凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
「ユーリカワイイヤッター!」
「……? リッカ、どうしたの?」
隣を歩くリッカが急に手を振り上げて、口をパクパクさせた。
リッカが変わっているのは今に始まった話ではないが、こういう行動は珍しい。
声に出している訳ではないものの、とても久しぶりにリッカがテンションを上げているのを見た気がする。
「――、――、――――ッ……! ……なんでもない」
「ほ、本当に大丈夫? 顔少し赤いよ? ちょっと休む?」
「大丈夫、大丈夫だから。もうなんともない。私はリッカ……私はリッカ……」
重症のようだった。
ぶつぶつと自分に言い聞かせるように呟いているリッカは、包み隠さずに言ってしまうと少し怖かった。
何かあったのだろうか。それらしい予兆があったようには感じられない。
あの魔法の後遺症だったらどうしよう。魔法については殆ど学んでいなかったし、あまり確かな根拠はないが、自分自身を変換する魔法がとんでもなく高度であることくらいは分かる。
悪影響があったとしても、何も不思議ではない。
リッカの真っ白な肌は見慣れているからこそ、少し赤くなればすぐに分かる。
普段はそうなる前に自分で体調管理しているが、このような場で言い出す訳にもいかなかったということだろうか。
日差し……ではないか。リッカが外に出る時に着る黒ケープはリッカ自身が日除けの魔法を付与していた筈。
では、やはり単純な疲労。
疲れるのも仕方ない。リッカは元々体が強くない。それに加えてここ一年ほどは殆ど家にこもりっきりだったのだし、昔とは違って僕よりも体力がないだろう。
「……休もう、リッカ。ゆっくり行っても、日暮れ前にはイネアの町に着くから」
「駄目……街道に出るまでは休まず歩く」
何やら胸に手を当て呼吸を落ち着けるリッカは、顔の赤みが引いていない以外はすぐ元通りになった。
先程の謎のテンションが嘘のように、冷たい雰囲気を取り戻している。
「でも無理して歩けなくなっても……」
歩みを再開したリッカに追いつきつつ食い下がるも、彼女は足を止めることはない。
辺りを油断せず見渡しつつ歩くリッカが急いでいるのは明白だった。
「立ち止まって魔族と不要な遭遇をしても良くない。『変身』も、まだそう何度も使えるものじゃないから」
「“まだ”って……?」
「――ユーリが強くなって、魔族に勝つたび、あれも強くなる。けど、今は鍛錬も無暗にすべき時じゃない。準備を整えて、ユーリが戦いに慣れるまでは、必要な戦いだけをしていこう」
戦闘の経験なんてなかった僕が魔族と戦えるほどになれる、リッカの魔法。
リッカはあれを、今後も戦闘の主軸にしていきたいと言っていた。
その上で、あの魔法の性質から、今は安全に行くべきだというのがリッカの判断であった。
一つの場に留まれば魔族と遭遇するかもしれない時間がその分長くなる。
野宿用の魔除けなどの類も、最低限のものが手に入るのはこの先のイネアの町だ。それまで魔族と戦う回数は出来る限り少ない方が良い。
リッカは冷静だった。
多分、リッカとしては出来る限り、僕に早く強くなってほしいのだと思う。
魔族とたくさん戦って、経験を積んで、勇者らしくなることを望んでいる。
だが、強くなることを急かしてはいない。リッカは僕が勇者らしくなると信じて、それを早めるのではなく確実に迎えさせようとしているのだ。
「……凄いよね、リッカ。本当に、本気だってのが伝わってくる」
「本気だよ。これはユーリが死に急ぐ旅じゃない。そうなるより、全部をユーリと私で終わらせたい。私はそう思ってる」
――約千年、魔王が世界を支配してそれだけ経つ。
それから人間は絶対的に魔族の下にあるようになり、基本的に人々の命は魔族の“マナー”が握るようになった。
