「いやぁ、いい試合っすねぇ〜」
試合中の亜蘭グラウンドを囲う白いフェンス越し。ゲームを一瞥できるその場所で、こじんまりとしたベンチに腰掛けるジャージ姿の鎌野樹はコーラの缶をグイッと呷っていた。周囲に空き缶の転がるベンチでこうもくつろげる胆力に、横の男がため息を漏らす。
ため息をついた男──長宗我部が、膝の上に乗せているノートにペンを走らせつつ鎌野に視線を向けず口を開く。
「スポーツマンとしてコーラはどうなんだ、鎌野」
「んー? いつも飲んでるわけじゃないんすから、固いこと言わないでくださいよ。チートデイってやつっす」
炭酸を完飲した鎌野が息をついて立ち上がる。手の内で缶を揺らしながら、ちゃんとゴミ箱に歩を進める背中を見て、そういうものかと長宗我部も納得した。
ゴミ箱へ十分に近づいて空き缶を投げ入れた鎌野が、グラウンドへ視線を戻す。その先には憲戸中のベンチ──もっと言えば、伊槌鳴哉へとフォーカスされている。
それだけで彼の言いたいことが伝わったとばかりに長宗我部が頷いた。
「憲戸は成長している。DFもMFも、満遍なく」
長宗我部の目にはそう映った。パス、ドリブル、トラップと言った基礎が盤石になっている。要因にも想像がついた。
「特にあの
鎌野の意図を汲んだその言葉に、満足げな表情を浮かべて彼の隣に腰掛ける。伊槌というストライカーが、MF、DF、GKとあらゆるポジションに進化を呼んでいるのだと、言外に肯定した。
興奮冷めやらぬ様子で大仰に手を広げながら話し出した。
「身体のキレも戻ってるのか、ドリブルもよくなってる。シュートも、メンタル面もっすよ。俺の知ってる伊槌鳴哉が帰ってきたって感じっす」
「ああ」
そっけなくも同意を返す。
彼の目から見ても、最後の攻撃は素晴らしかった。2点差の動揺に負けず、前線で味方を動かしながら虎視眈々と得点を狙い、理想的なオフ・ザ・ボールでボールを引き出し最後は執念で叩き込んだファインゴール。
「流石はストライカーだな」
「そっすね、俺ほどじゃないっすけど」
「調子に乗るな」
軽口を叩く鎌野は置いておき、この1点は重い。後半へと意気込むチームの希望になったことは、疑いようもないだろう。
長宗我部に小突かれた鎌野が、苦笑しながら視線を戻す。それはこの遠距離からでも寸分違わず伊槌の背中を射抜いている。異様な雰囲気の鎌野の『眼』が、爛々と輝いていた。
「後半は何を見せてくれるんすか? 少なくとも退屈なサッカーは願い下げっすよ」
不気味に笑みを噛み殺す。その心中は、小学校からのチームメイトたる長宗我部にも読めない。
長宗我部がノートに目を落とそうと、憲戸ベンチから視線を外す。そう目線を移動させれば、たまたま亜蘭のベンチが目に飛び込んできた。
その中の1人、後ろに流した金髪の男が否応にも網膜に張り付く。長宗我部の顔が、わずかに歪んだ。
「あ、あいつらの方も前半終わりっぽいっすね。蓮水が
「……ん、ああ。そうか……流石だな」
その些細な変化を気にせず、鎌野がコーラを飲んでいた時のような緩い様子でスマホを見せる。サッカーニュースの中では、現在2回戦を戦っている青森附属が前半で6得点、との文字が踊っていた。
「調整がてら出してくれて良いんすけどねぇ。2軍が主なのに1年の奴らは出てるし」
「俺たちが出るまでもないだろう。現に、休暇を与えられたからこうして偵察できるのだからな」
「偵察ぅ? 俺暇つぶしに観戦に来ただけなんすけど」
「はぁ……お前は少しピッチ外でも覇気を持て」
そのまま鎌野たちの話題は、目の前の試合から遠ざかっていく。長宗我部も、胸の奥を苛んだちょっとした後悔を、すでに飲み下していた。
──────────
「……?」
「鳴哉くん、どうしたの?」
「いや……気のせいかな」
視線を感じて振り返った伊槌が、顔を寄せてきた様崎に頭を下げる。長い睫毛に、一瞬目を奪われた。
気を取り直すように口元を拭って、月並に視線を向ける。彼はにこやかな表情で一同を見渡していた。
「いい前半だったんじゃないか? 1点差あるが、まだ全然勝てるぞ!」
「ああ、勢いに乗って後半も攻め切りたい」
調子のいい言葉に、靴木が首肯する。伊槌の1点は、予想通りチームの士気を高めることに成功していた。
「おう! 後半こそ俺が決めてやらぁ!」
「守備も任せてネ! ワタシたちでアンナをサポートするよ!」
口々から放たれる、活力のみなぎった言葉がベンチに木霊する。他のチームメイトたちも頼もしい顔つきで、後半が待ちきれない様子だった。
