おかえりを言いたかった   作:名無之助

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初接触の影

 村中・早苗氏 当時24歳、三等宙尉 国連宇宙海軍極東管区連合艦隊所属、駆逐艦ツバキに船務長としてとして乗艦

 

 ガミラス軍との初接触時、巡洋艦ムラサメ撃沈直後に乗艦していた駆逐艦ツバキも攻撃を受け轟沈、戦死

 

 映像に移るのは、穏やかな表情の男性。

 

 村中・光一氏。

 

 村中・早苗氏の兄である。

 

 白衣を纏った医師である彼の背後には小さな額縁が置かれている。

 

 中には、若くして戦死した妹、村中・早苗氏の写真。

 

 彼女は2191年、ガミラスとの初接触で命を落とした。

 

 光一は静かに口を開く。

 

 「早苗はいつも明るかったですよ。ツバキに乗って出発する前も通信で『帰ったら一緒に温泉に行こうね』『あと、いつものパンケーキも忘れないで一緒に食べたいな』と笑ってたんです。あの声が今でも耳に残ってる。あれが最後の会話になるなんて…」

 

 彼の声は穏やかだが、震えているように聞こえる。

 

 カメラが彼の手元を移すと、古びた手紙が映る。

 

 手紙には【光一兄ちゃんへ】と書かれていた。

 

 彼はその手紙を手に取り、そっと目を閉じる。

 

 「彼女、妹がツバキの船務長として出港していったのは2191年の4月頃だった。極東管区連合艦隊の一員として、妹が乗る駆逐艦ツバキは巡洋艦ムラサメの護衛任務に就いていたと聞いてました。あの頃の地球はガミラスのことを知らず、私も、そして妹の早苗も、何が待っているかなんて想像もできなかった」

 

 映像が切り替わり、2191年の記録映像が流れる。

 

 静かで暗い宇宙空間に浮かぶ巡洋艦ムラサメと駆逐艦ツバキ。

 

 静寂を破るように、ムラサメがガミラス艦艇に向けビームを放つが、弾かれ、反撃を受け、ガミラスの赤みがかったビームがムラサメの船体を貫き爆炎が広がる。

 

 そして次に、ツバキも攻撃を受ける。

 

 船務長として、彼女が艦内でどのように職務を果たそうとしていたか、船務長としての務めを果たそうとしていただろう姿は記録には残っていない。

 

 しかし、光一の記憶には、在りし日の彼女の笑顔が焼き付いている。

 

 「正直、ムラサメが撃沈されたと聞いて、心臓が止まりそうだった。ツバキは無事であってくれと願いましたが、それは叶わなかった。極東管区から聞かされたのは、接触した艦隊は壊滅したということと、戦死を知らせる紙切れ一枚だけ。早苗の笑顔が、最後に話した会話が、頭から離れなかった」

 

 映像が変わり、光一氏の自宅が映し出される。

 

 2249年の地球はコスモリバースシステムで再生された自然が広がり、彼の家の庭には早苗氏が生前好きだったという桜の木が植えられている。

 

 光一氏はその木の下に立ち、遠くを見る。

 

 「早苗が、妹が軍に入ると決めた時、危なくない仕事にしてほしいと言ったんです。そしたら妹は笑って「大丈夫だよ」と返したんです。あの時もっと強く止めていればと何度も思った。それでもと、妹は自分の道を選らんんで、ガミラスとの戦いでも逃げなかったと、そう、自分に言い聞かせるようにしてます」

 

 光一氏は桜の木に手を触れ、目を細める。

 

 「医者として人の命を救うのが私の仕事です。でも、妹を救うことができなかった。あの日以来、早苗の、妹の声を思い出すたびに、胸が締め付けられそうになる。あの日の約束を果たすことができなかったから」

 

 

 カメラが早苗氏の写真にズームする。

 

 写真に写る制服姿の彼女は若々しく、希望に満ちた笑顔を浮かべている。

 

 光一氏はその写真を手に取り、そっと撫でる。

 

 「この映画で妹の名前、生きた証が残るなら、少しだけ救われた気がします。妹がどんな気持ちで戦ったのかを知ってほしい。妹はただの兵士じゃない、私にとっては、大切な妹で、家族だったんです」

 

 映像は、例年よりも早くに花をつけた桜の花びらが風に舞うシーンが映される。

 

 光一氏の声が静かに漏れる。

 

 「それでもやっぱり、早苗、お兄ちゃんはお前におかえりを言いたかった・・・」

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