序章:終末魔法少女ハレル   作:青川トーン

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前触れ3/3

 目蓋を開けば広がるのは夢幻の景色、ここに来るのは二度……いや三度目か?最初にハレルと一つになった時も見た気がする。だが何故?別に用事があったわけでもないし今の今までハレルと一緒に話していた筈だ。

 

 その証というか、この場所にハレルの姿はない。

 

 だが代わりに見た事のない奴が居た、いや居たという言葉は相応しくない……最初からそこに存在した。

 人の形をしている、多分女だ、それもハレルに似ている。

 

【あなたは私になる、私はあなたになる】

「それは無理だ、俺は俺だ」

【そんなことはない、自分の姿を見ればいい、声を聴けばいい。もうあなたは私】

 

 わかっている、今答えた時に既に俺は気付いていた。この空間での俺の姿は既に「ハレル」のものになっている。だが俺は俺だ、目の前にいる奴こそが……ハレルの内にある力そのものだ。なるほど普段は攻撃にしか使わないというだけある、こいつは無理矢理に相手を自分と同化して力を奪うという仕組みそのものだ。

 

「お前には意志があるのか?どこから来た?人造神格って奴か?」

【全てのものには意志がある、物質にも現象にも時間や空間にも、人にはそれが見えないだけ。そして私もまた現象の一つ、ナユタ・ハレルという器を介して終わらせる現象】

「何を終わらせるんだ」

【世界を、ありとあらゆるものを、けれど勘違いしないで欲しい。あくまでそれは摂理、始まれば終わる、そして始める為に今あるものを終わらせるだけ。私と一つとなれば全てがわかる】

 

 なるほどこいつは随分とスケールのデカい話だ、それでいて随分と厄介な奴だな。

 だけどそれだけだ。

 

「ハレルと違ってお前はつまらん奴だな」

 

 こいつにはアカネさんの様な愛も、ハレルの静かな優しさも、神官の亡霊みたいな執念も、敵であったエイキの様な渇きもない。ただただ空っぽで何も望んでないんだ。

 

【そんなものは必要じゃない、ただあなたは私と一つになればいい。そうすればこの行き止まりとなった世界を終わらせるのを早められる】

 

 世界の終わりか、言われてみればちょっと見ただけでも随分と終わっているのは確かだ。でも同意する事はできない。俺は帰るつもりだし、なによりもハレル達の頑張りを無に還したくはない。

 

「なら何故俺に力を与えたんだ?」

【私と一つになっていく過程で発現したにすぎない】

「いつか終わらせるなら今終わらせる必要はないだろ」

【全てには限りがある、可能性が無いのなら間引くしかない】

「そもそもなら何の為に始めた?」

【それは人間の言葉や認識できる概念にない】

「交渉決裂だ、力だけ寄越して黙って見てろ」

 

 言葉は通じるが話がまるで通じない、やっぱ心の通ってないような奴はダメだな。こんな奴まで内側にいるなんてハレルは本当に苦労が絶えないな。

 

【何故?何故あなた達はそうも私を忌避する?同じところから生まれ、同じところに還るだけだというのに?】

「そもそも俺はこの世界出身じゃないからお前の所に還る義理はない。それに人間というのは最後まで諦めないものなんだよ」

 

 もうこんな奴に付き合ってるだけ無駄だ、というかこの世界に来てから人間と喋る機会よりもこういうのと会う機会のが多いってなんなんだよ。もっと普通の奴と喋らせてくれ。

 

「じゃあな、俺は忙しいんだ」

 

 問答を切り上げ、俺は夢幻を切り裂く。白い光を介して目を開けば荒野の景色が広がっていた。どうやら無事に戻ってこれた様だ。

 

「シルス?どうしたんですか突然静かになって」

「ちょっと夢幻の方に引っ張り込まれていただけだ、お前も苦労してるんだな」

「……どういうことです?」

 

