序章:終末魔法少女ハレル   作:青川トーン

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天使と少年
覚醒1/3


 大きな揺れと銃声で目を覚ました。側にハレルの姿も、アカネさんの姿もなく、俺は石台の上に寝かされていて、あったのはいくつかの武器。どこか妙に体の調子がいい、自分じゃないみたいに力が溢れている。

 

 だがそれよりも今は、大変な事が起きている様な気がする。

 機械の駆動音が聞こえ、何かが近づいてくるのに気づいた俺は即座に拳銃を手にして、教わった通りに銃弾が入っているか、安全装置が解除できているか確認してドアへと銃口を向ける。

 

 ドアを蹴破って現れたのは人型のロボット、その手には銃。今の今まで寝かされていた石台を遮蔽物にして射撃から身を守り、即座に反撃に出る。狙うのは首と頭と相手の武器、信じられないぐらいにハッキリ目に見えるし、手には力が入る。そしてトリガーを引く。

 

 思ったより反動がなかった、いや……自分の力で抑え込めることが出来た。続けて二度、銃弾を放てばロボットは怯み、横を向くがそこで背中に見えたモノ、そこにははっきり危険を示すマークが描かれていて、俺はそこを撃った。

 

 すると赤い光が放たれ、見るからにヤバいと思った俺が隠れるとロボットが爆発し、破片が飛び散る。

 弱点なのは違いないけれど、下手に狙わない方がいいな……と思いながら俺は立ち上がって拳銃をリロード、加えてライフル銃と、手榴弾を手に取り、最後にハレルに貰ったナイフを装備して部屋を出る。

 

 絶え間なく、銃声と破壊音が聞こえてくるのは……きっとハレルが戦ってるに違いない、ならば俺は……俺はどうするべきか考える。

 

 足手纏いになるかもしれない、そうでなくても死ぬかもしれない。

 俺はふと廊下の先に赤い血溜りができているのを見つける、駆け寄ってみれば、それは仮面を被ったナユタの神官の人だった。確か、アカネさんが言うにはこの施設の警備をしている人達で、胸には大きな穴が開いていて……明らかに死んでいた。

 

 なのに俺はそれに恐怖を感じる事はなかった。あったのはそれは決して他人事ではないという自覚、もしも戦わなければ自分もこうなるのだという、現実。

 

 今も銃声は続いている、俺はそれが聞こえる方へと走る。

 T字路の先の柱を盾にして戦っている警備神官の人が居た、撃たれた足に処置をしていて、その通路の奥からドローンがやってくるのが見えた。俺は即座に狙いをつけて、ドローンをライフルで狙撃するが一撃では落とせなかった。しかし銃声で気づいたその人は即座に拳銃でトドメを刺して難を逃れる。

 

「新人か、助かった。見ての通り俺はまともに動けない。他に今ここで生き残ってるのは俺と警備システムの一部、それとハレル様。加えてアカネ様は今、この施設を離れている……故にハレル様の援護を頼む、おそらくは収容区画の方に居るはずだ」

 

 ハレルが使っていた端末タブレットと同じものを渡され、それが収容区画へアクセスする為の鍵だと説明を受けた俺は迷いなく走る、途中でドローンやロボット兵士と遭遇するも変わらずに破壊して、セキュリティゲートを言われた通りに突破する。

 

 そこで俺が見たのは、白と紫の装束を纏った……黒髪の少女だった。

 ハレルでも、アカネさんでもない……加えてあの人の言葉が正しければ、それは敵だ。

 

 彼女はその手によくわからない機械を持っていて、今まさに収容区画から出てきた所であった。

 本能的にわかる、今の俺が敵う相手じゃない。立ち向かっても無駄に殺されるだけ。ここに辿り着くまでに見た人達の様に。

 

 それでも何故か、俺は逃げる気にはならなかった。恐怖感が麻痺してしまったのかもしれない、目の前の少女が綺麗だったからかもしれない。ただ銃口を向けた。

 

「……君もバカなの?自分を犠牲に出来てしまう手合い?」

 

 紫色の目に見惚れてしまったからか?いや、圧倒的な力の差、格の違いを見せられたからか、声が出ない。

 