──ただ1人を除いて。
「その……」
遠慮がちに、太田が口火を切る。その先に続く言葉を、伊槌は予想できた。
「……『交代してくれ』、ってとこかァ?」
「……うん。僕がいなくても、どうにかなるだろうから……」
無籐が口にしたのは、伊槌の想像通りのことだった。太田は首を下げ、沈痛な面持ちで肯定する。
チラリと月並を見ると、眉をへの字にして困った様子だ。監督としてはパワーのある太田を交代したくはないだろうが、顧問としての彼はその意思を尊重したいのだろうと当たりをつける。
「そうか……じゃあ──」
「いや、待ってくれ」
逡巡がありながらも、彼の意思を汲もうとした月並を、伊槌が手で制した。
周囲の視線が集まるのを感じる。呆気に取られたような表情の太田を諭すように口を開く。
「俺たちには勢いがあるとはいえ、相手のフィジカルは強い。太田の力が必要だ」
「まぁ、そうだね。太田くんが居てくれれば心強いかな」
様崎が同調した。キャプテンの彼女の発言力は高く、太田との信頼関係も築いている。伊槌の言葉よりよっぽど心に沁みるだろう。感謝を込めて視線を向けると、ウインクを返された。
「で、でも僕のパワーも、あのチームの前じゃ……」
「そうか? 本気を出せば、お前はあんなもんじゃないだろ」
伊槌の脳裏にあるのは、泰山戦終盤での太田のディフェンス。
力強く、強靭なあのタックルがあれば黒鉄や落合の攻撃もシャットアウトできると確信していた。きっとあれが、太田本来の実力だ。
「
声を張り上げて懇願する。その言葉に、太田の体が大きく震えた。何かに耐えるように、拳をぐっと握り──
「──いい加減にしてくれ!」
空気が揺れる。太田の叫びが、金槌のように強く伊槌の脳を殴りつけてきた。
「僕たちは誰にも期待されてない弱小なんだ! 勝たなくたっていい! 勝てるわけがない! なのに勝てそうだなんて……そんな希望は……要らないんだ!」
魂から直接放たれたその叫びは、深い衝撃となって腹の奥に突き刺さる。そして、同時に腑に落ちた。何故ここまで太田に肩入れするのか。
最初の青森附属との試合では、太田の失意を仕方ないと投げ出した伊槌が、何故こうも引き止めるのか。それは、勝利への執念だけではない。
「希望を見せられて……それを取りこぼしてしまったら……僕はきっと、サッカーが嫌いになる……」
「……似てる」
太田の独白が続く。記憶の奥底から蘇るのは、マドリードから逃げ帰ってきた自分。未練を押し込め、希望を信じられなかった自分。全て、目の前の太田に重なった。
様崎が手を取ってくれなければ、伊槌はここにいなかった。サッカーに戻ってこれなかっただろう。だから、今度は自分の番なのだ。
伊槌の目に、決意が宿る。
「だから、勝たなくていい。……勝ちたく、ない」
「──希望なら俺が見せてやる」
首を下げた太田の眼前に、伊槌が歩を進める。自分を誇示するように胸を張って、強い視線で彼を射抜いた。
「勝ちたくないだなんて嘘だ」
「……嘘じゃ、ないよ」
「ならなんでお前は泰山の時逃げなかった? 勝たなくていいなら、あのパワーチャージは何だったんだ?」
太田が口をつぐむ。
「太田──気づいてないのか?」
「……何が、だい」
「泰山に勝った後……お前は、信じられないような表情をしたあと──」
一呼吸置いて、自然に、だがよく響く声が太田の耳朶を打った。
「笑ってたぜ」
「──!?」
弾かれたように顔を上げる。やっと、彼と目が合った。
憔悴したような、濁った目。だがその奥に、確かに感じる。勝利への焦がれを。
「その『勝ちたくない』が本心か……答えはフィールドでしか見つけられない」
伊槌が彼の手を取る。逆らわず、太田が手を引かれて立ち上がった。
「もう1回見せてやる、勝利の栄光ってやつを。だから、立ち上がれ」
「…………」
ゆっくりを手が離れる。太田は緩慢に振り返って、背後へと足を進める。
風に撫でられた芝を踏み鳴らして、フィールドの上へと。
「……ハッ、やっとやる気になったってか」
「……太田先輩がいるなら、百人力ですね」
仲間たちの間に漂っていた緊張感も、やっと抜けていった。無籐が全身の疲労を丸ごと吐き出すように息をつくと、水やタオルを配っていた橘花たちに視線を向ける。
「おい1年組、アップしろ。出番だぜ」
「えっ!? は、はい! 行こう、宵闇さん!」
「えっ、ちょっと引っ張らないで──」
橘花がキラキラした表情で、宵闇の手を引っ張ってアップに入る。突然賑やかになったベンチに伊槌が苦笑を漏らし、無籐を見やる。