 事態を把握できていないハレル、どうやらハレル自身は気付いてないのか?一応聞いてみておくか。

 

「いや、お前の力を名乗る不審な女がお前の中に居たんだよ。同化しろってしつこいし、世界を終わらせるとか全てのものは必ず無に還るとか話も通じない奴だったよ」

「え……なんですかそれ、知らないんですけど……コワ……」

「お前が知らなきゃ俺も知らないよ、なんだったんだろうなアレ。お前も気を付けろよ一つになれとか言われても気軽に返事をするんじゃないぞ」

「しませんよ、ですが私の力の源ですか……まあどうせろくでもない奴だとは思ってましたが……まあ少し気になる所ですね。この力を使って戦っている以上、向き合うべき存在ではあるのでしょうが……話の通じない奴となると乗っ取られない様により気を付けないといけませんね」

 

 そうそう、ハレルのこういう真摯で思慮深いというかよく考えている所がいいんだよな。外見だけ真似てても意味がない。ちゃんと話を聞いてくれるし、こちらを思いやってくれる。

 あいつには愛情ってものが足りないよ本当に。

 

「しかし……シルスは夢幻の中でよくそんなものと出会いますね……こう認識領域が私よりも広いのかもしれませんね。いわば霊感とかそういうやつでしょうか?」

「あー……お前には亡霊の連中も見えてないとかあるもんな……なんだろう、やっぱり世界の差か?俺がおかしいだけか?」

「うーん、比較するデータがないのでわかりませんね……こんな時でもなければ滅茶苦茶気になる情報なんですが……」

 

 確かにそうだ、早い所決着をつけて俺も元の世界に帰る手立てを探したい。

 

「そういえば……シルスの元居た世界について今まで深く聞いた事がありませんでしたね。平和っぽいのは分かるんですが……」

「そうだな、この世界よりは遥かに平和だよ。こう暴徒とかに襲われるとかもないし、インフラも整ってるし、化け物もいないしな~。せいぜい毎年自然災害があるぐらいで……それに立ち向かう為の政府組織だったりがあるぐらい?」

「災害対策ですか、こっちなんてもう既に災害なのか日常なのかわからないのであんまり気にした事がありませんね」

「まあどうしても人に被害がでなくとも建物とか土地に被害が出るから復興に力を入れてるけれど、人も被害が出る時はどうしても出るからな……父さんはその被害が出ない様に対策を練る仕事をしてたんだ」

 

 人が生きていくには災害と付き合っていくのは当然の事だ、気を抜いた時が一番危ないとはよく言う。一瞬の判断の遅れが数千人単位の犠牲を出したりもする。だから時には素早く冷静に決断出来る様に多くの知識を持つべきだとも言ってた。

 その教えはこの世界に来てからも結構役立ってる気がするな、本当に父さんにも感謝しないと。

 

「私もシルスの世界に行ってみたいですね、どんな景色があるのか……どんな人達が住んでるのか見てみたい所です。なんでしたら文明の復興の為の参考にもなるかもしれませんし」

「そうだな、帰る手段と一緒に行き来できる手段があればな。今度はハレルが俺の世界に来て帰れなくなったりとかしたら大変だろ?」

「そうですね……私は私でこの世界でやるべきことがある。救うべき人がいる、それは役目とか使命とかじゃなくて私がやりたい事です」

「前から思ってたけれどお前も大概、そう……正義の味方というかヒーローって感じだよな」

「そんなことはありません、ただ一人の人間として好き勝手やってるにすぎません、殆ど暴力ですし」

 

 暴力、暴力か。でもそれでも、だ。

 

「やっぱりお前はヒーローだよ、優しいヒーローだ。俺だって多分最初からこの世界で育ってたらそんな事考えてる余裕とかないと思うし」

 

 こんな世界でも守りたい、救いたいと言えるハレルは本当に優しい奴だよ。それに強い奴だ、だから俺もそれに相応しく戦える様に、もっと強くならなきゃな。

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