序章:終末魔法少女ハレル   作:青川トーン

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迷い子3/3

「いいですか、この世界を生きていくのは力が必要です。それは当然「暴力」の事です」

 

 翌日、訓練場に連れてきた少年、シルスに渡したのは拳銃とナイフ、そして身体強化キット。当然ながら全部、私の手製であり極力負担の少ないものを選別している。

 

「私も別に態々激戦区だったり危険地帯にあなたを連れ出すつもりはありませんが、ここも常に安全とは言えませんからね。時には襲ってくる連中もいます、だからその時に自衛する手段だけでも持っておいて貰いたい訳です」

 

 まずは自分の身を守れるぐらいにはシルスには物理的に強くなって貰う必要がある。

 全てはそこから、技術も知識も後から得ればいい。

 

「正直に言えば、強くするだけならば貴方の体を改造して強化してしまえば早いんですが……まあいきなり大きな力を持たせてもロクな事がないといいますか、調子に乗って手痛い目に合うのが目に見えるので」

「いやさも当然に体を改造するなんて選択肢が飛び出てくる事に俺は驚いています」

 

 これまで武器を渡されてもしっかり真面目に聞いていたシルスが顔を青くして返事を返してきた、そりゃ怖いよね人体改造は。でもこの過酷な環境だと改造した方が過ごしやすいのは事実だし、ナユタの神官や巫女は強化改造上等ですが、他の勢力でも生体強化ぐらいなら皆やってますが……。

 

「心配しなくともそんな神経を結晶繊維に置き換えたり、人工筋肉埋め込んだり、内臓の代わりに機械入れたりなんてしないですよ。ただ本当にどうしようもないなってなったらやるかもしれませんが」

「お願いします、やめてください」

 

 まあ改造してください!って最初から言って来たらその方が私は信用できないのでこの反応は好感触です。

 

「いいでしょう、ではしっかり地道に強くなる方針で行きましょう。まずは基礎訓練、走って・跳んで・隠れて・撃つ事からはじめましょう」

 

 ゴウンゴウンと音を立てて訓練場の地形を更新、そしてターゲットドローンが放出され、計測器が起動する。

 

「あの、所々道が繋がってないんですけど……」

「当然そこは飛び越えるなりしてください。ちなみにドローンの攻撃は光弾です、当たれば麻痺しますし転げ落ちれば当然ながら痛いですから」

「電脳空間とかで肉体にダメージ無しとかそういうのは……」

「うちにはそんなものありませんよ、それに痛くなければ覚えないでしょう?」

 

 そもそもこの訓練場には私も昔は世話になったものです、当時は更にひどい設定で実弾が飛び交ったり、足場が動いたりしてまともに走り切るのも困難でしたからね。

 

「まずは銃の使い方です、今回は訓練の為に実弾の代わりにエネルギー弾が出るようにしてあります。ドローンに当てれば動きが止まるようになってます。一応最初だということで物理トリガー式のスタンダードなのを用意しましたが、慣れていけば他にも色々なモノも試す事もできましょう」

 

 そういうとシルスは色々な構えを取りますが、どれもちょっと見様見真似というもの、どうみても素人です。とはいえ私もこう実戦的な構えとかあまり知らないんですよね、殆ど魔法少女としてのパワーで無理矢理に固定して撃つので……。

 

「まずは私が見本を見せます、モニターで見て参考にしてください」

 今回は魔法少女としての力も抜きで、私の身体能力と最低限の魔術だけ。武器は同じ条件でエネルギーピストルだけ。

 

 スタートラインへ踏み込むと即座にドローン達が動き出し攻撃を開始する、私は即座に遮蔽物に身を隠……さずに柱に向かって跳躍、魔術で壁に張り付きながら駆けて側面のドローンに向けて発砲。

 我ながら正確な射線は4機のドローンを纏めて停止させて、クレーンからぶら下がっているプレートへと足場を移し、止まることなく駆け抜ける。

 

 そして壁から生えているポールを掴んで遠心力でジャンプしながらも宙返りで後方から追いかけてきていたドローンを補足して撃ちぬいて、そのまま回転して落下を魔力で減速させて着地。

