神は人を愛したい   作:メスザウルス

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ちょっとした罪悪感

それから、フィンとオビトの会話は続いた。

フィンが事故であると宣言した事で、尋問から交渉へと移行。

話し合いの結果、治療が終わるまでこの空き部屋を貸すことを約束し、オビトはロキ・ファミリアへ破壊した黄昏の館の修繕費、慰謝料、治療費を支払う事となった。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

時刻は午後2時45分。

オビトとの交渉を終えたフィンは、ロキとリヴェリアを連れ、会議室へと移動している時だった。

 

 

「おいフィン!」

 

 

背後から声をかけられる。

振り向けば、そこには狼人(ウェアウルフ)の男、ベート・ローガがいた。

 

 

「オビトに関してかい?」

「あぁそうだ、なんでアイツを追い出さなかった……!」

 

 

どうやら先程の決定に異論があるらしい。

彼は牙を剥き、苛立ちを隠さず問い詰めた。

 

 

「言っただろう、これは互いにとって事故だったと。彼女自身、意図してここに来たわけじゃないし、暴れた時の記憶もない。何より、彼女は重傷だった」

「だから何だってんだ」

「彼女がここに居るのは2、3日程度。それくらいなら、問題はない」

 

 

フィンの言葉を掻き消すように、靴底で床を叩く。

 

 

「そんな理由(もん)が、あの女がここに居ていい理由にはなんねェだろうが…! さっさと適当な医療系ファミリアに放り込むか、そこらのゴミ溜めにでも掃き捨てとけ!」

 

 

出来ねぇってんなら、今すぐ俺がやってやる。

言外にそう語るベートに、僕は苦笑いを浮かべた。

 

随分と嫌われたものだ。

しかし、仕方ない事だろう。彼女は実質ロキ・ファミリアを襲撃したも同然なのだ。それも、ベートが居ない間に。

 

タイミングとしては最悪だろう。

 

これで彼も場に居合わせたのなら話は違ったのかもしれないが、既に終わった事。たらればの話をしたらキリがない。

 

そして、場に居合わせたからといって納得できるものでもない。実際に、ベートのように不満を持つ者が大半だ。誰も彼もが彼女を不審に思っているし、ファミリアを襲った事実は変えようもない。

 

僕は親指を顎にあてる。

 

さて、どうやって説得しものか。

僕が内心で悩んでいると、痺れを切らしたベートは次にリヴァリアへ問い詰め始めた。

 

 

「おいババァ、まさかテメェも納得してるわけじゃねぇよな?」

 

 

尋問の際も、今もそうだ。彼女は何も話さない。ずっと何かを考えたまま、難しい顔のまま口を動かすことはなかった。聡明な彼女には珍しい。

しかしベートの問いに対し、遂に彼女は沈黙を破った。

 

 

「私には、重傷でここに来る理由が分からない」

 

 

そもそもの話として、彼女はそう言った。

襲撃云々の話より、それ以前の事なのだと。

 

 

「来ないだろう、深手を負った状態で。私はまずそこから分からない」

「あぁ……?」

「傷を治したいなら医療系のファミリアにでも行けばいい。エリクサーが欲しいなら適当な商業系のファミリアに行けばいい。金が無いなら奪えばいい」

「……ハッ! 随分買ってんだなあのグルグル女を」

 

 

ベートは鼻で笑った。

グルグル女。彼女の、オビトの右顔からそう称したのだろう。

女性に対し身体的特徴をどうこう言うのは礼儀が欠けていると思うが、しかし、ベートにとってあの女は本拠を襲った下手人。礼儀など払う必要は無いと考えていた。にもかかわらず、こうして話しているだけでも二人のオビトに対する評価は想像以上に高い。

 

認めているということだ。

適当なファミリアを襲い、奪っても、それが成功すると確信するほどに。

それは相手の実力を認めていると同義であり、オビトへ対する評価が自分と食い違っている事に、ベートは苛立ちを覚えた。

 

 

「ベート、分かるだろう。何故わざわざヤツ一人のために、私達が見張っていたのか。そこに私も、ガレスもティオネも、何も言わないのも」

「……ハァ?」

 

 

ベートは理解できないと首を傾げる。

つまり、あの女の力を認めているのはリヴェリアとフィンだけではなく、ガレスとバカゾネスですらそうであるという事だ。

 

