オートレイダーに乗って荒れ果てた道を行く。思っていた以上にパワフルでタフなこいつは不整地もなんのそので瓦礫も吹き飛ばしながらに俺達を運ぶ。
出発してからまだ2時間と経っていないけれど、随分な距離を移動していた。とはいえここに至るまであったのは無数の廃墟に代わり映えのない荒野に人のいない大地。時折緑が生い茂る場所もあったもののほんの少し遠くで見えたぐらいだ。かつて川に架けられた橋はとうに崩れ落ち、とても渡れないのではと思えばこいつはなんとホバー対応で水上さえも容易に渡り切ってしまった。
しかし薄々そんな気はしていたがここは日本で、今いる地帯は旧首都……東京だった場所らしい。らしいというのは俺の居た時代とは300年単位で隔絶がある。その間に都道府県は廃止されているし、そもそも特殊な汚染で放棄された歴史があるらしい。今となっては国家というものは殆どが崩壊し、かつての政府の残骸が一勢力として存在する程度、そして人々は「都市」単位で生活しているのが主だという。
この日本列島だけでも30に届くかぐらいの都市と有象無象の集落があるそうで、俺の居た時代とはまるで違う社会の姿にもまた戸惑う事になった。そしてもう一つ、今のこの世界では「ユニオン」と「アライアンス」という二つの巨大勢力が存在して、今後の世界の主導権を握るべく争いを続けているとの事。
ナユタのスタンスとしては両者の争いへの介入はしない形であるが、必要であれば両者への技術提供や仲介をそれぞれ「個人」の裁量で行ってよいとされている。俺としてはそれでいいのかと少しばかり疑問に思うが……いわば高度な政治的な判断という奴なのだろう。
実際、そのおかげかアライアンスからもユニオンからもナユタはある程度の協力を得られていて、両者から敵視される事もないそうだ。代わりに二大勢力に属さない組織、大戦期から存在する軍需複合体や何かしらの思惑のある者達によって狙われる事があったり、時にはかなりの大事に巻き込まれるといった事もあるので結果としては大変な立場なのだろう。
「それで、シルスはどう思いますか?この世界を」
俺の住んでいた世界も決して貧困や争いが無かった訳じゃない、遠い場所の出来事だったからそこまで気にすることはなかっただけだった。けれど今や当事者だ、そうなれば感想はただ一つ。
「ろくでもない」
「私もそう思います」
ハッキリ言えば、なんで逆にまだ人類絶滅してないんだ、それどころかなんでまだ生き残った奴らで争ってるんだ。そんなに戦いが好きかと頭を抱えたくなる。ハレルはこんな世界で生きて来たのか。
「でも守りたいんだろう?」
こんな終わりかけの世界でも、生きている者達がいる。目の前の幻像のハレルにアカネさん、そしてあの時の魔法少女に、死んでいった神官の人達……俺が関わって言葉を交わした人は少ない。けれど確かに存在する。
「……初めて出会った時から思っていた事なんですけれど、あなたも大概タフですよね。本当に平和な世界から来たんですか?」
「自分でもわからない、けれど気づいたら妙にしっくりきて……逆に自分がわからなくなる」
「……もしかするとイレギュラー気質ですかね」
なんだそれはと俺は首をかしげるとハレルは説明しだす。
「どんな世界にも、例外的なモノは必ず生まれる。あなたは平和な世界で生まれるも、心の中に戦いの心構えを生まれながらに宿していたのかもしれません。それはいわば才能の一種で、普通に過ごしていく分には決して芽生える事はないけれど、何かのきっかけがあれば爆発的な力を産む」
「そういう学説とかがあるのか?」
「火事場のバカ力とかそういうのの類は昔からずっと研究されてきました、しかし結局の所は例外をカタに当てはめるなんて到底ムリな話で……あくまで話半分でお願いします」
確かに例外は例外であるが故にだもんな、解明できたとしてもきっと新しい例外が生まれるだけだ。
「つまり俺が特殊なだけって事か」
「まあ……実際の所はわかりません、結局人間はどこまでいっても自分達の本質すらわかっていないのです。きっとこうだ、きっとああだとそれっぽい理由を付けて生きていくしかないのです」
「お前が始めた話だろうに……ただ俺がイレギュラーってのはそうかもな。別の世界の人間だし……そういや俺以外にも別世界の人間っているんだよな?」
「ええ、この世界は不安定な状態ですからね……そこそこの頻度で別世界から迷い込んでくる者、あるいは自分達の技術で観測に来る者がいるのはナユタでも把握しています。加えてですが、こちらから別の世界に出る事もありますね」
世界を渡る……当然ながらそれはとんでもない事だろう、この世界みたく魔法のある世界やない世界、もしかしたらもっとファンタジーな世界や、科学の発展した世界もあるだろう。それこそこんな荒廃してなくて、平和な世界もあるかもしれない。
「天国や地獄、あの世ってのもあるのか」
「うーん……そこに関しては実は他の世界ではあったり無かったりするんですが、うちの世界に紐づいてるのは地獄ぐらいなんですよね、それも別に死後の世界じゃなくてデーモンとか悪魔が住んでる場所ってぐらいなんですが」
「あんのかよ地獄……」
「環境こそ過酷ですけれど正直に言えばこっちより平和だそうですよ」
「地獄よりひどいのかよこの世界」
俺の頭に浮かんだのはなんか真っ赤な岩山や天井があって、真っ黒な城で優雅に過ごすイケメン悪魔の姿。当然ながらあくまでイメージである。実際はもっとマッシブなカッコいい悪魔かもしれないし、カードゲームに出てきそうな不気味な奴かもしれない。
「その繋がった地獄なんですが、今は地上に出来た地獄の門に機材をぶち込んで地獄の炎をパッケージングして……エネルギー資源として利用してますね」
「お前ら逞しすぎるだろ。というかそれ向こうの奴らに怒られないのかよ」
「平気ですよ、デーモンより我々の方が強いですし。何より連中バカ笑いしながらオッケーくれたそうですよ」
呆れる様なエネルギー事情を知ってしまった、確かにこんなに荒廃してたら使えるものはなんでも使うんだろうけれど地獄の炎でお湯を沸かしてタービン回したりなんて考えるとちょっと与太話に片足を突っ込んでるだろ。
そんな感じでハレルとこの世界の事についての話に華を咲かせていた所に、都市部を駆ける中でビビっとオートレイダーがアラートを鳴らす。何かが近づいているとのことで警戒を開始する。
別のエンジン音、それも大きい。速度も結構ある、遠くで廃ビルが崩壊する。そして炸裂音と同時にオートレイダーが急加速する。
そしてさっきまで通ってきた道が突然に爆発する、ああこれは攻撃されているのかと理解する。
「敵だな!」
「敵ですね、少し待ってください索敵します」
オートレイダーの周囲にホログラムのモニターが出現し、それらが目まぐるしく切り替わっていく。そんななか少し先の大通りの十字路、突然に現れた巨体に俺は驚いた、それは巨大な要塞の様な戦車だ。
これまでみた残骸なんかではない、本物だ。それも武器がこちらに向いている。
「フォートレスキャリアー!なるほどサイトH1を襲ったドローンの運び主も、ロケット砲撃の犯人もこいつですか!」
「……それはそうだが、何よりも倒さないと通れないぞ!」
俺が叫ぶと同じくして、機体が開いてドローンが数機放たれる。
「ならば私がやりましょう。オートレイダーは離脱させます」
光が体から溢れ、俺とハレルの姿が入れ替わる。そしてオートレイダーのバインダーに格納されていたブレードと機関銃を装備して、空へと舞い上がった。