視界の隅では、月並が交代の準備をしていた。
「誰代えるんだ?」
「太田を代えるつもりだったが……お前が説き伏せたからなァ。いい仕事だったぜ」
無籐が労うように水を渡してきたので、ありがたく頂く。
喉を潤す伊槌に、無籐が言葉を続ける。その視線の先には、息を弾ませるホープと梵場の姿があった。
「ホープ、梵場。お疲れさん」
「はぁ……はぁ……私まだ行けるのに……」
「まぁ、君は運動量も激しかったし、後半は攻め方を多少変えないとね。子猫ちゃんたちに任せるさ」
ホープは不服な様子で汗を拭っている。対照的に、梵場は落ち着いた風にベンチに腰掛けていた。
そして、審判の手から高い笛の音が空を貫いた。ハーフタイム終了の合図だ。
交代を告げられたホープたちがベンチに下がり、1年組が気合十分な様子でピッチに駆けていく。伊槌も息を整え、踏み出した。
その時、背後から髪をぐしゃりと撫でられる。驚いて振り向くと、いつもの悪戯っぽい笑顔を浮かべた様崎がそこにいた。
「かっこよかったじゃん、鳴哉くん。そういう熱いとこ、好きだよ」
「……ありがと。後半も気張ってくぞ」
「ふふ、後ろは任せといてね?」
軽く拳を合わせる。そして今度こそ、力強く一歩を踏み出した。
──────────
後半は亜蘭ボールでのキックオフだ。憲戸はホープの位置に宵闇を、梵場の位置に橘花を交代し、亜蘭は交代なし。
センターサークルにポジションを取る落合は、不機嫌そうに眉を顰めて伊槌を睨みつけていた。
「クソが……ぶっ潰してやる……」
「あはっ♪ 星先輩こわーい☆」
イラついた様子でボールに足を乗せる彼の目を、伊槌は真正面から受け止める。それが癪に触ったのか、鼻を鳴らして視線を外した。
そして、戦いの火蓋は再び切られる。
「攻め潰せてめぇら!」
「あいあいさー☆ 城先輩パース♪」
叛月が素早く背後の黒鉄にパスを送り、前線へと駆ける。変わらず凶悪な表情でドリブルする彼女に、伊槌が鋭くプレスをかけた。
「行かせるか……!」
「どきな天才!」
構わず突進してくる彼女を、伊槌が巧みに受け流しボールに足を伸ばす。だが、黒鉄もしっかりプロテクトしながら、面倒そうに周囲へと視線を散らした。
「面倒だね、ゴール前まで持ってきな!」
「ダル、パス」
「オッケー☆」
「クソ、早い……!」
流れるようなパス回しで伊槌を突破し、サイドに流れた叛月へとボールが渡る。彼女がドリブルを開始するその瞬間、強ばった様子の橘花がディフェンスに間に合った。
硬さの抜けていない彼を見て、叛月がくすくすと笑い声を漏らす。
「ふふっ、おねーさん緊張してるの? 可愛いね☆」
「僕は男です……!」
驚いたように、叛月が一瞬目を見開く。だが瞬きとともに気を取り直し、勝負を仕掛ける。
「じゃあおにーさん、ミラちゃんがリードしてあげる♪」
ぐんっ、と加速して彼我の距離を一気に詰める叛月。橘花が見極めてボールに足を出すが、舐め回すようなコントロールにタックルは空を切る。そのタイムロスで、叛月が半身前に出た。
「くっ、上手い……!」
剥がされて焦った彼が、なんとか手で止めようとする。だが、彼女の身のこなしにその必死の抵抗すらも届かない。
「お触り厳禁♪」
「うっ、すいません、抜かれました……!」
サイドで抜け出した叛月がさらにスピードを上げてドリブルを続ける。その視線はエリア内に向けられ、軽い口調とは裏腹に虎視眈々とゴールを狙っていた。
「止まれ」
流石にこれ以上攻めさせるわけにはいかないと、靴木が中央から出張る。待っていたとばかりに、叛月が三日月を描いて笑った。
「真ん中ガラ空きだよ☆ いっけー♪」
「いい仕事だ、クソガキ共」
空いた中央のエリアで、落合がボールを受ける。不味いと直感した伊槌が、声を荒らげた。
「ディフェンス!」
「オッケー、私が──」
伊槌の言葉に呼応して、セオリー通り様崎が落合にプレスをかけた瞬間、大きく踏み込んだ落合の視線が、ゴールを貫く。
「うらぁっ!」
そして、空を切る音とともに、予想だにしないシュートが打ち放たれた。
様崎も反応しきれず、髪を掠ったボールを目で追うことしかできない。太田も同様に見送る。
「杏奈ちゃん!」
「このくらいなら……ふっ!」
パシン、と音を立てて、久良島がボールを両手で抱きしめるようにセーブした。だがその顔が、一瞬歪む。腕の怪我はまだ尾を引いているのだろう。
遠目からのシュート。これはきっと得点を狙ったものではない。
「くっ……」
