序章:終末魔法少女ハレル   作:青川トーン

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覚醒3/3

 目の前の敵はこれまで蹴散らして来た怪異やドローン、ロボットとはまるで違う。異様な気配を発しながら、悪意を持ってこちらを凝視してくるが……今はこんな奴に時間を取られる訳にはいかない。

 

 即座にショットガンを向けるが、その瞬間そいつはこちらへ飛び掛かってくる。放たれた弾丸を浴びて血飛沫を撒き散らしながら奴は吹っ飛ぶが何事もなかったかのように受け身を取って立ち上がる。二足歩行に三本の左腕に四本の右腕、頭部らしき部分から垂れさがる黒い長髪はまるで触手の様で腰まで伸びており。おまけに目玉は見当はずれの場所から数えきれない程に顔を出していて、不気味を通り越した嫌悪感を感じる。

 

 加えて奴は実体がある、流れ出す赤黒い血と奴が突き破ったガラスの欠片がその証拠だ。だが同時に血が流れるならば、殺せる筈だ。

 

 もう一度銃口を向けると奴はそれよりも早く横に跳躍して、明らかに銃口を避けて行動し始める。二本の腕と二本の足で壁に張り付き、そのままこちらへと向かってくる怪物の攻撃を俺は同じ様に壁を蹴って走る事で回避して奴が宙に浮かんだ瞬間に引き金を引いた。再び銃弾を受けて怯んだ奴に向かって、俺は追撃の手を止めない。3発目・4発目の弾丸を続けて放ち、その気色の悪い物体を破壊していく。

 

 腕が千切れ飛び、動体の半ばから裂けた怪物はそのまま地に落ちてのたうち回ったかと思えば、更に手足を生やして2体に分裂して行動を再開し始める。まずいと思いながら5発目・6発目を下半身から分裂した個体に撃ちこんでその動きを止めるが、上半身から発生した奴が俺を飛び越えて廊下の向こうへと逃げていく。

 

 まだ息の根が止まってない様な分裂体に加えて3発撃ちこめば、ようやくくたばったようで黒い塵となってそいつは消えたが、俺は嫌な予感がした。あっちには……あの人の遺体があったはずだ。

 

 闇の奥からビタビタビタと不揃いな足音が聞こえてくる。怖気が走る、だがそれよりも……俺の心に痛みの様な熱が走る。そいつはあの人の体を取り込んで、再生・巨大化した状態で戻ってきた。

 

 ふざけるな。

 

 激しい怒りが湧きだす、同時に俺に宿る力が最適解を導き出す。奴に向かって駆け出し、触手の様に振るわれる長い腕を回避し、その胴体へと飛び乗り銃口を突きつけて引き金を引く、引く、二度目の攻撃が来るのを飛び越えて奴の後ろに着地、そのまま振り返ってショットガンを連射、足を吹き飛ばされた事で奴がバランスを崩して転倒したのを見て俺はグレネードを手に取り、駆けだす。

 

 そしてピンを抜いた後に奴の傷口にグレネードを埋め込んで、曲がり角の陰へと隠れる。次の瞬間爆発と共に黒い肉片と赤い血が飛び散って、奴は跡形もなく消し飛んだ。

 

『まずい事になりました、急いでください。今の怪異が他にもいるかもしれません』

 

 どうやら俺はまだ休んでいる暇はないようだ、ハレルの言う通りもう一体、同じ様な奴が廊下の奥からやってきた。それは今倒した奴より二回り以上に巨大で、おまけに俺の見間違えでなければ銃を持っていた。

 

 これまで自分が向けてきた武器がこちらへ向くより早く俺は駆けだした、だが考える。今の奴をハレルの所にまで連れて行っていいのか?あの状態では満足に動けない筈。

 

『レーザーライフルで援護射撃します、構いません』

 

 その心配は無用といわんばかりにハレルは冷静にそう言う、ならば今は信じるしかない。とてもじゃないが今の武器で相手をするには無理があるというのは俺にだってわかる。

 

『おそらく、他の神官の遺体を食ったのでしょう。ならばなおさらに奴を生かして返す訳にはいきません。奴から奪われた分の力を取り返さなければ、多くの犠牲が出かねません』

 ああ、なによりも死んでいった人達が報われない。人の死を侮辱する様な奴は……許せない。足音が近づいてくる殺気を感じて回避すると一瞬遅れて銃弾が降り注いだ。

 

