うちの娘は絶対に次元一可愛いし、娘のためならたぶん何でも出来る気がする。 作:るーにー定食
あの忌々しい山岳部のガジェットとの戦闘から数日。
現在、FW陣の早朝訓練も終わり、俺たちは隊舎の食堂で皆で朝食を摂っている最中である。
「相変わらず飯の量少ねえのな、お前。その量でよく動けるよなぁ」
「ふふん、低燃費で動く極めて効率のいい体と言ってほしいですね」
「そんなんだから身長伸びねえんだよ」
「は?喧嘩売ってます?」
「お、やんのか?」
「まあまあ二人とも、食事中に喧嘩はダメ。お行儀が悪いよ?」
くっ、高町さんに言われたら引き下がるしかないな……。
覚えておけよヴィータさん、この借りはこのあとの模擬戦で返してやる……!
ヴィータさんもいつでもかかってこいみたいな顔してるしな。は?人のこと煽っておいてなんて顔してんだ……!
許せねぇ、絶対ボコボコにしてやる。
勘違いしてほしくないんだが、別に俺とヴィータさんの仲は悪いわけじゃない。
むしろ良いほうだと俺は思っている。模擬戦の回数だって二番目に多いし……。
ちなみに一番はフェイトさんである、次元航行船の中でよくやってたからね。
最初のうちはナカジマたちも、俺たちの煽り合いを見て止めようとあたふたしてたが、今では「ああまたか……」みたいな顔をして平然と食事を口に運んでいる。
慣れるの早くないか……。
「でも実際、陽彩くんのご飯の量は少ないわよね、医務官の立場からしたらちょっと心配になっちゃうぐらい」
「これでも限界ギリギリまで食べてるんですけどねぇ……」
流石に出動のことも考えてパンパンに食べてるわけじゃないが、それでも腹八分ならぬ腹九分目ぐらいまでは食べている。
ただ、それでもキャロと同じぐらいか、少し少ない程度である。よく考えたら10歳の女の子に飯の量で負けてる17歳って何……?
そのレベルの少食なので、スバルとエリオが食べてる量見てたら胸やけ通り越してちょっと吐き気がしてくる。
なんなのあの子たち、健啖家とかいうレベルじゃなくない?
確かに10歳と15歳っていったら、食べ盛りの時期ではあるが。
ちなみに俺は食べるのもだいぶ遅めである。胃も小さければ一口も小さいというわけだ。
なんだお前、生きるの下手か?
「ラケーテンハンマァァァ!!」
「ぎょわあああ!?」
ヴィータさんのグラーフアイゼンをモロに喰らい、木々を何本か薙ぎ倒し地面に転がる。
くっそ、めっちゃ痛ぇ!
「そこまで!この勝負、ヴィータちゃんの勝ち!」
があああああ!!
また負けたァ!!!!
ふざけんな!何だこの幼女強すぎるだろ!!
「へっ、今日もあたしの勝ちだな」
「くそが、次は勝ちますからね……」
「そのセリフ聞くのももう何回目になるだろうなぁ?」
がっ、ぐっ、ぐがっ、ぐぎぎぎ……。
あまりの悔しさにもう一度挑もうか考えるレベルだが、負けた後すぐにやっても勝てる未来が見えないのでギリギリと歯ぎしりをするしかない。
今に見てろよ、絶対に次はギッタンギッタンのケチョンケチョンにしてやるからな。
……さて、思いっきりヴィータさんにボコボコにされたところで。
今の模擬戦は勉強になるかもしれないということでナカジマたちにも見られている。
つまり俺の痴態もバッチリ見られたというわけだ。
おかしいな、こんな予定じゃなかったんだけど……。
俺の脳内ではヴィータさんに輝かしい勝利を収めている姿が見えていたんだが……。
どこで何を間違えたんだ?
