大日本帝国出身の堅物指揮官は今日も誘惑される。   作:気まぐれな富士山

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2024/02/05 コメントで指摘のあった箇所を修正しました。


第5話

某リゾート島、会議室にて、重桜の重鎮たちが一同に集っていた。

今回の悪徳中尉・中将の連続解雇により、新たに配属された重桜軍艦隊の指揮官が来ると聞きつけ、緊急会議に参加した者も多い。

今回の騒動は、民衆にも海軍の一大事として知れ渡っているため、騒動の根幹を抑えなければならない。

指揮官とは、艦隊の総指揮だけでなく、表舞台で海軍のイメージとして働くことも必要なのだ。

 

ガチャ「指揮官殿、入られます!」

 

重鎮たちは見定めなければならなかった。

あの赤城が推薦するほどの人物とは、一体どんな人物なのか。

 

「失礼します。」

 

入ってきたのは、顔に大きな十字傷と頭にガーゼをまかれ、指の先まで結ばれ、全身を包帯で包まれた軍人だった。

KAN-SENを3人、しかも一航戦を連れている。

 

「君、名前は?」

 

重鎮の1人が問いた。

 

「はっ。自分は……………」

(頼むわよ、指揮官くん!)

(この赤城、信じていますわ。指揮官様…………)

 

経緯は、20分ほど前に遡る。

 

 

 

「偽名を使う?」

「はい。さすがに名前を名乗らないのは不味いので、偽名を作った方がよろしいかと。」

「偽名か…………」

「なんだか威厳のある名前がいいわよね。奇を衒って、龍って1文字でもいいんじゃない?」

「いや、それなら虎の方が強そうだろう。」

「鮫とかもいいんじゃない?」

「鷲、鷹もいいな……………」

「こら2人とも。指揮官様の意思が一番でしょう。指揮官様は、どんなのがいいですか?」

 

彼は顎に手を当てて考えている。

 

「指揮官様?どうかなさいました?」

「あぁ、すまん。少し考えていた。偽名………少し提案がある。」

 

3人が耳を傾ける。

 

「俺の記憶の中にある、友の名前をつけたい。」

「指揮官のご友人ね。個人的に気になるわ。」

 

すると彼は、端的に、しかし誇るように語った。

 

「奴は、誰よりも国を思っていた。頭脳派で、理詰めが得意だった。軍に入らず帝国大学に行き、本気で国防のことを考えていた。」

「その、ご友人のお名前は………?」

 

懐かしそうに上を向く。

思い出す友との思い出。

愛刀を渡し、また共に酒を飲む約束をした男。

その、友の名は。

 

「三島。三島由紀夫だ。」

 

彼は知らない。

その友人が、後の日本に大きな影響を与え、伝説の人物となることを。

 

 

 

 

 

「はっ。自分は、重桜総艦隊司令本部にて、本日より配属されました。三島由紀夫大佐、27歳であります。」

「三島………聞いたことの無い名だ。経歴は?」

「その事については私がお話致しますわ。」

 

赤城が前に立ち、説明を始める。

 

「三島大佐は、幼少期にユニオン領へ渡り、陸海空軍学校を最年少の19歳で卒業。語学力、指揮判断力ともに申し分なく、今回の緊急事態に乗じて私がスカウトいたしましたわ。」

「赤城君が?君たちはどういう関係なのかね。」

「先日の艦隊演習の際に知り合いまして、個人的に次期指揮官候補として考えていたのですわ。今回の緊急事態に乗じ、ダメ元で打診したところ、快く引き受けて下さいましたわ。」

「なるほど……………赤城君のスカウトなら、安心かもな。」

 

大方の出席者は納得している様子だ。

見た目からも経歴からもそれは滲み出ていた。

 

「少しいいか。」

 

スっと手を挙げたのは、一番奥に座る老兵だった。

 

「伊方長官様、どうなさいました?」

 

彼は伊方吾郎長官。

重桜政府海軍省KAN-SEN部門の最高責任者だ。

彼の言葉、一つ一つにかなりの年季と貫禄、そして重要な意味が詰まっている。

 

「三島大佐。貴君の経歴はよくわかった。しかし、その傷はなんだ。君のその顔立ちでは、まるで戦場を走り抜けた戦士のようではないか。それに、ユニオンの陸海空軍学校と言ったな。であれば、なぜ我が重桜に帰ってきたのだね?」

