序章:終末魔法少女ハレル   作:青川トーン

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絆の印2/3

 光が迫る、それをハレル達は正面から受け止めた。

 正しくは夢幻廻帰による同化によって吸収し、それを分解してエネルギーへと変換しているのだ。

 

 だが同時にエレメントイレイザーの力は強力だ、全てを受け止めきる事は叶わず夢幻が揺らぎ細かく千切れ飛び、体からは血が噴き出す。シルスがその力で分析する限り、アザミがエレメントイレイザーを使い続けられるのは3秒だ。それ以上はエネルギーが尽きてしまうし、そもそもの魔法少女システムのコアが耐えきれずに停止してしまうであろうという事がわかった。

 ならばただ全てをこの攻撃を受け止める事だけに集中すればいい、という訳でもない。

 

 空間そのものが軋みを上げて震える、強力な二つの力の衝突は「世界」そのものが耐えきれない。

 それに最初に気づいたのもシルスであった、その目に見えたのは光線が通った場所から広がる亀裂で、それは段々とアザミへと近づいて行っているのが分かる。推測される結果としてあるのは空間の崩壊、エレメントイレイザー装置そのものが使用者自身を破滅へと導く。

 ハレルは度重なる戦闘で既にかなり消耗していて意識が朦朧としつつある、もはや気合で立っている様な有様なのに対してシルスはまだ、ハレルに比べてだが……ほんの少しだけ力が残っている。

 

 星雲の翼を広げ、光線を掻き分け、前へ前へと進み始める。

 この間わずか1秒の出来事だ。

 

 

 同じ頃、ハレルは走馬灯を見ていた。それはかつてのシルスと共にエレメントイレイザーの実験を行った日、理論上は暴走する事のないソレから見た事のない光が放たれるのを思い返す。装置自体に不備があったわけではない、設備の不足でもない、ただただ世界の法則が耐えられなかったのだ。

 崩壊しつつある空間、その先に見たのは虚無だ。一度世界に穴があけばそれは広がり、やがてこの世界そのものが完全に消滅する。だから先代のシルスは砕けつつある空間をハレルの夢幻廻帰で同化するという解決手段を導き出した。

 

 ただ空間の同化など当然ながら例の無い自体、ハレル自身にもどうすればそんなことが出来るのかわからなかったが為にその手段を取るには時間が足りないと気づく。そこで彼がとったのは、空間そのものを自身と一体化してハレルのもう一つの同化能力によって取り込むという手段だった。そこでハレルは気付いた、かつてのシルスは、彼は決して死んだわけじゃない。自分と一つになっただけなのだと。

 

 ずっと……一緒に居てくれたのだと、ようやく気付く事ができた。

 

 

 アザミは焦っていた。エレメントイレイザーを受け止めながら正面から向かってくるハレル達、理論上ありえない謎の亀裂の出現、そしてそれが自分の元へと迫っている事。ここで撃つのをやめれば負ける、だが続けた先にあるのは自己の破滅、そして兄の夢を終わらせてしまう事。

 絶対に負けたくない、この残酷な世界にも、自分自身にも。だから力を全て振り絞れ、と魔法少女システムのコア、そして人造神格を強い意志で繋ぐ。先程にも増して出力の上がったエレメントイレイザーがハレル達を押し返す筈だった。

 

 

 だがそうはならない、先に限界を迎えたのは「世界」だった。亀裂が空に広がり、溢れ出す血潮の様なエネルギー体。そしてその奥に見えるのは暗黒の孔。衝撃でエレメントイレイザー装置が停止する、それを見てアザミは自らの過ちに気が付いた、力ばかりを見て、世界を見ていなかったのは自分自身だった。

 

 自分がこの世界を荒廃させた者達と同じ愚かな存在なのだと悟ってしまった。

 だがもう遅い、全てを吸い込む様に引力が発生してアザミはその空間の孔へと引き込まれる、そんな時だった。その手が誰かが掴んだ、視線を向けるとそこにはハレルの姿があった。

 

 

 