まあつまり何が言いたいかというと……。
「……そろそろ訓練始めません?」
真正面から喧嘩買ったくせに、普通に負けたのが恥ずかしいので、早くやらない?ということである。
「……切り替え速くないですか?」
「甘いなランスター。俺ぐらいのレベルまで負けが込むといちいち気にしていたら何も手につかなくなる」
とはいえ負けたら暴れ散らかしたりたい気分にはなるが。
やめろやめろ、それで良いのかみたいな顔をするんじゃないFW陣。言っている俺でさえも腸が煮え繰り返りそうになってるんだから。
そもそもなんで俺はこんなに負けてんだよ。
「それじゃあ陽彩くんの言うとおり訓練、始めようか!」
「はい!!」
さっき俺が負けた屈辱の場所から、森の中の少し広けたよくわからん形をした障害物が置いてある所へと移動する。
移動してきたメンバーはライトニング分隊のみ。
他の人は別の場所でやるらしい。まあ皆ポジション違うからね。
「エリオとキャロは、スバルやヴィータみたいに頑丈じゃないから反応と回避がまず最重要。例えば……」
広場の中央、直射弾を発射するスフィアに囲まれた状態からフェイトさんが教導を始めた。
今からフェイトさんが二人に教えるのは基礎的な回避アクションである。
「こうやってこんな風に」
そう言いながら軽快に飛び跳ね、フェイトさんが向かってくる弾を次々にかわしていく。
「まずは動き回って狙わせない」
スフィアの自動ターゲットが外れフェイトさんを見失い、探すためにぐるぐると回る。
「攻撃が当たる位置に、長居しない」
エリオやキャロにもよく見えるように弾速は遅めに設定してある。
仮に、フェイトさんや俺をポジションに当てはめるとするならば。
フェイトさんはガードウィング、俺はたまにガードウィングっぽい動きもするが多分センターガードになるだろうか。
「これを低速で確実にできるようになったら、スピードを上げていく」
フェイトさんからの目配せ。
俺はそれに頷きを返し、スフィアの弾の弾速を上げていく。
直射弾の雨の中をフェイトさんが高速で駆ける。
いや、マジで掠りもしねぇな……。まあ当たるわけがないとは思っていたが……。
高速で駆け回っていたフェイトさんだったが、やがてスフィアに囲まれてしまった。
スフィアの弾が全弾発射され、フェイトさんが立っていた場所に土煙が立ち上る。
「あっ……」
「こんな感じにね」
「えっ!」
弾が着弾する直前、フェイトさんは驚異的な踏み込みで加速し弾をすべて避け俺たちの後ろに回り込んでいたのだ。
というか普通にエグくない?フェイトさんが通った地面えぐれてるんだけど……。
「す、すご……」
「今のもゆっくりやれば誰でもできるような基礎アクションを早回しにしてるだけなんだよ」
「は、はい…………」
ちなみに俺はこういう動きは実は苦手だ。
まあ一応センターガードだからね。こういうのは打たれる前に潰すようにしている。
「そうだ陽彩、少し勝負しない?」
「勝負、ですか?」
「そう。制限時間は二分、その間に陽彩がスフィアを操作して、私に弾を当てられたら陽彩の勝ち」
「当てられなかったら俺の負け、ですね」
「どう?やってみない?」
「良いですよ、負けても泣かないでくださいね」
「そもそも模擬戦で負けても泣くのは陽彩ぐらいじゃないかな…………」
は?あったまってきたな……!
俺をまるで泣き虫みたいに言いやがって……!
こんだけ多く喧嘩を売られるということは俺が舐められているということに他ならない。
普通、人類っていうのは負け戦なんてものはしないからな……。
自動制御状態にになっていたスフィアの制御権を俺に移す。
ふふん、さっきヴィータさんに負けた鬱憤、晴らさせてもらうとするか……。
というかフェイトさん、いつになく好戦的だな。珍しいぐらいである。
「それじゃあこの石を私が投げて、地面に落ちたら開始の合図にしようか」
「了解です」
一拍。
フェイトさんも俺も深呼吸を同時に挟み、そしてフェイトさんが天高く石を放り投げた。
石なんてものは端から眼中にない。音でわかるからな。
見つめるのはフェイトさん、その足元一点のみ。
加速の初動を全弾発射で潰して、俺の勝ちだ……!
カッ、という少し甲高い音が耳朶を打つ。
その瞬間、10個のスフィア全砲塔から直射弾を発射し、フェイトさんの足を狙う。
全弾が発射される直前、同時にフェイトさんが空高く跳んだ。
足元を狙った弾は全て外れる。
いや、まだだ。まだ慌てるような時間じゃない。
フェイトさんは周りにある二股に別れた木の幹のような障害物を足場として使い、高速で飛び跳ねながら三次元機動をして直射弾を回避していく。
当たり前だが、さっきはエリオたちに見えるように遅く動いていたが、今はその必要がないのでめちゃめちゃ速い。
…………あ、当たらねぇ!!
何そのアクロバティックな動き!?
この人壁蹴りとかできんの!?
ぐっ!ス、スフィアの動きが追いつかん!
直射弾だから弾も曲がらないし……!
……というかよく考えたら、スフィアから出す直射の弾なんかフェイトさんに当たるわけなくない!?
くそァ!!もしかして俺嵌められた!?
