イナズマイレブン〜蘇る雷鳴〜   作:暁の教徒

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流石に投稿しないとヤバいと思った(小並感)


22話:諦めろ

 彼女の憧れの始まりは、実に平凡なものだった。

 父親がサッカー選手だった。ポジションはFW。ピッチをドリブルで鋭く切り裂き、その右足で数多のゴールを奪う、フットボールの揺るがぬ主役。

 その姿に憧れた。テレビの中ではなく、いつも庭でボール遊びをしてくれる、目の前にいる人間に憧れた。

 

 物心ついた頃には、すでに彼女もFWの道を歩んでいた。父親に教わったドリブルで、父親に教わったパスで──たゆまぬ向上心と頭から離れない情景が、今も変わらぬ彼女の原動力。

 だが、彼女はひとつだけ、父親から受け継げなかったものがある。それは、FWとしては欠かすことのできない、シュート力だ。

 

 ──致命的だった。男子に比べて筋力で劣る女子として生まれた彼女では、父親の天性のフィジカルから放たれるキックを模倣することは出来ない。たったそれだけの差が、いや、それが違ったからこそ、彼女はストライカーになれず、平凡なFWにしかなり得なかった。

 

 言われ続けた。

 

『MFの方が向いてるよ』

 

 そのどれもが心に突き刺さる。

 

『ドリブルは上手いんだけど……』

 

 自分の道を信じてくれない、心ない言葉たち。

 

『シュートするな! 俺にパスを出せよ!』

 

 それでも、折れなかったのは、平凡で、だからこそ尊い理由。

 

『──輝夜は最強のFWになれる!』

 

 いつだって信じてくれた、憧れ(父親)の言葉。それがいつも、彼女を奮い立たせる。

 FWとして起用されない悔しさを、特段出来がいいとは言えない頭でも分かる、MFという逃げ道を、全て振り切って、自分の信じた道を貫いてきた。朧に浮かぶ月のような淡い希望を追い続けた。

 

 そして、1人の男と出会う。

 それは、まさに憧れたストライカーの体現だった。自由自在にゴールを奪い、勝利をもたらすヘッドライナー。その姿に少女のように憧れ、そひて、ほんの少し嫉妬する。

 ああなりたい、負けたくない──その一心。燃える情景が、さらに激しい夢となって燃え盛る。

 

 だが、隣に立つたび、ああはなれないと思って(分かって)しまう。

 試合に出るたび、勝てるわけないと思って(知って)しまう。

 目を逸らしていた。いつものように。周囲の不信に対してそうしていたように──

 

『──FW』

 

 そして、終わりはやってくる。夜が明けるように、現実と向き合う時は来た。

 

『──向いてないんじゃない?』

 

 奇しくも、それは最悪のタイミングで。

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「──おい! 明凪!」

「……! あ、は、はい!」

 

 椈月がダークトルネードを受け止めてすぐ、伊槌は茫然自失といった様子の明凪に対して、声を張り上げる。そしてすぐさま腕を振るって、『守備をしろ』と言葉なく伝えた。

 その伊槌はいち早く動いていた。椈月がブロックの体勢に入ったと同時に彼女にプレッシングを行い、すぐさま奪い返そうとする。

 

「わっ、早い! 一旦戻しますね、弥雷ちゃん!」

「了解。リスクをとらず、確実にボールを保持します」

 

 だが、流石と言ったところか。彼女は焦りながらも背後にいた高機にパスを出し、GKを含めたDFラインで確実に細かいパスを回し出す。奪えればビッグチャンスだが、彼らの技術もあってなかなかボールを奪えない。

 

「そう簡単にはいかないか……」

 

 思わずそうぼやく。すでに試合開始から15分が経過しているが、未だ伊槌にチャンスは──それどころか、憲戸は決定的なチャンスを作り出すことすらできていない。

 対する四壁恒星は、開始直後の神風含め、2本のシュートシーンを作っている。客観的にみても、憲戸は完全に押されていた。

 

