序章:終末魔法少女ハレル   作:青川トーン

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衝突3/3

 強い、ネビュラフォームの高出力を以てしても優位を取れない程に目の前の魔法少女は純粋に早く、圧倒的な強度と質量を持った攻撃を放ってくる。たったそれだけで俺がこれまで戦ってきた何よりも強い。

『シルス……殺さないという縛りではこちらに有効打はありません』

「ちょっと待ってろ、俺はまだ諦めちゃいない」

 

 純粋に俺は人殺しなんざしたくない、この世界の人間じゃない俺が相手を殺すのを躊躇ってるっとかそんなんじゃなくて、それをしてしまえば一線を越えてしまう。後戻りが出来ないのなんて今更だし、俺がただ単に弱いだけなんだけれど!

 

「あのバカを無力化した今の動きはよかったけれど!それだけさ!」

「あんたよりは弱かったし隙だらけだったからな!ところで一つ聞きたいけれど!」

 

 紙一重で飛んできた攻撃を回避して、力の限り顔を殴りつけるが痛むのはこちらばかり、まるで地面を殴ってるみたいで効いてる気がしないけど……ブレードで突き刺した肩のキズから見えるのは発光する銀色の中身。

 

「答えられる事なら応えてあげるよ」

「何の為に戦ってる?」

「簡単な事さ、誰よりもあたしが強いんだって証明したいだけだよ!」

 ドンっとまるでトラックかなんかにぶつかられた様な衝撃を受けて吹き飛ばされるが今のやり取りで少しわかった。あいつも決して無敵ではない、それでいて……生きた人間だ。

 

『ハレル、そういえばお前が同化できる基準って何だ?』

『……殺さないという基準であれば夢幻廻帰……アレは「命」でないものならすり抜けて同化できるでしょう。逆に生きてる相手であればあなたにやったような形だけです、殺すのであればその手段も取れるし、もう一つ手段がありますが……どっちにしろ動きを止めなければ離脱されるでしょうね』

『いや殺さないさ、あの大剣は同化できるか?完全に分解するって感じじゃなくてこう……触れた部分だけ固めるって感じで』

『可能ですね、触れて固定する事で動きを止めれます』

 

 それを聞けたならば上等だ。後は俺がやれるかだ。

 

『俺を信じて欲しい、奴を無力化する方法を思いついた。どうにか奴の両手を3秒掴めればいい』

『いいでしょう、しくじらないでくださいね』

『言った側だけどそんなに信じてくれるのかよ』

『これまでの成果を考慮したまでです』

 

 ありがたい言葉だ、正直に言ってハレルに認められて俺は嬉しい。だから決して期待は裏切らない。

 

 

 

 

 ヴァイオレットにとって目の前の相手は脅威と言えなかった。MCMSの伝達係であったクリムを一瞬で返り討ちにして行動不能にする、一人として殺さずに無力化する。多少のパワーがある……がそれだけだった、正直に言えばあまりにも甘いし、この程度であればアライアンスやユニオンの魔法少女の方が圧倒的に恐ろしい、彼女らの殺意に比べれば信じられない程に生ぬるい。

 

 決して油断している訳ではない、アザミが言う程のソレ……MCMSがエレメントイレイザーよりも価値を見出した力とは何なのか、その身で測るしかない。死なないのならば、サイトH1で与えた致命傷をもう一度打ち込んでも構わないのだろう?と彼女は踏み出した。

 

『来ますよ!シルス!』

「わかっている!」

 

 一つの体に二つの意識があるとして、そのどちらもが追い付かない程の速度と防げない程の威力を。ヴァイオレットの体に融合した強化フレームと人工筋肉に加えて重力制御装置が最大出力で繰り出す大剣による斬撃。その威力は文字通り空間を横薙ぎに切断しながら迫る。

 

 そして不可避かつ必殺の一撃がハレルの左腕を斬り飛ばし、噴き出すのは血ではなく星雲の様な鮮やかな光を放つ闇。驚いたのはヴァイオレットの方だった、赤い血でないものが噴き出す程度ならば決して珍しい事じゃないが確実に胴体を寸断する筈だったが左脇腹に突き刺さり後ろの建物を半分まで切り込むまでで止められたのだ。