その後も結局、残りの二分間はフェイトさんが変態機動をかまし続け俺の弾が当たることはなかった。
……なんか今日の俺負けてばっかじゃないか!?!?
「……さっきと言ってること違くないですか?壁蹴りなんて普通誰もできませんよ……」
「ご、ごめんね。ちょっと楽しくなっちゃって……」
楽しくなってつい変態機動をしちゃうってなに???
「さてと、お遊びはこのあたりにして。それじゃあ二人とも、最初はゆっくりで良いから一度やってみようか」
「はい!」
は?あの動きしたあとで普通に教導続けられるのバケモンだろ……。
フェイトさんとの屈辱の勝負からしばらく経った頃。
エリオとキャロの回避訓練を見ていると……。
『 My lord. It's about time 』
「えっ、マジか。もうそんな時間か……」
アイテールの無機質な機械音声が響いた。ううむ、どうやらそろそろ準備をしなければならないらしい。
八神さんを待たせるわけには行かないからな。
「あっ、そっか。この後はやてと外回りだっけ?」
「はい、なので申し訳ないんですが……」
「ううん、大丈夫。こっちは気にしないでいいよ。行っておいで」
許可をもらったので海上フィールドから隊舎に戻る……と、その前に。
「それじゃあエリオ、キャロ。訓練頑張ってな」
「はい!」
エリオとキャロに声をかけた後。
一度隊舎に戻って持っていく資料を確認し、早めの昼食を摂る。
その後に詳しい車名はわからないが、なんかこう……ジープみたいなやつを隊舎の入り口まで回しておく。この前、港湾地区に行ったときと同じものである。
よし、後は八神さんが出てくるの待ちだな。
「あ、陽彩。車回してくれてたんやね、ありがとうなぁ」
「いえいえ、このぐらい補佐官やってたら当然ですよ」
「そんなもんかなぁ」
「そんなんもんです」
他の補佐官との交流なんてあまりないからよく知らないけど。
なんていう事を話していたら訓練場の方から高町さんたちが歩いてきた。
「あ!皆お疲れさんや!」
「はい!」
あいもかわらず、訓練後のFW陣四人はボロボロである。
ちなみに予め高町さんとヴィータさんから訓練内容を聞いていたのだが、一番やばいと思ったのはヴィータさんのやつである。バリアの強度を上げるためと、攻撃を受けても吹っ飛ばされないように、一生グラーフアイゼンでぶっ叩くとか、聞いたとき恐怖で体が震えたからね。
いやマジでナカジマの無事な姿を見れてホッとしている。
「三人とも外回り?」
「はいです、ヴィータちゃん!」
「うん、ちょおナカジマ三佐とお話してくるわ。スバル、お父さんやお姉ちゃんになんか伝言とかあるか?」
「あっ!いえ、大丈夫です」
「そっか。なら良いんよ」
まあ時々、ゲンヤさんたちにメールを出していることは聞いていたし、今から伝言を頼むこともないんだろう。
……そろそろ時間かな。
「事故ってはやてとリィンにけがでもさせてみろ、絶対に容赦しねぇからな」
「ひぇ、気をつけます……」
「ふふっ、信じとるで、陽彩」
こっわ、ヴィータさんの目がガチだし八神さんの信頼も重い。
なんか緊張してきたな。今までの運転で一番気をつけねばならないかもしれない。
まあ元から注意するつもりではいたんだが……。
「じゃあはやてちゃん、リィン、陽彩くん。いってらっしゃい」
「ナカジマ三佐とギンガによろしく伝えてね」
「うん、それじゃあ陽彩」
「了解です」
エンジンをかけ、車を発進させる。
いやなんか緊張して変な汗出てきそうでマジで嫌だな……。
「いってきまーす!!」
リィンさんの元気な大きい出発の挨拶とともに隊舎を後にする。
いやマジで頼む、事故らないでくれ……!
