うちの娘は絶対に次元一可愛いし、娘のためならたぶん何でも出来る気がする。 作:るーにー定食
いくら日頃から熱心に仕事をしていても、働き詰めになればしばらくは何もしたくなくなるのである。
時空管理局。次元世界における司法機関であり、各次元世界の管理・維持を務め、通称管理局と呼ばれる組織。
その本部にあたるのが、時空管理局本局。一つの大きな町を抱える巨大な艦船であり、次元空間に浮かんでいる。
そして、その一角。本局に勤める職員用に与えられた区画の内の一室。
我が上司用にと割り振られたその部屋は地獄の様相をしていた。
デスクに散乱しているカップラーメンなどのインスタント食品のゴミの山に、デスクに乗りきらず床にまで散乱している書類の山。
さらに、休憩用に設置されたソファには魘されているのだろうか、
「仕事ぉぉ……仕事がぁ……終わんないぃぃ」と苦しそうに呻きながら寝転んでいる眼鏡をかけた女性。
さらにさらに、ソファが占領されているため、寝転ぶことすら出来ずに、
書類だらけのデスクに頭を乗せ、寝ている金髪の女性。
こちらも魘されているのか、「うぅ、報告書が……報告書がぁ」と苦しそうに呻いている。
そしてそんな二人を横目に、自分でも分かるボサボサの髪に、恐らく若干血走っているであろう目でひたすらに報告書や引き継ぎ資料に文字を打ち込んでいる俺。
全員、もれなく目の下にひっどい隈が出来ている。
そう、ここは俺と、ソファで寝ている俺の同僚──シャリオ・フィニーノ──の上司であり、デスクに突っ伏している金髪の女性──フェイト・
つまるところ、俺、
「フェイトさん、フィニーノさんも。そろそろ起きてくださいよ」
「うぅ……仕事ぉ……うっ」
ダメだこりゃ。フィニーノさんは起きそうにないな。まあ四徹とかいう人類の限界に挑んだんだから無理もないか。
ちなみに俺とフェイトさんは三徹という人類の限界ギリギリに到達している。辛い。
「ん……ふぁぁ……って、ごめん!私寝ちゃってた!?」
「おはようございます、フェイトさん。だいたい1時間ぐらいは寝てましたよ」
「ううっ……起こしてくれても良かったんだよ?」
「いや、流石に三徹もしてる人を起こすのは忍びないというか……」
「それは陽彩も一緒じゃない?
「いやまあそれはそうなんですけどね」
まあ流石に仕事の量に耐えきれなくて結局起こしてしまったんだが。
とはいっても、この中で一番寝てないのがフィニーノさんなのは間違いないんだが、じゃあその次に寝てない人はってなると、フェイトさんになるんだよな。俺のほうが睡眠時間長いのに、俺より短い人を起こすのは起こすのはどうなんだ?と思わないこともないわけで。
それに、俺一人でも頑張ったらある程度は仕事も進むしな、と考えたら起こせなかったのだ。
「てか、久しぶりにこんな連続で徹夜しましたね」
「そうだね~、普段ならあまりこんなことないんだけどなぁ」
執務官とその補佐である俺達の仕事は、普段からも残業に次ぐ残業ばかりで、お世辞にもホワイトとは言い難いが、それでもこんなに徹夜することは滅多に無いのだ。
それがなぜこんな有様になっているかというと、事の発端は三ヶ月前に遡る。
新暦75年一月。フェイトさんの親友である八神はやてさんの新部隊、古代遺物管理部機動六課の試験運用開始まで残り約三ヶ月といったところ。俺たちは本局の司令部から、二ヶ月間の次元航行パトロールの打診を受けていた。機動六課への出向が控えており、行くのはどうかとも思ったが、まぁ二ヶ月程度なら出向まで一ヶ月もあるし、引き継ぎ資料の作成も艦内ですればいいかと思い、俺たちは了承したんだが……。
この時の俺たちは完璧に忘れていたんだ。次元航行の期間なんて何かあったら簡単に延びるということを……。
最初に見つけたのはフィニーノさんだった。時空管理局所属ではない個人・組織が次元航行船を所持、及び航行をするなら管理局への申請が必要なのだが、航行中の俺たちの前にいる船は申請をしていなかったのだ。