村や町、人々の生存圏とされる場所でさえ、実のところ魔族を防ぐ魔法やらが掛けられている訳ではない。そこに入り、“何か”を仕出かしたことが明るみになった際に厳しく裁かれることだけは、全ての魔族が理解しているだけ。
そして外に出ればそれこそ、人間の権利なんてものは消えてなくなる。
街道は比較的安全だ。だが、知能の低い魔族は作法など知らないし、そこで何をしても罰はない。
魔王の統治はそういう形で人々の自由を著しく狭めた。
魔王の戯れとさえ言われる、選ばれし勇者も、最初の頃はその支配を打ち崩さんという使命を抱き旅立ったのだろう。
だが、それからどうなったかなど、百代目勇者として選ばれた僕がこの日、村を出たことから明らかだ。
この恒例行事。下らない慣習を、リッカは本気で終わらせようとしている。
底の知れないほどの決意が、ある。
――何年か前の話だ。
いつも通り僕とリッカとカルラ。三人で、ある話をした。
魔族としては不思議な価値観を持っている、カルラが切り出した人間と魔族の未来について。
「わたしはやっぱり、この関係を変えられると思うんです。人も魔族も、互いを尊重し互いを対等に思う。それって、不可能なのでしょうか」
「うーん……僕はよく分からないけど、カルラみたいな魔族が多くいてくれることが大前提なんじゃないかな」
二つの隔たりは大きい。カルラが特別過ぎるということは、村の誰もが理解している。
他の魔族に会ったことがある人は大人ばかりだが、口を揃えて「外の魔族は人を家畜か小動物としか見ていない」と言う。
人間に歩み寄る魔族が大変に希少なのだ。
正直、このままでは人間と魔族の融和という未来は望めない。大した知識のない僕にも、それは分かった。
「むぅ……魔王さまが考えを改めてくだされば良いのですが。きっと魔王さまがそのように導けば、不可能ではないはず……」
魔族の在り方に疑問を持つカルラではあるが、それでも魔王の絶対性は疑っていない。
実際のところ、この世界の価値観は魔王が敷いたものであるのだから、変えようと思えば変えられるかもしれない。
だが魔王にその考えを変えてほしいと言える者はいない。
いつか勇者が魔王を討ち、それこそ世界が変わるまで、この価値観も付きまとうのだろう。
「――次の勇者がこの村から出れば、不可能でもないんじゃね?」
そんなネガティブな意見しか出てこない僕とは違い、リッカはあっけらかんと言った。
僕とカルラは顔を見合わせ、同じように首を傾げた。
「どういうことです?」
「だからさ、カルラを知ってるこの村から勇者が出て、魔王を倒せれば、カルラの価値観をそいつが広めることも出来るんじゃないかなって」
「リッカ、何言ってんの?」
「つーか何ならカルラが魔王倒してくれよー、カルラが次期魔王になれば一発じゃんか」
「リッカ、何言ってるんですか?」
地面に寝っ転がって空を見ながら、まったく普段と変わらない調子でリッカはそんな夢物語を言ってのけた。
勇者などという誰も期待していない存在で、世界を変えられるなどと。
リッカが妙なことを宣うのはよくあることだが、それは極め付けだった。
「わたしが言うのもなんですけど、リッカ。勇者に期待を掛ける時代はとっくの昔に終わっていますよ。戦いになれば、どうしても人間が不利なんです」
「お? 人の可能性舐めんなよ? 言っとくけどカルラ、もし俺が勇者になったら本気で世界変えちまうぞ?」
「ユーリ、リッカがおかしくなっちゃいました。叩けば治りますか?」
「リッカは元々おかしいから叩いても治らないよ」
「二人とももうちょっと加減してくれない?」
自分が勇者として選ばれたらという仮定。
きっと千年前であれば、人々の希望の発露だったのだろう。