 ロボットと違って怪異からは明確な殺意が見える事で回避が容易ではあるが代わりに強い悪意が纏わりつくようでより強く意識してしまう。更に破壊跡にへばりついた黒い粘体が動き出す。おそらく奴の一部なのだろう、それがこちらに向かって飛び込んでくるのも回避して、俺は走り抜ける。

 

 そしてハレルの姿が見える場所に辿り着いた瞬間、ヒュンと風を切る音に続けて、金属音がなった。目をやれば、そこにはピンの抜けたグレネードが落ちていた。黒い粘液がついてる事から奴が投げたのは一目瞭然だった。

 

 俺は咄嗟に力の限りそいつを蹴り飛ばす。爆発の衝撃と熱が襲い掛かってきた。

 

 

 

 

 どのくらい落ちていたのか、全身が痛く、動かないが、それでも俺はまだ生きていた。自分の目が見えない、確かハレルの近くまで行けた筈だ。ならば見えるかと視界を共有すれば、怪異の奴がこちらへと向かっている最中だった。なによりも最悪なのは医療キットが吹き飛ばされて散らかっている事、奇跡的に手足が千切れないもののズタボロになってる俺以上にそっちの方が問題だ。

 

 ハレルに俺の意識がまだある事が伝わったようで、力が入らないながら体を動かして、射線を確保して、奴に向かって引き金を引いた。

 

 熱線が奴の一部を吹き飛ばすが、それでも奴は止まらない。俺は死力を尽くして残ったグレネードへと手を伸ばす。

 

 浮かぶのは母、父、妹、友……そしてアカネさんに、ハレル……なるほどこれが走馬灯か、とそして最後に浮かんだのは、敵である筈のあの魔法少女。

 

《……君もバカなの?自分を犠牲に出来てしまう手合い?》

 ああ、あれは何か嫌な事を……それも悲しい事を思い出した様な目だ。確かにな……せっかく拾った命だしな、それにアカネさんにまだ何も返せてないや。それにハレルから伝わるのは、嫌だという感情。

 

 手にしたグレネードのピンを抜き、怪異に向けて投げつける。再び爆風が迫りくる中で俺は初めて自分の意志で「防壁」の魔術を使って、ダメージを防ぎながら勢いでハレルの方へと転がる。

 

 まだ俺は生きてる。それに死んでやるつもりもない。

 顔を向ければ、怪異の奴は今度はハレルが倒した魔法少女の死体まで取り込もうとくらいついていた。どの程度強くなるかはよくわからんが純粋にデカくなって、回復するであろうのは想像に難くない。

 

『困ったな、どうする?』

「……手はあります、ですが。あなたにも手伝ってもらう必要があります」

 

 それは確信を持った声だった、ただ同時に不安と躊躇いもまた籠っていて、本当に取るべき手段なのかと迷っている様に感じた。

 

「どちらにせよ、私は生き残れるのですが……あなたを生かすにはこの手段しかありません」

 

 彼女は一呼吸置き、覚悟を決めた様に言う。

 

「私と一体化してください、そうすれば私は本気を出して戦える状態になります」

『いいぜ、そこにどんなリスクがあったとしても。俺は構わない、やってやる』

 

 きっとこの世界の事だ、またロクでもない代償や対価を求められるかもしれない。でもそんなものクソくらえだ、今の俺は……頭にきている。何もかもに当たり散らしたい気分だ。

 

 ハレルと俺は手を伸ばす、光が広がる。力がみなぎると同時に……見えない闇の底に落ちていく様な感覚に陥るが……あえてその中へと飛び込んでいく。そしてその先にある「力」を右手で掴んだと同時に、世界が塗り替わった。

 

 

 天へ向けて伸ばしていた右手が視界に入る。

 それは俺の手ではなく、ハレルの手だった。

 

 加えて言えば、俺の体はハレルの姿になっていて。意識は俺と私の二つ。

 まさに一心同体となっていた。

 

 そして俺達の纏っている力、規格魔法少女システム「エンジェルモデル・アズール」が真の姿である「エンジェルモデル・アズライール」への変化しているのに気づく。

 ハレルもまた予想外であったかのように驚くが、それでも不具合そのものはなく、むしろ調子はいつもよりいいと伝わる。

 

 こうして二人一つとなるのは不思議な感覚だけど、それよりも今は……奴を倒す。

 その意思を込めて、俺達はファイティングポーズを取った。

 

 

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