心臓バクバクの地獄の運転をしばらく続けた後。
なんとか無事に陸士108部隊にたどり着いた俺と八神さんは部隊長室に通されていた。
「久しぶりだな、八神。それに陽彩坊も。どうだ、元気してたか?」
「それなりには、ですかねぇ」
というか、いい加減に陽彩坊って呼び方やめてくれないかな……。
もう坊っていう年じゃないんだけど……。
「八神も新部隊の方、なかなか順調そうじゃねぇか」
「そうですね、今のところは」
「しかし、今日はどうした。古巣の様子見に来るほど暇な身でもねぇだろうに。わざわざ陽彩坊まで連れてきてよ」
「ふふっ、愛弟子から師匠へのちょっとしたお願いです
二人が話していると、部隊長室にブザーが鳴り響く。入室許可を願うノックのようなものである。
ゲンヤさんがはいよ、と言って声をかけると、入ってきたのはお茶を持ったギンガとリィンさんだった。
部隊長室に通される前に、八神さんと話した後にどこかに飛んでいったから不思議に思っていたが、どうやらギンガととお茶を入れにいっていたらしい。
前は八神さんもリィンさんもここに所属していたから、どこには把握済みなんだろう。
まあかくいう俺も、何回か遊びに来てるから何となく分かるんだが。
「八神ニ佐!お久しぶりです!それに陽彩も。半年ぶりぐらいかしら?」
「ん、だいたいそんなぐらいか、久しぶりだな。ナカッ…………ギンガ」
「?ふふっ、何、今の?」
……脳がバグった。
長いことスバルの方のナカジマと過ごしていたせいで、呼び方が分からなくなってしまった。
というこう見たら、二人共よく似てるよな。
ナカジマ(スバル)なんて髪切ってちょっと幼くしたギンガにしか見えないもん。
……くそっ、頭の中で呼んでてもややこしい!
「なんだお前、スバルのこと名字で呼んでんのか?」
「会って数週間で名前呼びはちょっとハードル高くないですか?」
「そんなもんかねぇ」
第一、高町さんや八神さんもまだ名字呼びなのに、先にナカジマやランスターを名前呼びするのは、なんかこう……。
ちょっとどころか大分、気が引けるというか……。
ちなみにさっきから八神さんは俺のことをジト目で見てきている。
すみません。いつか、いつか呼ぶんで……。
今は勘弁してください。
「……まあええかな。それでですね、ナカジマ三佐にお願いしたいことというのは……」
ここからは部隊長同士の話だから、俺は邪魔になるかな……。
俺がついてきたのだって、陸士108部隊の協力が得られたときの打ち合わせ要因だし……。
あと切実に八神さんの視線から俺が逃げたいというのもある。
ギンガとリィンさんと目を合わせ、頷きあった。
よし、八神さんが本格的な話をする前に退室しよう。
「それでは、俺はこのあたりで失礼します」
「おーう、今は昼休みだからな。適当に過ごしておくといい」
「はい、じゃあ八神さん。また後で」
「うん。そのうち呼ぶと思うから、ゆっくりしといで」
「了解です。それじゃあ、失礼します」
部隊長室からギンガのデスクまで移動した後。
「それでそれで!六課でのスバルってどんな感じかしら?元気にしてる?無理はしてない?他の隊の人と仲良く出来てる?」
「多い多い多い近い近い近い」
めちゃめちゃ詰め寄られてナカジマのことについて聞かれた。
そんな一気に聞かれても答えられわけないだろ!!
こういう所も似てるよな……。姉妹揃ってちゃんと人の目見て話すし……。
「……まあうまく言ってるんじゃないか?別の分隊だからあんまり分かんないけど。うちの分隊の子とも仲良くしてるし……」
「……良かったぁ」
心底安堵したような様子でギンガが背もたれにもたれかかる。
すると、突然リィンさんがクスクスと笑いだした。
何……?
「ちょ、ちょっとリィン曹長!なんで笑うんですか!?」
「ふふっ、ご、ごめんなさい。ギンガらしいなって思ったら、つい……」
「私らしいってなんですか?」
「ギンガがスバルのことがだーいすきってところです!」
「……あー、確かに。ちょっと分かるかもしれないです」
「陽彩まで!?」
ギンガといっしょにご飯食べてたときとか、ナカジマのことしか話さなったときあったもんな……。
「というか、ナカジマからメールもらってるんだろ?そこまで心配することか?」
「だ、だって……スバルは私の大切な妹で家族なんだもの。どんなふうに過ごしてるのかはやっぱり知りたいわ」
……家族、家族か……。俺にはよく、分からないな……。
何ていうことを考えていたら、突然目の前に巨大なウィンドウが現れた。
写っているのはラッド・カルタス二等陸尉。ギンガの先輩であり、昔俺も良くしてもらった人である。
普通に考えて事してたから、急に出てきてびっくりしたな……。
「やあギンガ、今から八神二佐の要請で……おっと、陽彩もいたのかい?久しぶりだね、元気にしてた?」
「はい、お久しぶりです。ラッドさん」
「そうか、なら良かったよ。それで、早速で悪いんだけど今から会議室で打ち合わせだ。陽彩も来てくれるかい?」
「あ、了解です。すぐ行きます。……というかこっちの案件なんだから行くのは当たり前なんですけどね……」
「ははっ、それもそうだね。それじゃあ、八神ニ佐といっしょに会議室で待ってるよ」
ラッドさんがそう言ったあと、ウィンドウが掻き消える。
下らないことを考える前に、やるべきことをやらなくちゃな……。
_______________________
現在、カルタスさん達との打ち合わせも終わり、ゲンヤさんとギンガ、八神さんとリィンさんと外で食事中である。
なんかめちゃくちゃ日本っぽい居酒屋だな……。
昔来た日本人が広めたんだろうか?
