大日本帝国出身の堅物指揮官は今日も誘惑される。   作:気まぐれな富士山

8 / 9
第8話

 

重桜艦隊の指揮官室。KAN-SENと指揮官が一対一で立ち会っていた。

 

「それで、俺に伝令とはなんだ。プリンツ・オイゲン。しかも、総統閣下直々の伝令とは。」

「フフ…………まさか、本当に来てくれるとはね。赤城辺りが門前払いするものだと思っていたのだけど。」

「総統閣下の名を出して、何もありませんでは済まないだろう。そちらにもそれなりの理由があって来たものと思われるが?」

「ええそうよ。ここに来た理由は、半分は伝令。もう半分は私たちKAN-SENからの話をするためよ。」

 

おちゃらけたように見えるが、オイゲンの瞳は真剣だった。

 

「まずは伝令の話から。総統閣下は、就任して半年近く経つのに挨拶の一つもない若手のあなたに心底お怒り。詫びの一つでも入れに来いって言ってるわ。手下だと思ってた相手に、ビデオ通話だけで軽く流されたのが面白くなかったみたいね。」

「成程。しかし、お断りする。我々は同じ志を持つ同志としてレッドアクシズという陣営に与している。協調し、知と力を分け合うことこそあれど、序列を決め、一定の者に与するなどあってはならん。」

「あら、顔の通り度胸も達者なのね。総統閣下には一言一句ちゃーんとお伝えしておくわ。それで、次は私たち話。実はね、さっきの総統閣下の言葉は、あくまで言伝なのよ。私が直接賜ったものじゃない。」

「何?」

「現在、私たちの敬愛する総統閣下は病床に伏しているの。彼と共にあると誓った我々のキューブは、海軍上級大将の男に握られてしまっている。総統閣下兼鉄血海軍大元帥たる私たちの盟主の命と一緒に…………!!」

 

オイゲンは力強く拳を握り締め、唇を噛む。

 

「私たち鉄血KAN-SENの命は、あの男に握られている。私たちでは、総統閣下を助けることはできない。でも、あなたなら……………彼らにとって予想外であるのあなたなら、きっと助けられる!そう思ってここに来たの。」

「…………………成程、な。では、君が先程伝えた伝言は、俺という不安分子を殺すための誘い文句ということか?」

「そうよ。現に私は、無理矢理にでもあなたを連れてこいと命令されたわ。来なければ、現在重桜に提供しているセイレーン技術の60%の供給を打ち切るっていう脅し文句もつけてね。」

「くだらんな…………しかし、無視することもできまい。」

「っ!それじゃあ………!」

「君のその勇気に敬意を表する。俺が力になれるなら、手を貸そう。」

 

手を差し出し、握手を申し出る指揮官。

 

「ありがとう指揮官!」

 

オイゲンはその手を無視して指揮官にハグをする。

そしてとても自然に袖から注射器を出し、指揮官の首元に何かを打ち込んだ。

 

「じゃあこれ、命令だから。」

プスッ「なっ……………」

 

かつて不死身と謳われた指揮官も流石に人間。

血管の集まる首に直接薬を打たれれば、対応するのは難しい。

そのまま膝から崩れ落ち、指揮官は眠ってしまった。

 

「おやすみ、指揮官サン…………♪」

 

その後、もぬけの殻となった指揮官室に重桜のKAN-SENたちが気づくのは、そう遅くはなかった。

 

 

 

 

「う、ぐぅ……………」

「あら、意外と早く起きたわね。」

「プリンツ………オイゲン…………」

「ごめんなさい、私もこんなことはしたくなかったのだけど、命令だから。」

 

目を開けると、明かりしかない独房のような部屋であるとわかる。

足は縛られ、手は椅子の後ろに手錠で括り付けられている。

周囲を見渡すと、複数の鉄血KAN-SENと軍服を着た一人の男の姿が目に入る。

皆、報告書や資料でしか見たことはないが、艦隊内部でそれなりの権利を持つKAN-SENたちだと分かる。

そして、そんな彼女らの中心に立つ男が、先ほどオイゲンに言われた上級大将であると思われる。

 