そのこともあり、停止するように指示及び警告をしたのだが、止まる気配はなくさらには逃亡をする始末。
そんなことを当然管理局が見逃すはずもなく捜査を開始したのだが、転移魔法を使われたりと厄介なやつが多く、なかなかに長引いてしまった。当然、そんな中で引き継ぎ資料の作成なんて出来るはずもなく……。極めつけは次元航行期間が二ヶ月から三ヶ月に延びてしまった。
まあ全員捕まえることはできたんだけどな。今はそいつらの裁判の手続きだの、捜査の報告書の処理をしている真っ最中である。
ダラダラとこんな事を述べてみるものの、結局は迂闊だった俺達の自業自得である。
そして、現在。機動六課出向まで約二週間。俺たちはこんなに必死こいて徹夜しながら事務仕事をしているのだ。
「そういえば、陽彩はお引越しの準備終わった?」
「全然終わってないですね。この仕事終わったあとにまだ荷造りがあると考えると死にそうです。フェイトさんはどうなんです?」
「私は大丈夫、わざわざアルフが来てくれて全部やってくれたんだ〜」
「ぐぬ、羨ましいぃ。やっぱそういう同居人みたいな人がいると助かりますか?」
「そうだねー。お仕事が忙しいときは、やっぱり助かるよ。疲れて帰ったときも美味しい料理を作って待っててくれるし」
「ぬぅ、聞いてるだけで羨ましくなってきたな……」
「陽彩はそういう、その、恋人みたいな人、作らないの?」
「恋人は正直、仕事が忙しいから良いですけど。同居人みたいな人はほしいです」
「それはちよっと難しいと思うな……」
残業終わりに疲れて帰った時に、洗い物だの洗濯ものだのが溜まってるのを見ると、控えめに言って死にたくなってしまう。
誰か頼むから俺の代わりに家事だけでもしてくんないかな。
別に仕事はしなくて良いから。
なんていうくだらないなんの生産性の欠片もない話をしている間にも、俺とフェイトさんの手は動いていて、高速で案件を処理していく。
はぁ〜めんどくせぇなマジで。こんな細かいところまで報告いる?
いるからやってんだろうな……。
ちなみに、なんでこんな話をしているかというと、寝落ちをしないためである。今にも手を止めたり、会話を途切れさそうものなら意識は深い闇の彼方に飛んでしまいそうなのだ。
割とガチの方で、俺もフェイトさんも限界なのだ。フェイトさんも仮眠を取ったとはいえ、たかだか一時間である。
なんだかんだで、積まれていた資料や報告書が高速で消化されていく。
やっぱ当たり前だけど、二人でやったほうが速いな。
そこからしばらく、適当に話をしながら、手を高速で動かしているうちに。
「「や、やっと終わった──!!」」
苦節約四日間。たまに休憩を挟んだりはしたものの、ほぼぶっ通しで仕事をし続け。
ようやくその苦行が終わった。まだ事務が終わっただけでやらなければいけない仕事は他にもあるのだが。
「ふぅ、ちょっと休憩にしよっか」
「そうしましょうか。あ、コーヒー飲みます?」
「うん、じゃあお願いしよっかな」
「はいはい、ちょっと待って下さいね」
まあコーヒーを淹れると言っても、ただのバリスタからコップに入れるだけなんだが。フィニーノさんの分は……、寝てるし別にいいか。起きたらまた入れればいいだろう。
コーヒーを入れ終わったあと、バリスタの横に常備してあるコーヒー用のミルクスティックをフェイトさんのものに入れる。
そして、寝てるフィニーノさんの対面にあるもう一つのソファに移動していたフェイトさんにコーヒーと持ってきていたミルクスティックを手渡す。
「はい、出来ましたよフェイトさん」
「うん、ありがとう」
そう言ったあと、フェイトさんは俺が手渡したミルクと机においてあった角砂糖をドバドバと入れ始めた。ミルクに至っては既に丸々一本俺が入れているのに、だ。ちなみに、
ああ、せっかくのコーヒーがよく分からん謎のゲロ甘ジャリジャリドリンクへと変貌していく……。
