序章:終末魔法少女ハレル   作:青川トーン

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覚醒2/3

 途中、撃ち漏らしの敵ドローンを掃討しながら辿り着いた場所はまったく手付かずで、弾薬や武器も手付かずで置いてあり、その中から医療キットを見つけ出す。ナユタの施設は有事の際のリスク分散の為に、物資は複数個所に分かれて保管してあるとの事でこの襲撃でも多くの区画が破壊されたものの、こうして無事なモノもあった。

 

『その中から二つ取って欲しいものがあります』

 

 白いケースの中に入っていたのは血の様な赤い液体の入ったパックと、粘土の様なもの。本当に大丈夫なのかよこれ!と目を疑う、他には包帯や注射器の様な見慣れた物もあるがこの粘土は一体なんだ。

 

『かつて多くの神話において、神が人を作り出す為に粘土を使いました。それをナユタが魔術的に再現した特殊なモノです。傷口や欠損した部分などにこれを埋め込んで馴染ませれば大体はなんとかなります』

 

 そんなプラモデルとかフィギュアじゃねえんだから!と思いながらも指示に従い、持てるだけポーチに入れて。加えて他にも必要そうなものを聞いてリュックに詰め込む。それと使った分の銃弾を補給して……ハレルの分の武器も持っていきたかったがさすがに魔法少女の強化前提の武器までは運べない。

 

『……とにかく、今はそれでいいです、すぐにルート通りに戻ってきてください。少し嫌な予感がします』

 

 嫌な予感、それを聞くと俺はすぐさま行動に出る。当然先程の様な敵との遭遇を考慮して銃の安全装置を解除して。生き残りの警備神官の人が居た場所へと向かう、だがそこで俺は妙な気配を感じる。

 何かが見ている、あるいは動いてる、ドローンじゃない何かだ。

 

 

 暗い道の奥で見えるのは白い人影、さっきの人か?確か白い服に身を包んでいたが、フラフラとしているのは怪我をしているからだろう。そう思って俺は駆け寄ろうとして足を止めた。

 

 それは文字通り、白い人影でしかなかったのだ。

 

『怪異です、襲撃で守りが崩壊したから侵入してきた様ですね。倒してください』

 

 嘘だろ!お化けまでいんのかよこの世界!即座に拳銃を向けて引き金を引くが、ぼんやりしてやがるせいか銃弾があまり効いている気がしない!

 

『何か有効な手段ないのかよ!』

『エネルギー弾に切り替えてください、質量武器は効きづらいです』

 

 即座に拳銃のモードを切り替えてエネルギー仕様にすると今度は白い影の様な奴は弾け飛んで霧散した。いくらなんでもちょっと効き目が違いすぎないか?

 

『そのエネルギー弾は持ち主の生体エネルギーの一部を使って撃ってますからね、加えて今のあなたは私の力を共有している状態で影響を受けていて、怪異や妖魔といった相手に有効になっているのです』

 

 とりあえず効果があるという事だけわかればいい、だが今の敵を見て一つ心配事が出来てしまった。

 いや、むしろそれは確信だったのかもしれない、俺は駆け足で廊下を進むとそこには、さっき助けた人が倒れていた。遅かったんだ。

 

『……仕方のない事です、彼らも私達も常にこうなる覚悟を持ってナユタで戦っています。彼の体に触れてください、遺された力を受け取りましょう』

 

 触れたその体からは体温が感じられなかった、仮面の下はどんな表情をしているのか見えなかった、ただ温かい何かがこちらに流れ込んでくる気がした。

 

『これは彼の宿していた人造神格の力です、ナユタの神官や巫女はこうやって倒れた者の力を受け継ぐ事ができるんです。覚えて置いてください』

『ずっとこうしてきたのか?』

『はい、ずっと昔……それこそ誰も覚えていない程に昔から私達はそうしてきました。私も多くの力と役目を受け継いで来ました』

 