「キャプテン! 10番(神風)への警戒緩めるなよ!」

「おっけーだよ無籐くん!」

 

 だが、それでも憲戸の戦意は消えていない。戦術を修正して、神風を様崎と太田の2人がかりでマークしてカウンターを警戒する。

 決定機は全て御時(から)神風のホットライン──ここを潰すことこそが、憲戸の狙いだ。事実、それに手をこまねいているのか、四壁恒星はDFラインで回すだけで、敵陣にボールを入れることができないでいる。

 これなら──手応えを感じる暇もなく、御時にボールが渡った。

 

「ここは僕が行く!」

 

 神風へのパスではなく、ドリブルを選択してフィールドを突き進む。今までにない形に、伊槌は少し動揺を見せながらもすぐさま立て直して声を上げる。

 

「ディフェンス頼む!」

「ああ、任せたまえ!」

 

 伊槌の声に呼応したのは梵場。軽快な動きで御時の前方に立ち塞がり、虎視眈々とボールを奪える瞬間を睨む。

 だが、御時は慌てるそぶりもなく梵場に向かい合い、パチンッ、と小気味良く指を鳴らした。

 

 その合図を待っていたかのように彼の背後には時計の文字盤が浮かぶ。ローマ数字が彫られた時計は、規則正しく針を回し、時を刻む。

 

「これは……!?」

「着いて来れるかい? ラピッドクロック!

 

 瞬間、長身が目まぐるしく廻りだす。

 それに付随するかのように、御時の動きは加速して、梵場の認知速度すらも超える。彼は早すぎる目の前の男を目で追うことすらできず、その場に縫い付けられたように硬直してしまう。

 気がつけば、御時は既に梵場の背後へとドリブルを成功させていた。

 

「ぐっ、僕が翻弄されるとは……!」

「気に病むな。ディフェンス、気を引き締めるぞ」

 

 靴木の落ち着いた声がフィールドに伝播する。幾分か冷静さを取り戻した憲戸は絶えず御時にプレスをかける。が──

 

「鳥羽!」

「……いる」

 

 いつの間にか上がってきていた鳥羽が、御時と並走してフィールドを駆ける。衛星のように付き従う彼に、無籐が舌を打った。

 

「ちょこまかと……! 三刀屋ァ、ここで止めるぞ!」

「御意! だヨ!」

 

 無籐と三刀屋のプレスが、嵐のように襲いかかる。同時に、2人は一瞬アイコンタクトを交わす。

 

「…………ここ」

「ああ、最高だよ!」

「がァ、クソっ」

 

 鳥羽が、御時が1番コンビネーションを行いやすいであろう最適なポジションを取り、軽快なワンツーパスが通ってしまう。真正面から無籐たちのディフェンスを食い破り、ついにDF陣の前までドリブルで侵入してきた。

 スピードを緩めず突っ込んでくる御時に対して、様崎が、思わず一歩だけ近づく。

 

「まずいかもね……私が止めに──」

「──ここだッ!」

 

 その瞬間、御時の右足から鋭いフライスルーパスが放たれる。虚をつかれた様崎が、ざくっと足を止めてそのパスの先を見やると、彼女が警戒を緩めてしまった神風が一直線にパスに突っ込んでいた。

 

「やばっ……!」

 

 様崎が後悔の声を漏らすも、どうにもならない。

 来た──と神風が声に出さない興奮を感じながら、鋭く落ちるボールに足を伸ばす。ワントラップからのシュート──

 

「はあっ!」

「っ、何だ……!」

 

 ──それを辛くも阻止したのは、ゴールマウスから大きく飛び出した久良島だった。

 GKにとってゴールを開けることは当然大きなリスクの伴った行動。だが、彼女のこの判断は四壁恒星が巧妙に作り上げた決定機の芽を確実に摘み取る、実に冴えた方法だ。御時が歯噛みする。

 

