序章:終末魔法少女ハレル   作:青川トーン

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戦導2/3

 そこに横たわっていたのは、絶望的な現実。

 目が見えない、息が出来ない。訳も分からないままに死に向かうはずだった。

 

「おやおや、随分と運が悪いのか……それとも運がいいのか」

 

 目を覚ました時には、痛みと苦しみは綺麗に消えていて、そこには一人の女の人が居た。

 彼女は自分をナユタ・アカネと名乗った。巡回をしていたら偶然倒れていた俺を見つけたそうだ。

 

 辺りを見渡せば、広がるのはどこまでも荒れ果てた大地、文字通りの終末世界。

 最初の激痛と苦しみは汚染のせいだという。人の生きられない場所に突然に投げ出されたのは随分と不運だったねと彼女は笑う。

 

 現状を確認すれば次に考えたのは、自分と家族、そして元の世界の事。

 

「俺は……帰れるんですか」

「理論上は帰れるよ、もっとも色々と下準備が居るし……いつ帰れるかはわからない、それに」

 

 その綺麗な顔が暗い笑みを浮かべ、俺はゾッとする。

 

「もしも帰れたとして、元の世界では何百年も経っているかもしれないけれどね」

 

 その目はまるで闇の様に黒く、底なしの深淵を覗いているようで怖かった。でも……俺は恩人に失礼な態度をとるだなんてダサいことはしたくない。見苦しい様を見せたくはない。

 

「そうですか……でも俺は家族に心配はかけたくありません。それに……逆に言えば元の世界の方が時間の進みが遅いかもしれない」

 

 まだ俺は何もしてない、何もしないまま諦めるはきっと違う。かもしれない、わからないなら、未知ならば出来るかもしれない。

 

 陳腐な言葉かもしれないけれど、俺は「可能性を信じる」。

 

 

「かもしれない、か。でもいいのかい?ひょっとしたらもっとひどい事になるかもしれない、さっきみたいに……いやそれよりも酷く痛くて苦しい思いをするかもしれないよ?今なら痛みなく眠らせてあげてもいいよ?」

 

 あのまま見捨てる事も出来たのに態々、俺を生かした上でこんな事を言うのは。

 この人は試してるんだ。さっきまでの事を見れば嘘をつく理由はない、本当にこの世界はヤバいんだ。

 

「わからない、ひょっとしたら死にたいと思うかもしれない。でも今はせっかく助けてくれたんだから、生き残れたんだからやれるところまでやってやる」

 

 だから正直に伝える、この世界の事なんて全然知らない、わかるのは人が住むには滅茶苦茶大変だろうって事と……今ここで助けてくれた人が居るという事だけ。

 

「いいね。それが見栄っ張りだったとしても言い切れるのは、お姉さん嫌いじゃないよ」

 

 フフッとさっきみたいな怖い笑みではなく、穏やかにアカネさんは笑った。

 

 

「歳も近いだろうし、妹の恋人にぴったりだね……君は」

 

 は?はい……?

 俺は耳を疑った、さっきまでこう真面目な感じで、覚悟を問うみたいな感じの話だった筈なのに。突然出てきた「妹」と「恋人」という言葉。

 今までの会話とまったく関係ない話題に、困惑を隠せなかった。

 

 

「うちの妹は随分と危なっかしくてね、おまけに周囲に私が「可能性を感じる」相手がいないものでさ……そんな所に君が来た。君ならきっとあの子の未来を善くしてくれる」

 

 家族思いなのは、なんだか伝わったけれど初対面の相手に妹の恋人にぴったりって何!?この世界にはそんな文化があるの!?俺は元の世界に帰るつもりだぞ!?

 

「どの道、君には行き場はない。私についてくるしか生き残れる選択肢も、帰る為の手段もない……もし仮に君が帰る時が来たとしても……その時にはこの世界で生きていく覚悟が決まってるかもしれないし、うちの妹を君の世界に連れて帰ってくれても私としては嬉しいねぇ。見るからに君の世界の方が平和そうだからね」

 

 目の前の穏やかな笑みがまたしもある意味で怖くなってきた、本当にこの人についていくしかないのか!?いや放り出されても困る……!頭を抱えるが本当に選択肢がない……!

 

「お……俺はともかく、その妹さんが俺を気に入るかはわからないから!そこのところは分かってください!」

「大丈夫さ!きっと君も妹も仲良くなれるさ!なんなら私が手伝ってあげてもいい」

 

 こ……これがいわゆるシスコンという奴!ちょっとマジで怖い!現実になるとちょっと本当に引く!

 でも恋人、彼女って言葉はちょっと惹かれる!こんな時なのに!

