丑三つ時、シルスが眠り、体を休めているのを眺めながら私は今後の事を考えていた。幸いにもナユタの取引相手であるエレナ氏に協力を取り付けたおかげで武装の調達も、こうして休息を取る事も出来た。
姉さんの援軍はないと想定した上で敵地に飛び込むとして、最低でもあの二人の魔法少女を相手にどう立ち回るかだ。片側は特殊な肉体を持ち頑強であること、もう片方はナユタ……しいては私の情報をある程度以上に持っている事しかわからない。加えてそれ以上の戦力をまだ隠している可能性もあり、なんであれば他の組織が関わっている可能性もある。
そして奪われたエレメントイレイザーが武器としてこちらへ向けられる事、あれを防ぐ手立ては一つだけあるが……そこから反撃に繋ぐのを考えると有効な攻撃手段を考えなければならない。だがそれ以上にあの二人の魔法少女の技量がどの程度あるのかわからないのが本当に難しい。
いっそのこと殲滅を考えて動けばどうにかなるかもしれない、けれどその場合に出る周囲への被害と……シルスが絶対に耐えられないであろう事実を考えればそれは選択肢としては相応しくない。
力が足りない、この身に封じ・宿している力を上手く扱うだけの技量や決断力も、犠牲を許容するだけの諦めも、開き直るだけの図太さもない。
「守る」という私の意志こそが、虚無を本質とするこの力と矛盾している。
何もかもを滅ぼすだけなら簡単なのに。私はそれを許せない、許さないこそ私である。そもそもこんな自問自答を行ってる時点でかなり追い詰められているという自覚はある。守るべきものがこんなに枷となるのだと思うのは今ある記憶では初めてだ。
せめてシルスが一体化していない状態だったなら、あの時点で私の肉体が行動不能なレベルのダメージを受けていなければ……ダメだ、ネガティブな感情が湧きだしてしまう。
目の前で眠る彼の手に触れる、どんな夢を見ているのだろうか。いつも私と言葉を交わす時、行動を共にする時、彼はどんな事を思っているのだろうか。
彼は優しい、仕方ないとはいえネガティブな感情をぶつけてくるようなことは無い。もっと余裕があったならナユタでなく、もっと比較的平穏な場所を選ばせる事も出来ただろうに。戦いに巻き込んでしまった以上、私は彼を守るつもりではあるが、同時に彼に力を借りなければならない事もあるし、彼に負担を強いてしまっている。
ダメですね私は……戦う力も、心さえも中途半端。こんな事では死んでいった者達にも申し訳が立たないではないですか。
夜が明ければ再び御役目に戻らなければならない。戦ってさえいればこんな弱気な事を考えている暇すらもない。迷えば敗れるからこそ勢いに任せて戦って、全てを忘れられる。
そんなことを思ってしまったからか、突然にサイレンが鳴り響く。それに反応してシルスが目を覚まして飛び起きてベッドの陰に身を隠して武器を取る。その動きはたった数日だというのにかなり洗練されてしまっていた。
「市街地に敵襲ですわ!協力してくださいまし!」
ドアをバンバンと叩きながらエレナさんが叫ぶ、こっちには恩があるし、何よりも守る為にならば戦わない理由などない。シルスと目を合わせて頷く。
「わかりました、敵は何ですか!」
「怪異が多数!既に警備隊が撃ちあっておりますわ!」
ドアを開け放ち、こちらに機関砲を投げ渡してくるエレナさん。慌てて私とシルスは「魔法少女」としての姿へと変身してそれを受け取る。
「あっぶねえな!突然武器を投げるのは勘弁してくれ!」
「非常事態ですわ!文句は後で聞きますわ!今は猫の手でも借りたいのでしてよ!」
確かに、エレナさんを含めてこの街にはある程度の防衛戦力が揃っているが……それでも緊迫した状況、ただ事ではないと私は推測する。
