この世界に絶対に安全な場所などない、それはこのナユタの勢力圏内でも同じ。
むしろ逆に言えば、ナユタだからこそ狙われるという事もある。
ナユタはその役目により、様々なモノを蒐集し、保管・研究している。中にはあまりに危険で封印を施しているものなどもある。時にはそれを狙って、襲撃を仕掛けてくる者もいる。
降り注ぐ無誘導ロケット弾の雨が火の手を上げる、今度の敵は正面切ってこちらに強襲を仕掛けて来たようだ。敷地内の警備システムが一斉に起動し、ドローンやドロイドが放たれ、タレットが起動しているのを端末タブレットで確認する。しかし困った事に襲撃者の姿がわからない、加えてここ「サイトH1」は前回の襲撃から完全に復旧してる訳じゃなく、人員も私、姉さん、他には警備神官10人に……後はシルスだけ。
彼は論外として、姉さんは現在巡回中の筈、騒ぎに気付いて戻ってきてくれれば嬉しいけれど期待はできない。戦闘音が聞こえる事からもう既に警備神官が敵と交戦状態にあるのは確か。
考える、私のすべき事。
まだ処置を終えたばかりで意識の戻ってないシルスを置き去りにでも、私は迎撃に向かうべきか?
決して警備の神官達を信用していない訳ではないけれど、だとしてもおそらくここでの戦力としては私が一番だ。
相手の目的が何であれ、私は武器を取る。
機関砲、予備弾倉、サブアームにマルチロケットと物理シールド、近接武装としてレーザーブレードを選択、装備。
エンジェルモデル・アズール/アームドフォームへとコンバートする。
敵がわからないなら、こちらから動く他ない。
シルスの傍に彼でも使えそうな武器をいくつか置いて、私は部屋から出る。
するとそこには既に敵のドローンが迫っていた、即座に距離を詰めてそれらをレーザーブレードで両断しつつ、センサーで周囲をスキャン、生体反応はないが熱源、加えて距離はあるが魔術の反応。
安全を確保すべく、手早く、確実に敵を殲滅しなければならない。最大速度で行動を開始、見えるのはドローンに機械歩兵ばかり、それもどこにでもあるような旧式で製造元もはっきりしないもの。
ガラクタで私達の足止めなど出来るものか、全て等しく破壊しながら収容区画を目指す。この施設において最も優先して守らなければならない、そこには数多くの旧時代の遺物、善きものもあれば悪しく忌まわしき兵器も多く眠っている。
ナユタに敵意を持つ者でなくとも、持つ者であってもそこを目指さない理由はない。
センサーがアラートを発し、壁を破壊しながら急速に迫りくる何かに向けて即座に意識を向ければそれは魔法少女だ。
当然ながらそれが援軍であるはずがない。識別コードはアンノウン、ならば敵だ。
迎撃の為に機関砲のトリガーを引き、バリアフィールドによって強化された弾丸が敵へと命中して怯ませる、流石に貫通する程にヤワな相手ではなさそうだ。即座に射線からその身を隠す相手に向けてマルチロケットの軌道を設定して2発放つ。
ロケット残弾6発、遮蔽物の向こうで爆発が起こるが同時にチャフを散布されてセンサーが熱源と魔術反応を捉えられない。ならば相手は動く、その場を即座に離れるとプラズマレーザーが壁を貫いて横薙ぎに振るわれる。
思っていたよりも手慣れ、手強い相手。どこの勢力の者かはわからないが一筋縄ではいかない。
センサーの設定を動体反応の探知へと切り替えたその瞬間に、相対していた敵に加えてもう一つ反応が現れた。それは上空からの攻撃、レールガンの弾体が2発続けて降り注ぐのを回避。破壊された天井から相手の姿を視認。
当然ながら識別はアンノウン、所属不明の魔法少女が2人目。数ではこちらが不利、なおかつ相手の装いを見れば少しばかり被弾した跡が見える。おそらくは警備神官と交戦した上で、それを突破してこちらに来たのだろう。
まずは敵の数を減らす、それ以外に選択肢はない。
空中にいる相手をロックしてマルチロケットを2.1.3発の順で間をおいて発射、回避行動を誘いながら退路を断ち、機関砲の照準を向ける。狙いは武器の破壊、レールガンはこちらの防御を抜いてダメージを与えてくる可能性の高い武器だ。脅威度の優先を誤るな。
フルオートで放たれる弾丸が誘い込まれた相手に接触、バリアコーティングに着弾した際のスパークと火花、そして金属がひしゃげる様な音が聞こえる。そして炸裂音の後にロケット弾が全て起爆、相手は爆炎に包まれる。撃墜したかどうかは今は確認しなくていい。
続いてこちらに向かってくる地上の相手、今の一瞬で距離を詰めながらもプラズマレーザーキャノンの銃口はこちらに向いている。射線にサブアームにマウントしたシールドを割り込ませ、防御。熱線と熱波が周囲の残骸を溶かし、焼き払う中で照射時間を数える。