まぁ、既にフェイトさんのもとで仕事をして約三年。見慣れた光景ではある。あるんだが……。
「あの、フェイトさん。持ってきた俺が言うのもなんですけど。マジでそれ飲むのやめたほうがいいですよ」
「大丈夫大丈夫、子供の頃から飲んでるけど今まで何もなかったんだし。それに、糖分って疲れた脳に良いんだよ?」
「いや、いくら良いとしても限度があるでしょ……」
やっぱりこう、苦言を呈さざるを得ない。だって明らかに体に悪いじゃん、あれ。飲んだことあるけど、くそ甘くてめっちゃジャリジャリしてたし、気合で飲みきったあとのカップの底に半透明の結晶が無数に沈んでたの見て、震えたもん俺。
てか、このゲロ甘ジャリジャリドリンク飲んでるの、この人だけじゃないんだよな。
何故かは知らんが、フェイトさんの実家、ハラオウン家の一家団欒の場に何度かお邪魔させてもらったことがある。いや、まじでなんで呼ばれたのかは未だに分かってないんだけど。
それで、その時にフェイトさんのお母さん、リンディ・ハラオウンさんにナチュラルにこのドリンクを出されて泣きそうになったことは今でも覚えている。やんわり断ろうとしても、遠慮せずにって言われて出されるし、上司の母親で、しかも管理局の上層部の立場の人なので普通に断ることもしにくいしで、地獄を見た。まあその時はフェイトさんのお兄さんで次元航行部隊の提督も務めているクロノ・ハラオウンさんに助け舟を出してもらって事なきを得たんだが。
「ふぅ……」
仕事の合間のコーヒーブレイク。デスクに無数に積まれている書類の山と目の下の隈と徹夜三日目ということにさえ目を瞑れば優雅なものである。
「いやぁ、にしてもやっとですね。機動六課」
「そうだね、はやても嬉しそうにしてたよ。やっと夢のスタートラインに立てたーって」
機動六課、本来の名は古代遺物管理部機動六課。レリックという作成時期も用途も、全く何も分かっていない第一級捜索指定ロストロギアとかいう聞くだけで分かる激ヤバな代物を集めるために作られた、フェイトさんの親友で幼馴染の八神はやてさんの部隊である。
俺が八神さんから機動六課の話を聞いたのは三年前、フェイトさんのもとで働き始めて数ヶ月が過ぎた頃である。
まぁその時はまだ六課の名前も、どんな部隊になるかの概要も分かっていなかったが。
ただ漠然と、ほぼ身内と新人だけの新部隊を作ることと、フェイトさんも入ることになっているから、俺にも入ってほしいことを伝えられたのだ。
いや、あれはどちらかというと確定事項みたいな話だったか……。
このままフェイトさんのもとで働くならうちにも来てもらうことになるからよろしく、みたいな話だったような気もする。
というかあの人、どんな部隊かもわかってない状態からわずか三年で設立まで漕ぎ着けたんだよな……。
そう考えると、八神さんってやっぱり凄いなぁ、あの人まだ19歳だろ?それで部隊長なんだからやばいよな。出世街道まっしぐら、というやつである。
あ、機動六課といえば……。
「そういえば、フェイトさんってFW陣の新人二人の試験見に行ったんですよね?どんな感じでした?」
「いい感じだったかな、二人とも爆発力はあるし、コンビネーションもバッチリだし、なのはの教導をちゃんと受けたら良い魔導師に育つと思うよ」
「なるほど…………高町さんはなんて言ってました?」
「大体は私と同じかなぁ、ただちょっと、危なっかしいところもあるから、心配かもって言ってたね」
俺たちが三ヶ月の次元航行から帰ってきたのは約一週間前のこと。そこから三日間の休日のあと四日間、家にも帰らずずっと執務室で仕事というまあまあなハードスケジュール。
そして、新人二人の魔道士のBランク試験があったのは五日前のこと。
お分かりだろうか。なんとフェイトさんは休日返上でわざわざ試験を見に行ったのだ。
俺もフィニーノさんも家で爆睡していたというのに、である。
たまにこの人は俺と同じ人間なのかと疑う時がある。さすがに体力有り余り過ぎではないだろうか?
