序章:終末魔法少女ハレル   作:青川トーン

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旅立ち1/3

 世界が鮮やかに色づいていく、大気の流れも、舞い散る塵煙に、瓦礫にさえもが輝いて見える。

 そんな中で明確に、赤黒く染まるのは目の前の巨大化した怪異。膨れ上がった灰色の肉塊は悪意に満ちていて、ただただそこにあるだけで許せない。

 

 

 こいつら怪異は生き物ではないそれ故に「痛み」も「恐怖」も持たない、徹底的に破壊しなければ止まりはしない。撃ち放たれた銃弾をエネルギーシールドで受け止めながら攻撃手段を考える、今の私達の武器はこの身一つと宿した力だけ。

 

 空いた右手側でバリアを円形状に形成、回転させて丸鋸へと変化させて、同等の物を複製して射出。肉塊の巨体を切断しながら貫通し、さらに軌道を修正して再び怪異に襲い掛かり、触手を寸断していく。これは《ヘイロー・ソーサー》と呼ばれるそれは魔法少女の三つの基礎能力の一つ「バリアコーティング」を応用した攻撃の一つ。

 

 突然に自身の体の一部を削ぎ落されながらも怪異はこちらへ向かって黒い粘体を放水のごとく放ってくるが、それは腐食性を持つ上に鋭さも兼ね揃えた厄介な攻撃だ。魔法少女となっている今ならばたいしたダメージにはならないが回避する事に越したことはない。ヘイロー・ソーサーで迎え撃ちながら私は第二の基礎機能「フローティング」により浮かび上がり、攻撃を回避する。

 

 もはや目の前の怪異は敵ではない、私が意識するのは「俺」……つまりはシルスだ。

 一つの体に二つの意識、それは俺も私も初めての事。体の調子がいい、力が湧き出る、しかしてどの程度まで調整するべきか。互いのバランスを取ることに手間取っている。

 

 それは間違えれば私ハレルとしての意識と力がシルスを塗りつぶし、押しつぶしかねないが故で、また俺シルスとして意識が力の扱いに慣れないが故の綱引き。なるほどこれがハレルが渋った理由かと理解する。

 

 そこで俺は考える。線引きだ、一つになっているとはいえ俺達はそれぞれ別の人間だ。

 

『シルス、今は私に委ねてください』

『自信はあるのかよ』

『信じてください』

 

 一つだからこそ、あえて分かつ。そうして初めて見えるものがある。一瞬前まではゴチャゴチャになっていた意識がはっきりとする。隣にシルスが居るのを感じる。同じ様にシルスの隣には私が居る。

 

『何分、本来はこういう使い方は想定されてませんし、前例がありませんでしたから少し手間取りましたが。なんとかなりましたね』

『ああ、むしろこれ元は何に使うんだ』

『敵を同化したり、力を取り込んで吸収したりですね』

『おっかない力だな』

 

 本当はうまくいくという確信は無かった。けれど目の前の彼を、シルスを死なせたくなかったが故に、私はこの手段を選んだ。それが正解だったのかは今もわからないけれど、既に私達は賽を投げた。結果がどうあれ、走り切る以外の選択肢はない。

 

 触手と粘体の攻撃を回避しながら懐に潜り込み、第三の基本機能「パワーアシスト」を最大出力にして強化された拳を叩き込む。戦車の装甲をも破壊する鉄拳を撃ちこまれた肉塊が衝撃によって爆ぜ、汚液を撒き散らす。続けてバリアを纏わせて刃と化した手刀を突き入れ、引き抜き、切り裂き、解体していく。

 

 

「これがお前の心臓ですか!!!」

 

 そして見えるのは奴の中核と思わしき邪悪なエネルギーの塊であり、奪われた力の集合体。それを私は手づかみで引き抜き、握りつぶす。悪意は無へ、継ぐべきものはこの身へ。

 

 怪異の巨体が黒く染まり塵となって崩壊していく。だがこれで終わりではない、問題は何一つ解決していない。

 

 奪われた「エレメントイレイザー」の機体サンプルと襲撃者の追跡、破壊されたサイトH1の復旧と警備。そして一体化してしまった私とシルスの事。

 

 それらを考える為にまずは一度、体の主導権をシルスへと返す。

 

「っと……戻った……けどハレルは?」

「心配しないでください、ここにいますよ」

 

