋯⋯未来が、世界が見えるのに、何も出来ぬ不幸⋯⋯⋯⋯何も出来ぬまま、未来も見れぬ不幸⋯⋯⋯⋯汝は、両方を味わったのだな⋯⋯⋯⋯」

「その様子だと、俺の過去を見たのか⋯⋯⋯⋯大分衝撃が強かっただろう。」

「しかし、十分な見聞も得れた⋯⋯⋯⋯それに今、妾には新しい希望が見えたのだ⋯⋯⋯⋯」

「希望?⋯⋯⋯⋯やはり、お前もか。」

「うむ⋯⋯⋯⋯これは最早、レッドアクシズとしてでは無く、重桜として向かわなければならぬ⋯⋯⋯⋯そのためにも⋯⋯⋯⋯」

 

信濃はスッと立ち上がった。

物凄い大砲(意味深)を持ちながらバランスの合った上半身に、すらりとして、細く繊細な下半身。

そして9つの尻尾に狐耳。

まじまじと眺めるのは、初めてだった。

そして、ぺこりとお辞儀をする。

 

「妾達の⋯⋯指揮官と成ってみては如何だろうか⋯⋯?」

 

まさかの2度目の指揮官スカウトだった。

 

「⋯⋯⋯⋯またその話か。既に承諾済みだ。愛宕や高雄から連絡を貰っている。」

「愛宕に、高雄⋯⋯⋯⋯あの者たちも動いているということは、一航戦の耳にも入っているだろう⋯⋯⋯⋯天城はやはり話がわかる⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯なあ、毎度から気になっていたんだが、今の重桜では無理なのか。余所者が手を加えるなど⋯⋯⋯⋯」

「無理だ⋯⋯⋯⋯と言い切るのは難しい⋯⋯⋯⋯妾たちが汝を選んだのは、恐らく『無理だから』ではなく、汝が『出来る確率が高い』からだろう⋯⋯⋯⋯今の重桜で新たな芽を探すのは難しい⋯⋯⋯⋯ならば、最短であのような戦争に向かわぬ方向を見つけなければ⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯合致した。それならば、俺も自信を持てる。」

「汝は、強く逞しい。その身で重桜の光となることを、妾は信じている⋯⋯⋯⋯ふあ⋯⋯⋯⋯そろそろ帰らねばならぬ⋯⋯⋯⋯また、おぶってくれませぬか⋯⋯⋯?」

「ちょっとだけだぞ。⋯⋯⋯⋯ほら。」

 

指揮官になり、自分がやりたいことは見つからない。

しかし、少しでも恩人達に恩返しが出来るように。

そして、日本と同じ道を辿らぬように。

彼はただ、それだけを思っていた。

 

「ありがとう⋯⋯⋯⋯Zzzz⋯⋯⋯⋯」

「え、ちょ、おい。この状況で寝るのか。」

 

ふりだしに戻る⋯⋯⋯⋯⋯⋯

 

 

 

 

「あれがあなた達の推薦する指揮官⋯⋯⋯⋯」

「ええ。悪くない話じゃないかしら?」

「拙者達は、彼は信頼に値すると見込んだ。お前たちの目にはどう映る。赤城、加賀。」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 

ビルのベランダから公園の彼を見つめる四人。

何故か信濃を背負っているが、真っ直ぐにこちらへ向かってくる。

その瞳に曇りは無く、いかがわしい思考は感じられない。

 

「あれが天城さんの薦めた指揮官か⋯⋯⋯⋯」

「そなたも感じぬか?あの者の気⋯⋯⋯⋯私も対峙したが、恐るべきものだ。」

「フ、お前が言うのならそれなりの腕なんだろうな。」

「どう?かなりいい人でしょ。⋯⋯⋯⋯赤城?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯いえ、何でもないわ。指揮官として重要か重要でないか、見定めるにはまだ早いから⋯⋯⋯⋯ウフフ⋯⋯⋯⋯♪」

 

不敵に浮かべたその笑みは、期待が叶うか、失望に堕ちるか。

彼の運命のトリガーが、動き始める。

 

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