 想定したよりも早く空間に孔があいてしまった、このままでは世界が崩壊する……というより先に自分達が吸い出されてしまう方が早い。シルスは考える、空いた孔を塞ぐにはやはり何かを詰めて空間を満たす他ない、ただ普通の物質をそのまま放り込んだ所で分解されて終わりだ。解決にはならない、ならば空間を新しく作ってやればいいのではないか?と思い至るが問題はただ一つ、どうやって空間を作るかだ。

 

 思い浮かべるのは……ハレルの夢幻廻廊とそこにあるもの。そして同じ結論に思い至ったのはシルスだけではない、ハレル自身もだった。

 

「シルス!こうなったらもう新しい世界作る勢いでぶっぱなしますよ!!」

 

 誰かを犠牲にして終わらせるなんてもう嫌だ。ハレルの想いに応えるといわんばかりにより激しく夢幻は揺らぎ、赤く変色していく事でまるで炎の様に燃え上がる。力の限りにアザミと共にその身を引き上げて孔からの距離を取った後に手を放す。

 

「なんで助けた……」

「言っただろ、あんたの兄さんに頼まれたからな」

 

 アザミはシルスの、ハレルの向こうに自分の兄の幻影を見る。そしてシルスがその手を握れば、彼女の脳裏に知らない筈の記憶が流れ込んでくる、それが兄の見て来たものであり、想いそのものであることは妹だったからこそ、すぐに気付く事ができた。

 

「あんたがこれからどうしたいかを考えとけ。俺達は先にこっちをどうにかしなきゃいけないからな」

 

 それだけ伝えるとシルスはハレルと共に孔へと向き直る、ただただがむしゃらに前へ前へと進み続ける二人で一人の魔法少女の最初の戦いの結末は目の前に迫っていた。

 

 両腕を広げて横一列のエネルギーフィールドを作り、それを胸に向かって畳む事で圧縮、そして両手を前に突き出す事で砲身へ見立てる。

 

 

『いきましょう、シルス。こいつで最後です!』

『ああ!気合を入れろ!!!』

 

 赤と青の星雲の様な夢幻はまるで創世のごとく強く光り輝く、二人に宿る人造神格「セルナフェーレ」は創造の力を持つ、ならば出来る筈だ。ハレルがこれまでに同化してきた夢幻廻廊の中の品々を全てエネルギーに変換し、自分の持てる力全てをこの一撃に乗せる。

 

『ファイナル・ネビュライト・ノヴァ!!』

 

 二人の叫びが重なり、放たれた光の奔流が空を覆う雲を消し去りながら空間の孔へと呑まれる事なく衝突する。飛び散るのは火花にスパーク、粒子に結晶の破片、周囲では竜巻が起きて大地の塵を巻き上げて、雲を呑み込み、何もかもがそこで燃え尽きていく。

 

 世界に空いた孔にヒビが入る、「無」であるはずのソレが逆に破壊されようとしている。

 ついに夢幻が全て使い果たされて、ネビュラフォームが解除されてアズライールフォームへと変わる。そしてアズライールフォームから放たれるのは怖ろしい「死」の力。

 

 万物が死へと向かうという現象そのもの、それをエネルギーとして捉えたのが「ルスフィオン」だ。普通に使うのならば周囲の生命体を滅ぼすぐらいしかできない、だが今この時は生命体ではなく「無限の虚無」を「有限」へと変換する為に使われている。だがそんなこと二人が知る訳もない、ただただ今ここにある力を全て出し切って世界を救う。それしか考えていないのだから。

 

 

 そしてついに限界を迎えたのは「孔」の方だった、黒い空間に白い亀裂が走り。砕け散った一瞬後に巨大な光が周囲を包んだ。当然側にいたハレル達も巻き込まれる事となるが、不思議と衝撃も熱もない光は誰もを傷つける事がなかった。

 

 光の中にアザミは兄の姿を見た。それハレルとシルスにも見える形であった。加えてシルスが亡霊として見た神官達もそこにいた、わかったのは死した後もこの世界に留まり続けた彼らがようやく役目を終えて休める事、そして自分達が世界の崩壊を防いだ事であった。

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