序章:終末魔法少女ハレル   作:青川トーン

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つかの間の3/3

 時間は少し遡る

 

 

 昼頃、襲撃され半壊したサイトH1にアカネは戻ってきていた。ハレルが予想した通りの時間に滞りなく仕事を終えた彼女はドローンに残されたメッセージを読み、呆れていた。態々エレメントイレイザーなんぞを奪いに来る者など一人しか思い浮かばない。犯人の正体は先代のシルスの妹だとアカネは早々に目星をつけていた。

 

「人を大事にしないからまたこうして裏切られるんじゃないかい?大神官様」

 

 ハレルが予想していなかったのはアカネが人を連れて戻ってくる事だった、それは仮面を被り大柄な体をそれ以上にゆったりとしたローブで隠した男だった。時折風にゆれて見えるその体は人のモノではなく……機械に置き換えられたものだった。

 

 そんな彼が手をかざすと周囲に光の粒子が舞い、それが形を成してここであった戦いを幻像にて再現する。それは襲撃者である魔法少女と戦うナユタの神官達の姿だった。

 

「かつてならば、この程度の相手に後れを取る者など滅多にはいなかった。だが……どんな組織であろうと、いずれは衰えて崩れるのだ。先の戦乱を止める事など出来ず、世が荒れ果て行くのを見続けて絶望した者達、己が持つ力に惑わされて裏切った者達、そしてお前の様にナユタを見限る者達……誰も責めはすまい。我々は一万年もの間戦い続けたのだ去る事も止めはせん」

 エコーの掛かった老人の声で語る大神官に対して、アカネはどこまでも冷ややかな目を向けていた。

 

「だが、それでもやり遂げねばならぬ役目がある」

 戦いのヴィジョンが一人の少女の姿へと移り変わる、それは自らの中に全ての収容物を取り込んでいくハレルの姿だった。

 

「ハレルこそが我々にとっての最後の希望であり、ナユタの志を継ぐ最後の巫女となる」

「……押し付けるのか?ハレルにこれ以上のモノを?」

 極めて冷静なままアカネはその怒りを込めて再確認する、例えその答えが決まっていたとしてもだ。

 

「ナユタ・ハレルこそが善きも悪しきもその身に宿して永遠に戦い続ける、最後の継承者だ。その為に我らはあやつに不死の力を与えたのだ。それにお前も分かっていたであろう、あれだけに力に耐えうるだけの器などない、不死ですらも力不足やもしれんということを」

 

「それでもだ」

 

 役目として、使命としてそれを当然だという大神官に対してアカネは真向から否定する。

 

「私はあの子をお前達老人の思い通りになど、何もかもを背負わせる生贄になどはさせない」

「なに……?」

「愛する者がいるからこそ戦う意味がある。愛さえ捨てて使命に全てを捧げたお前達にはわかるまい」

 

 そうだ、いつだって誰かを愛するからこそ人は戦える。

 これまでの奴らはハレルを守るだけだった、だからこそ互いに支えあえる未熟な彼だからこそ信じられる。

 

「故にさっさと去るがいいよ、私はこれから彼ら・彼女らの応援で忙しいのでね!」

 

 アカネはそれだけ言うともはや過去の遺物になど眼中にないとは言わんばかりの態度で大神官に背を向ける。彼女がナユタに所属しているのはあくまでハレルがそこにいるからにすぎない。もしもハレルがそう望むのであればナユタと敵対する事さえ厭わない。そういう人間なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思い返せば父はいつも遠い場所にいた。国を、人を守るべく歯車となって働いていた。共に過ごす時間は決して多くは無かったが、それでも俺達家族を愛していたのは間違いなかった。

 

 数少ない休みに共に海に出かけた時、波にさらわれて沖に流された俺を父は助けてくれた。自分の命どころかその役目さえもを投げ捨てる事になったとしても俺を救う事を選んでくれた。

 

