イナズマイレブン〜蘇る雷鳴〜   作:暁の教徒

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短い(当社比)
キャラクター紹介が主になってます。


2話:入部と、勧誘

 憲戸中サッカー部は弱小である。

 5年前のFFインターナショナルでのイナズマジャパンの躍進を受けて創部されたこの部は、創部以来一度の例外もなくFF予選1回戦で敗退していた。結果を出せないために部費も減らされ続け、環境や設備が改悪され続けるので部員も増えるどころか減少の一途を辿り、新チームとなった憲戸中サッカー部はたったの8名となっている。

 その弱小校のキャプテンである様崎咲夜は、ボロボロの部室に部員たち全員を集めて何かを待っていた。

 

「まだかなーまだかなーっと」

「……なぁーキャプテン、何を待ってるのかくらい教えてくれよぉ」

 

 椅子に座りながら機嫌良さそうにゆらゆら揺れる様崎を恨めしそうに見ながら、数少ないサッカー部員である木崎が問う。その背後で、事情を知る三刀屋以外の部員たちは首を縦に振っていた。

 様崎は大して悪びれた様子もなく「サプライズだからネタバレはなしでしょ?」と軽い調子で言い放つ。あくまでマイペースな様崎に、木崎は頭を抱える。

 

「おい三刀屋ァ、お前はキャプテンが隠してること知ってんだろ? 教えろよォ」

「それは言えないオヤクソクだヨ! サクヤとユビキリしたからネ!」

 

 痩身ながらも高身長で鋭い青い目が人相の悪さを際立てている少年が痺れを切らしたように三刀屋に詰め寄るも、彼女は気後れした様子もなく堂々と彼の言葉を蹴った。軽く舌打ちした少年は納得していなさそうな表情をしていたが、意味がないと判断して引き下がった。

 椅子に座っていた金髪の少女も、我慢ならないと言った様子でバタバタと手足を動かす。

 

「もー! このホープちゃんをこんなに待たせるなんて許せないわ!」

「落ち着きたまえよ子猫ちゃん、暴れたって時間は進まない……何より可憐な君に傷がついたら大変さ」

「うるさーい!」

 

 見事なアフロヘアーをたくわえた少年が少女を宥めるも、そのまま二人でぎゃいぎゃいと騒ぎ出す。先ほどの強面の少年が見かねて注意をしてその場を収まったが、少女は待ち飽きて溜まった鬱憤を見せつけるように頬を膨らます。

 

「咲夜さんは相変わらずだね……彼女らしいけど」

「ああ、困ったものだな」

 

 大柄な二人の少年が言葉を交わす。片方は麦わら帽子をかぶっており、筋肉質な体格と裏腹に画風の違う優しげな顔をしており、もう片方は筋肉質な体にベストマッチな勇ましい人相をしていた。

 

 部員たちが思い思いに騒いでいた部室内に、突如ノックの音がよく通った。様崎はその音に敏感に反応し、飛び跳ねるようにドアに近づいていく。

 

「いやー待たせたね諸君! これが私の成果だよ!」

 

 勢いよくドアを開け放ち、ノックをした少年の腕を引いて引き摺り込む。引き込まれた白髪の少年は目を剥いていたが、様崎はお構いなしに髪をくしゃくしゃ撫でて部員たちに笑いかけた。

 白髪の少年──伊槌は、状況がよく分からなかったが、目の前にいる彼ら彼女らがサッカー部員であることは理解できた。ならば、()()()としてはしっかり礼儀を果たすべきだと考え、様崎を剥がしてから改めて向き直った。

 

「憲戸中2年、伊槌鳴哉です」

 

 部員の中に木崎を見つけ、伊槌は少し破顔して見せた。

 

「キャプテンに入部届を受理していただき、本日からサッカー部に入部しました。よろしくお願いします」

 

 部室に驚愕の声が響く。

 昨日のサッカーバトルに勝利した伊槌は、あらかじめ記入していた入部届を即座に様崎に渡していた。様崎と三刀屋も喜んでその紙を受け取り、伊槌は本格的にサッカー選手として復帰の一歩を踏み出すことができた。その事に充実感を覚えつつも、それで満足してはいけないと気を引き締めなおす。

 木崎がいち早く驚嘆の表情から我に帰り、そして再びその表情に喜色を浮かべて伊槌に寄ってきた。

 