「というか、陽彩ってまだなのはのこと、名前じゃなくて名字で呼んでるんだ……」
「うぐっ……いやまあこっちにも、その、事情がありまして……」
「……なのは、悲しんでたよ?」
ぐぐっ、これは地雷を踏んだか……。
高町なのはさん。俺と同じ地球出身の時空管理局本局教導隊所属で、「不屈のエースオブエース」の異名を持つ少女。短い間ではあったが、昔、管理局に入る時に教導を施してくれた人であり、色々なことが重なって、少しスレていた時期の俺を、まともにしてくれた恩人とも言える人である。
俺が管理局入りしたのは、中学に入学したのと同じ時期で、その時に高町さんの教導を受けたので、これでも高町さんと出会ってから四年、実はフェイトさんや八神さんよりも付き合い自体は長いのだ。
その分、罪悪感がやばいんだが。何か分からないけど呼ぼうとしたら詰まっちゃうんだよなぁ。ほんとに何なんだろう。フェイトさんのことを最初に名前で読んだときも同じ感じだったんだが、高町さん相手はあまりにも長すぎる気がする。
「ぐぐぐっ、あっ、そ、そうだ!シグナムさんがエリオとキャロ迎えに行ったんですよね!?フェイトさんはもう二人にあったんですか?」
「すごい露骨に話題逸らすね……」
「どうです?元気そうでした?」
「ううん、実はまだ会ってないんだ。ビデオで画面越しにはお話したんだけどね、元気そうだったよ」
「な、なら良かったです……」
ふぅ、危ないところだった。あのまま高町さんの話を続いていたら、俺が罪悪感で死にそうになるところだった。
エリオとキャロ、フェイトさんが数年前に保護した子供達であり、機動六課の前線メンバーである二人である。
エリオは俺がフェイトさんが出会う前に保護した子で、キャロに関しては俺がフェイトさんのもとで働き始めてから少しして、保護された子である。
二人と会ってからは、フェイトさんやフィニーノさんと一緒に何かと気にかけている子達である。
ちなみに、なかなか会う機会がなくて、エリオとキャロ同士は未だ面識がないというなんとも言えない感じになっている。
二人があった時にどんな反応をするか、楽しみだ。
「シャーリー、起きないね」
「そうですね……、まあ俺たちが来る前から頑張ってくれてましたし、もう少し寝かしてあげましょう」
「うん、そうしよっか」
フィニーノさんがソファで寝始めてから、約四時間。未だに起きる気配はなし。
いつの間にか、苦しそうな聞いてるだけで気分が落ち込みそうな寝言も止み、気持ちよさそうに寝ている。
おっと、喋っていたらそろそろ休憩時間が20分を超えそうだ。
ソファから立ち上がり、ぐっと伸びをする。
体の節々からパキ空きと音が鳴り、気持ちいい。
「そろそろ、仕事しましょうか」
「だね。あともう少し、頑張ろう」
そんな事を言ってフェイトさんはテンションを無理やりあげようとしているが。
「「……はぁ」」
俺もフェイトさんも日頃からそれなりに熱心に働いているわけだが、それでも、デスクに大量に積まれている書類を見ると、ため息を吐きながらこう言わざるを得ない。
「もう当分は、働きたくねぇなぁ……」
黒髪赤眼、身長148cmの見た目ショタっぽい17歳。
フェイトそんの補佐官として働いて約三年。それなりに顔がいい。小さい時から成長したらいい男になると言われていたが、残念ながらあまり成長しなかった。そのせいでよく見たら顔はいいのだが、その前に身長のせいか子供っぽいイメージが先行するのかあまり気付かれないというなんとも言えない残念な感じになっている。