凌辱エロゲ世界でハッピーエンドと復讐を同時に遂げる方法 作:けっぺん
――私、何してたんだっけ。
至高ともいえる幸福の中から放り出されて、最初に頭に浮かんだことはそれだった。
この、苦悶しかない空間で幸福を感じるなんて、果たしてあるだろうか。
可能性があるとすれば……そうだ。
アリスアドラ様。私は今の今まで、アリスアドラ様を感じていたんだ。
あのお方の、サキュバスでさえ噎せ返ってしまうほどの狂気の香り。
あれを久しぶりに感じたからだろう。私は、言うなれば軽くトリップしてしまっていたらしい。
茹で上がるような頭が少しずつ冷めていく。私らしい意識が戻っていく。
……どうしてこんな場所で、アリスアドラ様を感じたのだろう。それも、理性を失ってしまうほどの濃度で。
あのオークやセイレーンが来たときの、錯覚のような小ささとは違う。
はっきりと漂ってきて、私の脳の芯まで侵したあの感覚は、アリスアドラ様本人でなければあり得ない。
まさか、アリスアドラ様まであの女に捕えられてしまったのだろうかと、考えることすら愚かな仮説に至りかけ、首を振って否定する。
あんな未熟極まりない勇者と、それをおんぶする狂いに狂った人間もどき。
どれだけ間違いが起ころうとアリスアドラ様がかれらに負けるようなことなどない。
であれば、あれはアリスアドラ様からあの女に対しての干渉があったと見るべきだ。
それでこの空間が壊れたりしていないってことは、あの女が狂気にやられて死んだなんてこともないのだろうが。残念。
……アリスアドラ様は、その干渉の中で私を見つけてくれなかったのだろうか。
いや、見つけたとしても何もすまい。私はアリスアドラ様の期待に応えることは出来なかったのだから。
私のような変わり者ではなくて、サキュバスらしい自由さを持った部下なんて山ほどいるのだし。
「ぁ……ひ、ぁ……」
「……?」
冷たくなっていく頭の中で思考を整理しているうちに聞こえてきた、甘さの伴った呻き声は真下から。
それが聞こえて、見下ろして、ようやく私が見知らぬ魔族に跨ってその魔力を啜っていたことに気付いた。現在進行形で。
未知への恐怖と快楽。主に精を啜る時に相手に注ぐ淫気を吸い過ぎたのだろうか。
まだ堕ちきってはいない、望まぬ絶頂を繰り返していたと思しき魔族の惨状は、どうやら私が仕出かしたらしい。
虚ろな瞳はどこにも向けられず、己の中に閉じこもっているのが分かる。
自己の崩壊を防ぐための防御本能だ。それほどまでにやり過ぎていたようだ。恐らくは、アリスアドラ様の狂気を受けて“ハイ”になった私が。
……日光というものを知らないかのような、青白い肌に、真っ白な髪。
瞳だけは、曇り切ったルビーのような赤。小さく開きっ放しになった口の中に見える、尖った歯。
暗がりを好む魔族は多いが……まあ、十中八九ヴァンパイアだろう。
自称夜の支配者もあの頭のおかしい女に掛かればこの通りか。いや、今の状況は私がやらかしたのだろうが。
若干の気まずさを覚えつつも、魔力を吸い続けていた尾を彼女から引き抜く。
「ぇう……っ」
「……悪かったわね。ちょっとおかしくなってたわ」
この魔族が壊れるきっかけが私だったらどうにも居た堪れない。
自分可愛さからそんな風に謝って、立ち上がる。
……比較的。こう思ってしまうのが腹立つくらいだが、比較的調子がいい。
どうやらここ最近、あまり私は魔力を持っていかれていないらしい。
アリスアドラ様の影響であの女が不調だったのか、それとも私が壊れたと思って放っておかれたのか。
その両方かもしれない。蠢く触手やスライムは健在だし、上も下も虫が這い回っている。改めてヤバいな、この光景。
「おう、やっと正気に戻ったか」
「正気と言えるかは怪しいけどね……」
触れても大して気にしなくなったこの空間の上位者たちを踏みしめながら少し歩けば、姿を見せたのは私の倍近い体躯の同胞。
この空間自体が休業中ということでもないらしい。彼女はしっかりと捕えられていた。
「ったく、とうとうお前も脱落したかと思ったぜ。またしぶとさ発揮したみたいだが」
「そうね。壊れ損なったわ」
だいぶ狂った世間話。まあ、それが精神的な支えになったりするのだが。
この空間で耐え続けるには、そうした狂ったことが必要なのだ。
アリスアドラ様を感じるような、本当に特別なことでもない限り、まともに耐えられるようには出来ていないのだから。
「くっ……ふ、ぅ――ああ、最高だユーリ……んっ、こうして今日もまた、お前に我がすべてを捧げられ……あっ……!」
「……」
「お前がおかしくなってる間、一人でコイツの相手してたんだぞ」
「ほんと悪かったわ」
少し訂正。本人がおかしければ場合によっては耐えられるつくりになっている。