普通のプラズマレーザーなら3秒も照射すればエネルギーが切れるか、砲身の冷却が必要になる、加えて再度照射を開始するまで0.5秒ぐらいのラグがある。シールドで攻撃を防ぐその間に機関砲をリロード、残弾の無くなったミサイルのコンテナをパージしてデッドウェイトを減らす。そしてレーザーが途切れた瞬間、シールドを即座に解除した上で身をかがめてブースト、格闘戦の間合いに入る。
即座に機関砲を手放し、武器を持つ右手を両手で掴む形でパワーアシストとブーストの遠心力が加わった投げによって地面に叩き付ける、そしてそのままサブアームにマウントしたレーザーブレードを胸の魔法少女システムコアに突き立てて破壊しつつ息の根を止める。これでまず一人。
レールガンでの援護射撃が飛んでこないという事は武器破壊に成功しているということ、ショートダガーを構えてこちらに向かってくるもう一人の魔法少女。味方がやられても動揺する事もなく、冷静に、無慈悲に斬りかかるのをサブアームのマニピュレーターを動かしてレーザーブレードを振るう事で防御しつつ、機関砲を拾い上げる。ダガーに纏わせたバリアがレーザーの刀身を弾いて実体部分である発振器を破壊するのが見える、だが即座に銃口を突きつけてトリガーを引く。
超至近距離からの強化弾による射撃、バリアコーティングによって防御力の強化された魔法少女でもそれは容易く耐えれるものではない。保護層を、装束を、肉体を貫通して銃弾と血の赤が飛び出して、相手はそのまま後ろへと倒れる。
相手がそれなりに消耗していてくれて助かった点が大きい。僅か30秒の攻防だけれど、もしも相手が万全であったら更にこちらが不利になっていた。先に戦闘してくれていた者達には感謝しかない、だがこれで終わりの筈がない。まだ敵は居るかもしれないとセンサーによる索敵を行おうとした時、後ろから振動と殺気に対して咄嗟に動く。
使い物にならなくなったレーザーブレードがアームごと切り裂かれて地に落ちて、右脇腹に熱と痛み、加えて血飛沫。私の血だ。だが怯むな、怯めば後は無い。そのまま反撃に銃身で殴りつけて距離を取る。
「へぇ!やるじゃない!今ので死なないだけじゃなくて反撃までしてくるなんて!」
視線をやれば、そこには心底「楽しい」という感情を浮かべた魔法少女がいた。そして今の一撃の手ごたえからして……真っ当な人間じゃない。殴りつけた機関砲の銃身の方が砕けてしまっている上に、相当の質量を、それも金属の重みだ。そして私にダメージを与えたのは貫手による一撃。素手で防御を貫通してきたと分析する。
即座にバリアコーティングが傷口を止血し、術式と薬液が損傷を修復していくがかなり深いダメージを負った事には違いない。加えて残っている武器はシールドをマウントしたサブアームだけ、だがまだ手はある。無くとも作る、引き下がるべき道はない。対して相手を見れば武装は紫のクリスタル状の刃を持った大剣一つ、だが先程のパワーも含めて謎が多い。
アームズマテリアルを使用し、雪女の力を宿した氷の属性形態「ホワイトフロスト」へと変身する。その特性によって周囲に冷気が噴き出し、白い霧が立ち込める。攪乱と地の利を生かした戦いを挑もうとしたその時であった。
先ほど脇腹を抉られた時よりも強い衝撃を受けて、壁へ、地面へ叩き付けられる。視界がブレて、痛覚さえも麻痺して機能しない、かろうじて手足は動く様だが。感覚が滅茶苦茶になっていては何もできない。
「目的の物は手に入れた、これ以上ここに居る理由も。時間もない」
「トドメは刺しておくべきだと思うけどな」
「それの事は聞いている。これ以上は私達が損をするだけ」
視力が機能していない今、頼れるのはセンサーだけ。光学センサーで相手の姿と、何を奪われたかを確認する。相手はまたしても魔法少女、識別コードでは「エンジェルモデル・セラフ」と認識されていて、奪われたものは封印されていた「エレメントイレイザー」の実機サンプルだった。
こちらに構う事なく、その場を離れる二人の魔法少女。いくらまだ戦う為の手段はあるとはいえ、さすがにこの状態で追跡に向かうのは私でも不可能だ。そんな時、足音が聞こえてそちらに意識をやる。
そこには傷だらけのシルスがいた。おそらくは侵入してきたドローンと戦ってここまで来たのだろう。
今は一刻をも争う事態だ、彼がいくら未熟で、無知であったとしても、今の私には選択肢はない。
「手を貸してください、助けが必要です」
プロローグはここまでです