HOLY NIGHTMARE   作:グランド・オブ・ミル

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悪夢との遭遇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『またも魔導士大活躍!』

 

『魔導士の少年少女達、ヴィラン組織を一斉検挙!』

 

そんな報道が今日もあちこちから聞こえてくる。今の世の中はまさに異能社会。人類が"異能"という特殊な能力を持つようになって約百年ほど、乱れる世の中で犯罪を繰り返すヴィランやテロ組織に"魔導士"というヒーローの需要が爆発的に高まった。

 

そのおかげで今はどこもかしこも魔導士、魔導士だ。才能のある者は片っ端から政府主導の魔導士協会へ召集され、未成年の内から魔導士として指導される。異能というのは若い内から鍛えた方が大きく伸びるからだ。

そうして早い内から戦士となった若者達が人々を守るために戦うヒーローになる。

 

 

 

 

 

「……はぁ」

 

彼らのおかげで日々の平和は守られている。それは確かだ。しかし、世の中は平和であればいいというものではない。そんな世界では少なからず割を食う者達もいる。

 

ため息を吐きながら街中を歩くこの男、一橋和哉もその一人である。

 

黒いスーツに身を包んだ和哉は同じく黒のカバンを持って街をとぼとぼと歩く。黒髪の中肉中背で平凡な顔立ちの青年だが、浮かない顔をしているせいで何となく冴えない印象を受ける。

 

現在大学生の和哉は就活の真っ最中で、今は面接の帰り道だった。だがその顔から察するにあまり手応えはないらしい。

 

 

 

しかし、上手くいかないのは和哉だけの責任ではない。前述したように今のこの世界は異能社会、和哉のように職も上手く見つからない人間は珍しくないのだ。

何せ優秀な異能を持つ人間は早い内から協会にスカウトされ、力を使いこなす英才教育を受けて魔導士として成長し、そのまま魔導士関連の職や国家公務員などになることが多い。

 

言わば和哉くらいの歳になっても職を探しているような者の多くは、国から大した才能を持っていない余りものと断定されたに近いのだ。

多くのテロ組織や怪人が横行しているこの時代、民間企業も身を守るためにできるだけ優秀な魔導士を欲しているし、それでも日々の戦いの余波で資産などが破壊されてぽこじゃかと潰れていく。

 

なければ人々の生活基準が著しく低下してしまうような事業は国営化されて守られているが、それがかえって和哉のような人間を職に就きにくくしている。

 

 

異能という過ぎた力を手にしてしまった人間社会の弊害。今の世の中は魔導士のように様々な場所で活躍する上位層と、職を得ることすら難しい下位層が極端に別れてしまっていた。

 

 

「…まぁ、もとからそんなに期待してなかったけどな……。また落とされた…。どうすっかなこれから…」

 

和哉はそうぼやいて街を歩く。

彼も決して劣っている人物ではない。大学まで進学して成績不振になることのない優秀な学力を持っているし、一般常識程度のビジネスマナーは一通り身に付けている。新卒の就活生としては良い部類に入るだろう。

だが彼の持つ異能が優秀ではなかった。彼の異能は『言霊』。話す言葉に魔力を乗せて説得力を増したり、トークが上手くなる力だ。どうしても地味で、最も求められている戦闘力という面では役に立たない。

 

 

異能という個人の力の優劣が如実に出てしまう力が当たり前になった世界で、その力が弱かったり能力を有していない者は確かにチャンスが少ないのだ。

 

 

「…まぁ、ぐちぐち言ったって仕方ないか」

 

コンビニでも寄って漫画でも買おう。それで気晴らしするんだ。そう思った時、ふと和哉は自身の足元に不思議な生き物がいることに気づいた。

 

 

「………」

 

「……何だこれ?」

 

ずんぐりとしたまんまるボディの一頭身、ぱちぱちとしたつぶらな瞳にぷくっとしたほっぺたを持つ邪気も何にもない可愛らしい生き物だ。

 

「え、何? ほんとに何なんだこいつ」

 

一瞬ヴィランか怪人じゃないかと警戒した和哉だが、その生き物があまりにものほほんとしていて悪意なんてこれっぽっちも感じられないことから毒気が抜かれた。どこからともなく紙を取り出したそいつは、その紙と和哉の顔を何度も見比べる。