「今のが通らないか……!」

「ナイス杏奈ちゃん! ボールカバー!」

 

 ミスを取り返すように、様崎がボールの落下地点に入る。問題なくボールを回収できるポジションだ。

 だが、構える少女の顔に、暗く影がかかった。それは、大きく飛び上がった鳥羽の姿だった。

 

「うそ!?」

「……読んで、た……!」

 

 誰も干渉できない中空で、鳥羽の猛禽類のような鋭い金目が、久良島が飛び出したゴールを射抜く。猛烈な怖気が背筋を伝った。

 

「久良島、戻れ──」

 

 伊槌の叫びと、久良島の戻りを待つはずもなく、鳥羽が動く。

 空を舞ったまま、天へと大きくボールを蹴り上げる。鋭く打ち上がるボールを追うように、空気を蹴って鳥羽がさらに高みへと飛び上がった。

 その姿はまさしく鷹。悠然たる空の王者を幻視するほどの威圧感とともに、ボールを追い越した鳥羽が、強烈なかかと落としを放つ。

 

「……グライドバード……!」

 

 狩りをする肉食鳥のような勢いで蹴り落とされたシュートは、地面へと一直線に向かい、激突する寸前で軌道を急激に変えて低空飛行でゴールへと襲いかかる。

 

サテライト……っ、ごめん間に合わない!」

 

 様崎がサテライトドローを発動させようとするが、一歩遅い。シュートは容赦なく彼女の横をすり抜け、切り裂いた空気が様崎の髪を揺らした。

 

「くっ……真っ黒──」

「やめろ久良島ァ! そこでハンドしたら退場(レッドカード)になるぞ!」

 

 焦った様子の久良島がその右腕に闇のエネルギーを纏わせるも、無籐の言う通り今の彼女はペナルティエリアの外にいる。GKであっても、手を使うことはできない。

 それでも、グライドバードは必殺技を使わずに止められるほどヤワなシュートではないだろう。

 それに相手は守備に長けた四壁恒星。たがが一失点でさえ敗北を想起させる。

 

「絶対止めないと……でも……!」

 

 どうすれば──堂々巡りとなった久良島の思考を壊すように、1人の大男が彼女の盾となるように仁王立ちした。

 

「ここは僕に任せて……!」

「太田先輩……!?」

 

 その影は太田だ。グライドバードが打ち込まれる前に戻ってきていた彼は、シュートを真正面から見据えて深く息を吐く。

 

「僕はもう逃げない……逃げたくない! 絶対に守ってみせる!」

 

 雄叫びとともに、グッと身体を縮め、体操選手のように回転しながらの跳躍。遠心力と重力によって倍増されたパワーが、両足に黄色いオーラとして宿る。

 そして、全体重と渾身の力を込めて、太田がフィールドを踏み抜いた。

 

パワースタンプッ!

 

 踏み抜かれた地面を爆心地に、黄色い衝撃波が円状に伝わっていく。それはシールドとなり、グライドバードと正面から鍔迫り合いを演じた。

 パワーとパワーがぶつかり合い、火花を散らす。

 だが、均衡は一瞬。じきに威力の勝るパワースタンプの衝撃波が、スピード重視のグライドバードを飲み込んだ。

 

「……くっ……止められる……か」

「これが僕の……僕たちの新しい必殺技だよ!」

 

 力を無くしたシュートが、風に吹かれて太田の足元に転がる。彼はそのボールに足を乗せ、自らを鼓舞するように大きく声を上げた。

 

「ナイスだよ、オオタ! それにその技、ちゃんとカンセイしてたんだネ!」

 

 四壁恒星戦の前に行った特訓の中で、太田が描いていた新しい技のイメージ。彼がそれを、完璧にものにしていたことに三刀屋が賞賛の声を上げる。

 太田は少々照れ臭そうにトレードマークの麦わら帽子を被り直し、三刀屋に親指を立てる。

 そこに、おずおずと言った様子で久良島が声を上げた。

 