「うん、了解や。すぐ戻るから対策会議しよ。ちょうど捜査の手も借りれたところやから」
「分かった、先に戻って準備しておくね」
「うん、そんならまた後で」
といっても、すぐに終わりそうなんだが。大半を食べ終わったぐらいで、フェイトさんからの緊急通信がかかってきたのだ。
どうやらこのレリック事件の犯人に繋がる手がかりを掴めたらしい。
ということで今から隊長陣を集めて対策会議である。
「あ、じゃあ先に車回しておきますね」
「うん、ありがとうなぁ」
「いえ、それではゲンヤさん、ギンガ。また」
「おう……またいつでも来い、歓迎してやる」
「またね陽彩。連絡、待ってるわ」
脱いでいた上着を持って立ち上がる。っと、その前に……。
伝票に手を伸ばしそうとした瞬間に、横の八神さんにズラされる。
「支払いのことは気にしなくてええよ?」
「……はぁ、了解です」
おかしいな、こういうのって普通部下が払うものじゃないのか?
よく考えたらフェイトさんも高町さんも俺に払わせてくれたことあんまりないし……。
……まあいいか。
車の鍵を持って店から出る。
外はすでに暗くなっている。事故らないように気をつけなければ……!
陽彩が退店した直後。
「……なあ八神や」
ゲンヤが真剣な顔をして口を開いた。
その顔を見て、はやても思わず背筋をピンと正す。
「……何です?」
「……陽彩坊のこと、よく見てやってくれや。あいつは過去を消化したつもりなんだろうが……」
「ああ……」
傍から見て、陽彩が過去のことをまだ引きずっているのは一目瞭然である。
それが最もよく見えるのは、陽彩のその戦闘スタイル。
実のところ、風早陽彩に近距離戦闘の才能はあまりない。
現時点でもスバルやエリオと近距離でやり合ったら、普通に負けることもあるようなレベルだ。
そのことは陽彩自身もよく分かっている。
にも関わらず、近距離・中距離戦、どちらも有効であるといった場合には、陽彩は近距離魔法を選ぶ傾向が強い。
これはは陽彩も自覚している悪癖だ。
ならばなぜそう選んでしまうのか。それは偏に彼の過去が関係しているから。
「大丈夫です、私もよく見ておくつもりですし。それに……」
「……それに?」
一拍。
そしてはやては、満面の笑みを浮かべて。
「うちの隊長陣は優秀ですから!」
自らの親友たちへの信頼を露わにした。その言葉に、ゲンヤは一瞬面くらい……。
そして。
「……ハッハッハ!そうかそうか、なら安心だわな!すまん、余計なことを言っちまった」
盛大な高笑いを上げた。
この場に陽彩の過去を知らないものは居ない。
はやてとギンガはすでに本人の口から聞いてるし、ゲンヤに至っては関わりがある。
機動六課でも主要メンバーは知っている。
知らないのは、それこそ新人FW陣の四人ぐらいだろうか。
「悪ぃ、急いでるってのに時間取らせちまったな。俺からはこんだけだ」
「いえ。その助言、有り難くもらっておきます」
「それじゃあ、私もこれで失礼させて頂きます」
そう言ってはやてが立ち上がり、陽彩からズラして引き寄せた伝票を持とうとする。
が……。
今度はゲンヤに引き寄せられてしまう。
「あっ!そんな〜」
「ほれほれ、引き止めちまった俺が言うのもなんだが、陽彩坊の他にも部下を待たせてんだろ?さっさと行ってやんな」
「……はい」
渋々といった様子ながらもはやては頷く。
そして一度敬礼をした後、退店していった。
「やっぱり陽彩のこと、気になる?」
「まあな……。昔、面倒見てたやつらの置き土産みてぇなもんだからよ、何かと気になっちまうんだわ……」
しんみりとした空気を払うためにゲンヤがパンパンと手をたたく。
「ほれ、俺たちもまだまだ仕事残ってんだ。さっさと食って隊舎戻るぞ」
「……そうね」
そう言いながら、緩慢とした動きで二人は箸を動かし始めた。
陽彩の悪癖についてですが、なのはたち相手にそんな舐めた真似はできないので無意識に中距離に偏ってます。