「潰してやるぜキーパー……覚悟しとけ」
──キーパー潰し。やはりそうかと伊槌が歯を食いしばる。だがそうと分かったところで、自分にできることなどない。
「久良島……信じてるぞ」
伊槌にできるのはいつだってゴールを奪うことのみ。今はただ、その一瞬に集中を切らすなと自分に檄を入れ再び相手陣へと走り出した。
「キャプテン……!」
「よし、行くよみんな!」
様崎が号令を放ちつつドリブルで持ち上がる。すぐプレスに来た落合をかわし、一気に無籐目掛けてパスを送った。
「ナイスパスだ、同点にするぞォ!」
「させないし」
胸トラップでボールを収める彼の死角から、金のポニーテールが忍び寄る。そのまま、背後から掠めるように足を伸ばした。鍵屋の足が、ボールに触りかける。
「……!? チッ、いつの間に来やがった……!」
だが、間一髪で反応した無籐がしっかりボールを守り、なんとかサイドに流れた伊槌へパスを送った。鍵屋は舌打ちして見送ることしかできない。
伊槌にも素早く矢部がディフェンスに入る。距離感を保って、抜かれないように細心の注意を払っていた。
「臆病だな……奪いに来ないのか?」
「んな安い挑発に乗るかよ」
青筋を立てながらも冷静に伊槌を見極める矢部。意外な沈着さに目を細め、無理矢理ドリブル突破を試みかけたその時、伊槌の背後から芝を駆ける音が近づいてきた。
口元を緩ませて、ヒールパスを落とす。
「いい子だ宵闇! ワンツー!」
「ミ、ミスっても怒んないで下さいよ……!」
情けないことを口走りながらも、矢部の頭上を越えるパスを供給する。荒いボールだったが、ディフェンスから逃れた伊槌なら十分に収めることができた。
「DF! 警戒しなよ!」
「グフゥ……了解なんだな〜」
DF陣が声を上げて伊槌の進路へと立ち塞がる。ゴールを覆い隠す鰐原の巨体は、見るものに本能的な圧迫感を覚えさせる。
それでも、怖気付くわけには行かない。伊槌が思い切ってボールを爪先で宙にあげた。距離はあるが、電閃の構えだ。
「もう打つ気かい……!?」
「ストライカーとしての責務を果たす……!」
『希望を見せてやる』。太田に語ったその言葉を現実にするため、伊槌の全身が唸りをあげる。
ボールを擦り上げると、焼けるような電撃が弾けた。ゴールを貫かんばかりに睨みつけ、振りかぶった右足を雷撃の球に叩きつける。
──そして、爆砕するような放電の後、空気を裂いて放たれた。
「ブチ抜けッ! 電閃ッ!」
「グオオオ! クロコダイルスケイル!」
雷電に、鱗の生えそろった猛獣が真正面からショルダータックルを放つ。一瞬拮抗が生まれ、ボールが纏う電撃が少しかき消された。
だが、シュートの威力は死なない。鰐原の身体を削り取らんばかりに、ボールが回転を強める。
「グ、グオオ……!」
「──行けぇ!」
熱に押されたように、バチッと電撃が弾けた。
「ギャァ!?」
「チッ、百烈──」
鰐原が弾き飛ばされたことに眉を顰め、両腕を握りしめた鬼裂が電閃を睨みつける。冷や汗を垂らしながらも、その拳を振り上げようとした途端、その前方を影が遮った。
「おいおい、こんな面白いこと私抜きでやるなよ!」
「なっ、黒鉄!?」
「来たのかいアンタ! 時間を稼ぎな、そのうちに大技の準備をするよ!」
最前線にいたはずの黒鉄が、嬉々とした表情でボールに立ち向かう。目を見開く伊槌を歯牙にも掛けず、滑らかなドロップキックで電閃のブロックに入る。
「カラミティ・ボンドォ!」
「……いや、貫く!」
伊槌の呟き通り、電閃の威力はほとんど衰えていない。爆裂する電撃が、彼女の身体を焼いていく。
「クッ、ククク……いいシュートだ天才……! いい、いい……痛いぞ……!」
黒鉄は恍惚とした表情で、痺れる足に蕩けた視線を向ける。そして程なくして、彼女の体も吹き飛ばしゴールに突き進む。
流石に威力の何割かは削られているが、鬼裂を破れる──だが、伊槌はその甘い認識を改めることになる。
「十分な仕事だったよ2人とも……もうアタシのゴールは割らせないよ!」
「ッ!?」
ゴールの前に立つ鬼裂が咆哮した。その気合いに呼応するように、彼女の背後から、紅蓮色の鬼神が現れる。
「隠し球があったのか……!」
伊槌が声を漏らす。万全でない電閃がアレを貫けるか──分からない。
鬼神が拳を握って、鬼裂が大きく飛び上がる。ハンマーで打ちつけるように、鬼神の腕が力強くボールに叩きつけられた。
「負けてやるかァ! 鬼の鉄槌!」
地面が砕けるほどの威力で、シュートが押し潰される。衝撃で土埃が巻き起こった。