だが、今の時代ではそれは自殺願望の類ですらない。妄言でギリギリ通じるかもしれない何かである。
渾身のジョークだったのか、はたまた真剣だったのか、頬を膨らませ、不貞腐れるリッカを二人して笑う。
カルラはくすくす笑いながらリッカの頬を指で押し、空気を抜いた。
「まったく、リッカは……そういうことはせめて、実際に選ばれて、成し遂げてから言うものです」
「ふふん。俺はそういう星の下、この世界に生まれた気がするから大丈夫」
「リッカ。わたしの花粉浴びますか?」
「死ねと!?」
「いえ、わたしまだ子供ですし、死にはしません。天にも昇る気持ちになるだけです」
「それ明らかに危ない薬の売り文句だからね!?」
「物は試しだよ、リッカ」
「ユーリ!?」
毎日のように増えていく、三人での思い出の中の一ページ。
あの時、人間と魔族について少し真面目に考えて、勇者について半分冗談で考えた。
実際にはリッカではなく僕が勇者に選ばれて、リッカは僕に付いてきて、カルラは村で帰りを待ってくれている。
あの時冗談だったものは、成し遂げなければ自分が死ぬ現実へと変わった。
リッカと一緒に魔王を倒して、その後は――もしかすると、カルラが望む未来が開けるかもしれない。
だから――
「――頑張ろう、リッカ。僕だって、大人になる前に死ぬのも、リッカが死ぬのも嫌だ。行ける所まで行こう。もちろん、魔王よりも、ずっと先まで」
「……ん。頑張ろう、ユーリ」
僕の決意はまだ、リッカの大きなそれに上乗せするだけ。
けれどリッカが信じているならば、きっとそこへ。そして、その先へ。
リッカの信じるハッピーエンドを目指す。その心意気ならば、戦える。
「――――」
「リッカ?」
急いでいた足が急に止まる。
リッカの視線の先……街道まであと少しという段階で、前方に見えた黒い靄。
見えるところだけに魔族がいる訳ではない。
魔族が稀に有する接近能力――外を歩く際、魔族の不意打ちに次いで気を付けねばならない現象。
それは、獲物を見つけた魔族が“今からお前を襲うぞ”と宣言するようなものだという。格上と見える相手には行わない、狩りの決意表明。
エンカウントと呼ばれる特殊能力。これが前方に発生しているということは、それを使える程度には知能か本能に長け、平原を行く僕たちを把握していた魔族がいたということ。
油断……ではないか。僕はともかく、リッカが油断していたようには見えない。
元より気配の察知や各種の感覚は大抵の場合、魔族の方が敏感だ。
こんな開けた場所を歩いて、見つからない方がおかしいというもの。
「……いける?」
「いけると思う。お願いね、リッカ」
「ん」
まずは何より、最低限の自信を付けるんだ。
魔族を相手にして、勢いを付けずとも恐怖を抑えられるくらいに。
出現の完了を待ちはしない。その間に、こちらにも出来ることがある。
棒立ちなど、殺してくれと言うようなもの。
魔族に人間は勝てない。その通りだ。
だから、持てる手段を尽くして勝ちに行く。それが人間らしさ、それが人間の誇り。
少しだけ意図とは違うだろうが――きっとあの、ラフィーナと名乗った魔族は、そういうことを伝えたかったのだろう。
――あの戦い方は予想外だっただろうし、僕も少し引きはしたが。
けれどリッカが用意してくれた戦い方だ。僕はそれを、精一杯に使いこなしてみせる!
「――トランスコード! U-リッカ!」
『トランスコード! アクセプションッ!』
【ユーリ】
それは、数年前の話。
少年は少女の現実感のない“もしも”を聞くのが好きだった。
【リッカ】
それは、数年前の話。
少女は己がいつか世界を変えられるという確信があった。
【カルラ】
それは、数年前の話。
少女は人間が変われることを知っていて、魔族が変われることを信じていた。