攻撃が当たらない、ことごとく全てが回避されてしまう。それは純粋に力量の差なんだろう。これまで戦ってきた怪異や機械とはまた違う、意志を持った相手との戦いは思ったよりもやりづらい。
だとしても、今は俺が戦わなければならない。
『シルス、私に代わってください!あなたは相手を殺せません!』
「そうは言ってもお前も安定してないだろ!やりたけりゃ勝手に主導権を奪えるぐらいには回復しろ!」
ハレルは能力行使の代償として非常に多くの記憶を持っていかれたらしくて意識が安定していない、それは一体化している俺にだからこそよくわかる。いつもよりも明らかに弱っているのだ。
原因はさっき取り込んだ瘴気と巨大なガイコツの化け物、結構な量があったからそれで腹を壊したに違いない。加えて目の前の奴の立ち振る舞いだ、ハレルの弱点を知っていた上で策を練って来ていた……つまりはハレルが腹を壊す様に細工していたとしてもおかしくない。
「へえ!随分とまあ初々しい癖に頭は回るようだね!お前、名前は?」
「人に名前を聞くなら自分も名乗ったらどうだ?」
「おや、これには引っ掛からなかったようだ」
なるほどなアカネさんが教えてくれていてよかったよ、本当の名前を名乗ると呪いをかけられやすくなる。俺の周りに何か纏わりついていたのが感じられたから答えなくてよかった。
「陰湿な奴だな!鬼ってのはもっと堂々としたものかと思ってたけど!」
ハレルがやっていた様に光輪を作り出してそれを目の前の敵に放つ、当然ながら回避されて後ろの標識を真っ二つにするがそこまでは計算通り、俺は機関砲へ持ち替えて奴へ向かって掃射する。
さすがに銃弾は避けきれなかった様でバスバスと破裂音が響き、奴の体から赤い煙が飛び散る。気分が悪い、いくら怪物とはいえ言葉の通じる相手を撃った事に罪悪感を感じる。だが奴はまだ死んでない、おまけにいえば全然平気そうに立っていた。
「なるほど、撃てない程に覚悟のない情けない奴ではなかったみたいだね」
「そりゃあどうも、随分と平気そうでなにより」
「ああ痛かったよ……今度はこっちから行かせてもらおっか」
奴の姿が掻き消える、俺は直感を信じて跳躍すると地面がひび割れ砕け散って奴が飛び出して来た。そこを再び銃撃するも今度は当たる事なく再びその姿が消える。流れる様に俺は銃口を真上に向けて引き金を引く。銃声と共に再びバスバスと着弾音がすると同時に俺は身をよじって落下しながらの攻撃を回避する。
「よく見切ったね!中々のセンスだ!」
戦いの中で感覚が研ぎ澄まされていく、見えない筈の何かが見えてくる。それは物事がそう進んでいく流れだったり、相手や自分、そして周囲の物に宿った力そのものみたいだ。だけど相応に緊張感が高まっていく、心臓が早鐘を打ち体力が消耗していく。長くは持たないだろう奴だなこれは。
対して相手に攻撃は当たっている、血は出ているがそれでもまだまだ余裕といった感じだが……こんな格言があったな。
血が出るなら、殺せる筈だ。
奴が勢いよく後ろに回避した瞬間に地面が吹き飛んだ、エレナ嬢の支援射撃だ。
「あらわたくしを忘れないでくださいませ!好き勝手やってくれた落とし前はつけさせていただきますわ!」
「面倒だな……ならまずお前から殺してやる」
また奴の姿が消えるが俺の目はそれが見えた、奴は闇から闇へとワープするように移動している。だから銃口を向けてトリガーを引くのが間に合う。再出現した瞬間に奴の左腕が吹き飛んで血飛沫が飛び散った。
「そこですわ!」
加えてエレナ嬢のレールガンが直撃して奴の右半身が消し飛んだ。グロテスクな光景に思わず目を背けたくなるが、それでも最後まで油断してはいけない。オートで放たれる弾丸が軽くなった奴を吹っ飛ばしていく。
どちゃりと水っぽい音が聞こえる、奴は動かない。けれどまだ緊張が解けない、俺は銃口を向けたままゆっくりと奴へと近づく。ひどい有様だ、俺がやったんだ。
『シルス、止まってください!不用意に近づいてはいけません!』
ハレルの静止に従ってその場に立ち止まる、すると奴の指が動いた。
「なるほどね……お前……この期に及んで俺を……鬼を舐めているな?」
どうやら死んでいなかった様だった、だがこれまでの軽薄そうな言葉遣いでなく低く……怒りを感じる声を放つ。奴が立ち上がるのを俺は見届ける。
「……いいだろう、名乗ってやろうじゃないか。俺は影の鬼「エイキ」だ……呪いなんてセコい真似はしないからお前も名乗れよ」
「……シルス、ナユタ・シルス」
「じゃあ教えてやるよ、本物の戦いって奴をよ」
エイキと名乗った鬼の体が瞬く間に再生する、赤かった肌は黒く染まり、目だけが赤く光っていた。そして再び姿が掻き消える、今度は……見えない!?