「ナユタなんて良い所じゃない。どうせその覚悟と信念を理由に死んでいく事になる……だからやめておいたほうがいい。まだ君はナユタに染まり切ってないから、生き残りたいならナユタから出ていく事をおすすめするから」

 

 それだけ言うと彼女は光の翼を広げて飛び上がる、俺は結局撃つことは出来なかった。それよりもハレルの姿が見えない。まさかもうやられてはいないか、不安になってくるがそれでも信じて、収容区画の通路を駆けていく。そこには様々な機械やガラクタの様なもの、なにかまじない染みたなにかが保管されているが……今はそんなものに興味はない。

 

 中央通路を通り抜け、反対側の出入り口を抜けた先に広がっていたのは凄まじい戦闘の跡、そして倒れている二人の魔法少女に……瓦礫に背を預け、血を流すハレルの姿だった。

 

 幸いな事に彼女は生きていた、しかしその腹部には大きな傷が出来ていてとても無事と言える状態ではなかった。

 

「助けが必要です、手を貸してください」

「何をすればいい?」

「まずはダメージをどうにかしなればなりません、こちらへ」

 支持されるままハレルの傍に近寄ると彼女の手が青白く光り、それをこちらへ差し出す。それを握り返せば俺の中に何かが流れ込んでくる様な感覚がする。

 

「あなたに私達の力の一端を、人造神格の力を分け与えました。どこかおかしい所などはありませんか?」

 ハレルの声が二重に聞こえる、視界が広がったようなで。むしろ見えないのにそこに何かがあるのが理解できる。一気に感覚が増えた事に眩暈がする。

 

「大丈夫ですか?」

「少し待って欲しい、今一気に何かが変わったせいでよくわからなくて」

「……私の見ているものが見えますか?」

「ああ……見えるよ、俺の姿も」

 

 段々と慣れてきた、これは俺の感覚だけじゃなくて……ハレルの感覚も入ってきているんだ。

 

「本当なら別の方法であなたに力を与えるべきだったのですが、余裕がありません。まずは指示に従って、医療キットを取ってきてください。道中は私がナビゲートします」

「……お前動けないだろ」

「どんなに距離があっても、今の私とあなたは繋がった状態なのです。同じ力を分かつが故です」

 

 そんな便利な使い方があるのか、何にしろ指示に従う他ない。今の俺にはハレルの状態もまた同じ様に感じ取ることができる。結構なダメージを受けていて、普通の人間なら間違いなく死んでいる……まさに致命傷という状態だが……何故か彼女からは「死」の危機感を感じない。

 

 疑問に思いつつも、俺は端末タブレットを見て医療キットの保管場所を検索する。すると襲撃による被害によっていくつかは赤く塗りつぶされた状態……使用できない状態にあって、一筋縄ではいかないと思いながら駆けだす。

 キットの数は足りる筈、ならば先程足を怪我していた彼の方にもキットを届けるべきであろう。

 

『警備神官の生き残りの方がいたのですか、ならば確かに今は少しでも力を借りたいところです。その方の方にもキットを届けて、戻ってきてください。最短ルートはわかりますね?』

 

 突然に俺の頭の中にそんな声が響いてきて、思わず驚いてタブレットを取り落としそうになった。人の考えを勝手に読むのはやめて欲しい!さすがにビックリするし!恥ずかしい!

 

『申し訳ありませんが、今は非常時なのでそんな気遣いはできませんよ』

 

 まったく、俺はアカネさんだけでなくハレルさんにまで振り回されるのかとため息を吐いて先を急ぐ。そういえばアカネさんが今ここにいないのは何故だ?

 

『姉さんは現在、連絡の為の巡回を行ってる筈です。この世界では電波障害もひどく、通信網も殆ど死んでいる状態です。ですのでこういった施設内の管理ネットワークシステムや……広くても都市単位でのネットワークぐらいしか用意できず……人やある程度以上の自律機能を持ったドローンで情報を運んでいるのです』

 

 なるほど、非常に不便だ……でももしアカネさんの巡回業務がなけりゃ俺は拾われる事なくあの場で死んでいたと考えると複雑な気持ちだ。

 

『パンドラの箱の逸話の様に、どんな最悪の中でも、何か一つ輝く希望があるかもしれないということです』

 

 俺は「そんなものか」と答える。

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