「おはよう、重桜の指揮官。今回は、大元帥にして国家元首たる総統閣下に挨拶もしなかった不届な者としてお呼び立てしたわけだが…………」

「フン。これが客人に対する態度か。まるで、今から俺がKAN-SENにリンチでもされそうな絵柄だが?」

「君を誘拐するのは苦労したものだよ。我が鉄血の技術力とセイレーン技術の融合で可能にした高速艇でも重桜の包囲網を抜けるのは容易じゃなかった。同志オイゲン!君のおかげだ。」

「勿体無いお言葉ですわ。」

「……………ふむ、もしかしなくとも、俺はお前に騙されたのか?」

「そうなるわね。」

「気にするな!君は重桜に嫌気がさして我々について来たということになっている。そして、この島でセイレーンに襲われて死ぬのだよ。あぁ、心配しないでくれ。ここは我が鉄血が掌握する鏡面海域でね。外からの発見はおろか、探知も難しい特別な場所なのだよ。だから君は、ひっそりと誘拐されてひっそりと死ぬのだ。」

「俺を殺す、か……………そんなことで貴公らに得があるようには思えないのだが。」

「命乞いかね?まぁいい。我々は如何なる不安要素も許せないのだよ。精々母親か、君にひっついていた狐のKAN-SENの名前でも呼んで死を待つといいさ。ハッハッハッハ!」

 

高らかに笑いながら、男と共にKAN-SENが数人、部屋から出ていく。

 

「さて…………どこまでがお前のシナリオだ?プリンツ・オイゲン。」

「誘拐されてくれてありがとうね指揮官。今手錠を外すわ。」

「いや、このままでいい。奴がいつ戻るかわからん。」

「随分…………肝が据わっているのね。」

 

オイゲンの声とは違う声が聞こえ、指揮官の前に金髪のKAN-SENが立つ。

 

「初めまして。私はビスマルク。鉄血の代表的な戦艦よ。」

「なんと…………あのビスマルクか。その戦績は、重桜まで轟いている。お会いできて光栄だ。」

「こういう形で無ければ、重桜の指揮官とはもっと交流を深めたかったのだけど、許して頂戴。それで、作戦なのだけど……………」

 

 

 

「やあ、流石に消耗したかな?重桜の指揮官。」

「…………もうすぐ、セイレーンがこの島を消すのか?」

「フフフ、少し違うな。まぁ、島が消えるのは本当だが。しかし、君は実に運がいい。我々の新兵器の火力をその身で味わうことが出来るのだから!」

「新兵器?またロクでもないものを作ったようだな。」

「貴様らのように平和ボケした黄色い猿の言葉など聞く耳を持たんな。冥土の土産だ、見せてあげよう。同志ビスマルク!この男を例の場所まで連れていくぞ。」

「よろしいのですか?閣下。」

「かまわん。暴れるようなら腕の一、二本折ってやればいいさ。」

「…………だそうよ。立ちなさい。無駄な抵抗はしないことね。」

 

大人しく指示に従い、謎の部屋に連れて行かれる。

重い扉を抜けた先には、何やら機器が取り付けられた木製の椅子と、椅子が向く先の壁がガラス張りになっており、外の海がよく見える。

 

「見たまえ!あれこそ我らが新兵器!平和の使者(Bote des Friedens)だ!」

 

禍々しいその見た目は、指揮官には想像したこともない造形だった。

周囲には大量の量産型セイレーンとその艦船が蔓延り、明確な死を暗示させる。

その軍隊の造形は、近未来的と言えばいいのだろうか。しかしその未来には、名前の通りの平和など訪れないようにしか見えない。

 