たとえばこんな風に、勇者に惚れてこの空間での扱いを勇者に対する奉仕と捉えているとんでもないヤツとか。
このセイレーンが放り込まれてそれなりの時間が経った筈だ。
それなのに、はじめから一切ブレることなく凌辱を受け入れることが出来ているというならば、コレの愛は“本物”だということ。素直に認めざるを得ないかもしれない。
「……それで。私がおかしくなってから、何か動きはあったかしら」
「特にねえよ。またはじめから耐えられねえようなゾンビっぽいのが幾らか転がってきたが、それだけだ」
最初期の同胞であったゴブリンの内、頭領以外のように……大して耐えることも出来なかった普通の魔族というのは多い。
それだけ、勇者には障害が多かったということの証左なのだろうが。
気に留めるだけ無駄な、そうした有象無象は私たちも記憶していない。
はじめの恐怖を乗り越えたエリートだけが、こうして同胞を認識し、共に耐える栄誉を得られるのだ。何も嬉しくない。
……しかし、ゾンビときたか。
オークが知っているのは少し驚いたが、山でも死ぬときは人が死ぬ。その後の状態次第でゾンビに変わることもあろう。
それが複数となると……もしかして勇者たち、ネシュア国跡にまで辿り着いたのだろうか。
アリスアドラ様の配下である私は、土の四天王たるオドマオズマ様については良く知らない。
しかし死者の群れとなると最初に思いつくのはあのお方だ。
セイレーンが放り込まれたことから、海を渡ったことまでは予想していたが、なるほど忌々しくも旅は順調のようだ。
そんな中でのアリスアドラ様の干渉も、この様子だとどうにか解決したということだろうし。
もしかすると四天王の試練も突破しているのだろうか。どこまでも行けないようなあの勇者が。
もし私の見立てが間違っていて、才能に溢れていたとかなら即刻あの女は切り捨てるべきだ。
絶対どこかでとんでもない厄介として、彼の前に立ちはだかるのだろうし。
それがきっかけになって私たちを解放してくれると――
「――――」
「……」
その時現れた、切り捨てるべき当の本人によって、世間話は強制終了させられる。
反感を買っても面倒臭いし、これが来ている時に余計なことはしないのが利口だというのが私たち共通の見解。
とはいえ……今回は絡まれる確信があるが。
こうして使い魔どもに捕えられることもなく、私はこの空間を歩いていた訳なのだし。
タイミングの悪さに辟易しつつ、歩いてくる女の沙汰を待つ。
……なんだか、いつもより歩調がふらついていないな。“もどき”が若干それらしくなるよう学んだのだろうか。
「……ん? ――おお! ようやく会えたな! えっと、覚えてるぞ、妖精どもから聞いた……そう、りっかりか! りっかりかだ! さありっかりか、今日こそ我とユーリについて語り合お」
「――――」
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
ものすごく耳障りで邪魔だと判断した、というのははっきり分かった。
触手の山にたちまち埋もれて、声が遠くなっていったセイレーン。やはり、りっかりかはあれとまともに取り合う気はないらしい。悔しいが気持ちは分かる。
どうやらこの女は私との一対一をご所望らしい。
オーク、それから意識が朦朧としている“私の犠牲者”も使い魔でどこかへと引っ張っていき、たちまち私の味方はいなくなった。
「――――」
「……ずいぶんと、人間らしさを学んだみたいじゃないの」
いつ以来だろう。こうやって、まともにこの女に言葉を投げるのは。
最初の頃は色々と抵抗しようとして、罵っていた気もする。今ではやるだけ馬鹿らしいと、反応もしないように努めている。
今回は、それでは乗り切れまいと何か言おうとして、出てきた言葉がそれだった。
こういう感想を、この女に抱くのは至極複雑ではあるが。
見違えた。同一人物であるとは信じられないほどに。
その表情が、濁り切った瞳が、輝きあるものに変わったわけではない。
だが、その心がどう変わったかなんて、サキュバスであれば一目で分かる。
恐怖と絶望と強迫観念。とにかくどす黒いものでしか動いていなかったこの女に、希望が灯っている。
それも、微かなものではない。
途轍もなく重く、人間一人が背負おうとすれば簡単に潰れるほどの前者に匹敵、ないし僅かに勝るのではないかと思うほどの、眩い希望。
今までより多少無理なく前を向ける程度に、暗闇を相殺する感情が宿ったのだ。
この、誰も信じていなかったような女に、誰が何をしたのか。
誰がなど考えるまでもないか。あの弱くて情けない勇者くらいしかいるまい。
では、あの勇者が一体何をしたのか。決して戻ってこられないところまで沈んだこの女を引っ張り上げたのか? あの勇者が?