「本当に入ってくれんのか! お前がいれば百人力だな!」

 

 まあエースストライカーは俺だけどな、と軽口を叩きながら木崎が祝福の言葉をかける。伊槌も楽しげに笑って木崎の手を取り握手をした。

 

「部員が増えんのはめでてェけどよォ」

 

 二人の背後に影が落ちる。三刀屋に詰め寄っていた人相の悪い少年が、身長差の関係から見下ろすような形で伊槌を刺すように睨んでいた。

 

「後輩、俺はサッカー部3年の無籐朱軌(むどうあけみち)だァ。テメェの目標を聞きてェ」

 

 伊槌は威圧感のある無籐の風貌に多少気圧されたものの、すぐさま取り繕って真正面からその目を見返す。

 

「目標、というと?」

「言うまでもねェ。テメェはこのサッカー部でどこまで行きてェんだ?」

 

 無籐は、伊槌の見据えるものが何かを問うていた。楽しくやれればそれでいいのか、勝ちを目指すのか。

 聞かれるまでもないと言いたげに伊槌が口角を釣り上げる。伊槌の胸中では熱い感情が高く渦巻いていた。今日の天気を話題に出すかのような気楽さで、当然のように言い放つ。

 

「全国制覇。それ以外に掲げるものがありますか?」

 

 部室に静寂が訪れる。

 数秒の後、口火を切ったのは麦わら帽子の少年だった。

 

「じょ、冗談じゃない! 出来るわけがないよ!」

「ははははッ! 落ち着けよ太田(おおた)ァ、夢はでけェ方がやり甲斐があるだろ?」

 

 麦わら帽子の少年、太田を無籐が片手で制する。そして、伊槌の目を改めて見据え、圧迫するように距離を近づけてくる。もはや息もかかりそうな距離で伊槌の銀色の目に映った自分を見ながら、重ねて問われる。

 

「今の言葉は本気だな? テメェは本気で弱小校の憲戸中が勝てると思ってんだな?」

「……ええ」

 

 目を細める。息を軽く吸って、口を開いた。

 

「俺がいれば、勝てる」

 

 伊槌のその目は、弱小校である憲戸中で全国を取ることを、自らが復活する通過点としてしか捉えていなかった。

 無籐の口から笑いが漏れる。悪い人相をさらに凶悪に歪めて愉快そうに声を出す。

 

「はははははァ! 気に入ったぞ後輩! その言葉がビッグマウスじゃねェことを祈ってるぜ!」

 

 そう言って、彼は部室の奥の方へスタスタと去っていった。入れ替わるように様崎が肩を組んでくる。

 

「流石だねー君! 最高だよ、無籐くんと正面切ってあんな面白いことが言えるなんて! やっぱり私が見込んだだけあるね!」

「褒めてます?」

「サクヤを知り尽くしたワタシが保証するヨ、すっごく褒めてル!」

 

 いつのまにか来ていた三刀屋がそう言う。そういうものか、と伊槌は理解を放棄した。

 やがて様崎が離れていき、部室の中心にあるホワイトボードを叩いた。

 

「さて、じゃあ伊槌くんも来た事だし、今日やるべきことを伝えるよ!」

 

 無意識的に伊槌が拳を握る。

 ついに舞台に上がることができた。その実感が伊槌の胸を焦がしていく。

 サッカーがしたくてたまらない。口角が上がっていく。

 

 伊槌鳴哉が響かせる雷鳴は、今、蘇ろうとしていた。

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

「……サッカー部入ってくださーい……」

 

 焦げるほどの熱に浮かされた伊槌は、実に不本意そうな表情で、校内の一角を陣取りキャッチをしていた。

 表情を見ればわかるように、伊槌とてこんなことよりサッカーがしたい。何故駆り出されているのかというと、様崎が溜めに溜めて言い放った今日の目的。それは、新入部員の勧誘だったからだ。

 ふざけるな、どうして俺がこんなことを──様々な思いが胸中で渦巻くが、仕方のないことだとも理解していた。憲戸中サッカー部員は自分以外に8名、さらに様々なポジションの選手が足りず、GKに至っては居ないという最悪のスカッドで構成されている。とても試合ができる状況ではなかった。

 伊槌の機嫌が地の底に落ちている原因はそれだけではない。声をかけた1年生に懇切丁寧に断られ、溜め息をついて少し先の花壇を見る。

 