 

 

「…うわ、何か増えたし」

 

しばらく観察していると、同じ顔をした生き物がもう二匹増えた。オレンジ色の体色をしたその生き物達は身振り手振りで何かを話し合っている。言葉は話さないのだろうか。そう思って耳を澄ませてみると、たま~に「わにゃわにゃ」としゃべっているのが聞こえる。

 

 

「………」

 

「……な、何だよ?」

 

__バッ!

 

「あっ! こら待て!」

 

やがて話し合いが終わったのか、一匹が和哉の前に立ってじっと見上げてくる。無表情で見つめてくるそいつに不気味さを感じていると、唐突にその生き物は和哉のカバンを奪って走り去った。

 

「待てこらっ! 返せーっ!」

 

生き物達は和哉から逃げながら入り組んだ路地へ入っていく。和哉も入って必死に後を追う。

 

 

そうやって追いかけっこをしていると、いつの間にか和哉は見たこともない場所へ迷い込んでいた。さっきまでビルとコンクリートに囲まれた街中にいたはずなのに、そんなものは微塵も感じさせないのどかな草原。穏やかな風が肌を撫で、ひらひらと綺麗な蝶々が飛び回る。

 

「何だよここは……? 一体どうなってんだ?」

 

まるで夢の中にでも迷い込んでしまったかのような状況に和哉はきょろきょろと辺りを見渡して困惑する。

 

__とててっ!

 

「あっ! 待て!」

 

そうしていると、視界にカバンを持って走るあの生き物が映った。和哉はあの生き物がここへ迷い込んだ原因だと考え、一層本気になって追いかける。

 

走っている内に草原を抜け、和哉は丘を登っていた。山と言うほど大きくはないけど、都会に住んでいれば中々見ない小高い丘だ。登っている最中あちこちから同じ顔をしたあの生き物が合流していつの間にか周りはオレンジ色のまんまるだらけになった。

 

 

 

「あれは……お城か?」

 

そんな調子で丘を登りきると、そこには大きな建物が建っていた。一見すると砦のような二段造りの簡素なお城。レンガで造られたそれには目のような模様が付いていて、入り口の門と合わせて見ると顔のように見える。

周りにはあの生き物達がたくさんいて、遊んだり、掃除や洗濯などの家事をしたり、槍を持って兵士のように巡回したりしている。和哉のカバンを持った一匹は門から城の中へ入っていった。

 

和哉も恐る恐る中へ入ってみる。

 

 

 

「__よしよし、良い人材を見つけてきてくれたね」

 

その城は、入ってすぐの階段の少し登ると真っ正面に玉座があった。そこには一人の少女が座っていて、ここまで和哉を誘導してきた生き物の頭を撫でていた。生き物は嬉しそうに目を細めている。

 

とても不思議な雰囲気を持つ少女だ。前髪の一部分にメッシュが入って白い黒髪を持ち、前髪で左目が隠されている。頭から生えた大きな二本の角が威圧感を、首に巻かれた赤いマフラーがスタイリッシュさを醸し出している。

 

 

 

「__ようこそ、聖なる悪夢の世界へ。"カスタマーサービス"、歓迎するよ」

 

少女は立ち上がると、ゆっくり和哉の方へ歩み寄ってきた。背は和哉の方が大きいはずなのに、帝王のようなその風格は山のように大きく感じられる。

少女は和哉の目の前まで来て右手を差し出す。

 

 

「どうだ、私の右腕になって一緒に夢を見ないか? とびきり悪~い夢を、ね」

 

 

これが、和哉の運命を大きく変える悪夢との遭遇だった。

 

 

 

 

 

 

 







・同じ顔をしたまんまるの生き物
言わずと知れたカービィシリーズのザコキャラ、ワドルディ。アニメでのワドルディは日常業務からデデデ城の管理、果ては美術館の建設まで出来ちゃうすごい奴。この世界において主人公が最初に生み出した魔獣。


・丘の上のお城
初代カービィで登場したゲーム版のデデデ城。カービィに負けたデデデが吹っ飛ぶ度に天井に穴があく。ワドルディに造ってもらった現主人公の住まい。


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