低級怪異のうちで実体を持つものを有象と実体無きものを無象、合わせて有象無象という。つまり取るに足らないザコどもの事です。
攻撃どころか下手をすれば機動に巻き込まれて霧散する様なクズも数が多ければ殲滅するのには手間取ります。光輪刃ヘイローソーサーを三つ同時に生成して射出して薙ぎ払って道を作ればそこに輪入道が飛び込んでくるわ、火の玉が降り注ぐわ、雑に手足のくっついたよくわからないものまで飛び出してくる。
これはおそらく発生源を叩かねば際限なく湧きだしてくるだろう、ならばと上昇して感覚を研ぎ澄ませば街のはずれに微小ではあるが異様な力の塊を感じとる事が出来た。更に詳細にそれを分析すると「孔」の様なものが出来ている様に感じた。
「エレナさん、おそらく敵は孔をあけてそこから湧きだしている筈です。それを閉じなければ倒してもキリがないです」
「出て来たものの対処はできますわ、ですがわたくしは専門家でありませんのよ!」
「私が閉じます、その間にフォローをお願いします」
「わかりましたわ!」
ここに姉さんでもいればあっという間にこいつらを纏めてゴミ箱に捨ててしまえるのでしょうが、私はあいにく力づくで破壊する事ばかり、突っ込んできた輪入道の5体編成を引き付けてそれをエレナさんが狙撃して一網打尽にする。
大した連携もなく、指揮する者もいない怪異などは恐れるに足らない。
そう指揮する者さえいなければ、だ。
『様子がおかしくないか』
「ええ、よく気づきましたねシルス」
先ほどまで無秩序に突っ込んでくるだけだった輪入道の連中がタイミングを見計らい、フェイントをかけながらの突進を行ってくるようになる。それを掃射で撃ち落としながら私は周囲を探る。
そして個々での攻撃が通じないと見るや奴らは4体づつ集まり融合を始める。それは「火車」という大型怪異だ、こうなってしまっては普通の機関砲ではダメージは薄くなる……が、倒せない事もない。
火車はいわゆる「牛車」の姿をしている、いわば空飛ぶ車がこちらへ体当たりをしてくる様なものだが、純粋に速度、質量こそ増えたものの同時に面積も増えている。つまりは……
「あら、的が大きくてよ」
普通にエレナさんのレールガンによる狙撃が当たりやすくなるわけだ、即座に1体の火車が消し飛んだ。
その隙に私は怪異の湧きだしてくる孔と化した場所に降り立つ、そこには瘴気が満ちていて、普通の人間ならば即座に影響を受けそうな状態となっていた。これを収拾するに手早い方法はやはり「夢幻廻帰」だ。例えリスクがあろうと使えない力に意味などない。
アズライールフォームへと変身し、コアと連動させて「夢幻」へと繋がるパスを繋ぐ。
周囲に満ちる瘴気・妖気が私を通して消失していく、同時に私の中から記憶が欠けていくのも同じ。そんな時だった、地面を突き破って巨大な骸骨の手が私を捕えようと現れた。
すぐさまにそれが大型怪異「がしゃどくろ」であると理解出来た。だからそのまま夢幻廻帰を最大まで解放した。
怪異は「生命」ではなく、悪意を持っただけの現象である。
ならば同化する事ができる。
骨の巨人はひび割れて崩壊しながら虚無へと呑み込まれていく、そして全てを呑み込んだ事で記憶がまたごっそりと無くなり。
私はナユタ・ハレル……巫女であり、シルスと一体化しており、奪われたエレメントイレイザーを追跡していて……途中の休息中に怪異の襲撃に遭遇して応戦している。玲栄エレナと共闘中で……今は怪異の発生源らしき孔と現れたがしゃどくろを同化した。よし、なんとか現状は再定義できた。
『ハレル、大丈夫か』
「あんまりよくないですね、一瞬危なかったです」
一応は出口は塞いだけれど、まだ戦闘中。残りの敵を片付ける必要がある。