 

赤城の説明から穴を抜く適格な質問。

 

「それは…………」

「よい、赤城殿。俺の方からお話する。」

 

赤城が代弁しようとしたのを抑え、彼は語った。

 

「19で卒業した後、私はユニオン陸軍に入り、南方の紛争地域へと派遣されました。この傷はその時のものです。」

「おいおい、ちょっと待ちたまえ。君は海軍ではなかったのかね?」

「海軍部でも成績は納めましたが、私は陸軍に興味があったので陸軍に志願しました。そして、24の時に紛争地域を命からがら生き延び、我が祖国に帰国しました。」

「では、なぜ重桜に帰国したのかね。」

「南方で見た戦場を、祖国には起こさせない。そして、セイレーンによる侵攻から我が国を救うためであります。」

「……………なるほどな。いや、すまない。若いようなので、少し気になってな。戻してくれ。」

「他に、何かある方はいらっしゃいますか?」

 

周囲を見渡すが、粗方納得している様子だ。

 

「それでは、審議を執り行いますわ。三島大佐に我が艦隊の指揮権を譲ることに賛成の方は、挙手を。」

 

 

 

 

 

「ふう…………緊張したな。」

「お疲れ様ですわ。指揮官様♡」

「ハッタリが上手くいってよかったわ。それにしても、伊方長官の質問まで予測していたなんて、さすがね赤城。」

「姉様であれば当然だ。…………姉様?」

「え、えぇもちろん!我が計略に曇り無しよ!」

 

なんだかよそよそしくなる赤城。

 

「さ、さあ指揮官様!指揮官様は一応安静の身ですから、温泉にでもお入りくださいませ。今日は着任の宴ですわ。」

「わかった。風呂に入った後、夕食会場に向かう。」

 

指揮官は全くもって気づかなかったが、赤城の対応には理由があった。

 

(言えない………実は指揮官様のアドリブだったなんて、加賀(あの子)には言えない…………)

 

そう。

指揮官のあの台詞は、アドリブである。

作戦自体は赤城から聞かされていたものの、あの瞬間の伊方長官の質問は盲点だった。

しかし、彼は赤城から事前に提示されていた情報のみであそこまでのハッタリをかましたのだ。

それ即ちどういうことか。

 

「なんと頭の切れるお方……………」

 

戦場では、一瞬の判断により生命が左右される。

今、目の前にある物のみで状況を打破しなければならない。

そんなものは今まで数え切れないほど体験してきた。

彼はただ、それを頭の中で組み換え、応用しただけである。

 

「あぁ♡ますます惚れ込んでしまいますわぁ………♡」

 

一人だけの部屋で腰をくねらせ、顔を火照らせる。

ふと、視界の端に目をやると。

 

「あら?これは……………」

 

そこにあったのは、先程まで彼が着ていた病人服。

包帯から染み出た血液が服に付着し、まだ着ていた時の温かみがある。

赤城は周囲を確認し、そっと手に取る。

 

「すう………はぁ………………」

 

鼻を突っ込み、大きく吸い込む。

その顔は至福に包まれていた。

 

「やっぱり指揮官様の香り……♡これだけで果ててしまいそう………♡んんっ♡」

 

体をくねらせ、尻尾がビンッと伸びる。

その姿は、有り体に言えば変態だった。

 

「やはり、私の運命の人♡私と指揮官様は、結ばれる運命なのよ!」

 

目にはハートマークを浮かべ、吐息が荒くなる。

 

「そうじゃない運命なんて……………ウフフ………♡」

 

 

 

 

 

このリゾート島内は粗方探索した彼、指揮官だったが、温泉に入ったことは無かった。

 

「ふう…………骨身にしみるな…………」

 

驚くことに、傷口のほとんどは塞がり、カサブタになっている。

通常なら肌の痛みで声も出せないはずだが、彼にとってはよくあることだった。

 

「そろそろ上がるか…………」

 

湯船から立ち上がり、脱衣所へ向かう。

すると、ヒタヒタと足音が近づいてくる。

 

「一番乗りなのだ〜!ひあっ!?な、ななななにしてるのだ!?」

 

音の正体な、なんとKAN-SENだった。

指揮官も彼女もすぐさまタオルで秘部を隠し、背中を向ける。

 

