序章:終末魔法少女ハレル   作:青川トーン

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前触れ1/3

 大地を蝕む汚染、それは多種多様な形でこの世界に死をもたらしていた。アザミが目の前にしていたのは泡立つ重金属のヘドロの沼地だった。生物が触れれば即座に命に関わるレベルの毒性で、当然ながらこの地に命あるものは何一つない。

 

「ピュリフィケイターシステムをリンク、コアからのエネルギーラインを確立、射出ルートをLRAに設定」

 

 紫と白を基調としたエンジェルモデル・セラフモデル、その白いインナースーツに赤いラインと青いスパークが走り、両手のグローブが白く発光を始める。

 

「エレメントイレイザー・レイ、照射開始」

 

 そして両手を眼前の汚染地帯に向けて白と紫の混ざった極大の光線が放たれる。それにまず最初に触れたのは塵とガスの舞う大気だ、分解されてエネルギー化したそれらは即座に炎となり周囲のものへと引火していき、次に汚泥が紫色の結晶へと変化していき衝撃で砕け散って宙に舞い散って粒子へと変換されていく。そして最後に汚泥の下に埋もれていた大地だ。それらもまた長らく接触してきた事から当然汚染されているので浄化しなければならない。極光に呑まれて再び姿を現した時、残っていたのは黒い土と固形化した金属塊。

 それは「分解」が成功した証であった。

 

「実証完了」

「すげー!あのばっちいのがきれいさっぱり無くなってる!」

 

 巻き込まれない様に後ろで見ていたヴァイオレットが近づいてきて完全に「浄化」された土を拾い上げる。それはまだ微生物や動植物が住むには不完全な出来ではあるものの死をもたらす毒が完全に失われたものだった。

 

「とはいえ大気中の汚染まで全て取れたわけではない、こういった目に見える様な汚染源ならば対処しやすいものの水や大気の除染はまた別で考える必要がある」

「確かになぁーそれと……威力を絞らないとマズいんじゃないか?」

 

 そう言って指さすのは少し先で切り抜かれた様に穴が空いて崩壊する廃ビルの姿、エレメントイレイザー・レイの射線上にあったが為に巻き添えを食らったものの末路だ。

 

「考える必要はある、ただ広範囲を除染できるというメリットもあるから……」

「念願を叶ってテンション上がってるのは分かるけれど、危ないもの使うんだからもうちょっと注意しようぜ~」

「そうね……」

 

 その日、死の沼地が一つ消えた。それは世界全体で見ればごくごく僅かな物でしかないが、それでも彼女にとっては大きな一歩だった。ただ、その先に進む前に片付けなければいけない因縁があるのも忘れてはいない。

 

 決着をつける時だ、来いナユタ・ハレル。

 

 アザミはやがて辿り着くであろう仇敵が来る方角を見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

 夜が完全に明けて、俺達は街を出立する準備を終えてオートレイダーに跨っていた。見送りはエレナ嬢だけ、早くも復旧作業が始まった様でそこら中から工事の音が聞こえてくる。結局街の観光も住人と話す機会もなかったな。

 

「また帰りに寄っていけばいいのですよ」

 そんなことを考えていたらハレルの幻像が現れる、まあ色々あったが今度はゆっくり観光できたらいいなと考えながらもエレナ嬢の方を向く。

 

「色々とお世話になりました、今抱えてる仕事さえ終わればまたお礼に来ます」

「そんな!お礼を言いたいのはこちらですわ!街を守ってくださってありがとうございますわ!また遊びに来てくださいまし!シルスさんならいつでも歓迎ですわ!」

 

 別れの挨拶を済ませるとエンジンのかかったオートレイダーで再び荒野を行く。目的地まではそう遠くないが、それでも油断は禁物だ、敵地に近くなるということは当然ながら戦う可能性がどんどん増えていくという事。

 

 加えて昨日の事に関しても考えなければならない。俺自身の負担はそんなになかったものの代わりにハレルが少し疲労を訴えたのだ。あのとんでもない戦闘マシーンみたいな鋼の女がである。

 ネビュラフォームに俺に芽生えた新しい力、その正体や詳細もまだまだわかったものではない。ハレルの言う通り多用すべきではないのは間違いないだろう。

 

「それでハレル、今はもう疲労は取れているのか」

「ええ、回復の為の魔術でどうにかしました。本当ならこれはシルスに使う予定だったのですが、まさか自分に使う事になるとは思いませんでした」

「まあ覚えてて損はなかったな、それでハレルはどう思う?俺の力の事」

 

 こういう時は専門家に聞くに限る、これまでは記憶がすぐになくなってどこか頼りなさを感じたソレも結構な量の記憶を取り戻したおかげで幾分かマシにはなった様に感じる。何故俺の力がハレルに力に干渉するのか、そしてどうして芽生えたのか。

 

「私と同化した事が直接的な原因であるのはおそらく間違いないんですよ、でも種が無ければ芽は出ませんからね……そこからになるとやはり姉さんが何か細工したか……あなた自身にその因子があったかのどちらかなんですよね」

「アカネさんが何かした可能性の方が高そうだな……」

 

 少し考え込んだ末にハレルが出した仮定に俺は頷く、あの人ならやりかねない説得力が違う。そんな事を思いながら考える、この力はハレルと一体化している時にだけ使えるのか?もし分離したら使えなくなるのか?