「くっ……行ったかァ……!?」
視界が晴れて見えたのは、威力を失って地面にめり込んだボールと、得意げに腕を払う鬼裂の姿。
それは、無籐の呟きとは裏腹に、完璧にセーブされたことを意味していた。
「……ッ! クソッ!」
「3人がかりだってのに馬鹿みたいな威力だね……まだ腕が痺れやがるよ……」
歯を食いしばる伊槌に、笑みの中で鬼裂が化け物を見る視線を向ける。痙攣する右腕に軽い恐怖を覚えながらも、動揺する憲戸陣へパントキックを放った。
「くっ、ディフェンスだ!」
「ちょっと遅いかな☆ 頂いてくね♪」
「なっ……ぐっ、すまない!」
靴木が素早く落下地点に向かうが、飛び上がった叛月にボールを掻っ攫われる。一気にドリブルで進もうとした彼女だが、再び橘花が並び立って身体を当ててきた。
「行かせません!」
「……おにーさんは結構情熱的だね♪ でもしつこすぎるかな☆」
そう微笑んで、ボールを蹴り上げる。叛月がアクションを起こすと同時に、桃色の気が辺りに充満した。
「私と踊りましょう♪」
そのオーラに当てられたのか、橘花の体が意に反して彼女の手を取る。共に回転してワルツを舞い始めた。
可憐な花びらが散るような、一瞬の舞踏。最後は飛び上がる2人の身体がすれ違い、叛月の道が開けた。
「プリマドンナ☆」
「しまった……!」
抜き去られた橘花が膝を折って項垂れる様子を尻目に、叛月が右サイドにパスを放つ。待っていた中田の足元にスパンとトラップされ、ガラ空きのサイドを使われてしまう──と伊槌が歯噛みする。
だが、その背後からフレッシュなプレスがボールに繰り出された。
「ふっ……!」
「なっ……チッ、このチビが!」
SBである宵闇の戻りながら放たれた決死のスライディング。それを間一髪でかわした中田だったが、一瞬のうちに体勢を戻した宵闇とマッチアップを作られてしまった。
「チビって……酷い言い草ですね。無駄にデカいだけのくせに……」
「生意気なこと言ってんじゃねぇ!」
体格に勝る中田が強引なドリブルで宵闇を弾き飛ばす。当たり負けて倒れた彼女に対し、意地の悪い笑みを浮かべる。
「いっ……このっ!」
「しつけぇ、なんだこいつ!」
だが、宵闇はすぐさま立ち上がりボールにアタックを辞めなかった。
声をあげて驚く中田がボールを失いかけるが、フィジカルを活かして宵闇を抑え、ギリギリでキープし続ける。
「どけ!」
「押し通って見てくださいよ……!」
野生動物のように執拗に食らいつく宵闇に、苛立ちの込めて青筋を立てる中田。そのプレーはどんどんと荒くなっていき、無慈悲に宵闇の体力を削っていく。
だが、目の前にかかりきっていた中田には気づけない。背後から忍び寄っていたその少女の姿に。
「ナイス黒江! はあっ!」
「なっ、いつの間に……!」
背後から明凪がボールを的確に弾く。そして浮き上がったボールは、飛び上がる宵闇が奪い取った。
「遅いですよ、全く……」
ボールを収め着地した宵闇がぼやく。苦笑する明凪を視界の端に捉えつつ、すぐ攻撃に移ろうと誰かにパスを送ろうと首を動かした瞬間──
「
「えっ、早っ……!」
──爆走する黒鉄が、一心不乱に宵闇に突っ込んでくる。先ほどまでディフェンスに回っていたはずなのに、と宵闇が考える暇もない。
そのまま勢いを殺さず、激しいチャージで宵闇を吹き飛ばしボールを強奪した。
「かはっ……」
「ヒャハハハ!」
明凪が急いで止めようとしてくるが、黒鉄の容赦ないドリブルについていくことができない。ゴールと彼女を結ぶ線に、障害がなくなった。残忍な視線が久良島に突き刺さる。
「くっ、止めます……!」
「やってみなぁ、その右腕でぇ!」
嘲笑うように叫びをあげ、ボールを強く踏みつける。その衝撃で回転して浮き上がったボールに向かって、逆立ちの体勢で蹴りを入れ続けた。
ボールに赤黒いオーラがまとわりつく。炸裂しそうなほど爆裂を繰り返す。
立ち上がると同時、流れるように放たれたサマーソルトキックと共に、高らかにその名を歌い上げた。
「ぶっ飛べやぁ! ナチュラル・ディザスタァー! ハッーハハハハッ!」
破壊的なシュートが土を抉りつつ迫る。様崎や三刀屋たちは間に合わない。それでもなお、久良島は真正面から対峙した。
左腕に、暗黒のオーラが巻きつく。黒鉄のそれとは違い、暗いながらもどこか暖かさを秘めた黒。髪に隠れた瞳に決意を宿し、大きく振りかぶって拳を叩きつけた。
「真っ黒パンチ……!」
