魔法少女の動力となるもの、かつて神から人が簒奪した権能の一部と言われる
いくつかの種類があるが主にナユタの運用する「造物の権能/セルナフェーレ」の複製が魔法少女システムのコアに使用される
術式データとして安易にコピーが可能であるが、本来の運用方法である「巫女」「神官」として身に宿すのは非常に難易度が高く、基本的には魔法少女システムの動力としてしか扱われない
またその仕組みを理解しているものも少なく、多くの場合は魔法少女システムのブラックボックスとして入れて置けば動く程度の扱いである
この世界は、力無きものが生きるにはあまりに過酷である。
戦乱により秩序も倫理も崩壊し尽くし、絶対の安全が保障される場所などまずない。
だからあらゆる苦難に立ち向かい、打ち勝つ為の力が必要だ。
私達はそれぞれの役目を果たす為に、常により強い力を求めて研究と開発を続ける。
鹵獲した装備、採取したサンプル、交渉や取引によって手に入れたもの、発掘された遺物、それらを研究し、実用化するのはナユタに所属する者達の得意とする所である。
それは彼ら、彼女らの力の源たる人造の神の力が「造物」の権能を持つ事に由来する。
今、この世界に普及している「規格魔法少女システム」も元を辿ればナユタの開発した技術の賜物ではあるが……同時に過ちでもある。万全を期した管理体制でも、内通者や離反者という悪意で綻びが生まれ、様々な勢力にそれが「兵器」として広まってしまう結果を産んだ。
まあ、魔法少女システムが無くとも別の何かが兵器として普及していたであろう事はこの世界に住まう者達のバイタリティを見れば想像に難くないけれど。
ともあれ、ナユタは良くも悪くも作るのが得意だ。
ロボットから新しい魔法に、薬剤にバイオテクノロジーまでなんでもござれ、材料さえあればなんでも作って見せるトンデモ集団と思ってもらって構わない。
そしてその全てが人助けの為の道具であり、それこそ所属する巫女や神官自身さえも道具の一つである。
使命を果たせるのならば、その命を使い果たす事も厭わない姿勢は私自身から見ても正直に言えば薄気味悪い奴らだなと思う。
さて、ナユタの役目である「人助け」と「物作り」今日の仕事は後者だ。
ナユタでは自分達の使う武器や装備といったものも全て、組織内で作られたものか自分自身の手で作ったものが基本。私の使う魔法少女システム「エンジェルモデル・アズール」もまた自身で設計・製造した専用モデルであり、様々な機能や形態を持つ。
今時点で私が目指す所にあるのは魔法少女システムに、様々な技術や能力といったものを新たに組み込み、それを実戦で使用可能なレベルに落とし込んで実装する事。それを完了したならば開発中に発生したあらゆるデータを共有し、ナユタという組織全体の戦力の底上げ、あるいは技術の蓄積となる。
これまで多くの者達がそうしてきたからこそ、ナユタは今なお存続し、活動出来ている。
全ては今を生きる者と、未来の為に残すべき遺産。
それは誰かがそこに居た証。
「今日も真面目だねぇハレルは、そういう真っ直ぐな所も可愛いねぇ」
そしてこの作業工房には、私以外にも住人がいる、姉さんだ。
とはいえ普段はこの人も黙々と何かの作業をしているのが主で、こうやって話しかけてくるという事は何かがあるという事。
「察しがいいねぇ、もう何かあると感づいた。これはハレルにとってもいいニュースだよ」
「私にとっても…?」
「そう、ハレルだけじゃなく私にとってもさ、もっとも……彼にとってはいい事かはわからないけれどねぇ」
そうして彼はやってきた。それは見覚えのない一人の少年だった。
「私達の工房へ、そしてナユタへようこそ『シルス』くん」
姉さんが、姉さんが私以外の相手に興味を向けてる!!!という驚愕と突然の新たな同居人の登場に私はイスから落ちそうになる。
「ああ……えっと、ナユタ・シルスです。アカネさんの推薦により、今日からハレルさんの補佐を担当する事になりました。よろしくお願いします」
外見は私と同い年ぐらい、何よりも印象としてあまりに頼りない!なんだこいつ!!