 

 ゴール前には1基のタレットと一本道。容赦なく放たれる光弾に怯むことなく、それでいて射線を回避して駆け抜けながらトリガーを引く。

 そして3連射でタレットを停止させた後にゴールに辿り着く、タイムを見れば30秒もかかっていなかった。

 

 

「こんな感じです」

「無理だろそれ!」

 

 確かに魔術は使っているが、彼に渡した強化キットにも同等の機能があるし。理論上は可能なんですがね……。

 

「まあ今の私みたいに動けなんて言いませんよ、まずは自分のペースで1回やってみましょうか」

 停止したドローン達を再起動させ、シルスの方を見やる。彼は絶望的な表情を浮かべていますが、この程度も出来なければナユタではやっていけませんから……私は心を鬼にしてドローンの制御を変更。

 

 スタートラインの外に居るシルスに銃口を向けさせる。

 

「はーい、よーいスタートです」

「おかしいだろ!!!」

 彼はたまらず叫び声を上げながら駆けだす、そうそれでいいんですよ!人は必要に駆られる事で初めて強くなる!私達は必要だから、力を求め続ける。

 

 それに逃げ続けて、隠れ続けているだけでは勝てない。

 シルスは場所を変えながらドローンから逃げ回るが、当然ながらただただ体力を消費するだけ、加えて強化キットにまだ慣れていないが為に動きがぎこちない……ですが、3分も動いてれば慣れてきた様です。

 

 ついに銃を手にして、ドローンに向けて発砲を始めますが。まあ素人の射撃がそうそう当たる筈もなく、1基落とすのに4発も撃つことになっていました。まあ上出来と言いたい所ですがドローンにはまだ一発たりとも撃たせてしません。

 

 現状追いかけてくるだけの存在だという事に彼はまだ気づいていないのです。これではまだまだですね、と彼が最初のドローンの群を撃ち落とし終わるまで待つ。

 

 安全を確保したと思った彼が歩を進め、途切れ途切れの足場を移動し始める頃には開始から15分が経っていました。この頃にもなると見様見真似で壁を蹴って飛距離を伸ばしたり、ジャンプで足場を飛び移るのにも慣れてきた様ですが。まあ……途中何度も落下して強化キットのバランサーとショックアブソーバーに助けられてる場面が目立ちましたが……それでも彼には才能があるように見える。

 

 6回目のチャレンジでどうにか足場地帯を突破した彼の前に立ちはだかるのは先ほどのタレットと一本道、私の時と違うのは……タレットの設定を少しばかり強力にしておいた事です。

 

 とっとと駆け抜けてしまえばいい、と踏んだシルスは光弾がモロに直撃し後ろに吹っ飛ばされる。私の見立てならばそこで追撃を受けてダウンしてしまうであろうと思っていました。

 ですが彼は2射目の攻撃を転がって回避、そして遮蔽物に身を隠して体勢を立て直したのです。

 

 息を切らして、それでも諦めずに相手を観察、にらみ合いになりますが……相手は機械です、永遠に硬直してしまうので最初に動き出すのはシルスでした。

 なんとナイフを投げてそれをデコイとして、タレットの発射後の隙をついて3発の銃弾を撃ち込み停止させました。

 

 

 私は驚いた、たった30分でこの訓練をクリアできるとは思っていなかった。途中で根を上げても別に構わないと思っていました。ですが泣き言一つ言わずに彼は走り抜けた。

 

 あの姉さんが「期待」した、その意味がなんとなく分かった気がしました。

 

「何てことしやがるんだよ!!!スパルタなんてレベルじゃないぞ!!」

「あの程度でくたばるなら、この先生きていけませんよ」

 

 正直、誉めるべきか……期待の言葉をかけるべきか、少し迷いましたがここは少し厳しめに行きましょう。

 

「ここは入口です、まずはこの訓練で1分以内でゴールを目指しましょう」

 おそらく彼の目からは私は血も涙もない悪魔の様に見えているでしょうが、そんな事は関係ありません。彼なら必ずやり遂げる、そんな期待が私の中にも生まれた。

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