「あの……フォロー、ありがとうございます、太田先輩」

「気にしないで、杏奈さん。このゴールは僕たちで絶対に守り抜こう」

 

 軽く微笑んで太田がそう返す。そしてすぐに、ミッドフィールドで手を挙げる無籐に視線を移した。

 

「それで、絶対に勝つんだ! 後ろは僕たちに任せて攻めてきて、無籐くん!」

「……ハッ、随分頼もしくなってくれたなァ!」

 

 太田からのロングパスが、一気に無籐へと渡る。獰猛な笑みとともにそれを受け取って彼は、指揮者のように手を振るって伊槌たちへ声を荒らげる。

 

「おら、全員攻めろ! 前半で点取るぞ!」

「おおっ、行くぜぇ!」

 

 その言葉で木崎がいの一番に走り出す。伊槌も遅れないようにディフェンスの裏を狙いながら、無籐のパスを受けれるように慎重にポジションを調整する。

 

(状況はこっちのカウンター……! ゴールを奪うチャンス、だが──)

 

 伊槌はそこまで考えて、チラリと周囲と、背後の無籐を確認する。無籐には既にディフェンスとして仲川らがついており、伊槌にもDFが1人マークに来ていた。

 

「チッ、カウンターなのにディフェンス多いなァ……!」

「当たり前だろ、四壁恒星のモットーは『堅守速攻』だ! いつだって俺たちはディフェンスからリズムを作る!」

 

 ディフェンスに阻まれ、無籐の進軍が止まる。このまま手をこまねいていれば、四壁恒星の守備は仲川の言う通りさらに盤石なものとなってしまう。

 なんとしてでも攻撃の糸口を掴む。そのために、伊槌はゴールへ向かう身体を切り返し、急旋回して無籐へパスを要求する。

 

「無籐、ワンツーで打開する!」

「おう、いいポジションだぜ伊槌!」

 

 即座にその動きに反応した無籐からのパスが伊槌に届く。同時に、加速した無籐が対面していたディフェンスを置き去りにする。

 そして即座にパスを戻す──

 

「……いや、違うな」

 

 ──そうとして、伊槌がある種の本能と共に足を止める。

 そして、予感どおりそこに割り込む影が1つ。常に中盤の攻防に絡む仕事人が再び現れる。

 

「…………単純な、攻撃は。通用、しないぞ」

「チッ、さっきシュートしたくせにもう戻ってきやがった……!」

 

 無籐が思わず舌打ちする。プレスバックを決して疎かにしない意識の高さに、伊槌も舌を巻いた。

 だが、今回は確かに読み切った。

 

「ふっ!」

「ぐっ、しまった……!」

 

 無籐が封じられるや否や、伊槌が背後のDFを軸にしてターンする。鮮やかなボールタッチに、ディフェンスは反応できない。

 これで前が開いた。少し遠いが、シュートを狙える位置。

 

「皆さん、最大限の警戒を。既にシュートレンジです」

「はいはい、分かってるよ。やるだけやるさ」

 

 しかし、それは相手も承知の上だ。高機の淀みない指示が飛び、ディフェンスラインが堅固に形成される。

 

「このまま打っても、決まらない……」

 

 ディフェンスが多すぎる。無籐のシュートを楽々止めて見せたあのGKなら、伊槌といえどシュートブロックを超えて打ち抜くことは容易ではない。

 ならば、と伊槌は高らかに叫ぶ。

 

「空いてるだろ、明凪ッ!」

「っ、はい!」

 

 伊槌につられてディフェンスは中央に寄っている。ならば必然的に、サイドの明凪はフリーとなっていた。彼女の足元に、ノールックで伊槌のパスが届く。

 

「──おいおい、行かせないっての」

「……くっ!」

 

 だが、湖池が悠々と立ち塞がる。その姿を認めた途端、明凪の表情は苦虫を噛み潰したようなものに歪んだ。

 前傾の姿勢で構えこそとっているが、明凪の身体は縫い付けられたように動かない。脳裏によぎるのは、心に突き刺さったあの言葉。

 

 ──FW、向いてないんじゃない?