 

「捉えたぞ」

 

 戸惑ったヴァイオレットに対して、二人は痛みと分かちながらも冷静で居た。

 そこにあったのは信頼だ。

 

 そこでようやく気付く、大剣を同化する事で受け止めたのだと。そしてハレルは切断された左腕を夢幻で形成することで代用して、シルスが両手に纏わせた「分解」の力でヴァイオレットの両腕を掴み、内蔵された機材を機能不全に陥れる。その間1秒。

 

 つづけて体の中を直接破壊される激痛に大きく怯んで力が抜けた所をそのまま振り回してハレルはヴァイオレットを地面へと叩き付けた。これで2秒、その間にシルスの力はフレーム材の骨を伝い重力制御装置の出力を落とし一気に動きを鈍化させる。

 

 そして事態に気づいた時には手遅れだ、3秒。魔法少女システムコアに負荷がかかり体が動かなくなる。ヴァイオレットは自分がしてやられた事を察した。

 

 

 シルスがそれを思いついたのは先ほど無力化したMCMSライトニングとのやりとりだ、機械であるならば必ず作られたプログラムで動く。それは絶対の真理だ、ならばそこを動作不全に陥れてやればいい。生きた人間でないからこその弱点だ、加えて今まで一番戦った回数の多い相手が機械であったことも気づきの一つにあった。

 

 だが勝負はまだついていない、同化した機材の殆どを機能不全にされて動けない筈のヴァイオレットが蹴りを放ちハレルを蹴り飛ばして立ち上がった。

 

「正直にいってなめてたよ、あんたらはマジの化け物だ。けど私もそれなりの化け物の自覚があったんだけどね……」

 

 魔法少女システム・ナイトメテオスモデル、ヴァイオレットのそれは纏うモノではない。肉体と融合する禁忌の力の一つであり、マン・マシン・マギインターフェイスシステム、M3インターフェイスと呼ばれるソレは人・機械・魔術の三位一体、プログラムではなく人の意志で機械を動かす力である。

 

 ただ、当然ながらそれも大きなダメージを受ければ別だ。ヴァイオレットはとてもではないが、もう戦闘できる様な状態ではない。しかしながらハレルにも大きなダメージを与えた、そして。

 

 

「ヴァイオレット、そんな状態で無理に動けば死ぬわ」

 

 ここまで姿を現してこなかったアザミ、そしてMCMSから派遣された戦力として兵士にドローン、そしてもう一人魔法少女が残っていた。それはかつて陽動の際にハレルに一蹴された者で名前をベティと言った。彼女が纏うのはMCMSのカスタムしたエンジェルモデルだ。

 

「悪い悪い……あんたの忠告を聞いておけばよかったってレベルでヤバい相手だったよアレ」

 

 勝ちを確信したヴァイオレットに対して、ハレル達は絶体絶命といった所だったが……それでもまだ闘志は折れてなどいなかった。

 

『生まれてこの方ここまで痛い思いをしたことがない』

『よかったですね、また一つ学びを得ましたよ』

『なるほど軽口を叩けるぐらいにはまだまだ余裕そうだな、ハレル』

 

 切断された左腕を掴み、立ち上がるハレルとシルス。傷口を無理矢理に接合することでどうにか出血や損傷を誤魔化しているものの、やはりダメージは大きい。加えてネビュラフォームを使い続けている事で消耗もまた少なくない。

 

 ハレルは刺さったままの大剣と切断された左腕を完全に分解して同化する事で一回り細い剣を生成しつつ左腕を再生させる。無理な治療である為に動きもよくないといった所だが今は文句を言っている場合ではない。と気を引き締める。

 

「ナユタ・ハレル……そしてあなたは……あの時の神官ね。結局私の警告を無視して追ってきたのね」

「悪いな、仕方なくそうなったんだよ。でも今は俺の意志であんたを止めるよ、前のシルスに……あんたの兄さんに頼まれたからな」

 

 その言葉を聞いてアザミは目を見開き、無表情なままに怒りを浮かべる。

 

「来なさい……決着をつける時よ」

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