背中から衝撃を受けて思わずよろける、センサーが即座に索敵を行いアラートを発するのでそれに従って遮蔽物に身を隠す。敵の姿は確認できないし、何より意識状態が安定しない。このままではまずい。
『ハレル、俺がやる』
そういうとシルスが主導権を握った事で体が勝手に動き出す。少し落ち着いてきた事で敵の狙いが分かってくる。どうやら私の能力を知っている事と……その後の弱点にもまた知っていた。だからこうして夢幻廻帰を使用せざるを得ない状況を作り出し、加えて記憶を消費させて意識が安定しないところを狙ってきた訳ですか。
しかしそうなるとまたしても私の事をよく知っている相手となる、追跡対象であるエレメントイレイザーを強奪した二人の魔法少女とは違う。彼女らは怪異を操る様な事はしていなかったし、態々戻ってきたか、あるいはここで待ち伏せをしていたとしても、おそらく異なる方法で襲撃してきた筈。
なによりも態々、玲栄を敵に回す理由もないだろう。
だとして考えるのはサイトH1に出現した怪異、あの時点で私達に目を付けていたのか。あるいはそれよりもっと前か……ダメだ、判断材料である記憶や情報そのものが足りない。
シルスがブレードを手にして遮蔽物から飛び出して近場の怪異の排除を始める、当然ながら周囲への警戒を怠っていない。早くも手慣れたもので火車へと正面から飛び掛かって瞬く間に解体、輪入道へと分裂したものを各個撃破していく。
そしてエレナさんの援護射撃で後ろから迫っていた火車が吹き飛び、これで周囲の中級以上の怪異は全て掃討できた、後は有象無象の処理と―――。
二度目の奇襲は通じない、私よりも先にシルスが動いた。
その事に驚きつつもブレードが弾き飛ばした影が着地する。なるほど怪異にしては夢幻廻帰でも同化できなかった訳だ。
相手は怪異ではなく命を持った「妖魔」であった。
「おかしいなぁ、アレならもっと動きが悪くなると思っていたのに」
和装を纏う角の生えた少年、その肌の色は赤。見まごうこともなく鬼と分類される妖魔だ。
先ほどの衝撃も怪力によるものだったのだと納得がいく。ただ気になる事としては私についてやけに詳しいという事、知り合いの可能性もあります……が。
「ハレル、こいつは斬ってもいいのか」
『ええ、容赦はいりません。人に害成す妖魔は始末するだけです』
どんな理由があろうと無関係であるこの街の住人を襲った事には変わりがない、ただただ排除する以外の選択肢はありません。それに今やるべき役目の邪魔にもなりましょう。
「へえ!相棒と一体化すれば今度は死なせずに済むだなんてよく考えたね!」
「悪いな、お前とハレルにどんな関係があるかは知らないが……叩き斬らせて貰う!」
シルスが踏み込み、ブレードでの突きを繰り出すが……そこに私は違和感を感じる、彼が狙っているのは肩だ。急所である心臓や首などではない。故に簡単に回避されて逆に拳を受けてしまい後ろに飛ばされる。
「その言葉の割には甘いねぇ!お前さては……意志の通じる相手と戦ったことないな?しかも……相手を殺した事がない!」
そうだ、シルスは人相手どころか妖魔を相手するのも初めて。そして殺し殺されるのやり取りなどもっての外だ。これはハンデどころではなく致命的な弱点であることに気づいてしまったし、相手にも気づかれてしまった。
「ああ、その通りだ。だからお前で慣れさせて貰う!」
そうは言うが、武器には変わらず「殺さない」という意志が乗ってしまっている。これでは勝てない、それどころか余計なダメージを負うだけだ。
『シルス!私に代わってください、あなたに奴は殺せません!』
平和な世界で生きて来た彼が持つ意志がこの場で初めて、彼の命を脅かそうとしていた。