「シルス、いけますね?」
『当然』
「なら、私は敵を遊撃します。機動性ならば自信がありますから」
「わかりましたわ、わたくしも同行しましょう。遊撃と強襲は魔法少女の十八番ですものね」
エレナさんおよび防衛戦力の識別コードがこちらへ送られ、表示される。
《エンジェルモデル・ノーマルG2》
「同じエンジェルモデルですか、空戦は出来ますか」
「乙女の嗜み程度には」
「では行きましょう」
窓を開き、そこから連なり飛翔すると街の方では火の手と銃声が上がっていた。急がねばならない、武器の重量に合わせてシステムの出力バランスを調整、結構な量の弾薬が入っているものの威力はナユタで普段使いしているものより低い、建築物を破壊しない為にはちょうどいいバランスだが、逆に言えば遮蔽物を抜くには威力不足でもある。
「シルス、今回のところは私が主導します。少し暴れたい気持ちがありましたので」
『わかった。じゃあハレルの戦い方を見せてもらうとするよ』
不安や悩みといったものを解消するのに、思うがままに戦うというのもまた一つの答えです。
この苦悩を敵にぶつけてやりますとしましょうか!
こちらに向かって飛んでくるのは人の身長ほどもある3つの炎を纏ったタイヤ、こいつは輪入道と呼ばれる怪異の一種。高速で体当たりをしかけて轢殺を狙ってくる中級の怪異だが……一番厄介なのはその頑丈さだ。正面からの攻撃であれば速度と質量と強度、そして熱量で防ぎながらに突破してくる。
最適解は側面から中心のコアを破壊すること、1体目の輪入道を引き付けて即座に空中でサイドステップ、奴らは急には止まれないし曲がるにしてもわずかに隙が出来る。
そこを掃射してコアを破壊して撃ち落とし、2体目がこちらへと軌道修正してくるのを見て即座に急上昇して上を取った上で回転方向に沿う様に3連射で同じ個所を撃ち抜いて貫通させて撃破。
そのまま急加速して3体目の輪入道に正面から接近して、接触直前に身を捩って逸らしてすれ違い際にコアを撃ち抜いて即座に始末する。この程度はシルスにもそのうち出来るようになって貰いたいものですね。
ギャンと鉄がひしゃげる様な音が響き、遠くでドンという破砕音が聞こえる。それはエレナさんの持つレールガンの発射音だった。そこそこに距離のある相手を狙撃した様であった。
「あらまあ、随分と積極的に攻めますわね!」
「スナイパーなのに前に出るんですか?」
「せっかく動けるんですのよ、動かなくてどうするんですの」
なるほど一理ある、狙撃位置がバレた際のカウンタースナイプのリスクを回避するという意味では決して間違いではないが……それはちゃんと当てれるという前提があっての事。自身と対象物の両方が動いている状態での狙撃を成立させるのは非常に困難だ、それこそ魔法少女でも。
「苦手な事はありますか、カバーしますよ」
「でしたら今みたく複数の敵が来たら足止めか、殲滅をお願いいたしますわ。1体ぐらいなら通しても殴り殺せるので問題ありませんわ」
「頼もしいですね」
輪入道がそこかしこを縦横無尽に駆け回っていて、有象無象も発生している、これは予想するにある程度以上の力のある怪異か妖魔が引き起こした自体だろう。怪異や妖魔が人を襲うのは当然故に理由など考慮する必要がない。
人を喰って、自らの力を蓄える。一部の知性的な例外を除けばそんなものだ。
だから倒す事に迷いなどない、戦う事に躊躇する理由もない、存分に鬱憤を晴らさせてもらうとしましょう!
「シルス、見ていてください。これが魔法少女の戦いです」
地面へ急降下して中型の怪異を踏みつぶし、舞う様に回転して有象無象へと銃弾を浴びせて制圧する。
ああ、今は戦いこそが全てです!