「こんなもの…………何に使うつもりだ。」

「勿論、外敵の処分だよ。我らの目的は人類守護だろう?私も軍人の端くれ、そこを履き違えるつもりはない。ただ、その守護する人類は鉄血の民だけでいいのだよ!」

「選民思想か………そんなもの、上手くいく筈がない。そんな思想を持った者たちの最後はいつも破滅だと決まっている。歴史が証明するそれを、貴様が知らぬ訳もあるまい。」

「あぁ、知っているとも。しかしだね。今の私にあって先人たちにないものがある………力だよ!!私は世界を支配する力を手に入れた!これさえあれば、夢物語だって現実になる!素晴らしいことだと思わんかね!?」

 

その笑みは、狂気に染まっていながらも、子供のような輝きを失っていなかった。

この目の前の狂人は、本気でその馬鹿げた夢を叶えようとしている。

 

「そのために、君のような不確定要素は早めに処分しなければならないんだ。別世界からの漂流者くん?」

「ッ……!!なぜ貴様がそれを!」

「同志ビスマルクは優秀なKAN-SENだ。彼女には、君と同じ世界の記憶があるのだよ!」

「なん………だと……………」

 

するとビスマルクは、ぽつぽつと語り始める。

 

「私たちKAN-SENには、とある世界の『大戦』の記憶『カンレキ』があることは知ってるわね?」

「あぁ…………しかし、俺の世界とものとは幾分か異なっていた。」

「私も、そう思っていたの。他のKAN-SENが持つ『カンレキ』は共通してるのに、私のは幾つかの齟齬があった…………最初は、そういうものだと思っていたわ。でも半年ほど前のこと。突如頭の中に誰かの記憶が入って来たの。私が覚えている世界と同じ世界の記憶を持ち、戦い抜いた戦士の記憶が…………それからしばらくして、重桜に新しい指揮官が配属されたと聞いて、ビデオであなたの顔を見た時確信したわ。この人が、私にあの記憶を見せたのだと。」

「彼女からその話を聞いた時は戦慄したよ。せっかく重桜の指揮官をあのボンクラにしたというのに、君が現れたせいで計画が大幅にズレた。君は私の作戦にとって、大きな不確定要素となってしまったのだよ。」

「重桜の混乱も…………お前の仕業か。」

 

徐々に指揮官の表情に怒りの念が見えてくる。

拳がギチギチと音を立てて握られる。

 

「そんなに怒らないでくれたまえよ。これも正しい世界のためだ。それに、怒ったところで君には何もできない。ただの人間にはね。」

「お前もただの人間だ…………必ず足を掬われる。」

「私が?ただの人間?………ククッ、フハハッ、アーッハッハッハ!わ、私がただの人間に見えるのかね!君には!こいつはお笑いだ!アーッハッハッハ!」

 

ひとしきり笑うと、狂人はいきなり指揮官を殴り、頭を掴んで目を合わせる。

 

「私はただの人間ではない。この世界を新たなレベルに昇華させる、英雄なのだよ!」

「……………………」

「これから私は、英雄となる記念すべき第一歩を踏み出す!同志ビスマルクよ、この男に特等席を用意してくれ。」

「……………はい。閣下。」

 

ビスマルクが指揮官を椅子に座らせ、何やら機器を取り付け始める。

 

「電気椅子を知っているかね?古くから行われている死刑の一種だよ。」

「ッ………!!まさか、この椅子が…………!?」

 

指揮官が生きていた時代、かの世界の日本では電気椅子は導入されていない。

現代ほど情報が錯綜しない時代、滅多なことがない限り、当時の人は死刑の方法など知らぬまま死んでいくものだ。

 

「最もフィジカル、かつ最もプリミティブで、最もフェティッシュな死刑方ということだよ!」カチッ

「ッ!っぐあぁぁぁ!!!?」

 

指揮官の体が痙攣し、絶叫を上げる。

 

「おいおい!まだ1000ボルトを3秒流しただけだぞ!本来なら2000ボルトを15秒以上流して、その後も色々電圧を調整しなきゃいけないんだ。こんなことでへばってたら後がないぞッ!」

「ぐ……が………ぁ…………」

 

ビスマルクが辛そうに目を伏せる。

 

「さあ、次は1200だ!どんどんいくぞ!」

「ッ…………!!っがあぁぁぁ!!??」

 