強烈なエネルギー同士が、衝撃を炸裂させる。腕が折れそうなほどの圧力に顔を歪める久良島だが、それでも全身の体重を乗せて、パンチングで食らいつく。
「ヒヒャハハハァ! 往生際が悪いガキだなァ、面白ぇ!」
「ぐっ……うう……!」
黒鉄の言葉に押されるように、シュートが回転を強める。もともと利き腕では無い左腕は、すでに悲鳴をあげていた。
ざりざりと、少しずつゴールラインへ押し込まれる。
「……っ、きゃあっ!」
そして、ついに決壊した。腕が弾かれ、身体が地面に吸い込まれる。
終わった──誰もがそう思った瞬間だった。
「うおおおおお!」
巨体が宙を舞う。太田だった。
久良島が押されているのを確認した彼が、ゴールライン上のボールに飛びついて、オーバーヘッドでのクリアを試みたのだ。
「太田くん……!?」
「くっ……うおお……!」
これは、太田本人ですら説明のつかない行動だった。まるで、泰山戦の時のように、身体が勝手に動いていた。
久良島とぶつかり合って威力の削がれていたボールが、太田に弾かれる。彼もパワー負けしてゴールに叩き込まれたが、DFとしての仕事は果たした。
「チッ、だったらもう1度……」
「やらせない!」
黒鉄に渡りかけたルーズボールを、様崎が空中で奪い取る。そして、太田たちに少し笑いかけ、声を張り上げた。
「カウンター!」
「おぉ!」
「チッ、今の入らないとかあり得ないし……!」
様崎のロングパスはセンターサークルを越え、無籐の足元に渡る。突然の攻守交代に焦りながらも、鍵屋と矢部がプレスをかける。
無籐は慌てない。不敵に笑い、ボールを踏み抜いて地面を抉った。1度見たそのモーションに鍵屋が警戒を深めるが、すでに遅い。
天空からクレーン車が、土埃を上げて舞い降りる。そのフックが、鋭く地面に突き刺さった。
「このボールは無駄にしねぇ! トレジャークレーン!」
「くっ、ウザっ!」
「ナイス無籐、来い!」
突き刺さったフックが地面をちゃぶ台返しし、巨大なボールが一本釣りされる。その圧力に鍵屋は膝を折り、矢部も動けない。
伊槌の指示に従い、無籐が強いパスを送る。ゴールに背を向けてボールを受けた彼に、鰐原が素早く圧力をかけた。
「グフッ、流石のオマエでも後ろ向きじゃシュートは打てないんだな〜」
「……」
「天才もゴール前にいなきゃ形無しだねぇ!」
伊槌が反転を試みる。だが、鰐原もそれを読んでいるのか体を入れて振り向かせない。ここで前を向かれれば1発で得点につながることを、誰もが直感していた。
2つの足音が近づく。もう2枚のCBである内海と谷岡が、確実に伊槌を潰しに来る足音だった。
「オマエはここで終わり! カウンター返しでゲームを決めてやるんだ〜」
「ハッ、ボールを寄越しなァ!」
3本の足がボールに伸びる。
伊槌が、ちょん、とボールに触れた。それは、背後の橘花へのパスだった。
「終わるのはお前らだよ……」
背中越しに、ゴールを睨みつける。
橘花が、素早くパスモーションへと入っていた。
「──ストライカーは俺一人じゃないぜ」
「木崎先輩!」
3人が伊槌に引きつけられ、完全にフリーとなっていた木崎に、ピンポイントで浮き球が通る。キーパーとストライカーの、完全な1対1の局面が完成した。
「ハッ、アンタが相手かい! あの程度のシュートでアタシが抜けるかよ!」
「へっ、やってみなけりゃ分からねぇ!」
余裕を崩さない鬼裂に怯まず、木崎が強く地面を踏みしめる。
足元のボールにオーラが集まる。通常の青とは違う、焼けるような赤。気を込め、打つだけのシンプルなシュートを、渾身の力で打ち出した。
「俺が、憲戸のエースストライカーだァ! 食らいやがれ、グレネードォォォ! ショットォォォ!」
「フン、捻り潰してやるよ……百烈パンチ!」
空気を激しく裂いて向かうシュートに、正面から殴打を叩き込む。久良島とは違う連撃。その両腕は透明なオーラが絡み付いていた。
DFのアシストがあったとはいえ、1度ぶつかりあった技同士。鬼裂は再び勝てると踏んでいた。
──だが、その目論見は崩れる。力強すぎるシュートに、拳が追いつかなくなってくる。
「ぐっ……ぬ、抜かせるかぁァ!」
「行けぇぇ!」
「決まれ!」
外聞を捨てて、全力でパンチを叩きつける。それでもなお、威力は緩まない。むしろ、増しているとさえ錯覚していた。
手に纏うオーラが消えていく。信じられず、目を剥いて拳を緩めない。めしゃり、と音がした。
「ガッ──!?」
腕が弾かれる。刹那、弾丸が腹に突き刺さる。肉体など盾にもならず、赤の一撃が、強かにゴールネットに食らいついた。