 私は幻像という形でその姿を見せる、実体は今もシルスと一体化したまま。

 この手段を取った事で私の実体をシルスに与えてしまった、故に分離して実体を再構成するのにはまた時間と大量のエネルギーを必要とする。加えて無理に分離しようものならシルスの命を奪いかねない上に……私の力を使い続けるというのもまたリスクがある。

 

「シルス、私達は一心同体となりました。しかし基本的には貴方の姿で行動してもらう事になります、それは私の力を使い続ける事によって代償やリスクが生じる可能性があるからです。なので本当に必要な状況でのみ私の……魔法少女としての力を使う事を許可します。そして非常時には私が体の制御権限を強制的に奪う事もあるかもしれません。先にそれだけは覚えておいてください」

「つまり頼り切りにはなるなってことか」

「その通りです、私も可能な限りの手助けはしますが。あなたに大きな負担をかけてしまう事は先に謝らせてください」

 

 もっと私達が強ければ、しっかりしていれば……こんな事態にはならなかったのかもしれない。彼を巻き込んでしまったのは私の責任でもある。

 

「わかった、それで行かなきゃいけないんだろ?その奪われたモノを取返しに」

「ええ、ですが一つ大きな問題があります。それは……この施設の防衛です。ここにはまだ危険な物がいくつか封じ込められているのです」

「そりゃ困ったな……」

 

 そう、誰か一人でも残っていれば……いや過ぎた事は取り返せない。ならばどうするか……。

 

「そういういや言ってたよな?力やモノを取り込んだり同化できるって、全部纏めて取り込んで持っていけばいいじゃないか?」

 

 ………はい?今何か耳を疑う様な事がシルスの口から発せられた気がしましたが。

 

「一体化した時に感じた、あのだだっ広い場所、そこに封印できないかって」

「あのですね、可能か不可能かといえばできますよ?ですが言いましたよね「リスク」が生じるかもしれないと、私のこの同化する力は代償として記憶を失う事があるのです。そしてそれは当然ながら一体となってるシルスにも影響しかねない事です」

「でも、アカネさんも今は巡回で居ない今、ヤバいシロモノを置き去りにしていくのはもっとヤバイし、持っていかれたものもヤバい……ならそれしかない。それに記憶を失うかもしれないのならどちらかが覚えて置けばいいじゃないか、せっかく二人分の意識があるんだから」

 

 待て待て、こいつちょっとおかしいよ!本当に平和な世界の出身ですか!?ナユタでもそんなヤバい事やろうなんて言いませんよ!ブレーキは無いんですか!確かに理には適っているけれど!

 

「怖くないんですか!記憶が消えるかもしれないんですよ!?」

「怖いさ!けどそれよりも酷い事態になるくらいなら、俺はこっちを選ぶ」

「こんな世界の為に命をかけれるんですか」

「こんな世界だからこそかけてやるんだよ」

 

 今気づいたのですが、もしかしてこいつ……バカなのでは??

 

「この世界に来てから踏んだり蹴ったり、だけど絶対に俺は逃げもしないし、隠れもしない。全部正面からぶっ飛ばしてやる。それが俺の答えだ」

 訂正、間違いなくバカだし、加えてどうしようもないぐらいにタフだこいつ。

 

 そういえばさっきも死に掛けてたというのにグレネード投げつけて爆風で転がってきた所を思い出してもとんでもない奴だったの思い出したよ!

 

「なら……そのバカを貫き通してみせやがりくださいよ」

 

 再び魔法少女としての私の姿へと実体を切り替えて、収容区画の上空へと浮かぶ。

 

「今から、収容物を全て同化します。初めての試みなので、失敗しても恨まないでくださいよ」

「上等だ」

 

 アズライールの青い輝きを介して、私は封じていた力を開放する。

 それは虚無へと通じる輝き、全ての物がいつか無に還る様に。収容区画が分解されて光へと変わり、私達の中に呑み込まれていく。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 同時に私の意識が闇の中に呑み込まれていきそうになるその時、私の手をシルスが掴んだ様な気がして繋ぎとめられた。

 

 そして光が収まった時、私は問いかける。

 

「シルス、無事ですか」

「当然」

 

 そういう彼の顔は人がどんなに心配したと思っているんだと、少しムカつくくらいに自信に満ちた笑みであった。

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