勇者なのだし、成長の余地くらいはあるだろうが、やはり信じがたい。
この女をどうにかするなら、サキュバスが出来るそれよりも遥かに深く理解する必要があると思う。
少なくとも、人間では無理だ。人間ではそこまで深く、他者を理解することはできない。
……その筈なのだが。本当に何があった?
「うん……そうだね。ユーリのおかげ」
「……ふん。なんだか知らないけど勇者サマが成長しているようでなによりよ」
どうやら本当にあの勇者の“仕業”のようだ。
人間が変わるものなら人間もどきも変わるものである。
人形よりも人形らしかったこの女が、今ではこうして浮かれ切っている。
いつもの不安定さに、暗い感情と明るい感情が両立していることでの不安定さが合わさって絶妙なバランスを保っているらしい。
不器用だ。希望を抱いたなら絶望など上書いてしまえばいいのに。ああして希望を持つことにすら、これっぽっちも慣れていないなんて。
「うん、成長してる。予想外に、考えなしに。私の方針とか、構想とか、全部意味なくなっちゃった」
言葉だけであれば、自身の計画を台無しにしたことへの苦言。
そこに、胸焼けするほどの感情が込められていなければ、ざまあみろと笑い飛ばしていただろう。
おんぶにだっこで勇者を連れていくことを、誰よりも肯定していたこの女の想定を超えたのは、ほかでもない勇者だった。
予想だにしない速度で成長して、ふらつく足取りで前を行き、手を引いていたこの女を追い抜いて、手を引く側になった。
つまりはそういうことらしい。
「あっそ、ご愁傷さま。それで? いつになったらこんな狂ったこと、やめるわけ?」
あまりに浮かれた態度で、今なら解放してくれるのではないかと思った。
期待していたわけではない。駄目で元々。どうせこの女に遠慮なんて必要ないのだし。
「……まだ終われない。最後まで続けるよ。だって、ユーリが認めてくれたもん」
「――は?」
女の返答は、半分予想通り、もう半分は予想できる筈もないものだった。
……認めた? 勇者が? この空間の存在、この女の所業を知って、それを容認した?
何がどうなれば、そうなるんだ。あの勇者がこの女と並ぶくらい狂っていたとでも?
あの無害にしか見えない勇者とその選択が繋がらず混乱する私に、ほんの僅かな作り笑いを浮かべた女は近付いてくる。
「ユーリは私を支えてくれる。だから、私もユーリの無鉄砲を支えないと」
「っ……ちょっと、近付かないで――」
「ここからはもう殆ど覚えてないから、たくさんユーリに任せていかないといけない。それならユーリの可能性は私が広げていかないと。出来ることを出来るだけやってユーリの力になる。そうやって今度こそ、ユーリと一緒にハッピーエンドに辿り着く、だから――」
その鬼気迫る様子に不覚にも逃げようとして、使い魔たちに止められた。
気付かないうちに壁際まで追い詰められていた私を押さえつける触手、スライム、虫の群れ。
この女が作り上げて、勇者が容認した、苗床の集大成。
それに捕えられ、碌に動くことも叶わなくなった私に、女は限界まで迫ってくる。
両手で私の頭を掴み、あと数センチのところまで近付いてきた女の顔。
「あと一度だけあなたを信じてあげる――ラフィーナ」
その澱んだ瞳に、否応なく視線を固定させられ、私はその女の、より“おかしくなった”狂気を垣間見て。
嫌悪する女の瞳という、考え得る限り最悪の色が――私という存在が正常でいられる、本当に最後の瞬間の景色だった。
【イピカ】
引き続き無敵。もうずっと無敵。
【オレブ】
苗床になっているよりセイレーンとかフェアリーとかの相手してる方がしんどい。
【ルメリーシャ】
ラフィーナちゃんから解放された。
これからはりっかりかによって願いが叶って勇者の旅に貢献できる。
【りっかりか】
「共にハッピーエンドに辿り着く」がユーリとの共通の最終目標となり、希望を得たことで情緒がもっと不安定になり狂い方がおかしな方向へとカーブし始めた。
すべてはユーリのため。何かを間違えても、今度はユーリが自分を引き戻してくれる。そして本当に駄目なことなら、ユーリが必ず止めてくれる。
希望と絶望がない交ぜになるとこうなる。自前のアクセルとブレーキが両方ぶっ壊れ、ハッピーエンドに向けて全力全開で突き進む暴走苗床超特急。
【ラフィーナ】
別に死んだりどっかの『迷い池』ちゃんみたいに物言わぬ使い魔になったりしないので安心してほしい。