序章:終末魔法少女ハレル   作:青川トーン

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・ナユタ・シルス
ナユタにおいて特殊な役職を持つ者は真名ではなく役職名で呼ばれる事がある。
シルスもその一つで、ハレルの補佐を行う者はシルスと呼ばれる。
名を受け継ぐ事で役目を果たすあるいは、逆に呪いから逃れるというジンクスから行われている習慣である

異世界から迷い込んだ彼にも別に真名がある


戦導1/3

 訓練の翌日、少しばかり厄介な事になってしまった。

 彼は元は別の世界の人間、それもどうやらかなり綺麗な環境で育ってきた事から、この世界の汚染や病原菌に対する免疫というものがまるでなかったのである。加えて、突然に見知らぬ場所に投げ出されたが故の不安やストレスに加えて疲労などもあったのかもしれない。

 

 私が施した訓練が原因ではない、多分、きっと、そうである事を願う。

 

 別世界の住人と接する機会など滅多にないが故に、思い至らなかった私のミスだ。

 眩暈に吐き気、咳に鼻水、頭痛と腹痛に超高熱と重症フルコースで動くのもままならない彼の看病と症状改善の為の薬品の調合を行う。

 彼には申し訳ないが免疫機能を含めた身体機能のいくつかに強化処置を施す他ない、いつか元の世界に帰った時面倒な事になるかもしれないが、今この場を切り抜けさせる為には必要な手段。

 

 そういえば姉さんが彼を拾った時に治療を施したと言っていたなと思い出し、まず彼の状態を確認する。身体構造的・組成的に私達の世界の人間と違いはない、だけれどやはり免疫系は弱いし、何より生命力が少ない。薬に加えて魔術的な処置を施していく中で見えてくるのは、彼自身の生きてきた環境。

 

 マジで私達と違って内外共に傷がない、ダメージと言えるダメージを受けた事がない。

 まさに平和な世界の住人という感じだった。

 

 

 私は彼自身の事を全く知らない。とにかく生きていく為の力を与える為に訓練を施したり、装備を与えたりしているだけ。別に彼に興味がない訳ではない、ただどう接するべきかわからない、それに尽きる。

 あいにく気遣いの出来る性格ではない、容赦のない言葉で彼に余計なダメージを与えかねない。

 

 この世界の人間はバカみたいにタフだ。だから多少雑に扱っても壊れないし、なんなら一度へし折られても平気で復活しやがる。

 それは一番接する機会の多いナユタの人間だけではない、他の勢力の人間、敵としてぶつかる相手。どいつもこいつも傷だらけになっても、血塗れになっても、前に進み続ける。誰も彼もがそうだ。

 

 

 だからそうでない彼は、私にとっての未知だ。

 

 薬剤の投与、術式による体質の操作、因子移植、必要な処置は施した。ただしばらくは新しくなった体の感覚に悩まされるかもしれない。ただでさえ踏んだり蹴ったりなのに……とここで思い至る。

 

 そういえば……この少年が泣き言を言ったり、取り乱したりしてるのをまだ見た事がない。見たいか見たくないかでいえば、可哀想だし、どう対応していいのかわからないので見たくないのだけれど、そう考えるとこいつも結構タフなのでは?

 

 まあ、目が覚めたら色々聞いてみよう。

 

 

「無事に処置は終わったみたいだね、いい手際だったよ」

「見てたなら手伝いの一つくらいしてくれてもよかったのでは??」

「いやーちゃんと治療技術も上がってて、私も鼻が高いよ」

 

 ここで私は気づく、姉さんほどの人がこの事態を予見していない訳がない。

 それも最初に彼が汚染で目や呼吸器をやられていた時に治療したのは姉さんの筈だ、治療の痕跡も、以後の対策も施されていたのは私も確認している。

 

 

「わざとですか」

「君にも実際に認識してもらう必要があったのさ」

 

 そう言われてしまえば返す言葉がない、こうなるまで可能性にすら気づかなかったのは確かだ。それに加えて彼自身にも理解してもらう必要があったのは同じ。

 

 