 

「ああ……そのはい、よろしくおねがいします」

 

 結局の所、俺が選んだのはアカネさんについていく事。まあ恩を返すという意味だったり、そういう面でもついていく他に俺が選べる選択肢はなかった。

 

 

 連れていかれた先はナユタという組織が管理する屋敷で、そこで俺は「シルス」という新しい名を得た。それはある種のまじない、呪い避けやジンクスであり、本当の名は出さない方がいいとの事だった。

 

 この世界で俺の本当の名を知っているのは、俺自身とアカネさんの二人だけだ。

 何もかもが不安だけれど、それでも俺に「期待」してくれてる人がいると思えば、少しだけマシになった。

 

 

 そして俺は彼女に出会った、アカネさんによく似た雰囲気を持つ彼女こそが「ハレル」なのだと一目でわかった。

 彼女もまたアカネさんに振り回される事が多い様で、突然に俺の面倒を見るようにと押し付けられて困惑していた。恥ずかしながら、今の俺には出来る事は多くないからそれを見守る事しかできなかった。

 

 だが彼女も俺を見捨てるなんて事は無く、結局面倒を見てくれる事になったが……。俺はこの世界の厳しさをまだ少し甘く見ていた。

 

「これ、装備してきてくださいね」

 

 ハレルに渡されたのは「戦闘服」と装備の一式、初めて見る俺ですら理解できるほどの簡単な構造だったおかげで着るのには手間取る事はなかったが……その中にあった銃とナイフは重かった。

 本物の武器、本当に俺が持っていいのか?と戸惑った。

 だけど俺がここに辿り着くまでに見た物を思い返せばきっとこれでも足りないのかもしれない。

 

 朽ち果てた戦車、崩壊した都市の残骸、打ち捨てられたロボットの残骸……漫画やアニメでしか見る事のない、現実味のない景色。そうなった経緯も、これからどうなっていくのかも、全くわからない有様だった。

 

 当然、前の世界含めて俺は戦ったことなんてないし、運動も得意だとは言えない。でもいつまでも時間をかけている訳にはいかないと二つの武器を手に取って指定された場所へ向かう。

 

 

 するとそこは訓練所だった、よくゲームとかで見るアスレチックの様に動き、チュートリアルみたくターゲットがある。

 一つ大きな違いがあるとするならば、これから俺は生身でこれをやらなきゃいけないらしい。

 

 まずは手本と、ハレルが見せた動きは……素人の俺から見ても素早く、華麗で、圧倒的といった言葉が浮かんでくる様なもので……とても真似できる気がしなかった。

 加えてターゲットが撃ってくるのを見たり、足を滑らせて落ちたりしたなら、どうなるんだといった恐怖で俺は足が動かなかった。

 

 

 

 

 だが俺は甘く見ていた、アカネさんも大概こう容赦のない人だったが……ハレルもまた容赦のない奴だった!

 ターゲットロボが一斉にこっちを向いた。

 

「はーい、よーいスタートです」

 

 あ、こいつ……!!ヤバい!

 

 そこからはもう必死だった、何かを考えている暇なんてなくて、体を動かすしかない。

 動かなければ死ぬ。本能というか、直感だけでドローンから逃げ回りながら、銃のトリガーを引く。

 

 何発撃ったかなんて覚えてない、ただドローンが全部動きを止めたとわかったらすぐに動き出す。

 あの容赦のなさだ、ひょっとしたら停止させた奴らを全部再起動してくるかもしれない

 

 そんな焦りから足を滑らせて、足場から落ちる……かと思った時、俺は気づいた。

 空中で動ける、いつまにかすごい速度で動けるようになってる。ジャンプ力もおかしい。感覚もびっくりするぐらい冴えている。なによりも疲れが全然ない。

 

 気づいてからは早かった、何度も落下しながら挑戦して足場地帯を突破して、ゴール前にまで辿り着いた。

 

 このまま行ける……と思った時、体に衝撃と痛みが走り、地面に叩き付けられた。どうやら攻撃に当たってしまった様だった。けど……大したことない!二発目を回避して身を隠しチャンスを探す。

 

 おそらく1発撃てば、隙が出来る。それに狙いは結構正確、何か囮に出来るものさえあればと思いつく。

 ならば使いどころのない、このナイフを投げてみればどうかと思えば、正解だった。

 

 ナイフに向かって発射される光、銃口がこっちに向いてない隙に撃ちこめば砲台は動きを止めた。

 そしてゴールに辿り着いた時、ハレルは信じられない言葉をこちらに向けた。

 

「まずはこの訓練を1分以内でゴールを目指しましょう」

 

 マジに死ぬかもしれんな、これは。

 忘れていた疲労がどっと襲ってきた。

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