「す、すまない。風呂に男湯だと貼ってあったと思ったのだが…………」

「そんな訳ないのだ!もう既に入れ替わってるのだ!」

「すまない。すぐに出ていく。背中を向けているから、湯船に向かってくれ。」

「ひうう…………」

 

彼女の名は雪風。

駆逐艦として輝かしい成績を誇り、彼のいた大日本帝国でも庶民に人気のある駆逐艦だった。

こちらでは、銀髪にケモ耳の生えた元気っ子のようだ。

 

(よし、後は脱衣所に向かうだけ…………)

 

腰にタオルを巻き、出入口に向かう。

残り数メートル。そんな時だった。

 

「雪風?大きな声を出して、どうしたのです?」

「あっ。」

 

いいタイミングで入ってきたKAN-SENがいた。

彼女は綾波。

鬼神の異名で名を馳せ、第三次ソロモン海戦で散った駆逐艦だ。

こちらは、頭に銀と赤の機械耳が生え、表情の起伏が少ない少女になっているようだ。

 

「だ、誰です!覗きですか!?」

 

すぐ様艤装を展開し、身長に見合わない大太刀を彼に向ける。

対する指揮官はというと、目を瞑ったまま前に手を突き出す。

 

「待て。一旦落ち着け。」

「問答無用です。」

「ちょ、ちょっと待つのだ綾波!この人、長風呂していただけなのだ!」

「雪風…………本当なのです?」

「あぁ。こちらの失態だ。まさか入れ替わっているとは思わなんだ。」

「……………わかりました。」

 

艤装を解除し、道を開ける。

 

「早く出てください。かなり絵面がアウトなのです。」

「すまない。ご理解感謝する。目を開けてもいいか。」

「大丈夫です。」

 

目を開け、すぐに出ていく。

 

「な、何だったのだ一体……………」

「あの人…………凄い傷だらけだったのです。」

「え、あ、確かに……………悪い人じゃなさそうだったのだな……………」

 

 

 

 

 

「…………早く着替えなければ。」

 

腰に巻いたタオルを絞り、いそいそと全身を拭いていく。

下着を履こうとしたその時。

 

「おっふろ〜♪おっふろ〜♪あっ…………」

「あっ。」

「山城?どうしたの?…………あら。」

 

音速で下着を履く。

 

「いや、これは……………」

「いやぁぁぁぁ!覗き魔ですぅぅぅ!」

「山城には指一本触れさせません!」

「お、落ち着け。これには訳が…………」

「聞いていられますか!さっさと服を着てください!」

 

 

 

 

 

 

「……………本当に申し訳ない。」

「お、お顔を上げてください!私達も早とちりしちゃいましたから…………」

「女性にここまで恥を晒した。俺には謝ることしかできない。」

 

女風呂を出てすぐのリクライニングルームにて、きちんと身なりを整えた指揮官が山城と扶桑に土下座をする。

 

「男風呂と女風呂が入れ替わるのを知っておかなかった。俺の配慮が足らなかった…………本当に申し訳ない。」

「……………顔を上げてください。もういいですから。ほら山城、行きますよ。」

「っ、せめて何か詫びの品の1つでも…………」

「必要ありません。早々に立ち去りなさい。不愉快ですから。」

「あわわ…………姉さん…………」

 

ゴミを見るような目で指揮官を睨み、女風呂に入って行く扶桑と、あわあわとしながらも姉について行く山城。

扉が閉まる音がすると、指揮官も顔を上げ、浮かない顔を浮かべる。

 

「はぁ……………」

 

彼には女心がわからぬ。

生まれ落ちて27年、まともに異性との交際を経験したことも無く、ただ鍛錬に勤しんだ青春時代。

顔は悪くない、むしろ良い方だと言われるが、女の気持ちがわからないと平手打ちを食らったこともある。

 

「どの世も変わらないな……………」

 

同期の者たちは皆、夜の街へ遊びに出かけたり、異性との文通を楽しんだりしていたが、彼には何が楽しいかわからなかった。

 

「…………会場へ行くか。」

 

ずるずると引きずってもどうにもならない、と立ち上がり、赤城に言った通りに会場へ向かう。

 

 

 

 

「重桜艦隊諸君よ!今宵は、新たな指揮官をお出迎えする宴である!新たな重桜艦隊総指揮官の言葉に耳を傾けよ!」

 

加賀の掛け声とともに、会場に集っていたKAN-SENや各界の重要人物が目を向ける。

 