「いつだって力の意味を持たせるのは、その心だ。愛するべきものがいるからこそ、俺は戦えるのだ。いつかその時が来たならこの言葉を思い出すんだ」

 

 そんな父の事を俺は尊敬している。だからこそ父や家族に、なによりも自分に恥じぬ自分でありたいと願った。俺は必ず帰る、その為にまず目の前の役目を果たすのだ。

 

 

 

 目を覚ますとそこは屋敷の中で、側にはハレルが居た。

 

 

「いい夢は見れましたか?」

「家族の夢だった、良い夢だったよ……おかげで戦う気力が湧いてきた」

「えっ……ええっ!?」

 

 予想外の言葉だったのかちょっと驚いたような表情を見せた。

 

「てっきりホームシックにかかって落ち込むものかと思いましたよ。しかしそれなら安心ですね……とはいえもう少ししっかり休んでくださいね。ここに来る途中に疲労で倒れてるんですから。

 

 そうだった、確かオートレイダーを停めてさあ屋敷だといった所で記憶が途切れている。エレナ嬢にも申し訳ない事をしたし、ハレルにも心配をかけただろう。

 

「悪い、手間をかけさせてしまったみたいだ」

「私の方こそあなたに任せないといけない事が多くて……まあそれはさておき、今のうちに今後の予定を話しておきましょう」

 

 ハレルはホログラムのモニターを出現させてデータを表示させる、そこにあったのは俺の姿とそこに連なる数字達、ステータスって書いてあるのは分かるが略されてるものの意味はわからない。

 

「このNRVって所ですね。これが神経負荷といって、まあ魔術やストレスとかで変化するんですが……シルスはまあ私達の標準って所でそこそこにはタフなので慣らしていけばさっきの様な戦闘後のダメージは減る筈なんですよ。ただ問題は慣らしている時間がないというだけで……」

「確かに修行やってたらその間に逃げられるだろうしな……であるんだろう?対策は」

「はい、シルスにはこれからずっと何かしらの魔術を使い続けている状態で負担に慣れてもらう事になります。どういう魔術がいいですか?」

 

 ずっと魔術を使い続けてる状態か……こう不測の事態に備えたバリアとか?いやたしかシールド使った時もすごい集中したしな……というか魔術ってこう集中しないとすぐ霧散するからずっと続けるって無理じゃないか?

 

「使い続けるの無理って思っているでしょうが、私の存在を忘れてもらっては困りますよ。私が行使し続ければそれだけでもシルスの負担になりますからね」

「……この今現れてるのもか?」

「そうですね、確かにちょっとは負担になってますね」

「ならずっとハレルに出てて貰うってのはどうだ?」

「……へっ!?寝る時もですよ?いや私でいいんですか?」

「話し相手には困らないだろうし、何より寂しいから」

 

 そうだ、正直言って今の俺は心細い。こうして誰かと話していないと不安になってくる。

 家族の事を思い浮かべてしまったから余計にだ。

 

「な……ならいいんですが。しかし大した口説き文句ですね」

「そうか?……まあ……うん、正直に言うとハレルの事は綺麗だと思うしかわいいとは思うけど。またそれとは違って、なんというか背中を任せるというか共に戦うみたいな感じのイメージなんだよな今は」

「それはいわゆる「バディ」って奴ですか」

 

 ふと何かを思い出した様にハレルの表情が曇ったのを俺は見逃さなかった、それは後悔の混じった悲しみの表情。だから俺は続ける。

 

「今はまだ未熟で弱いかもしれない、けれど死ぬつもりも、負けるつもりもない。どんな相手だろうと、それが運命だったとしても必ず勝つ。俺一人じゃ無理でも俺達二人なら出来る!って自信をもって言える様になってみせる」

 

 父がしてくれたように、アカネさんがしてくれたように、俺も誰かを助けられる者になりたい。

 誰かの為に戦える者になってみせる。目の前の仲間を助けられる程に強くなってみせる。

 

 そして必ず、元の世界に帰るんだ。

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