甲高い笛が、耳をつんざく。同点ゴールが、生まれた。
「よっしゃああああ! 見たか! 俺がエースだ!」
「ナイス! よくやった、橘花も!」
「は、はい! ナイスシュートです!」
雄叫びをあげる木崎の背中に、伊槌が飛びつく。寄ってきた橘花の頭をぐしゃぐしゃにして、喜びを分かち合う。胸を焼く歓喜が、フィールドに渦巻いた。
それを遥か後ろから見ていたはずの太田にも、何故か熱い想いが胸の内に現れる。
「……!」
全身が抱擁されているような、暖かく、心地よく、激しい感情。今まで味わったことのないような感覚。いや、それは嘘だ。
これは、泰山を破った時のそれに似ている。感情の奔流が、太田の脳幹に駆け巡った。
「……ふふ、太田くん」
「あ、咲夜さん……」
「楽しそうだね」
柔らかく笑みを浮かべる様崎にそう言われて、太田が頬に手を当てた。たしかに、口角が上がっている。
「見つけた? 『勝ちたい理由』ってやつ」
「……」
口をつぐむ。暴れる情動に、頭が追いつかない。それでも、心地よかった。
そして、太田は何も答えずディフェンスラインに戻る。無視された形の様崎は、だがその背中に満足そうに頷きを返した。
「ふふ……見れば分かるって顔。楽しみにしてるよ、太田くん」
そうして、彼女も自分のポジションに小走りしていく。もう、負ける気などしなかった。
──────
GOAL‼︎
49分 木崎爆音
アシスト:橘花桜華
憲戸 2-2 亜蘭
──────
「……クソッ、クソ! おい、とっとと始めろてめぇら!」
落合が苛立ちから声を荒らげる。尋常でないほど怒りで顔を歪ませた彼は、強く伊槌を睨みつけた。
伊槌も負けじと睨み返す。一触即発の空気を切り裂くように、再開の笛が鳴り響いた。
「よーし、次はどうやって──」
「おいクソガキ! 俺に寄越せ!」
ドリブルで進もうとする叛月の肩を掴み、落合がボールを奪い取る。味方同士にも関わらず行われた乱暴なプレーに、驚愕した伊槌の動きが一瞬止まった。
「なっ、何してんだあいつ……!」
「クソ、クソ……! こんなところで……負けられるかァー!」
無防備な伊槌を弾き飛ばし、落合が暴走するようにドリブルで突き進む。その並々ならぬ様子に、伊槌は怒り以外の、何か強い感情が見えた気がした。
突き進む落合に靴木が立ち塞がる。その顔は困惑が染み出しているが、抜け目なく黄色いオーラを纏っていた。
「暴走か……? なんにせよ、ここで止まれ!」
地面を踏みしめ、背後から菓子の壁を呼び出す。天へ屹立するその壁にも、落合は怯まない。
「クッキーウォール──」
影のかかる靴木の土手っ腹にボールを蹴り込む。鈍い声をあげて靴木が怯んだ。呼応するように、壁がビシリとひび割れる。それを確認した落合は、凶悪に相貌を歪めて突進した。
「トベェ! アサルトボウ!」
「ガハッ……!」
腕を振るって、靴木の体を宙に叩き上げた。その瞬間、クッキーウォールは跡形もなく崩れ落ちる。舞い散る菓子の中、得意げに瞳を輝かせる落合が走り抜けようとしたその時、足元を風が駆け抜けた。
「視界不良ご注意、ってね!」
「……女ァ!」
靴木の背後に潜んでいた様崎が、フィジカル勝負に持ち込ませずボールを掻っ攫う。そのままドリブルでカウンターしようと落合の横をすり抜けた。
だが、その身体を赤い触手が縛り上げる。強い締め付けから来る痛みに、鈍い声を上げつつ背後へ向く。そこには、血の池のような禍々しいオーラを纏った落合が、一部を触手の様に伸ばし怒りの表情を浮かべていた。
「がっ、うっ……いったぁ……!」
「邪魔すんじゃねぇよ……ボールを返しやがれ!」
ギリギリと締め上げられ身動きのできない彼女に、手加減知らずのタックルが飛んでくる。空中に大の字で貼り付けられた様崎の、その無防備な腹に肘が突き刺さった。
「デストロイチャージィ!」
「うわあああ!?」
「キャプテン!」
様崎が中空に吹き飛ばされる。あまりにも暴力的なプレーに伊槌が思わず声を上げるが、ホイッスルは鳴らない。鍵屋が、審判の視界を遮っていた。
ボールを奪い返した落合が、受け身も取れず叩きつけられた様崎に目もくれないでゴールへ突き進む。その眼前に、目を伏せた太田が立ち塞がった。
「邪魔だ木偶の坊がァ! 俺はお前みたいな腰抜けとはちげぇ、足引っ張んじゃねぇぇぇ!」
シュートと見間違うような鋭くボールを、腹に蹴りつける。アサルトボウの構えだ。
衝撃が胃に突き刺さり、身体がくの字に折れ曲がる。