 よく言われる一族に生まれた使命や宿命という奴か。だとして……それでもか、俺にはその覚悟がわからない。きっとナユタの人達にとっては大切な事なんだろうけれど、俺はまだそこに踏み込めない。

 

『それでいいのです、正直に言えば私達がおかしいだけなのです。普通はもっと自分を大事にして、逃げたり隠れたりして、生き残ってこそなんです。シルスがナユタに染まる必要はないのです』

 

 ハレルの言葉にふとさっき出会った魔法少女の言葉を思い出す。

《まだ君はナユタに染まり切ってないから、生き残りたいならナユタから出ていく事をおすすめするから》 まるでその在り方を見て来たかのような言葉、もしかして彼女は。

 

『さっき、俺は収容区画を通った時に敵の魔法少女に会った。ナユタの事をよく知ってる様な事を言っていた』

『でしょうね、私もおそらくはその魔法少女によって痛手を負いました。彼女は私の能力を知っている様でしたし、何よりも収容していた物品を知っていましたからね……おそらくはかつてナユタに所属していた者か、その関係者でしょう』

『前にもこんなことがあったのか』

『よくあることですから、恨みを買う事も、力に魅せられる事も』

 

 さも当然かの様に答えるハレル。その言葉には諦めを含んでいて、どうしようもないのだと言っている様だった。俺はハレルの元へと向かう足を速める。

 

『ナユタは多くの危険な物品を集めています、それが人を害する事のない様にと。しかし同時に使えるのであれば、使う事もあります。その過程で……力を独占すれば、あるいは利用すれば自分の願いを叶える事が出来るのではないかと考え付く者が現れるのは道理です。加えてそうでなくとも、それを求めている誰かに売りつければ、自分は利益を得る事が出来るというのもありましょう。自分勝手ではありますが、欲望というのは簡単には制御できるものではありませんからね』

 

 それはまるで優しく諭すかの様に、自分に言い聞かせるかの様で、そしてその誰かを許すかの様な言葉だった。

 

『ですが……だからこそ止めなければなりません、中にはそれこそただでさえ滅びている世界を更に破壊する事になりかねない物……人類を今度こそ絶滅させるかもしれないものもありますから』

『だったら、早く取り戻さないとな』

 

 もしもこの世界がこれ以上滅茶苦茶になれば俺が元の世界へ帰る所でもなくなるし、ハレルやアカネさんも更に大変な目にあうだろう。通路を駆ける、足に力が入る、手に力が籠る。

 

 再び白い人影の様な妖魔が、今度は複数体同時に現れる。それを撃ち抜きながら歩を進める、そして壁をすり抜けて黒い影の様な手が俺の右手を掴むが、今は恐れよりも……戦うという意志が勝った。

 その影の手を逆に掴み、力を込めて引きずり出して床に叩き付けて、踏みつぶす。

 

 受け継いだ力が俺を強くしてくれているのか、それとも俺が今……怒りに燃えているのか。有象無象が道を阻むなと蹴散らす。

 

 もうすぐでハレルの居る場所へ到達しようとするところで、ガラスを破って異形の影が飛び出した。

 ヒトの形をしていないのに、人の部品を使った様なバケモノ、意思疎通も出来るような見た目ではないし、まさに怪異というしかない。

 

『なあ、こいつらは何なんだ』

『そうですね、人の怖れや苦しみ、時には血肉を餌とするものを怪異と称します。その発生は様々ですし、個体によっては狡猾であったり邪悪であったりもします。ですが……正直言ってしまえばただ単に厄介な害獣です。ナユタの仕事の一つとしてこういった怪異の駆除も含まれています』

『なるほどな、わかったよ。つまりは容赦しなくていいんだな?』

 

 今の俺は何故だかすごく機嫌が悪い、多分この世界の残酷さというか、理不尽さに怒りを覚えている。人間同士の争いだけじゃなくて、こうして傷ついたり弱ったりしている所を狙ってくる化け物にも。

 

 俺はショットガンに銃弾を込め、駆けだした。

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