 

「そういえば今の俺達って一体になってるけれど、これはいつまで続くんだ?」

「私の新しい体を用意するまでは必要ですね。一応私は物理的な体がなくても存在できるのですが、当然ながら実体が無ければモノ一つ動かすのにも一苦労しますから」

「新しい体ってどうやってつくるんだ……?」

「前に医療キットの粘土がありましたでしょう?あれで石像を作ってそこに入れば元通りですよ」

 

 イメージするのは人形に乗り移るお化け、あるいはロボットのボディにデータをダウンロードするようなもの。こいつ、本当に人間か??

 

「今失礼な事考えましたね?確かに普通の人間ではないですけれど、機械の体に意識を入れたり、培養したクローンの体を使ったりしている人だっているんですよ」

「ナユタの外でもか?」

「ええ、割とスタンダードな肉体再生ですよ!めっちゃお金かかりますがね!」

 

 確かにSF映画とかでよく見るシチュエーションだな……金持ちが医療技術で永遠の若さ!みたいな奴……だけどそう考えると金持ちじゃないとそうはなれないんだなやっぱり。

 

「まあ最近は……ナユタとはまた別に人造神格を使う事で機械の体になる事で永遠の命を得よう!っていう教団もありまして……そことはちょっと不可侵というか壁があるのですが」

「あー……そういえば時々話題に出るその「人造神格」って何なんだ?俺達の力の源でもあるんだろう?ちょっと知っておかないといけないじゃないか?」

 

 そう魔法少女システムの原動力であり、俺達神官や巫女に力を与えてくる神様。それの正体や由来を俺は知らない。こう感謝しておいたり崇めておかないと祟られたりしないかちょっと心配になってきた。

 

「いいでしょう、この機会を簡単な説明をしておきましょう」

 

 ホログラムのモニターが出現してそこに映されるのは蛾か蝶の様なシンボル、そして表示される名前は「セルナフェーレ」

 

「人造神格とはその名の通りヒトが作った神様です。遥か昔、それこそ歴史すらも残っていない古代に神々が仕事をサボって立ち行かなくなってしまう事があって当時の人々が直談判した上で一部の力を分け与えられたのが始まりだと言われています。その神々が姿を消した後、地上に残された人々が自分達を守る為の武器として使い始めました。「ナユタ」もその頃に出来たそうです」

 

 ハレルが語り始めたのは神話だった、俺達の世界の物と大きく違うのは現にこの場に神の力がある事。

 

「人造神格にも何種類か存在するのですが、私達ナユタが使役する神「セルナフェーレ」はいわば「物作り」の神です。そのおかげで身に宿した者はその力の恩恵を受ける事が出来ます、例えばそうシルスなら「分析」の力が芽生えましたでしょう?それはまだ一端でしかありません、より鍛錬を積むことでもっと多くの能力を得る事ができます」

 

 なるほどな、あれで一端……って事はもしかして……

「ハレルも同じの使えるのか?」

「そうですね、見たでしょう?あなたの力でレールガンを分解して再構成する所を?」

「あれそうだったんだ……」

「まあ実は錬金術なんですが、うちの神との相性が良くてあんな感じの事も出来るようになるわけです」

 

 こんな滅茶苦茶銃とかロボとかメカのある世界なのにこういうところで突然にファンタジーになるとなんかすごい変な気分だけれどやっぱり魔法ってのはいいものだ、ロマンがある。ただ同時に疑問が一つ湧きあがった。

 

「ところで魔法少女システムの動力になってるって言うけど……なんで少女だけなんだ?普通に神官として男にも使えるだろ?」

「それなんですが、実は神官による運用はどうやらイレギュラーなんですよね。人造神格は最初は巫女といって選ばれた少女にしか使えなかった筈なんです。それが歴史の中で変質していったのか狂っていったのか何故かナユタの因子を入れた時とか……さっき言った機械化教団とかみたいな例外でのみ男性でも使える様になったんです。だから魔法少女の方が、本来の巫女としての在り方として正しいんです」

 

 不思議な事もあるんだな……神様っていうからもっとカッチリしてるのかと思っていたけれど……でもそっかぁ……因子かぁ。因子……ハレルに力を半分受け取ったのも俺が神官になれた原因かなぁ?

 

「けど面白いな……魔法の授業ってこんな感じか~学校の座学より楽しいな」

「私は逆にシルスの世界でどんな教育しているのかの方が気になりますね、主にシルスがおかしいのかそっちの世界の住人自体がおかしいのかのサンプルを取るという意味でも」

「俺なんかおかしいこと言った?」

「いえ、貴方があんまりタフなので。うちの世界の人間も結構タフですがそれでもこんな状況で授業なんて勘弁してくれって泣き言の一つぐらい出ますよ?」

 

 そっかー……まあ確かに、それはちょっと気になった俺だった。

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