「姉さん、説明。説明を求めます」
「行き場の無いいたいけな少年をこの荒れ果てた世界に放り出すなんて、酷だろう?だから拾ってあげたのさ」
「説明になってないですそれ、孤児なんて拾ってきて……面倒は誰が見るんですか」
「当然ハレルさ、それに彼は孤児って訳じゃなくてね~……まあ言ってみれば迷子なのさ、それも別世界からの」
別世界からの迷子、私の頭の中に浮かぶのは時空の歪み、このクソデカ終末世界の終わってる所の一つ。異界化汚染の影響か、他の世界との境界が非常にあいまいで隣接する世界から時々迷い込んでくる者がいる。
それは人であったり、物であったり、あるいは狂暴な怪物であったり。
迷い込んでくるだけでも哀れなのだが、生き物であればこの汚染された大気などで致命的なダメージを受けるパターンが非常に多い。
「いやー見つけた時はひどいものだったよ、目に喉から肺までズタズタ。生きてるのが奇跡、だから私は彼がハレルのパートナーに相応しいと思った」
『運命によって守られている、いや運命が死なせてはくれないとでも言うべきか』と付け足し、姉さんは笑い、私は「シルス」と呼ばれる様になった彼に同情する。
突然に異世界へと放り出されて死に掛けて、よりもよってこんな終末世界に加えてこんな組織のこんな女に拾われたのだから。
「あの、本当にここで働けば……帰る手段が見つかるんですよね……!」
それはそうだろう、ここはこの世界でも屈指の技術集積地帯である。世界を渡るだけなら当然ながら可能だ、だが一つ問題があるとすれば、彼の生まれ故郷がどこで、どの時間であるかがハッキリしない事。
「無きにしもあらず、というところです。まあ死ななければいつか見つかるかもしれませんね」
そう死ななければ。生きてさえいれば可能性はある、かつての「シルス」達を思い浮かべる。名前も、顔も忘れてしまった者、随分とひどい死に方をした者、心が折れて再起不能となった者。私が見送っていった者達。
ナユタ・シルスとは私の補佐を行う者に与えらえる役職の名である。
ついでに言えば、バカみたいに過酷で、バカみたいに危険。だから私はもう必要ないと断った筈だった。
そもそもシルスに関しては姉さんも「人員の無駄」と否定的だった、なのにどうして?
「さっきも言っただろう?死なない、あるいは死ねない者こそハレルのパートナーとして相応しい。私は直感的にそう閃いたのさ。きっとこれは運命の出会いだとね」
運命、なんだかんだ言って姉さんはロマンチストな所があるから、そうは言うけれど……。
「それでこの新人に何させるんですか、よりもよって異世界の人間ですよ?こっちの技術とか常識なんてわからないですよね?それに戦えるんですか?」
「当然、無理だよねぇ。だから教えるんだよ、ハレルが」
「はい?」
「先生、あるいは師匠。彼にこの世界の事を一から教えていくのさ」
思わず我が耳を疑うような発言が飛び出した、ついに姉さんが壊れたか?
「誰かに教える中で、改めて学ぶ事が出来るものがある。私はハレルに色々な事を教えて、その中で気づいたのさ。だからこれは必要な事であり……何よりも私達の役目は「人助け」だろう?」
ナユタの役目、それを言われてしまえば仕方がない。
彼が帰るにしろ、もしもこの世界に骨を埋めるにしろ、生きて行く為の「力」は必要だ。
それを与えてやるのは確かに私達の役目だ。
「わかった、とりあえず彼の面倒を見る事を承りましょう。ですが拾ってきた上に推薦したのは姉さんです、そこの部分の責任は果たしてくださいね。特に生活面で」
「えーっ……それもハレルがやるべきではないかな?生活ペースを見直す点でもさ」
「生活面を見直すべきは姉さんの方ですよね?そもそも姉さんは私よりも自由時間が多いですよね?知ってるんですよ?」
私と比べて、姉さんは特別な才能を持つが故に非常に作業効率がいい、それでいてその性格から仕事をしている事が少ない。サボリ魔かつ自由人であることはナユタ内では周知の事実。
つい先日も御役目中というのに街のカフェに入り浸っていたという情報が入っている。
「働くのです、姉さん。その力を持つ者としての役目を果たすのが私達ナユタの巫女であり、神官であると教えたのは貴方です」
私だって休みたい、ただでさえ休みの少ない所を新人教育に割きたくない!
そして哀れな迷い人の少年を他所に、私はどうにか姉に働く事を確約させる事に成功した。