「ご紹介に預かった、三島大佐だ。この度、重桜艦隊の総指揮監督という名誉ある立場に立たせていただいたことを、心よりの誉れとする。今宵は、心ゆくまで楽しんでくれ!我らが重桜に、乾杯!」

 

乾杯の掛け声と共に宴が始まった。

駆逐艦たちはジュースやお菓子を食べ、大人たちは酒と食事に舌をうならせた。

指揮官も、いつもの堅物顔を維持したまま酒を楽しんでいた。

 

「あら、随分と楽しそうね。指揮官くん。」

「愛宕殿。まあ、酒が入れば幾分かな。」

「もう〜。その、○○殿ってつけるの、他人行儀だからやめた方がいいわよ?艦隊は、大きな家族のようなものだからね。」

「家族………わかった。愛宕ど………愛宕。」

「そうそう♪そうしている方が可愛いわ。指揮官くん。」

「………くん、は、外してくれんのか。」

「まだダメ〜♡フフッ、お姉さんもちょっと酔っちゃったかな?」

「酔っているのなら高雄に介抱してもらえ。」

「やぁ〜ん、指揮官くんのいけず♡」

 

すると、ズズズズとドス黒いオーラが近づいてくる。

 

「指揮官様〜♡赤城がおつぎに参りましたわ〜♡」

「あら。流石に離れた方がよさそうね。またね〜指揮官くん。」

「おジャマ虫が……………ささ、指揮官様♡一杯どうぞ♪」

「ありがとう。」

 

おちょこを傾け、クイッと飲み干す。

 

「美味い………やはり、日本酒はいいな。」

「重桜でも有数の名酒ですわ。ほら、もう一杯…………」

クイッ「………美味い。そして、料理にも合う。」

「ウフフ♡楽しんで頂いて何よりですわ♪」

 

するとそこに、一人のKAN-SENがやってくる。

 

「失礼するわ指揮官!」

「ご挨拶よろしいでしょうか〜?」

 

栗茶髪と銀髪のKAN-SEN。

 

「君たちは……………」

「重桜空母、五航戦の瑞鶴よ。あなたが指揮官ね?これからよろしく!」

「同じく五航戦の翔鶴です。これからよろしくお願いしますね♪」

「ハッ、随分と偉くなったわねぇ翔鶴。前の貴方なら、挨拶なんて絶対に来なかったのに。」

「あら?いたんですか先輩。指揮官様に小判鮫みたいにくっついて、一航戦の先輩らしくもないですね?」

 

バチバチと火花を散らす2人。

仲はあまり良くないらしい。

 

「ちょっと翔鶴姉、止めてよ指揮官の前で。」

「あ、あらごめんなさい。指揮官様の眼前で見苦しいものをお見せして…………」

「赤城、お前もだ。同じ重桜KAN-SEN同士、仲良くするんだ。」

「すみません…………」

 

シュンとする2人の空母。

赤城は尻尾と耳が垂れ下がっている。

 

「翔鶴に、瑞鶴か。覚えた。これからよろしく頼む。」

「はい♪よろしくお願いします。」

「よろしくね指揮官!じゃあこれは、挨拶の一杯ってことで!」

 

瑞鶴がスっとおちょこを差し出し、指揮官も赤城におかわりをついでもらう。

カチンッと小気味良い音をたてる。

 

「翔鶴に、瑞鶴か……………」

「あの2人が気になるのですか?」

「ん?あぁいや、実は前にちょっとな。」

「前に?詳しくお聞きしたいですわね…………?」

 

赤城の目からハイライトが消えていく。

 

「前の所で、空母翔鶴には一度乗ったことがあるんだ。」

「前の………あぁなるほど。」

「五航戦とはいえ、素晴らしく大きかった。赤城は沖に浮かんでるのを見たことしかなかったが、それでもあれは、我が国を背負って立つ程に大きな空母だった。」

 

懐かしそうに話す。

すると、赤城はむっとした表情になる。

 

「なんだか、前の世界の私を褒められるのは嫌ですわ!赤城は目の前にいるのに…………」

「ハハ、すまんすまん。やれ、酒が入ると饒舌になるな。…………美味い。やはり日本酒だ。」

 

ふと、赤城が指揮官の顔を見ると、なんと彼は笑っていた。

いつもの堅物顔、真顔からは想像できない笑顔だ。

口元が緩み、口角が少し上がって、常に微笑んでいる。

 

「指揮官様……………」

 

バッと顔を伏せる赤城。

いつもなら抱きつくか抱きしめるかした所を、思わず顔を伏せてしまった。

 

(やだ………指揮官様イケメンすぎ!?どうしましょう、火照りで顔どころか全身が燃え尽きそう………♡)

「赤城、大丈夫か?」

「ひゃ、ひゃい!ももも問題ありませんわ!」

 

赤城の顔は、激しく燃え(萌え)上がっていた。

 

(いけない、直視できない………!)