「おや、これは可愛い子猫ちゃん。どうだい? 僕と共にダンスでも……」

「えっ、何? 怖い……」

 

 声をかけられた女子生徒がドン引きしている。それも仕方ないと伊槌は思えた。歯の浮くようなセリフにアフロヘアーの小太りという特徴的という単語では表せないほど独創的なあの少年を見れば、誰だってああなる。

 彼は梵場踊太(ぼんばようた)。様崎が三刀屋を行動を共にするために、勧誘の効率を上げるためと言った建前で無理矢理作った二人組で組まされた人物である。

 

『僕は梵場踊太。男にゃ興味ないが、咲夜先輩に言われたからには仕方ない。よろしく頼むよ』

 

 ファーストコンタクトがフラッシュバックする。伊槌は彼のアフロヘアーを叩き割ってやりたい極めて原始的な衝動を覚えた。

 女子生徒に逃げられた梵場がやれやれと言った様子で首を振ってこちらに来る。

 

「フッ、振られてしまったね。あの子猫ちゃんには僕は刺激が強すぎたらしい」

「初見の梵場くんに驚かない人は、どれだけ過酷な環境で育ってきたんでしょうね」

 

 疲れたように額を抑えながら伊槌が皮肉を漏らす。

 先ほどから梵場はずっとこの調子だった。女子生徒のみに声をかけ、逃げられるの繰り返し。このキャラの強い男が隣にいることで、実に不本意なことに同族だと思われている伊槌が男子生徒に声をかけても、化け物に話しかけられたように遁走を決められ続けていた。様崎が勧誘の効率化を求めて彼をチョイスしたというなら、彼女に人事の才能は著しく欠けていると伊槌は確信した。

 

「伊槌君もあまり首尾が良くないようだね。まあ、気を落とさなくていい。僕もそうだからね」

「はあ……そういえば、何でこんなところで声をかける事にしたんですか? 人通りは少ないですけど」

 

 伊槌がまたまた溜め息をついて話を切り替える。彼らは校舎の外れにある花壇の近くで勧誘作業に勤しんでいた。近くには園芸部の小屋がある。サッカー部のものと違ってしっかりした外装である事に、伊槌は少し悲しくなった。

 梵場がそれを聞かれるのは予想外、と言外にそう言いながら話し出す。

 

「少し考えれば分かることさ。なんだと思う?」

「…………人の多い範囲は、他の人々に任せるため?」

 

 少し考えた伊槌が、個人的に納得のいった推論を口にする。

 口下手な伊槌と、全てがヤバい梵場。このパーティは勧誘に絶望的に向いていない。ならば、初めから成果を出すのは諦め、人に託して奇跡を信じて行動するのも賢い選択だと感じる。

 しかし梵場は、チッチッチとでもいうように人差し指を振って否定する。指が梵場のサングラスに意味深げに反射していた。妙に様になっているのが腹立たしい。

 

「簡単だよ。それは……」

「それは……?」

 

 フッ、という微笑の後に、梵場が溜めて言い放つ。

 

「花壇の周りには、子猫ちゃんが多いだろう?」

「…………」

 

 伊槌の右手が怒りに震えていた。ここまで腹が立ったのはキング・マドリードでの初練習で明らかに自分にパスを出さないスペイン人に対しての怒り以来だった。

 伊槌が爬虫類もかくやと言うほど目を見開いて梵場を睨みつけていたが、彼は柳に風とその熱烈な視線をかわし、伊槌の背後に目を向ける。

 

「おや、あの子猫ちゃんは……」

 

 振り返ると、そこには若草色の髪をした、小柄で可憐な少女が花の世話をしていた。非常に整った顔立ちの彼女だが、伊槌は妙な違和感を覚える。女性にしては体の作りが男性的な気がする。アスリートとしての直感だった。

 

「どうも、子猫ちゃん。花を愛でる君はこの花壇のどれよりも美しいね」

「えっ、僕ですか?」

 

 少女に絡み始めた梵場を目にし、流石に他人事ではいられなくなった伊槌が死地に向かうような表情で近寄っていく。今すぐ彼女に謝りたかった。

 

「ああそうさ。この場に君ほど美しい女性はいないよ」

「……女性……?」

 

 彼女が低い声で唸るように言う。伊槌は反射的に梵場を盾にしながら他人のフリをした。

 少女は妙に迫力のある笑顔を見せながら梵場を威圧するように話し出す。

 