 

「っ、やあああ! 三日月の舞ッ!

 

 頭の中を支配する真実(トラウマ)から逃げ出すように、明凪が夜闇に飛ぶ。この試合でも見せた、彼女の十八番だ。

 それを目の当たりにしてなお、湖池はその気怠げな眼を見開くことはなかった。

 

「……なーんで諦めないのかなぁ」

 

 明凪から放たれる疾風の刃を、水の上を揺蕩うような独特のステップで掻い潜る。その様子に、明凪のような必死さはまるで感じられない。

 

「才能がないのに頑張ったって辛いだけだろ? 人生諦めも肝心なんだよ」

「ッ、そんなこと──ない!」

 

 叩きつけるような言葉とともに、全てをかけて明凪が足を薙ぐ。この日1番の強烈な風の刃が、湖池を切り裂きにかかる。

 

 湖池は、細くため息を吐くだけだった。

 刹那、素早くしゃがんだ体勢に移った湖池が地面を触る。その指先からはが触れる芝の地面から、石を投げ込まれた水面のように同心円状の波紋が、大きくうねりをあげる。

 その波に呼応するように、湖池の背後の地面がせり上がり──否、地面が強烈な津波に変化して、あるはずのない自然の暴力が明凪の前に姿を現した。

 

「えっ……!?」

「この技、俺のポリシーに反するからあんま好きじゃないんだけど」

 

 眼を見開く明凪とは対照的に、湖池は酷くうんざりした様子でつぶやく。

 

「ま、これも先達としての務めってやつかな。呑み込んでやるよ、ダイタルウェーブ

「うがっ……!?」

 

 その言葉とともに、大波がフィールドを埋め尽くす。明凪の放ったかまいたちごと、彼女の身体を呑み込んで容易くボールを奪い取られてしまった。

 明凪の身体が、強かに地面に叩きつけられる。

 

「ぐうっ……わた、しは……」

 

 うめき声をあげて立ち上がろうとする明凪の頭上に、影がかかる。弾かれたように顔を上げたその瞳の先には、ボールに足を乗せて、シニカルに微笑む湖池が佇む。

 湿った前髪の隙間から覗く明凪の瞳を、しっかりと射抜いて、湖池は、重々しく口を開いた。

 その言葉を聞くべきではないと本能が訴えたのに、彼女の耳朶は、その優しい声を捉えてしまう。

 

 

「やっぱさ、FW向いてないんじゃない?」

 

 

 ──子供を諭すような。才能を嗤うような。

 無慈悲な諦観を前にして。

 

「──あ」

 

 明凪の瞳は、光を失った。

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

「明凪……!? どうした……!?」

 

 湖池とのデュエルに敗北してから一向に立ち上がらない明凪を見て、伊槌が焦ったように声を漏らす。だが、怪我でもない様子なために、審判は試合を止めないため、伊槌も動きを止めていられなかった。

 湖池がボールを高機に戻す。それを見た無籐が、声を張り上げた。

 

「あっちのキャプテン(御時)は俺がつく! ディフェンスラインは10番警戒しろ!」

「流石の対応力だな……」

 

 GKからの攻撃は先ほども見ている。無籐が言うように、常に起点となっている御時さえ潰せば効果的な攻撃は機能しないはずだ。

 ボールを持つ高機がゆったりと周囲を見渡す。パスコースを探しているようだが、致命的なところはない。それに安心して、伊槌は一瞬気を抜いた。

 ──そう、気を抜いてしまった。

 

「……」

 

 高機が前を見据える。その視線の先には、御時の姿。

 

「……ははっ、ああ、やってやれ高機!」

「……許諾を確認。感謝します」

 