衝撃と共に浮遊感と回転によって感覚が掻き乱される、銃声が聞こえて破砕音が聞こえる、右手で無理矢理に地面を掴んで勢いを殺して立ち上がる。正面から奴が突っ込んでくるのが見える。銃を向けるがダメだ遅すぎる、咄嗟に手放したのが幸いしたのか機関砲が殴られて潰れる際の衝撃を受けずに済んだ。
即座にシールドを貼って防御、今度は威力を殆どシャットアウトできて吹っ飛ばされずに済んだが悪寒がして即座に真上へと跳んだ直後に二撃目でシールドが破られた。そして再び衝撃と痛みが襲ってきて俺は背中から叩きつけられた。
どうやらビルに衝突したらしい、瓦礫が上から落ちてきたおかげでなんとかわかった。
ヤバいな、今ので全身が痛んできたし、なんならうまく力が入らない。なるほど……これが妖魔の強さって奴か。
「おい……何故そこまでやって、お前は本気を出さない?」
「悪いな、俺はこれでも初心者なんだ」
こんな危機的な状況なのに俺は何故かまるで冷静でいられる、どこかおかしくなってしまっているのか?そういえば痛みがまるで感じられないし、なんならダメージ自体がそんなにない。
まさかと思った、そしてそれは正解だった。
「ハレル……なんで勝手に俺の分のダメージを肩代わりしてる」
『シルス、私に代わってください。このままではあなたが死んでしまいます』
「どういうつもりだ……」
ああ、ここに来てようやく気付いた。ハレルは俺に対して妙に過保護だ、それはきっともう失敗したくないという想いからだ。
そして奴がさっき言っていた言葉を思い出す。
<へえ!相棒と一体化すれば今度は死なせずに済むだなんてよく考えたね!>
『あなたはその手を血で汚すべきじゃないんです、これは私達が背負うべき役目で……それに死んでしまったらあなたは帰れない』
まったく、この期に及んで俺の心配に加えて役目だと責任だと……ハレルも大概バカだな。そんなもの投げ捨てちまえばいいのに!もっと自分の事を考えて生きていけばいいのに!
それにこんな厄介事ばっかり押し付けてくる世界も、襲い掛かってくる奴らもクソくらえだ。もう我慢の限界だ。
「ハレル、俺は決めたよ」
自分の身に宿る力へと触れる、それはナユタの神官の力であり、人造神格の力。
かつてサイトH1で受け継いだものであり、ハレルに分け与えられたもので、おそらくもっと前……この世界に来た時にアカネさんが俺を見つけた時に既に仕組んでいたんだ。
最初からずっと戦えていたのはそのおかげだったみたいだ、ようやく俺は気づいた。
「力」を芽吹かせる、それは今この時だ。
「今から、お前を苦しめるものを全部ぶっ飛ばす」
応える様に、全身から星空の様な夢幻が噴き出した。