──太田は、倒れなかった。
「なっ……!」
「……気が、ついたんだ」
目を上げ、落合と視線を合わせる。
その目は、黒鉄と競り合った時、怯え切っていたそれとは全くの別物。伊槌鳴哉の様な、勝利に取り憑かれた人間と同種のものだった。
「負けるかもしれない恐怖と向き合って、それでも勝利に進む意味を……!」
落合の顔が引き攣る。足元に戻ってきたボールを、半狂乱になって再び蹴りつける。
太田は倒れない。
「うおおおお! どけぇぇぇ!」
「……この、感情だ……! 胸を焼く様な、この熱さを手に入れるため……みんなと共に、この熱さを手に入れるためだ……!」
彼の筋肉が隆起する。全身が黄色いオーラに包まれる。ラグビー選手の様な、深い踏み込みが見えた。
「分かったから……僕はもう逃げない。まだ、少し怖いけど……仲間となら乗り越えられる。後悔は! 負けてからすることにする!」
そして、その巨体が、落合とぶつかり合った。
「だから、受けてみろ。僕の必殺技を! パワーチャージ!」
「ぐあはぁっ!?」
強烈な衝撃が全身を叩く。今までの太田とは比べ物にならないパワーが、落合の全身を駆け巡った。地面に無様に転がる。
太田が力任せにロングパスを送る。様崎のそれと比べればコントロールはないが、ゴール前まで一気に繋がった。収めたのは、無籐。
「頼んだよ、無籐くん!」
「ハッ、任せとけ……!」
「くっ、お前ら! パスコース塞いどくんだよ!」
ゴール前に動き出そうとする伊槌に。自由にポジションする木崎に。厳しくマークが割かれる。
だが、肝心の無籐にマークが手薄いことに、彼が不敵な笑みを浮かべる。
「おいおい、舐められたもんだなァ。そうだろ、伊槌?」
「ははっ……ああ、見せてやれ無籐! ストライカーは、FWだけじゃないってことを!」
伊槌の言葉に笑みを深めた無籐が、足元のボールに螺旋回転をかけた。そのままボールを上空に蹴り上げる。その背後には、ドリルの様なオーラが巻き起こっていた。
「なっ……! こいつもシュートを……!」
「いまさらだぜェ!」
無籐の身体が飛び上がる。上空からゴールを睥睨し、獰猛な笑みを浮かべる無籐が渾身のシュートを打ち出した。
「これが、河川敷で編み出した俺の新技ァ! スクレイパーブレイク!」
「ぐっ、反応できないんだな〜!」
ドリルが空気を破壊するけたたましい音を立てて、ゴールへと襲いかかる。突然のシュートに、鰐原は見送ることしかできない。
鬼裂も反応が遅れたが、意地で抑え込む。必殺技すら間に合わず、止められる確率は無きに等しいが、それでも彼女は立ち向かった。
「ぐっ……おおお……! これ、以上は……!」
──だが、奇跡はそう起こらない。
螺旋回転が腕を弾き、押し込まれる足が無理を悟る。それでも、意地で食らいつく。が──
「ブチ抜けッ!」
「ぐ……! ぐわあああ──!」
無籐の裂帛に押され、身体をのけぞらせて弾き飛ばされた。そして、難なくゴールネットが伸ばされる。焦げる様な匂いを残し、コロコロとボールがゴールからはみ出した。
間をおかず、審判が高々と笛を鳴らす。それと同時に、亜蘭の客席から怒号が飛びかい、得点板の文字が3に増えた。逆転だ。
「あ……アタシが、3回も破られた……?」
「ハッ、見やがったか、俺のシュート!」
「しゃああ! 流石無籐先輩だぜ!」
憲戸の面々の表情が、緊張から解き放たれる。だがその目に宿る闘志は燃え尽きない。まだやれると、本能が訴えていた。
太田が、腹をさする様崎の手を取って立ち上がる手助けをしている。軽く礼をした様崎が、合格、とでも言う様に親指を立てた。
「ナイスディフェンス、太田くん! やっとやる気になってくれた?」
「あはは……うん。咲夜さんが頑張る理由、少しは分かったかも」
様崎が満足そうに満面の笑みを浮かべる。そしてその視線を伊槌へと移し、無籐と盛り上がる彼らを見て、微笑ましそうに相好を崩した。
「くっ……ぐううう……!」
──その背後で、獣の様にうめく男は。
誰よりもこの状況を、認められなかった。
──────
GOAL‼︎
53分 無籐朱道
アシスト:太田優
憲戸 3-2 亜蘭
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この回で書いてて一番楽しかったのは、デストロイチャージの触手に縛り上げられる様崎のとこです。
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