時間にしてたった数分。

指揮官は、決して死ぬほどではなかったが、死んだ方がマシとも思える電流を浴びせられ続けた。

やがて皮膚の一部が溶け、髪の先が爛れ、焦げたような匂いがしてくる。

 

「ハハハ……………流石に死んだかな?」

「き……さま……………覚えて………おけよ……………」

「まだ生きてるのか!大したものだ、これならビスマルクが警戒するのも頷ける!1000対1で戦い抜いたという噂も本当らしい…………」

「オエェッ、ゲボッ…………ガハッ、ガハッ!」

 

電流で内臓が著しく損傷し、口から血を吐き出す。

しかし喉の一部が焼け焦げているので、血が絡まって苦しい咳が出る。

正しく、瀕死と呼んで差し支えない状態だった。

 

「同志ビスマルク。ここにはKAN-SENは何人いたかな?」

「え、あ、はい………私含め、駆逐艦が二人と戦艦が二人、空母が一人の計五人ですが…………」

「よし、君らは退避したまえ。この男もこのままでいい。」

「よろしいので?トドメを刺さずとも…………」

「どの道ここは鏡面海域ごと消し飛ぶ。私がトドメを指す必要もあるまい。しかし、最後にいいショーを見れた!あの世で、私の覇道を眺めていてくれよ。重桜の指揮官。」

 

ビスマルクと共に部屋を出ようとする男。

そんな男に、指揮官が最後の言葉を贈る。

 

「……………お前にされたことは、倍にして返す。」

「……………何?」

「決して、逃げられると思うなよ…………俺は、結構根に持つ性分でな。地の果ての果て、地獄の底まで追い回す。」

 

キッと睨んだその瞳に迷いはなく、今の発言を絶対に果たすという意思を感じさせる。

 

「…………フン。最後まで口が減らないな。その心だけは評価しよう。君の愚鈍なお仲間にもその勇姿を伝えておく。さらばだ。」

 

つまらなそうな表情のまま、ビスマルクと共に鉄血の指揮官は去っていった。

 

 

 

 

数日後の重桜本部指揮官室。

赤城は、名残惜しいかのように机の上をなぞっていた。

 

「………………指揮官様。」

 

指揮官が消えて数日。営内は混乱を極め、赤城たちもまた困惑していた。

なんとか動乱を抑え、指揮官を捜索するも、その足掴むこと叶わず。

赤城の顔にもはや生気はなく、虚な瞳はただ指揮官との美しい日々を思い出していた。

そんな赤城の元に、加賀と高雄がやってくる。

 

「……………姉さま。お耳に入れたいことが。」

「っ、指揮官様のこと!?そうよね加賀!?」

「っ…………!!そう、です……………」

「そ、それで?指揮官様は、生きていらしたのよね?」

 

藁にもすがる思いだった。きっと愛する妹が吉報を持ってきたのだと。

しかし、赤城のその儚い願いは、加賀の苦悶の表情に掻き消される。

 

「……………おい、あれを。」

「あぁ……………」

 

高雄が差し出したのは、布に包まれた何か。

赤城が恐る恐る包みを開く。

そこにあったのは、指揮官が肌身離さず着用していた軍帽であった。

その軍帽を触れた瞬間、赤城の頭に蘇る指揮官との甘い記憶。

 

『どうぞ、指揮官様。赤城が刺繍を入れておきましたわ♡」

『ありがとう。大切にする。…………似合うか?』

『ええ♪とてもよくお似合いですわ…………うふふ♡』

 

気がつくと赤城は、大粒の涙を流して軍帽を抱きしめていた。

 

「指揮官様………!!指揮官様ぁ………!!うあぁぁぁ!!」

 

加賀は赤城を優しく抱きしめ、高雄は歯を食いしばりながら涙を堪える。

 

重桜の指揮官の死、という情報は、流行り病のように重桜艦隊に広がり、悲しみの暗雲を広げていった。

 

 




感想、批評、誤字報告お待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。