 

「つまり、俺ら幹部全員が監視しなくちゃいけねェほど、あの女は危険だってのか? ハハッ! ババァ、テメェは雑魚の実力程度なら見極められると思ってたんだがなぁ! 何がテメェをそこまで卑屈にさせた?」

「彼女はそれほどの相手だ」

「だったら尚更、ここに置いておく意味が分からねえ」

「逆だ。だから私達は彼女を追い出さないんだ」

 

 

ベートは問う。何故それだけ警戒し、それほど危険視しているのに、未だ何の対処もしていないのだと。何故そんな奴を追い出さず、剰(あまつさ)え治療までして部屋を与えているのかと。

 

リヴァリアは答える。警戒しているから、危険視しているからこそ、彼女を野放しにしてはいけないのだと。

 

 

「だからせめて、ヤツの目的だけでも知っておきたい」

「……おいおいおいおい、耄碌したか耳長ババア」

「ヤツの魔法は脅威的だ。噂にならない方がおかしい。なのに、彼女の本名を聞いても誰も分からなかった。後ろ暗い事をしていたのか、何らかの理由があって秘匿され続けてきたのか、それもまた聞くだろうが、せめて彼女が何を考えているだけでも知っておく必要が―――」

「そうじゃねェ! そんな、どうでもいい事を聞いてんじゃねェ…ッ! あの女の目的…? 何で知る必要がある!? ――――おいフィン!!」

 

焦るように、ベートは叫ぶ。

 

「テメェもそうなのか?!」

「……ベート」

「まさかあの女を、ここ(ロキ・ファミリア)に入れようってんじゃあねェだろうな!?」

「……生物、無機物問わず収納できる魔法、ガレスを一瞬でも止めた戦闘技術、全身を負傷しても死なない生命力、どれをとっても一級品だ」

「真に受けてんじゃねぇ!! 恩恵もファミリアも知らねェなんて、所詮はあのグルグル女の妄言だろうが!」

「そうかもしれない。彼女は最低でも、既にレベル4の域にまで達している。恩恵なしに、あそこまでの力を手に入れられはしないだろう。そして彼女はそれを本気で言っている。はっきり言って異常だ」

「ああそうだな、異常だ。テメェはそんな異常をここに置くってのか?!」

「彼女の力は魅力的だ。取り込めるなら、取り込みたい」

「ッ……そーかよ」

 

 

これ以上は無駄だと思ったのか、僕の本音を聞いたベートは舌打ちをすると、踵を返した。

 

 

「勝手にしやがれ…! けどな、オレは納得してねぇ」

 

 

手をポケットに仕舞い、背を見せたままそう吐き捨てた。言いたい事は言ったのか、ベートはそのまま振り向かずその場を後にした。

 

 

「ベートも強情なやっちゃなあ」

 

 

ひょいと、リヴェリア背から顔を覗かせるロキ。彼女は子供のように拗ねるベートをニヤニヤしながら見送っていた。

そうしてある程度彼が遠退くと、今度は上から覗くように僕を見る。

 

 

「そんで? ウチにも教えてはくれへんの?」

「いいや、ロキ。キミにも話そうと思ってた。いや、話さなければならない」

 

 

ロキの含みある言葉にそう返す。ガレスとリヴェリアにも話そうと思っていた事だ。警戒されている僕では、どう足掻いても一人ではできない。

 

 

「2、3日。それまでに彼女を見極めたい。協力してくれ」

「フッフッフ…よっしゃ! ウチに任しとき!」

 

 

ロキは嬉しそうに頷くと、僕らは会議室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

午前2時46分

月明かりが世界を支配しているとき、一人の男が……否、女が一糸纏わぬ姿で鏡の前に立っていた。

 

 

「ハァ…! ハァ…! うっ…くそ…ッ」

 

 

鏡に手をつき、悪態を吐きながらかぶりを振る。

今にも嘔吐しそうな表情で無い左目を押さえながら、オビトは真っ直ぐ己の身体を見ていた。

 

月明かりに照らされて映し出されるは、かつての自分の姿ではなく、若い女の立ち姿。

鍛え上げられた肉体は消え、代わりに鏡に映っているのは乙女の柔肌と、女の象徴である乳房が張り付いていた。その姿はどこからどう見ても見知らぬ女で、こんな姿は決して自分では無い。

 

 

「どう、なっている…!」

 

 

声も、顔も、体も、

かつての自分から、変わりきったその姿。

鐘が響くように頭の中がぐちゃぐちゃだ。

 

 

「オレは…ッ」

 

 

死んだはずだ。

カグヤにより、共殺の灰骨を腹にくらって。塵になって。死んで。

そしてオレは、オレは……

 

 

「あれ……?」

 

 

その後は?