「世界は無限の可能性に満ちている、良い言葉に聞こえるね……でも可能性には人の善悪なんて関係ない。遥か未来まで人類が生き残り発展していく可能性もあれば、逆に滅ぶのもまた可能性さ。だけど勘違いして欲しくない、悪い結果を考えて動けなくなって欲しい訳じゃないんだ。悪い結果が出た時、どうやってそれをフォローするか、それを考えれる様になって欲しいのさ」

 

 確かにそれはそうだ、最悪を考えた際のフォローというのは私達は普段から行っている。この間の核爆弾の件であれ、もし起爆した際にどうにかできるという策として「私の力」があった。

 

「つまりはシルスに何かあった時のフォローを出来る様にしろという事ですか」

「回りくどい言い方をしたがそういう事さ、そして何よりも……他人を愛し、慈しむ心を持てよハレル」

 

 ……姉さんはたまによくわからない事を言いますね、私は十分以上に慈悲深いと思いますが……それに誰かを助けるのは私達の使命なのですから。

 

「わからないという顔をしているけれど、いずれわかるさ。私が君を想うようにね」

 

 それだけ言うと、姉さんは部屋から出て行ってしまった。

 あの人そういえばマジで何もしてないですね、そういえば昨日も結局シルスに部屋の案内をしたり、食事運んでったのも私ですし。今朝時間になっても出てこないシルスの様子を見に行ったのも私ですし。

 

 はあ、とため息を吐いて、タブレット端末を起動する。

 容体は安定しているとはいえいざ何かあった時の為に彼から極力離れるわけにはいかないのでここで作業を始める。

 

 シルスは学校に通っていたらしく、四則演算も読み書きも問題ない、加えて昨日の強化キットを使った訓練でも魔術に拒絶反応なんてものが出ていなかった。ならば身体を鍛えるのに加えて実践的な魔術の授業も行うべきか?

 だとして、そうなるとナユタの術式を教えるべきか?

 

 

 所属する以上は彼もナユタの神官の一人、その身に「人造神格」の力を宿す資格はある筈。例え生まれ育った世界が違えど、かの神は決して選り好みしない。多少の指向性こそ持てど平等な「力」でしかないのだから。

 

 ただ懸念事項としてはその力に耐えられるか、道を誤らないか。そして……力を持った以上ナユタの神官としての役目を背負う事にもなる。

 私達が望まなくとも、ナユタという組織がそれを使命とするのだから。

 

 そこに関しては……彼が目覚めてから問いかけてみるしかない。

 

 加えて最低限度、なんとか自衛できる程度の力を得た先……彼の目的である「元の世界への帰還」だ。

 私達も四六時中彼の世界を探し続ける訳にもいかない、私達には私達の役目があるのだから。

 

 だとするとそういう点では、自力で帰還方法を探せるようになって貰えればいい。つまりは「渡航魔術」あるいは「観測術」を教えればいいのだろうか……?

 しかしさすがの私もそこまで詳しいわけではなく、詳しい者の心当たりもない……ナユタの情報書庫なんかで調べる事は可能だろうが……あそこはまさに情報の海であり、墓場でもある。

 

 とても一筋縄で行く相手ではない。

 

 

 最後にもう一つ思い出した事があった、それは私自身の事。

 ナユタ・ハレルという巫女の力と、その対価。

 

 

 私は様々な力を宿す事が出来る、だがその力を行使しすぎれば代償として記憶を失ってしまう。

 ある程度ならば日記などに書き残すなどで対応できるのだが、時折……ナユタの巫女として戦う中でごっそりと記憶を失ってしまう事もある。

 

 本来、ナユタ・シルスという役職はそういった時に私を支える為のモノだった。

 けれど……彼らは私よりも先に皆倒れていった。

 

 それは彼らが弱かったからなどではない、ただ……ただ私と共に使命を果たそうと必死に戦った結果そうなった。

 私の記憶から消えてしまった者達も最後まで逃げなかった筈だ。だからその覚悟を、戦いを無駄にしたくないからこそ、私は今も立ち続けられる。

 

 だから……私は彼にシルスという名と役目を継がせた姉さんの行動を疑問に思う。

 

 姉さんは彼らを、シルスという役職を嫌っていた。なんならナユタという組織の事も嫌っているまである。

 だというのに何故……?

 

 

 わからない事ばかりが、増えていく。

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