そこは真っ白な空間、かつてここは闇であった。それを埋める様に様々な力を取り込んでいつしか「夢幻廻廊」となっていた、けれどそこにあったものは全部今しがた使い切った。善悪問わず一つとなって、砕けつつあった世界を再生させる為に使われた。
残しておけばよかった、とか後悔だとかはない。きっと私の中に封印されたままでいるよりは良い結末だったと思う。そして隣を見ればシルスが居た、今この場所は私達二人だけのものだ。
「随分ときれいさっぱり無くなったものだ」
「はい、まさか全部使い切らなきゃいけない程とは思いませんでしたよ」
残ったのは私達の命と、エンジェルモデル・アズライールのルスフィオンだけ。破滅の力とはいえ、うまく使えたならばこうして役に立つのですね。
「それで体の方は動かない、みたいですね」
「ああ、全部出し切ったからな。気合も力も全部……けどこうして俺達がここに居るって事は死んではいないだろう」
「それもそうですね、まあでも……しばらくは動けないかもしれませんね。そうなると困るのはエレメントイレイザーの装置の回収ですよ」
そう、本当の目的をまだ私達は果たしていない。
「大丈夫だろ、あいつを信じてやれ」
アザミ、前任のシルスの妹……彼女がエレメントイレイザーを手にしようとしたのは兄の夢を引き継ぐ為だったのかもしれない。この汚染された世界を浄化して、もう一度花の咲ける大地を作りたいという願い……それ自体はきっと悪いことじゃない。でもそんな願いだって今回みたいに間違った結果へと向かう事もある。運命というのはひどく残酷です。
だから最悪も考えておく。
「もしも、もしもシルスが死にそうなら私の命をあなたにあげます」
「そんなことしたらお前が死ぬだろ」
「いいえ、真の意味で一心同体になるのですよ、そうなると分かれるのもまた大変ですけれど……絶対に無理という訳ではないですから」
白い、何もない空間で寝そべるというのもなんですが、もう随分と頑張った気がするので少しくらい休んでもいいでしょう。見上げれば何もない筈の空……青空が広がっていました。
「おいおい、何もないんじゃなかったか?」
「おかしいですね……青空なんてどういう事でしょうか?」
どういうことなのか、と考えてるとその青空には一つの光があった。まるで太陽かのごとくあって当然!って顔で居座ってやがったのでまるで気づきませんでしたが。それは私達の神様でした。
セルナフェーレ、ナユタの人々に力を授け続けてくれたソレには姿なんてものはありません。何故ならば情報とエネルギーの塊であり……純粋な力でしかないのですから。ですがそこに心の様なものを私は感じた。まるで労わるかの様な、それでいて……まだ何かを期待しているかのような。
シルスも同じような事を感じたようでこっちを見ていました。私はそういえば、と一つ思い出した。
「そういえばシルス……いえ、貴方の本当の名前って聞いた事ありませんでしたね」
「俺か……そういえばハレルは、そのハレルってのが本名なのか?」
「ええ、私は特にナユタ生まれですからね、最初からハレルって名前ですよ。それで貴方の名は?」
「俺は……俺はイツキ・ツムグ、一つの絆と書いて「一絆」だよ」
「イツキ・ツムグ、ですか。二人だけの時はツムグと呼んでいいですか?」
「まあそうだな……呪いとか気にしなくていい時なら、俺は構わない」
イツキ・ツムグ、一つの絆を紡ぐ。いい名前ですね、そういえばシルスというのは「記す」と「印す」を意味する名前だって姉さんが言ってましたっけ……。これが私達の絆の印……なんて言うと少しロマンがある……のかなぁ……。
目を開くとそこには青空を背にして姉さんが私に膝枕をしてくれていました。
「お疲れ様、ハレルにシルス。どうやら色々大変だったみたいだねぇ」
「はい……まあちょっと全部の力を出し切った感じですよ、それでエレメントイレイザーはどうなりました?」
「さっきの戦いで壊れてしまってたよ、加えてアザミちゃんの使ってた奴もお陀仏さ……それで当人は付き添いの傭兵がこの命に代えても守ってやるみたいな感じで睨んできたから見逃したよ」
取り逃がした、と簡単に言いますが最初からおそらく捕まえる気なんてさらさらなかったのでしょう。姉さんはナユタの事嫌いですしね……彼女らが今後どうしていくかは……まあきっと大丈夫でしょう。それよりもMCMSに報いを受けさせるのはそのうち考えておかないとですね……。
っと横を見るとまだ目が覚めないままのツムグ……シルスの姿があった。となるとこれってもしかして分離している?
「メッセージに書いてたからねぇ、だから新しい体をちゃんと持ってきたよ」
「……ありがとうございます」
でもどうしてだろう、こうやって離れると少し寂しい気がする。これが本来のあるべき形なのに……一気に寂しくなった様な気がする。いや……不謹慎ですしせっかく新しい体を作ってくれた姉さんにも失礼です。
「ああ、そっちも起きたみたいだね。気分はどうだいシルス?」
「疲れましたよ、ですがなんとかなったならもうそれでいいです」
「だろうねぇ、ナユタはいっつもこんな感じだけどやっていける自信はあるかい?」
「ハレルを守る為ならやってもいいかな……それ以外だと正直イヤだな」
……どうやらまだ寝ぼけているようですね、なんだか私の顔が熱いですが……これは雲がなくて直射日光が当たってるせいです。
「だってさ、ハレル」
「えっハレル!?」
こっちを見て驚くシルス、顔が真っ赤で逆に見てるこっちのが恥ずかしい!?何この気持ち!?
「まあそれはそれとして私の力を以てしても完全に二人を切り離すのはおもしろくな……できないくらいに相性バッチしだったんだよね~……やろうと思えば自由に一体化したり解除できるんじゃないかなぁ?」
姉さんが……!姉さんが!余計な気を利かしてくてる!確かに少し嬉しいような気がしますがそれはシルスの身を危険に晒しかねないし……いやでも逆にシルスを守れるって点はありますが……!
「そういうことも……まああるかな、それに俺もまだ自分の力だけじゃ戦えないかもしれないし……また頼む事になるかもしれないから……よろしくなハレル」
「ええ、そうですね。私もあなたの力やその度胸を頼りにしています」
……ああ、そうです。いつもどおり、ナユタの役目を一つ果たしただけなのですからこれからまた新しい危機が起きるかもしれないし、そもそものシルスが元の世界に帰る手助けをしてあげるのも忘れちゃいけない。それに壊滅したサイトH1の復興か、新しいサイトへの移転も考えないといけない。
やる事はまだまだ沢山ありますね……ですが今は……今だけはこうやって青空を見上げて休むのも悪くはありません。
戦いの余波のおかげですっかり汚染が消し飛んでくれたので随分と今日は空が綺麗に見えますが、これはあくまで一時的なモノです、本当の平和や復興にはもっと長く険しい道程ですが……。
いつか叶えて見せます、そしてその為に戦ってきた者達が居た事を記すのです。
序章 終末魔法少女ハレル 完