先行させていたオートレイダーに追いつき、武器を仕舞った後に姿がハレルから俺のものに切り替わる。その瞬間にどっと疲労が押し寄せ、思わず意識が眩んで膝をつく。
『大丈夫ですか』
さすがにハレルの声も真面目に心配げで、俺も茶化す様な余裕もない。地面に手を付きながらも目眩がどうにかなるのを祈りながら待つ、浮かぶのは先程の戦闘の事。飛び交う弾丸にロケットの爆発によって発する空気の振動と爆音、縦横無尽に駆け回る中で感じる体の軋み。
それらすべてが緊張の途切れと同時に襲ってきた。
『私が代わり体を動かします』
そういうなり、自分の意志とは関係なく手が動き、ポーチの中から何かを出して腕にあてる。すると接触面から冷たい感覚が広がり、眩暈や吐き気・頭痛といった症状が治まっていく。
視界が回復した所で目にしたのはペンの様な何かだ、確か……無針注射という奴か。
「もしかして薬か」
『その通り、神経用の鎮静剤です』
「…あー……なんか副作用とか依存性とかある?」
『適切な運用をしなければ意識が落ちますね。ですが安心してください、私は薬物取り扱いの資格を持ってますから』
元の世界に帰った時に法に引っ掛からないといいが……まあ今のが「負荷」という奴か。
「まさか一回戦うだけでこんなに体にくるとは思わなかった。この有様だと確かにずっとハレルの姿でいればいいだなんて言えないな……」
『すみません、こういう事態に備えて運用研究をしておくべきでした』
「責めるなんてしないよ、むしろ命を救ってもらった側なんだから」
しかしこうなると以後、どうするかが問題になってくる。気軽にハレルの力を使う訳ではないが仮に連続で戦闘になればかなり辛い状況に追い込まれるのは事実。
『少し何か対策を考えます、その間にシルスには移動をお願いします。また追跡する途中で居住地域もありますからそこで必要に応じて補給や休息も考えましょう』
「わかった」
ハレルに返事をするとオートレイダーに跨って追跡を再開する。居住地域か、そういえばこの世界に来て初めて人が住む場所に行く事になるのか。想像できるのはやはりさっきの荒れ果てた廃墟をマシにしたようなものか、それとも俺の時代から見た未来的な都市か。
なんにせよオートレイダーのモニターに表示されてるマップをみれば、しばらくはまだ荒野を行く事になりそうだ。優れたバランサーかサスペンションのおかげか、ガタガタな場所を走っても殆ど揺れないので乗ってる分には疲れないし、渋滞すらもないからスムーズに進めるのは救いか。
ただ結構なスピードが出ているから振り落とされない様に、後はこれ以上の敵襲がない事を祈るばかりだ。
その頃、アザミ達は街の外れにある施設へと到着していた。その周囲にはドローンや機械歩兵によるセキュリティが敷かれており、識別コードを持たない者が近づけない様になっている。二人が着地するとゲートが開き、屋内への通路が現れる。
「それでMCMSの連中はいつソレを引き取りに来るんだ?」
「予定通りであれば明日の夜に到着する筈、そしてもしもナユタからの追手が辿り着くとしても早くても同じく明日の夜だと予想している」
「お前のモデルの改修が終わるより早く辿り着いたら?」
「その心配はない、後は内部プログラムを取り込んで調整するだけ。もう基幹部分は完成している」
そう言ってアザミが指さすのは胸の魔法少女システムコア、それは既存のモデルをベースに専用設計へと自身でカスタマイズしたものだ。
「じゃあ、もしMCMSが契約を破って装置だけ奪おうとしてきたら?」
「当然、報いを受けさせる。このエレメントイレイザーの力で」
「そいつはよさそうだ」
ここはかつてはどこかの勢力が使っていたであろう研究所の残骸を復旧したもので、電力設備なども最低限度、とはいえアザミもかつてはナユタに居た者として「技術」には優れていた。その最低限度で武装や機材の製造を行い、それを売却することによって得た信用と資産によって、MCMSとの繋がりを作り、そしてヴァイオレット含む魔法少女達を雇ったのだ。
MCMSとしてはそんなアザミを技術者として雇いたいという思惑はあったものの、彼女としてはそこに重きを置いていなかった。
エレメントイレイザー、正しくは「ピュリフィケイター」技術の存在が間違ったものでないと証明すること。
「兄の遺した研究のおかげよ、製造方法そのものは早くに解明できていた。けれどいくら外側だけを真似ても正しく制御できなければ意味が無い。正しく使われなければ、どんな力も無意味よ」
スキャン装置に機体をセット、安全装置としてナユタが施していたセキュリティロックを解除して内部データの解析、制御プログラムを抽出、そしてタッチパネルを介してダウンロードが可能な状態に変換していく。
それを見てヴァイオレットは子供の様に目を光らせた。
「相変わらずアンタと一緒にいれば面白いモノが見れるな、ところでソレはアタシにも使えるのか?」
「……その「ナイトメテオス」モデルを詳しく調べない限りには簡単には断言できない、それに加えてその体に取り込んだ装置の数々も精査しないと、逆にあなた自身が危ない」
アザミはヴァイレットの右手を取り、魔法少女システムを介して彼女の肩までをセンサーでスキャンしてホログラムモニターを投影して表示させる。そこには「ブラスターシステム」「パワーフレーム」の二つの装置のデータが表示されるが、それ以上はロックが掛かってフォルダがパスワード化されている。
「ヴァイオレット、正直な事を言えば私はあなたの方が思議でしょうがない」
「うーん……あたし自身はそう、せっかくこんな体にされたからには誰よりも強くなりたい。あらゆる力を手に入れて、もう二度と踏み躙られたくない」
生身の人間と変わらない姿、それでもそんな彼女の中身はどうしようもない程に歪なモノだ。ヴァイオレットの体を構成するのはどれもこれも人工物であり、機械であり、同時に有機体でもある。無機物と有機物が融合しながら、生体としての在り方、機械としての機能も阻害しない。
「……そうね、誰だって踏みにじられるのは嫌。心も体も……思い出も……だから強くなる、だから敵から奪う。相手の全てを踏みにじる事になっても」
「まあ、それもあるけれど……何よりもあたしはあたしが楽しいと思った事が一番だよ。今はあんたと居るのが楽しい、強い敵とも戦えるし、面白いものも見れるし、なによりも真っ直ぐなアザミの姿を見てるとまあそう……ちょっとなんだか悪い気はしないしな」
そんなヴァイオレットの言葉に少し呆気に取られて、アザミはきょとんとした表情を浮かべる。そして少しして元の無表情に戻る。悪い気こそはしなかったが、あまり信じすぎるのもよくない、所詮は雇い雇われ……そして裏切られることもいつだって考慮しておかなければならない。
ナユタも大切な兄も自分を裏切った、そしてもまたナユタを裏切ったのだから。
「……そう、ならきちんと契約を果たしてくれることを祈るわ」
「任せろ、あたしは強いからな。あんたがきっちりと望みを果たせる様に守ってやるよ」
「期待しているわ」
だからせめて、かつて見た夢だけは。兄の語った理想だけは裏切りたくない。
この汚染され尽くした世界を浄化して、人の住める大地へと作り変える。
かつて兄から貰った、この「アザミ」の花が芽吹ける世界を取り戻すのだ。