「僕が女の子みたいに見えますか……?」

「どうしたんだい、そんなに怒ってしまって。美しい顔が台無しだよ、子猫ちゃん」

「ぼ、梵場くん、虫の居所が悪いようだし、この辺にしましょう。時間も経ってる」

 

 明らかに少女の怒りを感じ始めた伊槌が梵場の肩を掴み引きずろうとする。だが、その小太りのどこにその俊敏さがあるのか、易々ととかわされてしまった。

 伊槌の手を避け、踊るような梵場が少女に改めてラブコールを放つ。

 

「……僕は」

 

 わなわなと肩を嘶かせる少女が目を見開く。

 

「僕は、男です!」

 

 少女──否、少年の張り手が、いやに乾いた音を響かせた。

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

「ふむ……男に興味はなかったけど、あの子ならいいね」

「やめてあげてください、おぞましい」

 

 あの少年との一悶着が終わった伊槌達は早々に部室へと引き返していた。首尾はゼロ、当然の結果であった。

 部室には誰もいなかったため、こうして梵場と話をして時間を潰している。見た目に反して、適切な距離感を空けてくれる梵場は存外話しやすい。普通にしてればモテそうなのにな、と伊槌は思う。

 

「しかし、こうして部員総出で勧誘だなんて、何か焦る理由でもあるんですか?  FFは一ヶ月後ですし、こんな急がなくてもいいのでは?」

 

 ふと、伊槌がそんなことを聞いた。元々気になっていたことだが、聞く時間がなかった。

 

「ああ、それかい。確かにFFまではまだ猶予がある」

 

 だけどね、と梵場が続ける。

 

「直近でここら一帯の中学で練習試合が組まれてるのさ。それにエントリーするために、最低でも11人必要だからね、焦りもするよ」

 

 確か応募期限は3日後だったかな、とさらに続く言葉を聞いた伊槌は、弾かれたように立ち上がる。

 

「ピンチじゃないですか!」

「まあ落ち着きたまえよ。焦ったって事態は好転しないさ」

 

 芝居がかった動作で梵場が手を動かし、伊槌に着席を促す。渋い表情で彼もそれに従った。

 

「咲夜キャプテンはなんとかするだろう。現に、君を連れて来たわけだからね」

「……まあ、そうですね」

「勧誘は僕らの領分じゃない、そういうことさ」

 

 その言葉に伊槌は押し黙る。口下手で、プレーに妥協ができない自分が勧誘に向いていないことは重々承知だったからだ。

 細く息をついた伊槌が背もたれに体重をかける。一瞬訪れた静寂の中、跳ねるような足音が部室の外から聞こえて来た。

 足音は一目散にこちらを目指しており、梵場も気づいたようにそちらに目を向けていた。そして、音が止んだかと思うと壊れそうなほどの音を立てて部室の扉が開け放たれた。

 

「すいませーん! 入部希望です!」

 

 勢いよく現れたのは、紺色の長い髪と猫耳のついたニット帽が特徴的な少女だった。走って来たのか、息は弾み、少し汗もかいている。

 梵場の目が鋭くなるのを感じた。伊槌にいらない緊張が走る。

 

「これは可憐な子猫ちゃん、サッカー部に興味があるのかい?」

「はい! これ、入部届です!」

 

 そう言って少女は一枚の紙を差し出す。その裏では、梵場が妙な言葉を口走らなかったことに伊槌は心から安堵していた。

 名前の欄には明凪 輝夜(めいなぎ てるよ)と書かれている。一年生らしい。元気のある後輩に伊槌は好感を持った。

 

「預かります。後でキャプテンの方に通しておきますね」

「まあすぐに受理されるだろう。こちらへ来たまえよ子猫ちゃん」

「はーい! お邪魔します!」

 

 少女、明凪は名前の通り明るく元気な少女のようだ。勧誘には失敗したが、一人は捕まえられたことに伊槌はとりあえず肩の荷が降りた気分だった。

 

「明凪さんはサッカー経験があるんですか?」

「はい! 父さんから色々教えてもらいました! あ、ポジションはFWです!」

「へえ、僕もFWです。ライバルですね」

 

 伊槌が好戦的に口元を歪める。宣戦布告と受け取ったのか、明凪もふふんと笑って受け止めた。

 

