日が暮れる頃、アザミ達の拠点としている施設に二人の魔法少女が到着した。彼女らはMCMSに所属する魔法少女で目的はエレメントイレイザーの受取。契約の遂行に加えてあるメッセージを預かってきていた。
「MCMSからメッセージです、エレメントイレイザーの取引完了の条件としてもう一つ「ナユタ・ハレル」の確保が加わりました」
「……何?」
「ナユタの神官、あるいは巫女。層部は特に彼女のあらゆるものを同化して無力化する優れた能力、およびフォームチェンジに対応する適応性。正直に言えばエレメントイレイザーよりも価値のあるものと判断しました。本来の取引に加えて彼女の捕獲に協力していただけませんか?当然ながら相応の対価を出しましょう」
それはサイトH1を襲撃する際に陽動の核爆弾を運送をしていた際と二度目の襲撃の際にドローンが持ち帰ったナユタの神官達などの戦闘、そして玲栄勢力下に潜らせていた諜報から得たデータから得た情報であった。MCMSはかつて巨大軍需複合体として大戦期に栄華を極め、様々な勢力に加担する死の商人であった。今となってはインフラの壊滅や多くの恨みを買った事、そしてアライアンスやユニオンの台頭によって大きく地位を落とす事となったが……それでもまだ大勢力の一つである。通信手段
そして、真に価値のあるものを見極めるだけの嗅覚は鈍ってはいないとの自負もあった。エレメントイレイザーよりもナユタ・ハレルとその力に価値を見出したのも自分達が未だかつて遭遇した事のないものであったが故。単純に言えば人の手で生み出せない超常の力を手に入れ研究する事で他の勢力よりも優位に立ちたいという思惑だ。
だが「エレメントイレイザー」よりも「ナユタ・ハレル」の方が価値があるという言葉がアザミの逆鱗である事だけは彼らには予想できない事故であった。
アザミの手が早いか、彼女らが怒りに気づくも避けれるかというその瞬間、ヴァイオレットがアザミの手を掴んで止めた事でどうにか血を見る事にはならなかった。二人の魔法少女も手練れである、危うく互いに大きな損失を産むであろう事態に肝を冷やした。
「申し訳ありません、それほどまでに入れ込んでいた事を知らなかったのはこちらの不手際です。そしてヴァイオレット、あなたは噂通りの実力の様で……互いに危ない所をありがとうございました」
「まあこっちとしてはピュリフィケイターの浄化技術の普及が叶わない方が嫌だったから助けただけだよ。あたしも今みたいな失礼な事をされたら多分ぶっ殺してたから、次はないよ?」
ヴァイオレットは穏やかな口調で告げるが、その言葉尻からは呆れが隠せていない。この荒廃の時代では物質的な価値もだが何よりも「プライド」というものを傷つけられる事の方が怒りの基準となる事が多い。
特に傭兵や戦士として嘗められる事は評判を落とす事や信用を失う事にも繋がる、だからこそ言動に注意を払う必要がある。当然ながら弱いと見られる事や信用の損失は仕事を失う事にも直結するっし、安く買いたたかれる事にもなる。
だがこれは戦う者だけの話ではなく、技術者や識者、魔術師、そしてあらゆる勢力にも言える事だ。弱さを見せた者から奪われていく、それがこの世界のルールだ。
「……それで捕らえろと?アレを?あなた達はそういうの?」
「ええ、当然ながら簡単に捕えれるとは考えていません、しかし彼女は「死なない」のでしょう?」
「ナユタを甘く見過ぎているという他ない、いくら組織として限界を迎えつつあると言っても個としての能力が衰えたわけではない……私はあくまでナユタ・ハレルを殺す事前提で計画を練ってあなた達に協力を取り付けたの。生かして捕らえるのは無理、例えMCMSの全戦力を投入しても生かして捕らえるというのは不可能と断言するわ」
ナユタを敵に回す事の恐ろしさはアザミ自身が知っている、敵対すれば当然ながら追われる身にもなる事も、どう立ち回ればいいのかも、内部を知っているからこそのこの計画だった。それが突然相手方の気変わりで破綻しつつある。
「どんな優れた魔術師であろうと必ず消耗します、規模の差には敵わないのはわかっていると思われますが?」
「逆に言わせて貰うわ、あなた達の規模では不足と言っているの。どんなに強力な兵器でも使い手を守れなければ無意味よ、私は奴が力を行使するより早くエレメントイレイザー・レイで狙撃して跡形もなく消滅させる以外に完全な勝ち筋がないと答えを出している。屋敷の襲撃の際もそう、あれは生かしておいたのではなく殺せなかっただけ。もしも手を許せば私どころかヴァイオレットですらも一方的に殺される危険性がある」
「それ程に言わせるからこそ、その力が欲しくなるのです」
通達役の魔法少女、クリムは言う。彼女の魔法少女の中でもそれなりの立場にある為に上の者達の思惑も理解しているし、戦場で実際に戦う者としても「力」こそが最後に必要な物だとも理解している。それさえあればアライアンスもユニオンをも打ち倒しえなくとも、その上に立つ事ができるのだと。
「愚かな考えよ。過ぎた欲望が作ったこの世界の有様を見てなお言えるの?」
「私はあくまでメッセンジャーにすぎません、これは決定事項です。もしも従っていただけなければ貴方の立場が無くなるだけです」
その言葉が再び空気を緊迫させる、ただ一人でも自分の意志で行動しようとするアザミと組織や社会としての一員であるクリム、その在り方の違いは決定的なモノであった。だからこそヴァイオレットが間に入る。
「ではこうしようか?あたし達は協力するがあんたらMCMSの戦力が壊滅した時点でナユタ・ハレルの確保は不可能として好きにやらせてもらう。当然殺すかもしれないし、なんなら不利と見れば退くかもしれない。それが歩み寄れる条件だろう?」
「いいでしょう、当然連絡係は他にも居るのでその者に報告させます。ナユタ・ハレルの身柄とエレメントイレイザーの両方が揃ったならば取引は成立です」
何故この場でエレメントイレイザーのサンプルを回収しないか、それは必要以上の厄介事を引き入れないというMCMSの判断でもあった。いくら計画していてもそれが成功して「モノ」があるという「事実」を知られてしまえば他の組織から脅威と見なされて攻撃させる口実が作られてしまうからだ。
法は機能しない、力こそ全て、だからこそ秩序は求められる。特に支配する側である限りは正しい支配として見せなければならない。叛逆はこの世界で最も恐れられるものだ、特に血気盛んな者達は自分が死ぬとしても相手に多大な出血を強いる様な覚悟を持っている。
だから絶対に相手に大義名分を作らせてはいけない、隙を作らせてはいけない。
結果としてそうはならなかったと言い逃れる様な立ち回りこそがかつてMCMSを大勢力へと育て上げたのだ。
だがそんな理屈が通用しない事はこの場ではアザミが一番理解していた、ナユタがどれだけ恐るべき相手なのか、そしてMCMSが自分の望む取引相手ではなくなった事、そしてこれから大きな打撃を受けるであろう事、エレメントイレイザー・ピュリフィケイターの技術を普及させられる協力者を新しく探さなければならない事も。
「何故私が一人で全てをやりたがらなかったか、知る事になるわ」
もっとナユタの恐ろしさを伝える資料でも見せておくべきだったか、とアザミは心の中で呟いた。