 無言で行われる視線の交錯。高機の刺すような目に、御時は少し困ったように微笑んで、頷いて見せた。返答するように、高機が頷いてより遠くを見据える。

 

「なんだ……?」

 

 その様子に伊槌はただならないものを感じるが、動けない。自分が好き勝手に動けば、DF達へのパスコースが広がってしまうからだ。

 そして、誰の妨害も受けないまま、高機が力強く右足を踏み込んだ。

 

「照準、固定完了。エネルギー充填──20%……50%──」

 

 ジリジリと刺すような闘気が彼女の身体から漏れ出てくる。同時に、高機の右足から、右目から、伊槌のものとは違う、されど同じだけのパワーを秘めた青白い電流が炸裂を始めた。

 

「……これはっ、ヤバい!」

 

 自分の電閃にすら比肩する激しい電撃を放つ様に伊槌が飛び出して高機を妨害しようとする。が──

 

「させませんっ!」

「ぐっ……!」

 

 四壁恒星の選手たちに、身体を張って止められてしまう。ここまで来れば、彼女の『アレ』が尋常なものではないと嫌でも気づく。伊槌の背中に冷や汗が伝った。

 

「──帯電効率、エネルギー充填率、共に120%突破を確認」

「こいつら……こんな隠し球を……!」

 

 もはや右足だけにとどまらず、雷鳴による力の奔流が高機の周囲に溢れ出している。右足で弓を引くように、大きく背後に引き絞り、鋭い視線が遥か遠くの久良島を貫いた。

 

「……っ、来る……!」

「発射準備、オールクリア」

 

 もはや過剰とも思える青電を全身に唸らせ、高機がつぶやく。炸裂と爆破と繰り返すその電流は、もはや暴力と形容するにふさわしい力を振りまいていた。

 

「──オーバーロード・トライアンフ点火(イグニッション)

 

 ──刹那、蒼き豪雷が、閃光となってフィールドを抉った。

 

「なァッ……!?」

「やばっ……!」

「ぐっ……!?」

 

 警戒心をむき出しにしていた憲戸のDF陣が、全く反応できないほどのスピードだった。様崎も、無籐も、靴木も、気づいた頃にはもう遅かった。

 馬鹿げた威力を持つ雷電が、濡れた紙を貫通するようにディフェンスラインを突破し、歯を食いしばって右腕に暗黒のオーラを纏う久良島に襲いかかる。

 

「久良島さんっ、ごめん、頼む!」

「……はい! 真っ黒、パンチッ!

 

 未だ進化の糸口を掴めていないながらも、太田の祈るような声に押された久良島の、渾身の拳がシュートを迎え撃つ。紛れもない彼女の全身全霊となる真っ黒パンチが、高機のシュートの鼻っ面を殴った。

 だが──

 

「……! っ、うあぁっ……!?」

「……切り札は、必ず刺さる場面で切ってこその切り札なのです」

 

 拮抗は一瞬。炸裂する豪雷が、漆黒の闇を難なく打ち払い、久良島を弾き飛ばす。抉った芝と土が、祝福のダイヤモンドダストのように天空を舞っていた。

 蒼がゴールネットに突き刺さる。それだけに留まらず、常識はずれのパワーを内包したそれは、なんとネットを突き破り背後の観客席下のフェンスに突き刺さって、やっと動きを止めた。

 

 誰もが、その異常を前に、憲戸の誰もが口を開けない。空気を切り裂くように響いた得点のホイッスルの後、変わらない鉄面皮のまま、しかし口角を少し上げたGKの少女が呟いた。

 

「ミッション、コンプリート」

 

 

──────

 

GOAL‼︎

20分 高機弥雷

アシスト:湖池一舟

 

憲戸 0-1 四壁恒星

 

──────

 

 

 

 

 

「……あーあ、ほんと。天才ってのは見てるだけで気が滅入るね」

 

 光を失った瞳を思い出しながら、少年は死んだ顔で放った言葉は、監修の声援に呑まれていった。




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