 それから皆が戻ってくるまでそう時間は掛からなかった。帰ってきた様崎に入部届を渡し、明凪の入部が正式に決まる。さらに、彼女らは新たな一年生も連れて来ていた。

 

宵闇黒江(よいやみくろえ)です……別に、よろしくしなくていいですよ……」

 

 何故かフードを目深に被っているため顔がよく見えない小柄な少女だった。

 相変わらず梵場が絡みにいって、宵闇がドン引きしている。妙な既視感を思えて頭痛がして来た伊槌は、逃げるように目を逸らす。

 

「いやー、この短期間で3人も部員を捕まえてくるなんて、流石私だね!」

「ははは……でも、咲夜さんが頑張ってるのは本当だね」

 

 胸を張ってそう宣う様崎に麦わら帽子の少年、太田が肯定の言葉をかける。その言葉にさらに気を良くしたのか、すごいでしょー、と言いながら三刀屋に絡み出した。

 収拾がつかなくなって来たカオスな空間に乾いた音が響く。驚いて音源に勢いよく振り返った伊槌は、無籐が手を叩いた音だったことに気づく。

 

「とりあえず勧誘活動は終わったんだァ。新入部員達の実力も見てェ」

「そうだね、じゃー今日も練習始めよっかー」

 

 その宣言に、言葉なく伊槌の胸中に熱が滾っていく。ついにピッチに戻れる、その高揚が心地よかった。

 部員達が男女に分かれてユニフォームに着替え出す。伊槌も、今日支給された憲戸中の11番のユニフォームに袖を通した。ピンクを基調とし、黒がアクセントに入ったデザインのそれは存外伊槌好みのデザインだった。

 少し辺りを見渡すと、当然だが皆一様に同じユニフォームを着ている。改めて、自分がサッカー選手なのだと実感した。既に着替え終えた梵場が鏡の前でポーズを決めている。即座に目を逸らした。

 

 緊張をほぐすように深く深呼吸する。その様子を見て、太田とは違う大柄な少年が声をかけて来た。

 

「緊張しているのか」

「……ええ、まあ少しは」

 

 筋肉質な体格に勇ましい人相をした少年だった。他の部員に名前を呼ばれていた記憶もなく、少し眉を顰める。伊槌の様子に気づいたのか、彼は滔々と喋り出した。

 

「自己紹介がまだだったな。俺は靴木一谷(くつきいちや)。三年でポジションはMFだ」

「伊槌鳴哉です。お願いします」

 

 そう言って頭を下げる。礼儀はどこへいっても大事だと言うことを、子供の頃から海外へ出ていた伊槌は身をもって知っていた。

 

「初練習だろう。あまり緊張しなくてもいい」

「そうだぜ! というか伊槌なら大丈夫だろ!」

「はは……ありがとうございます」

 

 いつの間にか来ていた木崎もそう言葉をかけてくれた。固くなっていた伊槌の肩が少し解れる。着替え終わった太田もにこやかに伊槌に近づいて来た。

 

「こうして話すのははじめてだよね。僕は太田優(おおたゆう)、DFだよ」

「はい、よろしくお願いします」

 

 握手をすると、太田の筋力がよく分かる。伊槌の体格はサッカー選手としては良い方ではないが、平均的な男子ではあるのに対し、太田は見た目よりも筋肉がついているためか、手もガッチリとしていた。眼鏡をかけた優男風の顔と体のイメージの乖離がどんどん進んでいく。

 手を離して、太田が少し言いづらそうに切り出す。

 

「伊槌くんは……全国優勝が目標なんだよね」

「はい、二言はないです」

 

 その言葉に、大きな体を少し震わせて、伊槌の目を力なく見返す。

 

「……やめておいた方がいいよ」

「……? どういう──」

 

 太田の意味深な言葉に伊槌が追及しようとしたところ、無籐のよく通る声が更衣室に木霊した。

 

「オイ! 準備ができてんならさっさとグラウンドに出ろォ!」

 

 その言葉に木崎達は慌てて更衣室を後にする。太田も、申し訳なさそうに頭を下げて走って行ってしまった。

 

「……まあ、何でもいいか」

 

 どうせ自分の目標は変わらない、どんな困難があろうとも、乗り越える。

 伊槌は決意を新たに、扉を開けて、復活への二歩目を踏み出した。




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