「あ、赤城、加賀のところへ行ってまいりますわ!」

 

ビューっと指揮官の元を離れていった。

 

「あ、おい…………酔ったんだろうか。」

「そういうことでは、無いと思いますよ。」

「その声は…………」

 

振り返ると、赤城と同じような尻尾、しかし赤城のような濃い茶色ではなく栗茶色、そして見覚えのある源氏眉をしたKAN-SEN。

 

「お久しぶりですね。用務員………いえ、指揮官様。」

「天城殿。お久しぶりです。」

「どの付けはお止め下さい。私はもう、指揮官様の部下。それに、指揮官様からの指揮権が下がりますわ。これからは、何卒よろしくお願い申し上げますことを…………」

「いえいえ、そんな…………ありがとう、天城。心から感謝する。あなたのおかげで俺は今、ここにいる。」

「指揮官様の実力と天運ですわ。私は、ただ手助けをしたのみ。しかしここからは、指揮官様の手腕を奮っていただきます。」

「ああ。ここまでやらせてもらったんだ。出来ることはする。」

「フフ♪それこそ私の見込んだ指揮官様ですわ。」

 

すると、またもや別のKAN-SENが近づいてくる。

 

「昼ぶりだな、(そなた)よ。」

「信濃ど………信濃。」

「やはり妾の見立ては間違っていなかったな…………」

 

そういうと信濃は、手に持っていた盃を差し出す。

 

「誓いの盃だ…………ほら。」

「では、私も混ぜていただきましょう。」

 

赤く掌ほどの盃。そこに酒を酌む。

3人で輪を組み、酒を明かりに揺らす。

 

「これからの重桜を、頼みますよ。指揮官様。」

「あぁ。任せてくれ。俺に出来ることなら何でもする。」

「では……………指揮官様に、乾杯。」

 

カツンと漆器がぶつかる音がする。

 

「天城、いい飲みっぷりだな。」

「いやですわ、はしたないところを………さ、指揮官様も、どうぞ。」

「ん…………む、この熱燗はかなりいいな。ガツンと強い味がする。」

「喜んでいただいて何よりですわ。」

「赤城と似たようなことを言うな。2人は姉妹か何かか?」

「そうですね………そのようなものと思ってください。でも、口調は赤城が真似っ子ですわ。」

 

2人で楽しく笑い、楽しく酒を飲んだ。

ふと、信濃の様子が気になり、隣を見てみると。

 

ゴクッゴクッ「……………けぷ。」

「ん、あの酒は……………何だ?」

「あれは、ビールです。ユニオンの酒で酒精が低いですが美味しいですよ。にしても飲み過ぎですね…………」

 

信濃の顔は赤く染まり、ゆらゆらと気持ちよさそうに揺れている。

そう、完全に酔っているのだ。

 

「そなたぁ〜……飲んでおらんのかぁ?」

「おい、しなブッ。」

 

思いっきり胸に顔を押し込まれる。

思わず身動きが取れなくなる。

 

「そなた……よしよし………かわいい子や…………」

「お、おい信濃………!は、離ッ………」

「愛しのそなたよ………もう離さないぞ………」

 

チラリと傍を見ても、先程の盃、そしてジョッキにビールが一杯だけだった。

信濃は下戸だったのである。

 

「の、飲みすぎだ。しっかり………しろ!」

「あぁぁ………」

 

なんとか信濃の抱擁を引き剥がす。

 

「フフ、災難でしたね。指揮官様。」

「そう思うなら、少しは助けてくれ………………」

「宴はまだまだこれからですわ。ほら、私達も楽しみましょう?」

「………………そうだな。」

 

どの世界でも、どの時代でも。

同士で囲んで飲む酒は美味いと感じる。

彼もまた、新たな居場所に根を落としたのだった。

 

宴の夜は更けていく………………

 

 

 

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