何があった?

 

オレは……誰かに会った??

誰に…?

 

 

たらりと、額から汗が零れ落ちた。

 

 

いや待て、混乱している。落ち着け……落ち着け……

オレは死んでいる。死んでいる、筈だ。

ならその後なんてない。死んだらそれまで、死んだら終わりだ。誰かに会うなんて、そんな事あるわけがない。

 

なのに、なぜオレはこんな気持ちになっている?

 

胸を締め付けるこの思いは。

空いて塞がることのない心を満たす気持ちは、一体何なのだろう。

 

 

(記憶でも弄られたか?)

 

 

無限月読や別天神のような幻術があればこんな世界に見せることも、性別を変えるなんてこともできるだろう。

 

黄泉還る方法もある。うちはマダラはそうして生き返った。だが、輪廻天生も穢土転生も、オレのような罪人に使う意味が分からない。

ましてや、性を反転させる意味も分からない。

 

 

(ああ……頭が重い)

 

 

目が覚めたら地下と思わしき場所に閉じ込められ、意味のわからない連中に囲まれ、身に覚えのない事で多額の借金を背負わされた。あの場でオレが出来たことは、血の足りない頭で応答し、己の素を隠せた事ぐらいか。

これだけ見たら詐欺集団に騙されたような気がしてならないが、しかし、褐色の女の妹とやらを神威空間に飛ばした事は事実であることから、オレが暴走したと言うのは本当なのだろう。

 

正直、今も体調は最悪だ。

血もまだ戻らないし、女の肉体になっているのも気分を害していた。自分の胸に張り付いた肉の塊がここまでおぞましく感じるとは思いもしなかった。今すぐにでも床に着きたいが、オレの身に何が起きて、どんな変化があるのか確認しないわけにはいかなかった。

 

 

「……フー」

 

 

オレは呼吸を整えた。

そして足の裏にチャクラを集中させ、壁にその足を置いた。

 

 

(チャクラコントロール…これは以前と変わらないか)

 

 

チャクラの質が変わればその扱い方も多少変化する。オレの場合肉体ごと変わっているのだから、その扱いも大きな変化があると考えていたが、どうやら違ったようだ。写輪眼も万華鏡まで使えたし、壁を歩く事も出来ている。

 

つまり、この肉体は極限にまでオレの体に近付けた肉体であり、変化と言えば柱間細胞が無い事と、性別が女となった事ぐらいであった。

 

 

(……)

 

 

誰がこんな手の込んだ無意味な事をしたのだろうか。生き返らせるなら元の肉体のままでいい。寧ろオレの力を欲しているのなら、万全の状態で使える肉体を用意すべきなのだ。

 

こんな性の転換など無意味な事をするから、オレの重心が変わって歩きにくいし、背も10cm程縮んでいるから距離感も狂っている。

 

肉体は制御しにくいが、忍術は今まで通り行使できる。コレを無意味と称さず何度か言おうか。

 

 

ぼふんっ、

 

 

天井まで歩いたオレは、そのまま力を抜き、ベットの上へと落ちる。

オレの身体を優しく受け止めたベットが、オレを夢の世界へと誘った。

 

 

「あ"ー……」

 

 

なんとも情けない声が口から漏れたが、そんなことは気にならないほど脳みそが痺れていくのが分かる。

柱間細胞を持っていたならこんな睡魔など有り得ないはずだが、今は眠気もあるし、空腹も感じている。

 

本当に、彼の便利な細胞はオレの肉体からなくなってしまったのだろう。

 

けれど、数十年ぶりに感じる眠気はなんとも心地よく

――――オレは夢の世界に捕らえられた。

 

 

 

翌日。

 

 

朝起こしに来た男が全裸で眠るオレを見て悲鳴を上げ、後から来た女達に責められていたが、

なんだ……その、少し申し訳ないと思った。

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