二話目です。
待ち合わせ場所につくと親友のネッドがこちらに手を振っていた。
ネッド・リーズとケントは初等学校に入学したときからの友達だ。アウトドアよりインドア、スポーツよりゲーム、そしてお互い勉強の成績が良かったためいつの間にか友達になっていた。
「やあ、ケント!遅かったじゃないか!」
「おはようございます。Mr.ネッド。まだ、待ち合わせ時間前でございますよ。」
「………」
「………」
「ケント、いい子量産計画は失敗だ」
「だな。そもそも、餌で釣ろうなんて考えが間違ってる」
「あ、でも先生がこの一月で遅刻者ゼロ、宿題提出率100%、テストの平均点16点アップだって大騒ぎしてた。」
「先生ともあろう人がなんてことだ。もっと僕たちの真の成長を見つめてほしいものだよ」
「あと、教頭先生が鼻歌歌ってた。教員用トイレの前で」
「………あの笑わない教頭先生が?よっぽどだな」
「俺たちは所詮数字でしか評価されない哀れな子羊なのか」
「やめろよネッド。スタークエキスポはあと一年続くんだ。僕らはこれからも数字を先生に捧げ、偽りの人格を張り付けた不自然な生徒を演じなくちゃいけないのさ」
「ま、つまらない話はここまでにして。今日まわるパビリオンの話をしよう。俺、パンフレットに丸をつけてきたんだ」
そう言ってネッドは折り畳んだパンフレットを取り出した。大規模な遊園地程の敷地で行われるスタークエキスポは1日で回りきれるような生易しい広さではない。よっぽど計画的に回っても全てのパビリオンを見るのに三日はかかるだろう。
ケント達に許された時間は1日。その1日でどこをまわるかは非常に重要な問題だった。
ネッドのパンフレットにはいくつもの丸印が描かれていたが全てを1日でまわるのは到底無理だろう。
「ネッド、さすがにこれ全部は無理だろ。メイおばさんも回れて四つくらいって言ってただろ」
「わかってるけどさ。選びきれなかったんだよ。どれも面白そうでさ。あ、でも特にこのリパルサー技術展示があるパビリオンは行ってみたい!宙に浮く車に乗れるなんて滅多にないぜ!」
「いいな!アイアンマンの飛行技術はリパルサー技術らしいしそこは必ず行こう!」
「よし!あとは………」
「あー、まてネッド。ピーターがいないんじゃまだ決められないよ。」
「それもそうか。」
そう言って二人はまだいない親友の一人が来ていないか見回した。
今日はもう一人の親友、ピーター・パーカーとその保護者のメイおばさんが付き添いでエキスポまで車で連れていってくれることになっている。
メイおばさんの車には二人とも何度かお世話になっているので見ればすぐにわかる。
「ケント!あれ!メイおばさんの車じゃないか?」
「ほんとだ。おーい!」
メイの車は古いボルボで女性が乗るにはゴツい気もするが10歳の子供達からすればカッコいい車であった。運転席に見えるメイもビシッと決めており、ケント達の学年の美人保護者と言えばメイと言われるだけあって車に負けないかっこよさである。
ケントとネッドは手を振って合図するとメイの車はケント達の前でピタリと止まり助手席から親友のピーター・パーカーが顔をだした。
「おはようございます。ネッド・リーズくん。ケント・柊木くん。今日もいい天気で御座いますね。」
「………」
「………」
親友もやっぱりいい子になっていた。
ペッパー・ポッツ
現スタークインダストリーズCEOにしてトニース・タークの公私含めたパートナーは移動する車の中でトニーへの悪態を隠す事が出来なくなっていた。
「なんであの人は他人の気持ちを逆撫ですることばっかりするのかしら」
現在スタークインダストリーズ本社からスタークエキスポまでの移動の車のなか、運転手のハッピー・ホーガンは口を開くことをためらった。
以前からペッパーは3日に1日の頻度でトニーへの文句を口にしていたがハッピーも二回に一回は二人の関係を取りなすようにしていた。二人の関係が穏やかであればあるほどいい。自分の職場環境はよくなるからだ。まあ、二回に一回はペッパーの味方をしてトニーを扱き下ろしてたのだが。ハッピーもトニーに言いたいことが無いわけではない。
だが、この数日。ペッパーがCEOに就任してからは毎日トニーへの文句が立て板に水。しかも泥々のヘドロが止めどなく出てくる。同意も否定も出来ずしどろもどろの返事しか出来なかった。
しかし、何も言わないまま物事は解決しない。ハッピーは助けを求めるように助手席を見た。隣に座るミステリアスなロシア美人はしかしハッピーには一瞥もくれず手元の書類に目を通してる。まるで愚痴の相手はお前の役目だとでも言わんばかりだ。
この美人、ナタリー・ラッシュマンは最初の方はその美しさとスタイル、当たりの柔らかさに美人大好きなハッピーはクラっときたが、付き合いが長くなるといい性格していることがわかってきた。
初対面の時はトニーの「トレーニングをつけてやれ」の一言から仕方なくリングに上げて優しく揉んでやろうと思ったらぶん投げられた。
トニーがレース会場でビリビリスーツの男に襲われたときもいつの間にかいなくなっていて
、自分とペッパーが命かながらトニーを助けて帰って来るといつの間にか側に戻ってきていた。
どうも彼女はこちらの都合の悪いときには積極的にかかわり合いを持たないタイプのようだった。
さて、ハッピーは止めどないペッパーの愚痴に、ペッパーを宥めることでこの場をやり過ごすことにした。
「あー、あの、ペッパーさ………」
「なに!」
「ひっ………」
恐る恐る話しかけたハッピーはそれは恐ろしい剣幕で返事をしたペッパーに体がすくんだ。その拍子に運転から気が逸れてしまった。正面では白のボルボが信号で減速していたが気がつくのにワンテンポ遅れた。
ゴッ………
軽くぶつけてしまった。
「ハッピー?今のはなんの音?」
「あ、いえ、その信号待ちの車にですね、止まろうとしたんですが………」
「ハッピー?ぶつけたって言うの?運転手のあなたが?」
「あー、あの、はい………」
「あーもう、そうね。私のせいね。声を大きくしすぎたわ。」
「いえ、そんなことは………」
「そんな話より、相手の車に怪我人がいないか聞いてきて。示談でいいから。全面的にこっちが悪いわ」
「はい、直ぐに!」
ハッピーは車を停止させるとすぐさま飛び出した。
ボルボの中では運転手の女性が三人の子供達に怪我がないか確認しているようだった。
コンコン
中の女性が振り向いた。子供達を心配し、憤る女性。
「………はっ」
美しかった。美しさにハッピーは目を奪われた。頭のなかで鐘がなる。エンジェルが祝福の笛を鳴らす。頭のなかハッピー・ホーガンは車から出てきたメイおばさんに怒鳴られるまで呆けていた。